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本県の早生温州ミカン「北原早生」は、糖度が 12 度以上で 果皮の赤みが強いことから高単価で取引されています。しか し、気象条件によっては土壌水分が多くなり、糖度が 12度に 達しない年もあります。そこで、シートマルチとドリップか ん水で土壌中の水分を調節する「マルドリ方式」栽培により、 糖度 12 度以上の高品質果実を安定して生産できること、さ らに、品質確保の目安となる生育途中の糖度は、8月1日時 点で 9 度以上、8月 20 日で 10 度以上であることを明らかに しました。(果樹部) 大豆は過湿や乾燥等の土壌水分によるストレスで生産性 が大きく左右される作物です。近年、集中豪雨や猛暑日が続 くことが珍しくないため、大豆を安定して生産するためには 天候不順に対応できる栽培技術が必要です。そこで、湿害と 乾燥害の両方を軽減できる簡易な土壌水分管理技術を開発し ました。圃場の周囲に掘った深さ約 30cm の溝(額縁明渠)か ら連結させて土中にトンネル(弾丸暗渠)を施工します。こ れにより、過湿時には排水が良くなり、乾燥時には額縁明渠 に入水して弾丸暗渠から地下かんがいを行うことができ、大 豆の充実が良くなり収量を増やせます。(筑後分場) 新葉に水疱状の大きな白色病斑ができるチャもち病は、5月 下旬頃から芽が出る二番茶に多く発生し、収量と品質を著しく 低下させます。この病気に対して、有機栽培などでも使用でき る銅水和剤の効果を生育ステージ別に検討した結果、二番茶萌 芽前(一番茶摘採 20 日後)の散布が有効であることを明らか にしました。しかも一般的な銅水和剤であれば、いずれの種類 も1回散布で高い効果があることが分かりました。現在、この 技術は生産現場で普及が図られています。(八女分場) 研究の紹介 試ニュース 2020.3 第 12 号 http://www.farc.pref.fukuoka.jp マルドリ方式栽培による早生温州ミカン「北原早生」高糖度果実生産技術 福岡県農林業総合試験場 額縁明渠と弾丸暗渠を連結した大豆の土壌水分管理技術 マルドリ方式栽培の「北原早生」 二番茶に発生したチャもち病の症状 銅水和剤による二番茶のチャもち病の防除法 額縁明渠と弾丸暗渠の水の流れ

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Page 1: 試ニュースfarc.pref.fukuoka.jp/oshirase/nourinnews12.pdf農 本県の早生温州ミカン「北原早生」は、糖度が12度以上で 果皮の赤みが強いことから高単価で取引されています。しか

本県の早生温州ミカン「北原早生」は、糖度が 12度以上で

果皮の赤みが強いことから高単価で取引されています。しか

し、気象条件によっては土壌水分が多くなり、糖度が 12度に

達しない年もあります。そこで、シートマルチとドリップか

ん水で土壌中の水分を調節する「マルドリ方式」栽培により、

糖度 12 度以上の高品質果実を安定して生産できること、さ

らに、品質確保の目安となる生育途中の糖度は、8月1日時

点で 9度以上、8月 20日で 10度以上であることを明らかに

しました。(果樹部)

大豆は過湿や乾燥等の土壌水分によるストレスで生産性

が大きく左右される作物です。近年、集中豪雨や猛暑日が続

くことが珍しくないため、大豆を安定して生産するためには

天候不順に対応できる栽培技術が必要です。そこで、湿害と

乾燥害の両方を軽減できる簡易な土壌水分管理技術を開発し

ました。圃場の周囲に掘った深さ約 30cmの溝(額縁明渠)か

ら連結させて土中にトンネル(弾丸暗渠)を施工します。こ

れにより、過湿時には排水が良くなり、乾燥時には額縁明渠

に入水して弾丸暗渠から地下かんがいを行うことができ、大

豆の充実が良くなり収量を増やせます。(筑後分場)

新葉に水疱状の大きな白色病斑ができるチャもち病は、5月

下旬頃から芽が出る二番茶に多く発生し、収量と品質を著しく

低下させます。この病気に対して、有機栽培などでも使用でき

る銅水和剤の効果を生育ステージ別に検討した結果、二番茶萌

芽前(一番茶摘採 20 日後)の散布が有効であることを明らか

にしました。しかも一般的な銅水和剤であれば、いずれの種類

も1回散布で高い効果があることが分かりました。現在、この

技術は生産現場で普及が図られています。(八女分場)

研究の紹介

農林試ニュース

2020.3

第 12 号

http://www.farc.pref.fukuoka.jp

マルドリ方式栽培による早生温州ミカン「北原早生」高糖度果実生産技術

福岡県農林業総合試験場

額縁明渠と弾丸暗渠を連結した大豆の土壌水分管理技術

マルドリ方式栽培の「北原早生」

二番茶に発生したチャもち病の症状

銅水和剤による二番茶のチャもち病の防除法

額縁明渠と弾丸暗渠の水の流れ

Page 2: 試ニュースfarc.pref.fukuoka.jp/oshirase/nourinnews12.pdf農 本県の早生温州ミカン「北原早生」は、糖度が12度以上で 果皮の赤みが強いことから高単価で取引されています。しか

抹茶は茶道のお点前で用いられますが、昨今では菓子やアイスクリームなど幅広く使わ

れるようになりました。「抹茶」は「てん茶」を粉にしたもので、新芽を遮光下で生育させ

るところが通常の「煎茶」用の栽培と異なりま

す。この遮光の開始時期や程度を調整する技術

に精通した熟練農業者が限られているため、増

加する需要に対して生産量が拡大していませ

ん。そこで、大学や国の研究機関、他県と共同

で、適切な被覆開始時期を判定する指標の作成

や、さらなる高品質てん茶生産のための被覆技

術の開発に取り組み、技術体系確立によるてん

茶の生産拡大を目指します。(八女分場)

本県の促成ナス栽培で作付けが拡大してい

る「PC筑陽」は、植物成長調節剤や花粉媒介昆

虫による着果処理が不要で、ヘタにトゲがなく

扱いやすいことが特徴です。一方で、枝の生育

が遅く、収量が低下しやすいことが問題となっ

ています。葉が小さいため葉の隙間から光が地

面に多く落ちてしまい、太陽光を十分に利用で

きていないのです。そこで、整枝法の改良やハ

ウスの外張りフィルムの選定により、ナス全体

が受ける光を増やす増収技術を開発します。

(筑後分場)

植物の病気の発生には気温や湿度が大きく影

響します。したがって、これらの条件と発病の

関係を解析すると、発病時期を予測することが

できます。本県では、長年蓄積してきたキュウ

リ褐斑病の発生消長と気象のデータを用い、大

学や他県の研究機関、温湿度測定センサーを開

発する企業と協力して、AIによる発病予測シス

テムの開発に取り組んでいます。今後、予測シ

ステムに基づいた防除の効果を検証し、現場へ

の普及を目指します。(病害虫部)

受光量向上によるナス品種「PC筑陽」増収技術の開発

高品質なてん茶の生産拡大に向けた技術開発が始まりました

新しい取り組みの話題

AI を用いたキュウリ病害の発生予測システムの開発を始めました

キュウリほ場に設置した温湿度センサー

福岡県産の高品質「抹茶」

利用できずに地面に落ちた陽光

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当場が開発した「はかた地どり」は歯切れ

がよく、うま味成分が多い特徴を有していま

す。さらに、胸肉には認知機能の一部をサポ

ートするイミダゾールジペプチド(カルノシ

ン、アンセリン)がブロイラーの約 1.5倍も

含まれており、生鮮肉類では全国初の機能性

表示食品です。今後、更なる消費拡大が期待

されます。(畜産部)

雑草は、大豆の収量・品質低下の主要因の

一つです。そこで、防除が難しい雑草の一つ、

「ホソアオゲイトウ」の防除方法を開発しま

した。発生生態の解明により、大豆播種直後

の土壌処理剤による防除が重要であること

を明らかにしました。現地では、試験場が選

定した土壌処理剤を用いた防除が効果を上

げています。今後も、防除対策が必要な「ア

サガオ類」や「ホオズキ類」等、他の難防除

雑草の防除技術を開発していきます。

(農産部)

大豆作では土壌の過湿による出芽不良や

生育不良が収量低下を引き起こし、大きな問

題になっています。当場は、スタブルカルチ

による大豆播種前の深耕が土壌排水性を改

善し、大豆の根量を増やして収量を向上させ

ることを明らかにしました。スタブルカルチ

は県内の大豆産地を中心に概ね 600 台導入

されており、大豆の安定生産と収量向上のた

め、更なる普及拡大が期待されています。

(豊前分場)

難防除雑草「ホソアオゲイトウ」の効果的な防除対策

成果の活用事例

「はかた地どり」胸肉が機能性表示食品に

難防除雑草「ホソアオゲイトウ」

機能性表示食品「はかた地どり」(胸肉)

土壌の排水性を改善するスタブルカルチによる深耕

スタブルカルチによる大豆の増収技術

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農林試ニュース 第 12 号 令和 2 年 3 月(年2回発行) 編集・発行 福岡県農林業総合試験場 〒818-8549 福岡県筑紫野市大字吉木 587 ホームページ http://farc.pref.fukuoka.jp E-mail [email protected] 電 話 092-924-2986

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アフガニスタンから視察団来場 令和元年 9 月 12 日(木)、中央アジアのアフガニス

タンより、故 中村哲さん率いるペシャワール会のカン

キツに関する研修を受け入れました。同国では新たな

品目としてカンキツに着目し普及を図っていますが、

樹勢が強く、高木となるため収穫作業等に多くの労力

を要しています。研修では、品質や作業性を良くするせ

ん定方法、低樹高化が可能なわい性台木を紹介しまし

た。農業技術者が多く、熱心な討議が行われました。

国際学会「PAG ASIA 2019」での発表 令和元年6月6日(木)~8日(土)に中国広東省深

圳市で開催された植物および動物ゲノム国際学会「PAG

ASIA 2019」において、和田卓也専門研究員が「多元

交雑集団を用いたイチゴ果実色に関するゲノムワイド

関連解析」、池上秀利研究員が「イチジクの雌雄判別の

ための SNP マーカーの開発と利用」について口頭発表

しました。

表彰

村本晃司(現・八女普及指導センター)

消費者ニーズに合う、良食味で果実が大きい黄

色系キウイフルーツ品種「甘うぃ」を育成し、そ

の特長が活かせる栽培方法を明らかにしました。

「微生物を用いた養豚用脱臭資材の開発」

尾上 武(現・筑後農林事務所)

工業技術センターと共同で、養豚施設の悪臭の

元となる低級脂肪酸を低減できる飼料「養豚用に

おい対策飼料 201(におわん)」を開発しました。

●福岡県職員表彰

研究成果が評価され、担当者が表彰されました。

(研究表彰)

「キウイフルーツ新品種「甘うぃ」の育成と高品質安定生産技術の開発」

藤島宏之・朝隈英昭・瀨戸山安由美(果樹部)

後列:左から村本氏、朝隈氏、右端瀨戸山氏

前列:右から藤島氏、尾上氏