テレビ局は津波避難をどう呼びかけたのか - NHK...2012/06/02  · 24 JUNE 2012...

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22 JUNE 2012 する必要がある。本稿では,地震発生直後の 放送で使われた津波避難を呼びかけるキーワー ドに着目し,その出現頻度や種類を分析するこ とで,避難がどのように呼びかけられたのかを 概観する。また,放送局ごとの表現の違いや, キーワードが多い時間帯と少ない時間帯,およ びその背景などを探り,防災・減災報道のあり 方を考える材料としたい。 2.分析の手法 2.1 調査対象 【テレビ局】計 6 局 NHK 総合と在京民放キー局(日本テレビ, テレビ朝日,TBS,テレビ東京,フジテレビ) とした。 【時間帯】2011 年 3 月 11 日 14 時 46 分 ~ 16 時(74 分間) 15時55分ごろからNHKが名取川をさかの ぼる津波の映像を放送し,16 時ごろから多くの 1.本稿のねらい 「早く安全な高台に避難してください」(NHK) 「対象エリアの海岸近くや川の河口付近にい る方は,ただちにその場を離れて・・・」(TBS) 「海から離れた高台や丈夫で高い鉄筋のビル などに逃げてください」(日本テレビ) これらは,東日本大震災の地震発生直後, 各テレビ局が津波からの避難を呼びかける際 に繰り返し使った文言である。「避難して」「離 れて」「逃げて」など,さまざまなことばが用い られていた。 今回の大震災の被災地では,停電のためテ レビを視聴できない地域が多かった。しかし, 視聴者の多寡にかかわらず,放送局の避難の 呼びかけ方が適切であったのかどうかを検証す ることは,今後「1 人でも多くの人を救うための 放送」を考える際に,避けては通れない。そ の前提として,そもそも放送局は,どのような 表現で避難を呼びかけていたのかを明らかに テレビ局は津波避難をどう呼びかけたのか ~東日本大震災初期報道のキーワード分析~ メディア研究部 井上裕之 東日本大震災の際,テレビ局はどのような表現で津波からの避難を呼びかけていたのか。在京のテレビ局 6 局が 初期報道の中で使っていた10のキーワード(「避難」「離れる」「逃げる」「近づかない」「行かない」「警戒」「注意」「気 をつける」「大津波」「危険」)の出現回数を調べ,分析を試みた。その結果,局による違いとしては,「避難してくだ さい」という表現を主に使うか,「逃げてください」を使うかなどといった呼びかけ方の違いが見られた。頻出するこ とばの違いからは,局ごとに異なる「定型的な呼びかけ文」が浮かび上がった。また,キーワードの出現頻度を時 系列で追うと,時間帯によって大きく異なることがわかった。出現の多い時間帯は,気象庁が大津波警報を発表し た直後や,宮城県への津波の到達予想時刻にあたる。一方,出現の少ない時間帯に伝えられていたのは,東京で の大きな揺れや,お台場での火災などの内容であった。

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する必要がある。本稿では,地震発生直後の放送で使われた津波避難を呼びかけるキーワードに着目し,その出現頻度や種類を分析することで,避難がどのように呼びかけられたのかを概観する。また,放送局ごとの表現の違いや,キーワードが多い時間帯と少ない時間帯,およびその背景などを探り,防災・減災報道のあり方を考える材料としたい。

2.分析の手法

2.1 調査対象

【テレビ局】計 6 局

NHK総合と在京民放キー局(日本テレビ,テレビ朝日,TBS,テレビ東京,フジテレビ)とした。

【時間帯】2011 年 3 月 11 日 14 時 46 分

~ 16 時(74 分間)

15時55分ごろからNHKが名取川をさかのぼる津波の映像を放送し,16時ごろから多くの

1.本稿のねらい

「早く安全な高台に避難してください」(NHK)「対象エリアの海岸近くや川の河口付近にい

る方は,ただちにその場を離れて・・・」(TBS)「海から離れた高台や丈夫で高い鉄筋のビル

などに逃げてください」(日本テレビ)これらは,東日本大震災の地震発生直後,

各テレビ局が津波からの避難を呼びかける際に繰り返し使った文言である。「避難して」「離れて」「逃げて」など,さまざまなことばが用いられていた。

今回の大震災の被災地では,停電のためテレビを視聴できない地域が多かった。しかし,視聴者の多寡にかかわらず,放送局の避難の呼びかけ方が適切であったのかどうかを検証することは,今後「1人でも多くの人を救うための放送」を考える際に,避けては通れない。その前提として,そもそも放送局は,どのような表現で避難を呼びかけていたのかを明らかに

テレビ局は津波避難をどう呼びかけたのか~東日本大震災初期報道のキーワード分析~

メディア研究部 井上裕之

東日本大震災の際,テレビ局はどのような表現で津波からの避難を呼びかけていたのか。在京のテレビ局6局が初期報道の中で使っていた10のキーワード(「避難」「離れる」「逃げる」「近づかない」「行かない」「警戒」「注意」「気をつける」「大津波」「危険」)の出現回数を調べ,分析を試みた。その結果,局による違いとしては,「避難してください」という表現を主に使うか,「逃げてください」を使うかなどといった呼びかけ方の違いが見られた。頻出することばの違いからは,局ごとに異なる「定型的な呼びかけ文」が浮かび上がった。また,キーワードの出現頻度を時系列で追うと,時間帯によって大きく異なることがわかった。出現の多い時間帯は,気象庁が大津波警報を発表した直後や,宮城県への津波の到達予想時刻にあたる。一方,出現の少ない時間帯に伝えられていたのは,東京での大きな揺れや,お台場での火災などの内容であった。

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局が気象庁の記者会見を中継する。こうしたことから,地震発生から16時までを1つの区切りとし,この時間帯を「初期報道」と位置づけ調査の対象とした。

2.2 キーワードの選び出し

各放送局の初期報道を視聴し,文字に起こした中から,津波からの避難や危険性を呼びかける要素を持つことを基準にキーワードを選んだ。その結果,次の10のことばが該当した。

キーワードを選んだ基準は,以下の4点のいずれかを満たしていることを条件とした。

選択基準のⅠ,Ⅱ,Ⅲは,いずれも「呼びかけ」のことばであることを条件にしているが,この「呼びかけ」は,「~してください」などの依頼表現の形をとるものを基本とした。

選択基準Ⅰで選んだ「避難」「離れる」「逃げる」(グループⅠ)は,安全な場所などへの「移動」を積極的に呼びかけるものである。このため本稿では,この3つのことばを,安全な場所への移動を明示した,津波避難呼びかけの「基本キーワード」と呼ぶことにする。

選択基準Ⅱで選んだことば「近づかない」「行かない」(グループⅡ)は,海や河口に近寄らないよう呼びかけるのにとどまり,積極的な「移動」の呼びかけとは言えない。

選択基準Ⅲで選んだことば「警戒」「注意」「気をつける」(グループⅢ)は,危険性を呼びかけてはいるが,具体的な「移動」の指示ではない。例えば,「海や川がよく見える堤防の上に行って,津波を警戒する」,「自宅の2階で海の方向を見て注意を続ける」などと解釈することも可能であり,避難行動につながらない可能性もある1)。

また,選択基準Ⅳで選んだことば「大津波」「危険」(グループⅣ)は,依頼表現の形ではないが,単体のことばとして津波の危険性を伝えている点に注目した。「大津波」ということばは,過去数回しか出されたことのない「大津波警報」が出たことを(あるいは,「大きな津波」

① 避難(例「避難してください」※「『避難』所」などは除く)

② 離れる(例「海から離れてください」)③ 逃げる(例「逃げてください」)④ 近づかない(例「海に近づかないでくださ

い」※ 否定文での使用に限る)⑤ 行かない(例「海に行かないでください」 

※ 否定文での使用に限る)⑥ 警戒(例「厳重に警戒してください」)⑦ 注意(例「注意してください」

※「津波『注意』報」などは除く)⑧ 気をつける

(例「津波に気をつけてください」)⑨ 大津波(例「大津波警報」「大津波が押し

寄せているので ・・・」)⑩ 危険(例「海に行くのは危険です」)

選択基準Ⅰ:津波からの避難を呼びかけている

(「避難」「離れる」「逃げる」)選択基準Ⅱ:

海に近寄らないよう呼びかけている(「近づかない」「行かない」)

選択基準Ⅲ:津波の危険性を呼びかけている

(「警戒」「注意」「気をつける」)選択基準Ⅳ:

ことばそのものが津波の危険性を伝えている(「大津波」「危険」)

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が予想されることを),端的に伝え,津波の危険性や避難の必要性を想起させうると考えた。また「危険」も,津波の危険性を端的に伝えることばとしてたびたび出現するため,選んだ。

一方,津波に関してたびたび使われたことばでも,今回は対象としないものもある。例えば地域名(「岩手県」「宮城県」「福島県」など)は,単体では呼びかけとは言えないと考え除外した。また,予想される到達時刻や津波の高さ(「○時○分,○メートル」など)も,必ずしも被害の大きかった地域にだけ使われていたわけではないため,今回は除外した。

今回の基準に該当する可能性のあることばは,ほかに「移動」などもあった。しかし,出現回数が少ないので,今回は対象としない。

なお,キーワードであっても,「津波避難の呼びかけ」に関係ないことが明瞭な場合(例「上から落ちてくるものに『注意』してください」など)は,出現回数に数えなかった。

3.キーワードの集計結果

3.1 出現回数から見える傾向

3.1.1 多く使われたキーワードは

各放送局が使ったキーワードの内訳は表1の

ようになる。最も頻出したのが「大津波」(289回)で,「避難」(132回),「近づかない」(71回),

「注意」(60回)などと続いている。

3.1.2 各放送局の傾向

次に,放送局ごとに,どのキーワードを多く使っていたのかを見る。上位3つを選んだ。

どの局も,最も多く使ったのは,「大津波」であった。

2番目に多く出現するキーワードについては傾向が異なり,NHK,テレビ朝日,TBS,テレビ東京は「避難」,日本テレビ,フジテレビは

「注意」となった。さらに3番目までを見ると,NHK,テレビ朝

日,TBS,テレビ東京が,いずれも「大津波」「避難」「近づかない」という順番となり,似た傾向を示している。

3.1.3 各キーワードの傾向

キーワードごとに,多く使った放送局を見ると,以下のようになる。キーワードによって,使う頻度の高い放送局が異なることがわかる。

○ NHK・・・ ⑨大津波(85 回),①避難(44 回),

④近づかない・⑥警戒(各 15 回)

○日本テレビ・・・ ⑨大津波(62 回),

 ⑦注意(33 回),③逃げる(22 回)

○テレビ朝日・・・ ⑨大津波(40 回),

 ①避難(32 回),④近づかない(25 回)

○ TBS・・・ ⑨大津波(76 回),①避難(25 回),

④近づかない(19 回)

○テレビ東京・・ ⑨大津波(19 回),

 ①避難(12 回),④近づかない(7 回)

○フジテレビ・・・ ⑨大津波(7 回),

 ②注意(6 回),①避難(4 回)

表1 各放送局が使ったキーワードの内訳Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

避難

離れる

逃げる

近づかない

行かない

警戒

注意

気をつける

大津波

危険

NHK 44 1 0 15 0 15 2 1 85 5 168日本テレビ 15 0 22 4 2 4 33 1 62 1 144テレビ朝日 32 7 1 25 1 9 12 0 40 1 128

TBS 25 13 3 19 0 5 2 0 76 8 151テレビ東京 12 2 0 7 0 0 5 2 19 0 47フジテレビ 4 0 1 1 0 1 6 0 7 1 21

計 132 23 27 71 3 34 60 4 289 16 659

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これをグループごとに見てみると,例えばグループⅠでは,「避難」はNHK,「離れる」はTBS,「逃げる」は日本テレビが最も多く使っている。グループⅡでは,「近づかない」はテレビ朝日,「行かない」は日本テレビ。グループⅢでは,「警戒」はNHK,「注意」は日本テレビ,

「気をつける」がテレビ東京。グループⅣでは,「大津波」はNHK,「危険」はTBSであった。

3.2 放送局ごとの基本キーワード分析

3.2.1 基本キーワードの特徴

次に,放送局ごとの,キーワードの使い方について分析する。多く使われたキーワードからは,その局の定型的な呼びかけ文が浮かび上がってくる。

特にここでは,基本キーワードとした3つのことば「避難」「離れる」「逃げる」の使われ方を中心に特徴を見ていきたい。その前に基本キーワードの意味の違いを明らかにしておく。辞書で見ると,それぞれ次のような説明が付されている。

辞書によれば,「避難」にはそもそも「安全な場所に」という意味が含まれる。向かう方向を示すこの特質をここでは「行き先明示性」と呼びたい。「避難」はこの「行き先明示性」を比較的はっきり有している。「離れる」には,「遠ざかる」という意味があ

る。ただし,遠ざかった後にどこへ行くかという意味合いは含まれず,「行き先明示性」は低いと言える。「逃げる」も,「相手の手の届かない所」を具

体的に示しているわけではないため,「行き先明示性」は低いと言える。

【グループⅠ】

① 避難 ・・・NHK(44 回),

テレビ朝日(32 回),TBS(25 回)

② 離れる・・・TBS(13 回),テレビ朝日(7 回),

テレビ東京(2 回)

③ 逃げる・・・日本テレビ(22 回),TBS(3 回),

テレビ朝日・フジテレビ(各 1 回)

【グループⅡ】

④ 近づかない ・・・テレビ朝日(25 回),

TBS(19 回),NHK(15 回)

⑤ 行かない ・・・日本テレビ(2 回),

テレビ朝日(1 回)

【グループⅢ】

⑥ 警戒・・・NHK(15 回),テレビ朝日(9 回),

TBS(5 回)

⑦ 注意・・・日本テレビ(33 回),

テレビ朝日(12 回),フジテレビ(6 回)

⑧ 気をつける・・・テレビ東京(2 回),

NHK・日本テレビ(各 1 回)

【グループⅣ】

⑨ 大 津 波 ・・・NHK(85 回),TBS(76 回),

日本テレビ(62 回)

⑩ 危険 ・・・TBS(8 回),NHK(5 回),

日本テレビ・テレビ朝日・

フジテレビ(各 1 回)

【避難】…「災難を避けて安全な場所にのがれ

ること。」(『明鏡国語辞典』第二版 大修館

書店)

【離れる】…「①接していたものの一方が動い

て別々になる。また,一体であるものが別々

になる。」「③ある場所・立場から遠ざかる。

また,ある職務・地位などから退く。」(同)

【逃げる】…「①捕まらないように相手の手の

届かない所へ急いで去る。」(同)

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一方,「逃げる」は,その「相手」(つまり今回は「津波」)が,実際に迫っていることが前提となる表現であり,「急いで」といった意味が含まれている。こうした,時間的な切迫感を示す特質について,ここでは「切迫度明示性」と呼ぶことにする。この「切迫度明示性」は,「避難」や「離れる」では低いと考えられる。

3.2.2 各局が放送した呼びかけ文の分析

避難に関する基本キーワードの使われ方は,放送局によって異なる傾向がある。また,基本キーワードの使用にあたっては,「行き先明示性」や「切迫度明示性」との関係から,それを補うことばが添えられている場合が多い。こうした点について,放送局ごとの特徴を見ていく。

【NHK】

基本キーワードの中で最も多く使われたのが「避難」(44回)で,「離れる」(1回),「逃げる」(0回)に比べて,突出している。特に次のような呼びかけ文の中で数多く使われた。

この文のように,「避難」と「早く(早めに,すみやかに)」と「高台に(高いところに,高い位置に)」が一緒に使われている,「ほぼ同形の文」は合計31回登場する。つまり「避難」が使われた場合の,4回のうち3回ほどはこうした文であり,これが定型的な呼びかけ文になっていたことがうかがえる。

前述のとおり,「避難」は「切迫度明示性」が低いので,「早く」「早めに」「すみやかに」という表現を加えて補っていたものと考えられる。

さらにこの定型的な文では,「高台に(高い

ところに/高い位置に)」ということばを補って,「行き先明示性」をより高めている。NHKの初期報道で,「避難」という語に伴って「高台に」などの高所を示す語が出てきた回数を調べたところ,「高台に」が24回,「高いところに(へ)」が11回,「高い位置に」が1回であった。「高台に」を基本的な表現とし,時には「高いところに」や「高い位置に」などと言いかえて,表現に変化を付けていた可能性がある。

【日本テレビ】

「大津波」に次いで,「注意」,「逃げる」が多く,他の放送局と異なる傾向を示している。

基本キーワードで最も多く使われたのが「逃げる」(22回)で,「避難」(15回)を大きく上回っている。以下のような定型的な文が見られた。

このようにみると,定型的な呼びかけ文に,積極的に「逃げる」を使っていることがわかる。

「逃げる」は「避難」などよりも「行き先明示性」が低いと考えるが,これらの文には,「高

○「早く安全な高台に避難してください」(14:52)

○「海の近くにいる人は,ただちに避難してください。海から離れた高台や丈夫で高い鉄筋のビルなどに逃げてください。津波は新幹線以上の速さで襲ってくることもあります。いますぐ逃げてください。海に遊びに行ったりはせず,よく知らない場所ならば,地元の人に安全な場所を聞いて逃げてください」(15:00)(ほぼ同形・類似の文は合計5 回)

○「海の近くの人は,念のため,高台に逃げ

るなど,津波にもご注意ください」(14:52)(ほぼ同形の文は合計 4 回)

○「一刻も早く,津波の来ない場所に逃げてください」(15:21)(ほぼ同形の文は合計 4 回)

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台や丈夫で高い鉄筋のビルなどに」などと,行き先が具体的に示されている。定型文の中では,逃げる理由についても「津波は新幹線以上の速さで襲ってくることもあり」と示し,逃れる「相手」を想定させる表現としている。

また「念のため」とともに使われていたケースが4回(14:52,15:06,15:08,15:11)あった。これは「津波が来るかどうか(あるいは避難の必要があるかどうか)わからないが」などといった意味合いを含む表現となるが,実際に津波が襲来した映像が入った後は,使われなくなっている。

基本キーワードではないが,2番目に頻出した「注意」(33回)についても見てみたい。「注意」は,さまざまな場面で使われているが,次のような定型的な文の中での使用が見られた。

単に「津波に注意してください」だけでは具体的にとる行動のイメージが湧きづらいが,ここにある4つの文は,「高台に逃げるなど」や

「津波が高くなりますので」などと,どう行動すべきなのかや,何に注意すべきなのかなどについて,具体的に示して補っている。

【テレビ朝日】

「大津波」(40回)に続いて,「避難」(32回),「近づかない」(25回)の順で多く現れた。「避難」が使われた文のうち,定型と見られる呼びかけは次のとおりであった。

「避難」が使われたこれらの定型的な文は,東京のスタジオからだけでなく,被災地にある系列局のスタジオからも呼びかけられていた。宮城の局から放送された文は東京のものと似ていたが,岩手の局からは,上記15:23の例に見られる「避難を始めてください」という独自の文型が見られた。また,「避難」が使われた32回の文の中で「すぐに」「ただちに」といった副詞が使われていたのは22回に及び,「避難」の「切迫度明示性」の低さを補っていた。

基本キーワードではないが,多く使われた「近づかない」についても以下の定型的な文が見られた。

○「海のそばにいる人は念のため,高台に逃

げるなど津波に注意してください」(15:08)(ほぼ同形の文は合計 3 回)

○「海岸線が入り組んだ場所では,特に津波が高くなりますので,ご注意ください」

(15:20)(ほぼ同形の文は合計 4 回)○「1 回目よりも 2 回目,2 回目よりも 3 回目の

方が高いこともありますので,津波が来た後も注意を続けてください」(15:21)(ほぼ同形の文は合計 4 回)

○「流れているものには十分にご注意ください」(15:24)(ほぼ同形の文は合計 4 回)

○「ただちに高台など安全な場所に避難してください」(14:52)(ほぼ同形・類似の文は合計 17 回)

○「近くに高台などがないときは,高いビルや,指定された避難場所などに避難してください」(14:53)(ほぼ同形の文は合計 2 回)

○「ただちに避難を始めてください」(15:23 岩手)(ほぼ同形・類似の文は合計 5 回)

○「ただちに避難してください」(15:30)(ほぼ同形の文は合計 6 回)

○「海岸や河口付近には近づかないようにしてください」(14:52)(類似の文は合計 18 回)

○「海岸付近にお住まいの方は,海には絶対に近づかないようにしてください」(15:12 岩手)(類似の文は合計 6 回,すべて岩手)

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特に,岩手からの放送で「近づかない」が使われた7回のうち,6回は,「絶対に」ということばが使われていた。

【TBS】

「大津波」に次いで多かったのが,「避難」(25回)である。この「避難」は,東京のスタジオから呼びかけられたのが10回であるのに対し,被災地の系列局から呼びかけられたのが15回( 宮城 8回, 福島4回, 北 海 道 2回,岩手1回)に上った。

東京からの場合は,次のような3つの文からなる,定型的な文のまとまりが出てくる。

このまとまりの最初の文には,「避難」が使われているが,その前に「ただちに」という副詞が入れられ,低い「切迫度明示性」を補っている。

これらの文には,基本キーワード「離れる」「逃げる」も使われている。「離れる」については,「その場を離れて・・・に避難してください」と,移動すべきことを重ねて伝え,強調している。一方,「逃げる」は,先に示したとおり,「行き先明示性」が「避難」ほど高くない。しかし,「逃

げる」の使われた文も含め,これらの3つの文の中には,いずれも,「津波避難ビルに指定された建物などに」,「海から,より遠い場所よりも,より高い場所を目指して」,「近くに高台などがない場合は,鉄筋コンクリートなどでできた,背が高く頑丈な建物の,できれば3階以上に」などと,「行き先明示性」を高める情報が盛り込まれている。むしろ,「行き先」を明示するための文のまとまりとなっていると言える2)。

一方,系列局からの放送では,「避難」ということばは,例えば次のような定型的な文で使われていた。

どちらの文にも「高台」などの「行き先明示性」をより高めることばが入っている。

宮城からの呼びかけ文には「すぐに」という「切迫度明示性」を補う副詞が使われているが,福島の文には含まれていない。その代わりに福島の文では,「危険や心配がなくなるまで」という表現が加わっている。これは,すでに避難をし終えた人も対象に含める形の呼びかけ文になっていると言える。

また「念のため」という表現が含まれている点については,すでに論述したとおり,「津波が来るかどうか(あるいは避難の必要があるか

○「対象エリアの海岸近くや川の河口付近にいる方は,ただちにその場を離れて,高台や津波避難ビルに指定された建物などに避難

してください。避難するときは,海から,より遠い場所よりも,より高い場所を目指して逃げてください。近くに高台などがない場合は,鉄筋コンクリートなどでできた,背が高く頑丈な建物の,できれば 3 階以上に避難してください」(14:55)(ほぼ同形の文は合計 3 回)

○「すぐに,高い所,高台など,鉄筋コンクリートのビルの 3 階以上など,安全な場所に避

難してください」(14:59 宮城)(ほぼ同形の文は合計 4 回)

○「海岸や河口近くにいる方,念のため,その場を離れて,津波の危険や心配がなくなるまで,高台などの安全な場所に避難してください」(15:36 福島)(ほぼ同形の文は合計 4 回)

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どうか)は不明だが」という意味合いを伝えていた可能性がある。

【テレビ東京】

「大津波」(19回)に次いで,「避難」(12回),「近づかない」(7回)の順に多くなっている。定型的な文には次のようなものが見られる。

これらの文のように,「避難」については,一文の中に「近づかない」や「離れる」とセットで用いられ,重ねて強調する例が見られた。また

「避難」が使われた12回のうち8回は,同文中に「すぐに」などの「切迫度明示性」を補う語が使われていた。ここでは,「すぐに」「すみやかに」「今すぐに」「ただちに」といった4 種類の語が使われていた。

【フジテレビ】

「大津波」(7回)に次いで,「注意」(6回),「避難」(4回)の順に多い。「避難」については以下のように使われ,定型は見られない。

「切迫度明示性」の低さを補う表現も定型が見られず,「すみやか」「一時も早く」「ただちに」

「猶予も置かず」「一刻も早く」などと,多様な表現となっている。語尾も「必要となります」「することということですね」「いただきたいと思います」「お願いいたします」などと多様である。

3.2.3 出現頻度の時系列分析

【時間帯による出現頻度の違い】

NHKと民放キー局に出現したキーワードを,1分ごとに合計し時系列で見ると,出現回数は,最初は多いものの,増減を繰り返しながら,徐々に減っていくことがわかる(図参照)。ここでは,出現回数の増減と関連する可能性のある要素を,当時の放送内容に照らして検討する(なお表2では,見やすくするためキーワードの出現回数を5 分ごとにまとめて時系列にした。「15:00 ~」は15:00からの5 分間を指す。ただし,最初の「14:46 ~」は4分間である)。

1分ごとの合計のグラフを見ると,出現回数の多い「山」となるところは,主に4か所で,14時52分台,15時00分台,15時25分台,15時36分台で顕著なピークを作っている。

○「すぐに海岸から離れて避難をしてください」(14:56)(ほぼ同形の文は合計 2 回)

○「どうぞ皆さん海には近づかずにですね,まずは高台に避難できる方,高台に避難してください」(15:00)(ほぼ同形の文は合計3 回)

○「沿岸部にお住まいの方,高いところにすみやかに避難してください」(15:31)(ほぼ同形の文は合計 3 回)

○「このため局地的には予想よりもさらに高い津波が来る場合がありますので海岸に近いところでは,すみやかな避難が必要となります」(14:57)

○「とにかく今現在はそうした沿岸からは一時も早く避難をすることということですね」

(15:15)○「・・・どうかですね,津波警報の出ていま

す沿岸地帯の皆さま,ただちにですね,猶予も置かずに逃げて避難していただきたいと思います」(15:17)

○「こうした沿岸地方の皆さま,どうぞ,一刻も早く,この沿岸から避難されるよう,お願いいたします」(15:25)

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【出現回数の多い時間帯】

分単位でキーワードの出現回数が多かった時間帯について内容を分析してみる。

14時52分台この1分間に現れるキーワードは25回であ

る。その内訳は「大津波」が14回と突出して多く,「注意」が5回,「避難」が4回などとなっている。14:49に気象庁から各放送局に大津波警報の第一報が伝えられ,続いて14:50に予想される高さや到達予想時刻が伝えられたため,この時間帯は,これらの情報を放送していた局が多い。以下のような文例が見られる。

15時00分台キーワードの合計が1分間で26回と,初期

報道の中で最も多い。内訳は,「避難」が「大津波」とともに8回と最も多くなった。続いて,

「逃げる」「近づかない」「注意」がいずれも3回となった。15:00が,宮城県への津波の到達予想時刻であったことが,「避難」や「逃げる」などの基本キーワードが数多く現れた背景にあると考えられる。

○「大津波警報が出ていますので,くれぐれも注意ください」(日本テレビ)

○「大津波警報,岩手県,宮城県,福島県全域に出ています」(テレビ朝日)

○「大津波警報が出ている海岸や川の河口付近の方は,早く安全な高台に避難してください」(NHK)

○「大津波警報が出ているのは岩手県と宮城県,福島県です。宮城県では午後 3 時に 6メートルの津波が到達すると予想されています。午後 3 時,ちょうど今の時間です。・・・すみやかに安全な高い所に避難をしてください」(NHK)

○「海の近くにいる人は,ただちに避難してく

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ避難

離れる

逃げる

近づかない

行かない

警戒

注意

気をつける

大津波

危険

14:46 ~                   014:50 ~ 16   1 13   1 6   39   7614:55 ~ 18 4 1 10     3 1 33   7015:00 ~ 15   6 11 2 3 7   21   6515:05 ~ 12 2 3 3   3 1   28   5215:10 ~ 3   1 4   1 1 2 21   3315:15 ~ 11   4 4   4 2   22 2 4915:20 ~ 12 1 3 6   3 9 1 15 2 5215:25 ~ 5 1 2 5   1 5   16   3515:30 ~ 12 1   2   1 3   31 2 5215:35 ~ 11 3 6 2 1 1 10   21 2 5715:40 ~ 3 3   1     1   9 2 1915:45 ~ 3 4   1   11 3   13   3515:50 ~ 3 3   5   3 6   12 2 3415:55 ~ 8 1   4   2 3   8 4 30

計 132 23 27 71 3 34 60 4 289 16 659 ■は 10 回以上出現したところ

表 2 キーワードの出現回数(5分ごとにまとめた数)の時系列

図 キーワードの出現回数(合計)の推移

0

5

10

15

20

25

30

15:3015:0014:46

14:5215:00

15:25 15:36

15:4715:02 15:07 15:11 15:16 15:2215:57

15:5515:53

15:42~15:44

15:26~15:3015:49~15:51 (時間帯)

(出現回数)

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31JUNE 2012

15時25分台1分間の出現回数は18回で,内訳は,「大津

波」が6回,「注意」が4回,「避難」が3回などとなった。

この時間帯の数分ほど前から,大きな津波が到達した中継映像を各放送局が次 と々放送し始める。これらの映像にあわせて,あるいは誘発されるようにしてキーワードが出現している。

15時36分台この1分間の出現回数は18回で,内訳は「大

津波」が4回,「避難」「離れる」「逃げる」「注意」がいずれも3回ずつとなる。ここでも映像にあわせて,あるいは誘発されるようにしてキーワードが出てくるケースが見られる。

また,津波に関係の薄い東京都内の様子の映像が映されていても,津波避難の定型的な文を繰り返し伝えているケースもある。

ほかに,到達予想時刻が近づいている地域を読み上げるのにあわせて,キーワードが出てくるケースもあった。

ださい。海から離れた高台や丈夫で高い鉄筋のビルなどに逃げてください」(日本テレビ)

○「・・・海には近づかないように,高台に避難できる方,高台にすみやかに避難してください」(テレビ東京)

○「かなり車も波にのみ込まれているようです。ご覧いただいているのは,岩手県宮古の情報カメラです。大津波警報が出されています。青森から,千葉に至るまで大津波警報が出されています。繰り返しお伝えしますが,海岸近く,川の河口付近にいる方はただちにその場を離れて,高台や津波避難ビルに指定された建物などに避難してください」(TBS 宮古で津波が河口をさかのぼる中継映像で)

○「先ほどから岩手県の,この津波の状況を映像でご覧いただいていますが,ほかの地域でもこのような状況になっていることが考えられます。くれぐれも流れてくるものにもご注意ください」(日本テレビ 宮古に津波が押し寄せる中継映像で)

○「こちらの画面から確認しますと,大きな津波が押し寄せている様子が見えます。改めて大津波警報の出ている地域をお伝えし

ます」(NHK 釜石に津波が押し寄せる中継映像で)

○「ここで見る画面から見る限りでは,人の姿は見られないんですけれども,沿岸部にお住まいの方は,絶対に海には近づか

ないようにしてください」(テレビ朝日(岩手)宮古で車などが津波に流される中継映像で)

○「海岸や河口近くにいる方,念のため,その場を離れて,津波の危険や心配がなくなるまで,高台などの安全な場所に避難してください」(TBS(福島) 富岡町から海岸や原発を望む中継映像で)

○「海の近くにいる人はただちに避難してください。海から離れた高台,そして頑丈で高い鉄筋のビルなどに逃げてください。津波は新幹線以上の速さで襲ってくることもあります。すぐに逃げてください」(日本テレビ 東京・千代田区の中継映像で)

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32  JUNE 2012

【出現回数の少ない時間帯】

次に,キーワードの出現回数が少ない時間帯について見てみよう。出現が1分間に5回以下の時間帯は,(14時50 分台までの最初の数分間を除くと)12回あった(図参照)。それぞれについて,避難が呼びかけられなかった背景を探るため,その時間帯の主要な放送内容

(複数の局が放送したもの)を挙げる。 目立つのは,「東京お台場の火災」「東京の(地震や)余震」「東京(首都圏)の地震被害(火災被害)」などである。このうち「東京の(地震や)余震」については,15時16分台には6局,15時26分台~ 15時30分台は5局が放送しており,放送局の津波避難呼びかけを一斉に途切らせるきっかけとなっていた可能性が考えられる。

このほか,こうした出現回数の少ない時間帯に,「放送に一定の時間がかかる内容」と考えられる放送をしていた例として,以下のような例が見られた(いずれも放送していた局は1局である)。

15 時 42 分台~ 15 時 44 分台・政府の動き・首都圏の火災・宮城県の地震被害・東京の地震被害

15 時 47 分台・東京の火災

15 時 49 分台~ 15 時 51 分台・首都圏の地震被害・東北地方の地震被害・政府の動き

15 時 53 分台・首都圏の地震や火災被害

15 時 55 分台・首都圏の地震被害

15 時 57 分台・首都圏の地震被害

15 時 07 分台・石巻市役所に電話インタビュー

15 時 11 分台・警視庁記者クラブ中継

15 時 22 分台・津波到達予想時刻読み上げ

15 時 26 分台~ 15 時 30 分台・大津波・津波警報地域名読み上げ

15 時 42 分台~ 15 時 44 分台・震度 6 強~ 7 の地域名読み上げ・岩手県庁に電話インタビュー

○「釧路で午後 3 時 40 分に津波が到達するという予想が出ています。これから 4 分後ということになりますが,海岸付近にいらっしゃる方は注意してください」(テレビ朝日 津波の映像に釧路など各地の到達予想時刻の文字情報を重ねた画面で)

15 時 02 分台・(「石巻市鮎川で 50 センチ」などの)津波

観測値・東京お台場の火災・東京の余震

15 時 07 分台・宮城県の余震の様子・東京お台場の火災

15 時 11 分台・東京お台場の火災・津波観測値

15 時 16 分台・東京の余震・津波で流される車

15 時 22 分台・福島県や岩手県の津波の様子・津波到達予想時刻と高さ

15 時 26 分台~ 15 時 30 分台・東京の地震や余震・首都圏の地震被害・岩手県や宮城県の津波の様子・震度 6 強~ 7 の地域名読み上げ・津波観測値・政府の動き

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33JUNE 2012

4.今後の課題

津波避難の放送は,実際に避難が必要な人たちにとっては,長時間続けて視聴する対象にはならないことが予想される。避難や余震の対応に追われ,時間的余裕がない可能性が高いからだ。そうした人たちがテレビを視聴するわずかな時間に避難の呼びかけが届くよう,放送の送り手には,呼びかけを途切らせないようにすることが求められよう。その一方で,同じ表現が続くことによる,聞き手の,いわば「慣れ」を防ぐため,変化のあるさまざまな表現で伝えることも大切だと考える。

今回の調査・分析で,各放送局の避難の呼びかけ方の違いや,キーワードを補う表現の工夫,さらに,キーワードの出現頻度に関係する要素を見てきた。こうした結果は,次の災害に備えた放送を考える際に,参考になるのではないだろうか。

今回は東京のテレビ局を対象にしたが,今後はラジオ局や被災地の地方局の初期報道についても同様の分析をする必要があろう。また,今回とは異なる種類のキーワードによる分析も考えられる。さらに,各局の表現の違いの背景には,災害時のために事前に準備した原稿や,編集方針の違いなどがあると考えられる。こうした点についての調査・分析は今後の課題としたい。

(いのうえ ひろゆき)

15 時 55 分台・地震に関する解説

15 時 57 分台・地震に関する解説

注:1)災害時の通信メディアの役割について詳しい中

村功(東洋大学)は,著作((2004)「安否情報と情報化の進展」『災害情報と社会心理』(廣井脩編著,北樹出版))の中で,災害時に必要な情報について 8 つの種類に分類・整理している。例えば,「危険度/警報(各種の警報など今後迫りくる危険に関する情報)」,「避難情報(自治体が発令する避難勧告や,どこにどのように避難したらよいかといった情報)」,「行動指示

(安全確保のための情報)」などである。これに,今回選んだ 10 のキーワードを照らすと,以下のように整理することもできる。

「危険度/警報」に関わることば ・・・「大津波」「危険」

「避難情報」に関わることば ・・・「避難」「離れる」「逃げる」

「行動指示」に関わることば ・・・「避難」「離れる」「逃げる」

「近づかない」「行かない」「警戒」「注意」「気をつける」

2)「3 階以上に」という表現は,今回,3 階に避難しても津波で亡くなった人がいたことを考えれば,適切な表現であったかどうかは,別途議論する必要がある。

参考文献:・田中孝宜/原由美子(2011)「東日本大震災 発

生から 24 時間 テレビが伝えた情報の推移」『放送研究と調査』12 月号(NHK 出版)

・田中孝宜/原由美子(2012)「東日本大震災 発生から 72 時間 テレビが伝えた情報の推移~在京 3 局の報道内容分析から~」『放送研究と調査』3 月号(NHK 出版)

・NHK 放送文化研究所メデイア研究部番組研究グループ(2011)「東日本大震災発生時・テレビは何を伝えたか」『放送研究と調査』5 月号(NHK出版)

・井上裕之(2011)「大洗町はなぜ『避難せよ』と呼びかけたのか~東日本大震災で防災行政無線放送に使われた呼びかけ表現の事例報告~」『放送研究と調査』9 月号(NHK 出版)(一部加筆修正した改訂版を『NHK 放送文化研究所年報 2012』

〈NHK 出版〉に掲載)・井上裕之(2012)「命令調を使った津波避難の呼

びかけ~大震災で防災無線に使われた事例と,その後の導入検討の試み~」『放送研究と調査』3 月号(NHK 出版)