国際金融為替ボヱシヨヺ Global Markets...

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為替& - Global 国際金融為替 Global Markets Research 2020年06月18日 2020年7月 慎重なが楽観 目次 慎重 なが 楽観 2 為替予測 3 株価長期金利為替相場 推移 4 1-1. 円:年後半 けて 上昇 6 1-2. 円需給 - 10 1-3. 対外対内証券投資:生保 年金勢 は5 外債 12 2-1. 見通 上方修正 16 2-2. 英国:通商交渉 明確 展見 えず 18 2-3. 観光客受 再開 21 3-1. 目標 不動 RBA 23 3-2.NZ 焦点 海外移動 自由化 26 3-3. FRB ない BOC 27 3-4. 追加利下 げに 29 3-5. 労働者送金 焦点 31 3-6. 改善 35 4-1. 人民元:人民銀行 BS 拡張 慎重 37 4-2. 香港 国安法導入 香港為替市場 39 4-3. 韓国 地政学 浮上 41 4-4. 外貨準備 去最高 更新 42 4-5. 新型 新興国債務問題 45 5. 日本経済:経済再開 新型 第2波 49 6. 米国経済:2020年6月 FOMC 53 7. 欧州経済:財政金融政策 景気 56 8. 英国経済: BOE は6 資産購入枠拡大 発表 58 主要国 日程 60 Appendix A-1 61 為替 後藤 祐二朗 - NSC - NSC 春井真也 - NSC 中島 將行 - NSC 宮入 祐輔 - NSC 北米経済 雨宮 愛知 - NSI 日本経済 髙島 雄貴 - NSC 本はノムラ・インターナショナル、 ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルか の寄稿一に含。本内 容は、第5章以降は日本時間2020 年6月17日午前9 時、そ以外は 同18日午前9 時での情報に基づ く。 Appendix A-1に記載されているアナリスト証明、重要なディスクロージャー及び米国以外のアナリストのステータスをお読み下さい。

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為替リサーチ&ストラテジー - Global

国際金融為替マンスリーGlobal Markets Research

2020年06月18日

2020年7月

慎重ながらも楽観

目次

サマリー:慎重ながらも楽観 2

為替予測 3

株価・長期金利・為替相場の推移 4

1-1.ドル円:年後半に向けて上昇へ 6

1-2.コロナショックの円需給インパクト-アップデート 10

1-3.対外対内証券投資:生保と年金勢は5月に外債を買い越し 12

2-1.ユーロ:見通し上方修正 16

2-2.英国:通商交渉は明確な進展見えず 18

2-3.トルコリラ:観光客受け入れを再開 21

3-1.豪ドル:目標から振れても不動のRBA 23

3-2.NZドル:次の焦点は海外移動の自由化 26

3-3.カナダドル:FRBに引けを取らないBOC 27

3-4.ブラジルレアル:追加利下げに含み 29

3-5.メキシコペソ:労働者送金が焦点に 31

3-6.南アランド:リスクセンチメント改善が追い風に 35

4-1.人民元:人民銀行はBSの拡張に慎重 37

4-2.香港ドル:国安法導入と香港為替市場 39

4-3.韓国ウォン:地政学リスクが浮上 41

4-4.インドルピー:外貨準備が過去最高を更新 42

4-5.新型コロナと新興国債務問題 45

5.日本経済:経済再開と新型コロナ第2波 49

6.米国経済:2020年6月FOMC 53

7.欧州経済:財政・金融政策で景気をテコ入れ 56

8.英国経済:BOEは6月に資産購入枠拡大を発表か 58

主要国の主な日程 60

Appendix A-1 61

リサーチアナリスト

為替ストラテジー

後藤  祐二朗 - NSC

郭 穎 - NSC

春井真也 - NSC

中島  將行 - NSC

宮入 祐輔 - NSC

北米経済

雨宮 愛知  エコノミスト - NSI

日本経済

髙島 雄貴  エコノミスト - NSC

本レポートはノムラ・インターナショナルplc、

ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルから

の寄稿を一部に含む。本レポート内

容は、第5章以降は日本時間2020

年6月17日午前9 時、それ以外は

同18日午前9 時までの情報に基づ

く。

Appendix A-1に記載されているアナリスト証明、重要なディスクロージャー及び米国以外のアナリストのステータスをお読み下さい。

サマリー:慎重ながらも楽観世界経済はコロナショック第一波からの立ち直りを見せている。一方で、先んじて感染

封じ込めに成功した中国の一部で感染が再増加し、米国でもテキサスやフロリダなど

一部地域で感染が拡大している。為替市場の注目は第二波リスクに集中している状

況だ。第二波が経済正常化を遅らせる可能性が懸念されるが、世界的ロックダウンへ

と回帰する可能性は限られ、4-5月を底にした世界経済の回復継続がメインシナリオと

なる。とはいえ、短期的には米中の新規感染者数に敏感な相場展開となりそうだ。

第二波リスクに加えて、米中対立懸念や北朝鮮情勢の不透明感など地政学的なリス

クも残る。ただし、コロナショックを受けた深刻な景気後退からの回復の成否というテー

マの前では相対的に重要度は低く、為替市場のトレンドを決する要因とはなりにくい。

欧州などでは順調に新規感染者数減少が続く中で経済正常化が進められており、第

二波リスクを警戒しながらも、基本的には「慎重ながらも楽観」という姿勢が適切だ。

為替市場ではクロス円の押し目買いスタンスが有効な相場と言えそうだが、主要国当

局からの財政・金融政策面でのバックストップが期待しやすいことも重要だ。感染第二

波が世界的に第一波並みの大きさとなってしまえば、財政・金融政策での対応でリス

クオフを完全に回避することは難しいだろうが、局地的な感染拡大に留まれば、政策

対応が株価やクロス円の下値を抑制するとの期待感が維持されやすいだろう。

ドル円相場は6月第一週に上昇が加速したが、その後は106-110円のレンジ相場へと

回帰している。需給的な円高圧力が弱い一方、金利差面からのドル円上昇への後押

しは弱い。ただし、日銀黒田総裁は米FRBよりも早い段階での利上げに否定的な見解

を示しており、需給、金利差ともに徐々にドル円の上昇圧力を強めるだろう。年末に向

けては引き続き110円台超えを目指す展開となろう。

5月半ば以降、ユーロ相場の上昇が目立つ。内外からの追い風が吹いており、年末に

向けて一段の上昇余地が残ると判断、ユーロ相場見通しを上方修正した。英国では

EUとの貿易交渉の不透明感は経済正常化の遅れが懸念されるが、英ポンドなどの欧

州通貨全般も対ドル、対円で上方修正している。G10資源国では豪州やニュージーラ

ンドで新型コロナ感染封じ込めに成功しており、経済指標も改善している。豪ドル、NZ

ドルはリスクセンチメントドリブンの展開が続きそうだが、第一波収束を受けて世界的

に金融緩和期待が後退すれば、利下げ織り込みの進んできたNZドルの浮上があり得

る。原油価格の安定はカナダドルにも追い風となっている。

コロナショックで大きく下落した新興国通貨は全般的に回復局面にある。特に下落が

大きかったブラジルレアルやメキシコペソといったラ米通貨の回復が顕著だ。ブラジル

では新型コロナ感染拡大、メキシコでは海外労働者からの送金減少の可能性などのリ

スクはあるが、深刻な第二波が回避されれば底堅い推移が期待できる。商品市況の

安定を受けて、南アランドやインドネシアルピアも回復している一方、トルコリラやイン

ドルピーなどは商品市況回復の恩恵を受けにくく、相対的に軟調だ。トルコでは移動制

限が緩和されており、夏場に向けて旅行客の回復があれば、対外収支面での懸念が

後退する。もっとも、新興国通貨は回復基調にあるとはいえ、世界的な感染第二波リ

スクが残る中、債務状況や対外ファイナンス構造などへの注目は怠れない。

米中対立への懸念が高まる中、中国人民元は一時対ドルでの下落圧力が高まった。

しかし、主要通貨に対するドル高是正が広がる中、人民元も底堅さを取り戻している。

一方、米中対立の高まりは香港市場を揺さぶっており、その経済・為替制度への影響

について詳しく分析した。6月前半には韓国ウォンの回復も鮮明となったが、目先は北

朝鮮情勢の不透明感再燃の影響が懸念材料になってきた。

為替ストラテジー

後藤  祐二朗 - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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為替予測図表 1: 為替予想(対ドル)

※予告なしに変更する場合があります。

対ドル(一部対ユーロ) 6月17日 20年6月 20年9月 20年12月 21年3月 21年12月

先進国(G10)

日本円 (JPY) 107.0 106 108 110 110 110

ユーロ (EUR) 1.12 1.13 1.14 1.14 1.14 1.16

スイスフラン (CHF) 0.95 0.91 0.91 0.92 0.93 0.94

英ポンド (GBP) 1.26 1.23 1.25 1.27 1.31 1.36

豪ドル (AUD) 0.69 0.62 0.61 0.63 0.63 0.65

カナダドル (CAD) 1.36 1.32 1.32 1.35 1.34 1.30

ニュージーランドドル (NZD) 0.65 0.59 0.58 0.60 0.60 0.62

ノルウェークローネ (EUR/NOK) 10.71 11.50 11.00 10.50 10.40 10.00

スウェーデンクローナ (EUR/SEK) 10.51 11.00 10.90 10.80 10.70 10.40

アジア通貨

中国人民元 (CNY) 7.09 7.16 7.16 7.18 7.19 7.20

香港ドル (HKD) 7.75 7.78 7.80 7.80 7.81 7.83

インドネシアルピア (IDR) 14083 16800 15800 15300 15175 14800

インドルピー (INR) 76.2 77.0 74.5 73.5 73.0 71.5

韓国ウォン (KRW) 1214 1250 1200 1180 1165 1120

マレーシアリンギット (MYR) 4.28 4.40 4.30 4.23 4.20 4.10

フィリピンペソ (PHP) 50.0 51.5 50.5 50.0 49.8 49.0

シンガポールドル (SGD) 1.39 1.45 1.43 1.41 1.40 1.35

タイバーツ (THB) 31.2 33.5 33.1 32.7 32.4 31.3

台湾ドル (TWD) 29.6 30.5 30.0 29.8 29.6 29.0

欧州・アフリカ通貨

ポーランドズロチ (EUR/PLN) 4.47 4.50 4.30

ロシアルーブル (RUB) 69.7 72.00 70.00

トルコリラ (TRY) 6.85 6.80 7.00

南アフリカランド (ZAR) 17.20 17.50 17.00

ラテンアメリカ通貨

ブラジルレアル (BRL) 5.23 5.00 4.80

メキシコペソ (MXN) 22.35 22.00 21.00

出所: ブルームバーグ、野村

図表 2: 為替予想(対円)

対円 6月17日 20年6月 20年9月 20年12月 21年3月 21年12月

先進国(G10)ドル指数 (DXY) 80

米ドル (USD) 107.0 106 108 110 110 110

ユーロ (EUR) 120.3 120 123 125 125 128

スイスフラン (CHF) 112.8 116 119 120 118 117

英ポンド (GBP) 134.4 130 135 140 144 150

豪ドル (AUD) 73.7 66 66 69 69 72

カナダドル (CAD) 78.9 80 80 81 82 85

ニュージーランドドル (NZD) 69.1 63 63 66 66 68

ノルウェークローネ (NOK) 11.2 10.4 11.2 11.9 12.1 12.8

スウェーデンクローナ (SEK) 11.5 10.9 11.3 11.6 11.7 12.3

アジア通貨

中国人民元 (CNY) 15.1 14.8 15.1 15.3 15.3 15.3

香港ドル (HKD) 13.8 13.6 13.8 14.1 14.1 14.0

インドネシアルピア (100IDR) 0.76 0.63 0.68 0.72 0.72 0.74

インドルピー (INR) 1.41 1.38 1.45 1.50 1.51 1.54

韓国ウォン (100KRW) 8.8 8.5 9.0 9.3 9.4 9.8

マレーシアリンギット (MYR) 25.1 24.1 25.1 26.0 26.2 26.8

フィリピンペソ (PHP) 2.14 2.06 2.14 2.20 2.21 2.24

シンガポールドル (SGD) 76.8 73.1 75.5 78.0 78.6 81.5

タイバーツ (THB) 3.44 3.16 3.26 3.36 3.40 3.51

台湾ドル (TWD) 3.61 3.48 3.60 3.69 3.72 3.79

欧州・アフリカ通貨

ポーランドズロチ (PLN) 27.0 27.9 29.7

ロシアルーブル (RUB) 1.54 1.53 1.57

トルコリラ (TRY) 15.6 16.18 15.71

南アフリカランド (ZAR) 6.22 6.29 6.47

ラテンアメリカ通貨

ブラジルレアル (BRL) 20.5 22.00 22.92

メキシコペソ (MXN) 4.79 5.00 5.24

出所: ブルームバーグ、野村

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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株価・長期金利・為替相場の推移

図表 3: 株価

出所: ブルームバーグ、野村

図表 4: 長期金利

出所: ブルームバーグ、野村

図表 5: 米ドル

出所: ブルームバーグ、野村

図表 6: ユーロ

出所: ブルームバーグ、野村

図表 7: ポンド

出所: ブルームバーグ、野村

図表 8: 豪ドル

出所: ブルームバーグ、野村

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

4

図表 9: NZドル

出所: ブルームバーグ、野村

図表 10: カナダドル

出所: ブルームバーグ、野村

図表 11: トルコリラ

出所: ブルームバーグ、野村

図表 12: 南アランド

出所: ブルームバーグ、野村

図表 13: ブラジルレアル

出所: ブルームバーグ、野村

図表 14: メキシコペソ

出所: ブルームバーグ、野村

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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1-1.ドル円:年後半に向けて上昇へ

小動きが続くドル円

4月以降のドル円相場は106-110円のレンジ相場が続いている。6月第一週には一時

109円85銭までの円安ドル高が進み、110円超えを試すかに見えたが、勢いは失速し

ている。ドル円相場の小動きが続いている背景には、1)円の低ベータ通貨としての特

性、2)薄れる株価との連動性、3)膠着感が高まる日米金融政策、がある。

限定されるドル高是正の円への影響

2月半ば以降の金融市場は、3月下旬にかけてのコロナショック拡大局面とその後の反

発局面の2つに整理できる。一時30%以上の下落率を記録した米国株は新型コロナ第

一波収束と当局による政策対応期待で徐々に回復してきた(図表15)。為替市場では

コロナショック拡大局面ではドル全面高となったため、4月以降の反発局面ではその反

動でドルが徐々に減価する展開となっている。

コロナショックによるドル高は元来対ドルでの感応度が高い、いわゆる対高ベータ通貨

でより大きく進展した。G10通貨ではノルウェークローネ、豪ドル、NZドルといった資源

国通貨が高ベータ通貨であり、円、スイスフラン、ユーロが低ベータ通貨だ(図表16、ド

ル高是正で恩恵を受ける通貨は?参照)。一方、新興国通貨内ではアジア通貨が全

般的に低ベータとなる傾向があり、南アランド、メキシコペソ、ポーランドズロチ、ロシア

ルーブルなどが高ベータ通貨となる。結果的に4-5月以降は豪ドルや欧州及びラ米の

新興国通貨が対ドルで回復する展開となったが、元々円は低ベータ通貨であり、コロ

ナショック局面での値動きも限定されていた。こうした点からは、他の主要通貨と比較

してもドル円相場の値動きが小さくなっていることは驚きではない。

図表 15: 米国株と主要通貨に対する円相場

  

注: 米国株価はSP500、アジア新興国通貨は主要10通貨、欧州新興国通貨は主要4通貨、ラ米新興国通貨は主要2通貨の平均的な対円相場。

出所: ブルームバーグ、野村

図表 16: 主要通貨の年初来の対ドル騰落率と過去5年間の対ドル感応度(ベータ)

  

出所: ブルームバーグ、野村

ドル円と株価の関係は希薄化した状況が続く

世界的な株価回復の中でドル円相場の小動きが続いてきたこともあり、株価とドル円

との順相関関係が薄れていることも、ドル円上昇に勢いがつきにくい背景にあるだろう

(株高と円高の共存はあるか?参照)。6月第一週には、金融市場でのリスクラリーが

クロス円中心の円安圧力となり、ドル円相場もリスクオンの流れに乗って上昇が加速

した印象があった。しかし、その後は株価が堅調を維持する中でドル円が比較的大き

く調整するなど、ドル円相場と株価の関係性は依然としてやや不安定である。

為替ストラテジー

後藤  祐二朗 - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

6

3月半ばにはコロナショックが広がる中、ドル流動性への需要が急速に高まったことが

円安と株安の同時発生につながった(図表17)。その後は主要国中央銀行によるドル

供給が強まり、米短期金融市場や為替スワップ市場でのドル需給が大きく緩和するな

ど、ドル円と株価はコロナショック前の順相関関係に戻るかと思われたが、相関正常

化の動きは明確にはなっていない。

コロナショック前に見られた株価とドル円の強い順相関関係は、世界株調整時に円高

圧力も加わることで、日本株下落が加速しやすいという点で、日本株の変動幅を拡大

させてきた。実際、特にドル円相場と日本株の相関が高かったアベノミクス開始以降、

日経平均の予想変動率はほぼ一貫して米国のVIX指数を上回ってきた(図表18)。し

かし、足元では徐々に縮小してきた日米株価予想変動率格差は足元で一段と縮小し、

日本株の予想変動率が米株の予想変動率を下回る傾向も見られ始めている。

日米株価の予想変動率格差の縮小は、コロナショック以前のような「リスクオン=円安

ドル高」との関係には依然として戻り切っていないことを示す。当面のドル円相場を占

う上では株価やリスク心理以外の円需給や金利差などの要因が重要になってくる可

能性を示しているといえそうだ

図表 17: 米Libor、CPの対OISスプレッドと円ベーシススプレッド

  

出所: ブルームバーグ、野村

図表 18: ドル円と日本株の相関係数と日米株価予想変動率格差

  

出所: ブルームバーグ、野村

FRBの9月FOMCに向けた対応が焦点に

米日の金融政策及び金利差という観点では9月FOMCに向けたFRBの政策フレーム

ワーク変更の可能性が重要になる。現在のFRBの政策スタンスについては、マイナス

金利を導入する可能性が依然として低いことが、金利差面から見たドル円の下値リス

クを限定する(米マイナス金利導入リスクと為替インパクト参照)。6月16日の議会証言

でもパウエル議長は米経済にとってマイナス金利は魅力的でないと言及している。マ

イナス金利導入がなければ、米イールドカーブの一段の低下余地は限定的だろう。

一方で、9月FOMCに向けてはイールドカーブコントロール(YCC)政策導入の可能性が

市場で強く意識されそうだ。6月FOMCではFRBによる政策調整及び声明文の変更は

限定的なものに留まったが、FRBは「今後数カ月にわたって資産購入については少な

くとも現在のペースを維持する」とし、テーパリングの休止を示した(図表19)。パウエル

議長は記者会見で5月雇用統計の改善を重視しない姿勢を見せ、「労働市場が5月に

底打ちしたかどうかは不明」と慎重な姿勢を崩していない。また、経済が予想よりも上

向いた場合の対応について聞かれた際にも、失業率が4%以下でもインフレの問題が

生じなかったことに触れ、利上げについて考えることも考えていないと、緩和継続意欲

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

7

を示した。 米雇用統計や主要国の景況感指数などから世界的に4-5月を底に経済が

回復に向かっている兆しが確認される中でも、FRBは現在の大規模緩和継続の姿勢

を強く示したといえる。

「今後数カ月にわたって」、との言及は、夏場にかけて追加財政政策議論の方向とそ

れに伴う国債需給の変化や経済活動正常化ペース、新型コロナ感染第二波リスクな

どを慎重に見極めた上で、YCC導入ないしは資産購入ペースの再調整を行いたいと

の意向の表れと言えよう。米10年債利回りの上昇が5月雇用統計後に0.95%前後まで

加速した後に、FRBがテーパリングを休止し、YCC導入についての議論を開始したこと

はFRBが一段の金利上昇を望んでいないとの市場の思惑を高めよう。当面は0.95%

前後が米10年債利回りの上限となり、金利上昇圧力が高まった際にはFRBによる米

国債購入加速への警戒感が高まるだろう。

ドル円相場は引き続き米日金利差の動き、特に米金利の動きに影響を受けており、短

期的な値動きを予想する上では重要な指針となる(図表20)。しかし、マイナス金利導

入リスクの小ささとYCC導入機運の高まりは米金利の変動を小さくする可能性がある。

金利差の観点からはドル円のレンジブレイクには時間がかかりそうだ。

図表 19: FRBによる米国債購入ペースと米10年債利回り

  

出所: ブルームバーグ、野村

図表 20: 米日10年金利差とドル円

  

出所: ブルームバーグ、野村

ドル円はそれでもレンジ上振れの可能性が高い

円の低ベータ通貨としての位置づけや株価との相関の希薄化、米金利の動きの鈍さ

などからは、当面のドル円相場の小動き継続が予想される。105-110円が基本レンジ

となる展開が想定されるが、年後半に向けて徐々にレンジ上振れの可能性が高まる

だろう。

パウエル議長は6月16日の議会証言で、FRBはYCC検証の初期段階にあるとし、何ら

決定は行っていないとした。これに前後し、ダラス連銀のカプラン総裁やサンフランシ

スコ連銀のデイリー総裁など一部の地区連銀総裁はYCCについてやや懐疑的な姿勢

を見せている。YCC導入の際も、目標レンジなどを柔軟に運用することがあれば、景気

回復に伴い米金利の上昇余地は徐々に回復しよう。一方、日銀黒田総裁は同じく16

日の記者会見で、FRBよりも先に利上げを開始できる可能性に悲観的な見方を示して

おり、これまで同様、日銀の政策正常化がFRBよりも先に開始される可能性は極めて

乏しい。米日金利差は緩やかに再拡大の方向となる可能性が高いだろう。

需給的にも、コロナショックによる貿易収支の大幅悪化など、円安圧力が高まりやすい

状況となっている(コロナショックの円需給インパクト-アップデート参照)。緊急事態宣

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

8

言解除を受け、日本人投資家の外国証券投資も活発化しそうで、円高時の押し目買

いが期待される。

当面の円安は対資源国通貨や対欧州通貨などが中心となり、クロス円の上昇がドル

円上昇に先行しそうだが、ドル円相場も年末に向けて110円台定着を試す可能性が高

いだろう。

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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1-2.コロナショックの円需給インパクト-アップデート6 月12日発行 の 国際金融為替 インサイト:コロナショック の 円需給 インパクト-アップ

デート に5 月貿易統計 など 一部 アップデート した 要約版 です。

大幅に悪化した貿易収支

コロナショック第一波は収束に向かい、経済及び金融市場の正常化が進んでいる。足

元では米国での感染第二波への警戒感が高まり、4-6月期の経済成長率も世界的に

歴史的な落ち込みを見せそうだが、コロナショック第一波による円高はリーマンショック

時と比較して浅いもので済みそうだ。

この背景には、ショック前の円売りポジションの小ささに加え、円需給の円安方向への

変化が影響している可能性が高い。感染第二波拡大時の円高リスクを考慮する上で

も、円需給は重要となる。そこで、最新のフローデータを基に円需給見通しをアップ

デートした。

想定以上の悪化が目立つのが貿易収支(財収支)だ。季節調整済みの4月貿易収支

は1兆円を超える赤字となり、2014年9月以来最大の赤字額となった(図表21)。4月時

点のレポートで予想したように、原油価格下落によりエネルギー関連の貿易赤字は縮

小している。5月のエネルギー関連貿易赤字は2002年6月以来の水準まで縮小した。

その効果で、5月には貿易赤字は6000億円前後まで縮小したが、エネルギーを除く収

支は2カ月連続で赤字を記録した。原油価格低下の好影響を上回る外需減速の悪影

響が日本の貿易収支を悪化させている。

コロナショックのサービス収支への影響は概ね4月初め時点の想定通りである。コロナ

ショックにより世界的な人の移動は厳しく制限され、訪日外国人客数は激減した(図表

22)。季節調整後の旅行収支黒字は1月時点では2642億円と、史上最高の黒字を記

録していたが、足元では黒字額が急減している。4月の黒字額は158億円と2014年9月

以来の少額に落ち込んだ。今後は訪日外国人客数回復のタイミングとペースが重要

になってくるが、訪日外国人客の太宗を占める観光目的での入国制限緩和には時間

がかかりそうだ。

図表 21: 日本の貿易収支

  

出所: ブルームバーグ、野村

図表 22: 旅行収支と訪日外国人客数・日本人海外渡航客数格差

  

出所: 日銀、データストリーム、野村

所得収支については、コロナショック後も月間1兆円を超える黒字を維持している。所

得収支の受取及び支払いは国債の利払いなどのタイミングに大きく影響を受け、季節

為替ストラテジー

後藤  祐二朗 - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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性が強い。その点、3-4月のデータのみからはコロナショックの全貌は判断しにくいが、

海外での金利低下の動きは、今後の海外資産からの収益率低下に結び付き、所得収

支黒字には減少圧力が強まるとの見方に変化はない。直接投資収益からのリパトリ(

本国還流)金額も3月は前年比7.4%の減少、4月も同8.6%の減少となっており、少なく

とも現時点でリパトリ比率が大きく上昇し、円高圧力を強める動きは確認できない。

底堅い対外直接投資

経常収支に対して広範な収支悪化圧力が生じている一方、投資サイドの動きについて

は、足元では日本企業による対外直接投資の勢いが維持されていることが注目され

る。1-3月期には国内設備投資が予想外に増加を記録するなど、コロナショックの影響

が実際の設備投資や対外直接投資の動きに現れるまでに時差が生じている可能性

が示唆される。とはいえ、4-6月期には設備投資は急減が見込まれ、それに遅れて夏

場には直接投資流出も減速に向かう可能性がありそうだ。ただし、経常収支の悪化

ペースが4月に想定していたよりも加速することが見込まれる中、直接投資減速が円

需給を円高方向にシフトさせる分水嶺も想定よりも高くなっている。

4月時点では対外直接投資の勢いが維持されていたのに対し、日本人投資家の対外

証券投資については外債投資の弱さが目立っている。当社が4月前半に行った顧客

サーベイでは、日本での緊急事態宣言発令とそれによる就業環境変化により国内投

資家のアクティビティは平時よりも抑制されていた。コロナショックによる不透明感の高

まりとともに、就業環境の変化が日本人投資家の外債投資の勢いを削いでいた可能

性がありそうだ。足元では緊急事態宣言が全国的に解除され、日本人投資家の外債

投資活動正常化が押し目買いにつながり、ドル円やクロス円相場の下値を抑制するだ

ろう。また、一時22-24%程度まで上昇していた年金積立金管理運用独立行政法人(

GPIF)のポートフォリオに占める外債比率は低下に転じ、足元では20%前後まで下

がっていると試算される。仮に内外株価の反発が続けば、外債比率が基本ポートフォ

リオの下限(19%)に近付く可能性がある。この点からも今後は日本人投資家の外債

投資回復の可能性が高まりそうだ。

予想以上に円安に傾く円需給

総じて、4月時点の想定と比較し、日本の経常収支は予想以上のペースで悪化してい

る(図表23)。一方で、対外直接投資は底堅く、今後は日本人投資家の外債投資意欲

も回復しそうだ。需給的な円高圧力は想定以上に弱まっていると言えそうだ。

図表 23: コロナショックにより予想される日本の国際収支への影響

  

フロー 需給/円

原油価格下落による輸入物価下落、輸入減

海外需要減速による輸出急減

サービス収支 訪日外国人客数急減による旅行収支悪化 円安

所得収支 対外資産収益率低下による所得収支悪化 円安

日本企業の景況感悪化による流出減 円高

国内での低金利が続く中、プラス金利を求めた資金フローは継続、年金勢の購入も継続

中立?

直接投資収支

証券投資収支

国際収支項目 コロナショックによる予想される影響予想される影響

経常収支

貿易収支 円安

注: 矢印は予想されるフロー変化の方向。

出所: 野村

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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1-3.対外対内証券投資:生保と年金勢は5月に外債を買い越し

外債投資は緩やかながら回復

20年5月に本邦投資家は外国証券(株式+中長期債)を1483億円と小幅に買い越した

(図表24)。内訳をみると、株式が1兆2531億円の買い越しとなり、13カ月連続の買い

越しを記録した。2月後半以降、新型コロナ危機を受けて世界的に株価が大幅に下落

したものの、本邦投資家の海外株式投資需要は底堅さを維持している。

対照的に、5月に海外中長期債(外債)は1兆1048億円の売り越しとなったが、投資主

体別にみると1兆3832億円は銀行によるものであった。為替相場にはニュートラルな影

響とみられる同主体を除いた外債投資額は2784億円と、3カ月ぶりの買い越しを記録

した。本邦勢の外債購入意欲は緩やかながら、回復に向かっていることが窺える。

図表 24: 投資家別の対外証券投資の推移

出所: 財務省、野村

生保の外債購入ペースはやや回復

5月の外債買い越しの一翼を担ったのは、生命保険会社である。生保は5月に中長期

債を3028億円買い越し、4月に続く買い越しとなった(図表25)。過去平均に比べて水

準が低く留まっていることからは、新型コロナによる先行き不透明感が外国証券投資

への慎重姿勢を強めた可能性や、緊急事態宣言を受けた在宅勤務体制が各社のオ

ペレーションに一定の影響を生じさせた可能性が示唆される。しかし、4-5月の購入

ペースは過去平均を若干下回る程度で維持されていることからは、新型コロナの影響

は深刻化しなかったとも判断できる。

主要国の中央銀行による金融緩和や新型コロナの世界的な感染が収束に向かってい

ることをうけ、債券市場のボラティリティは低下傾向を辿っている。加えて、各国政府が

巨額の経済対策を打ち出していることや、実体経済の悪化が4-5月を底に反転に向か

うとの期待が高まる中で、新型コロナ危機直後にブル・フラット化した世界の債券利回

り曲線は、ベア・スティープ化し始めている。4月に公表された主要生保の2020年度運

用計画では、一部の生保が資金を円債に多く振り向けるとの方針が見受けられたもの

の、世界的に金利上昇傾向が継続すれば、生保が資金を外債に振り向ける機運が回

復することになりそうだ(コロナショックを受けた主要生保の運用計画参照)。

もっとも、足元の為替水準およびヘッジコストの観点からは、為替ヘッジ付きでの外債

投資が主となるだろう。既に19年3月末時点で主要生保はヘッジ比率を小幅ながら上

為替ストラテジー

宮入 祐輔 - NSC

後藤  祐二朗 - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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昇させていた(3月末の生保の為替ヘッジ比率は小幅上昇参照)。新型コロナ危機の

影響が想定よりも小さくなる可能性はあるものの、各国中銀は当面現在の金融緩和姿

勢を継続させるとみられ、ヘッジコストは低く保たれよう。米クレジット市場や欧州周縁

国債市場などで為替ヘッジ付き投資が行いやすい環境化では、ドル円相場が105円を

割り込むなど押し目買いの好機が訪れなければ、当面はヘッジ比率の上昇傾向が続

く可能性が高いだろう。為替ヘッジ付きでの豪州債投資なども人気を集めそうだ(豪州

債、豪ドル建てJGBの妙味参照)。

信託勘定は5月に外債買い越しに転じ、GPIF購入の可能性を示唆

信託勘定(主に年金資金を運用)も5月に外債を1802億円買い越した。今年の1-2月に

見られた買い越し額に比べれば5月の購入額は小幅だが、再び信託勘定が買い越し

に転じたことは、GPIF(年金積立金官管理独立行政法人)が外債購入余地を残してい

ることを示唆する結果ともいえる。実際、当社推計では現在のGPIFの外債保有比率は

20-21%程度であり、新たな目標である25%まで約4-5pptの買い入れ余地がある計算

となる(図表26)。外債比率を19-31%という新規レンジに収めるための積極的な購入

はひとまず落ち着いたとみられるものの、今後、感染第二波や米中対立の再燃など円

高が進む局面が見受けられれば、押し目買いの好機として、GPIFは外債購入を加速

させる可能性がある。

外債だけでなく、信託勘定は5月も外国株式を1302億円買い越した。米S&P500指数は

新型コロナ危機による株価下落後、5月の段階では半値程度の戻しであり、GPIFを中

心とした年金勢はリバランス目的の外株購入を継続していたとみられる。先行きに関し

ては、足下の米国株価が年初来の水準まで戻したことを踏まえると、これまでみられ

た購入フローは鈍化する可能性があろう。また、GPIFの保有資産比率の推計では、現

状の外株保有比率は目標値中心を上回る結果となっており、購入余地が大幅にある

わけではない。その点、信託勘定の外株購入が現状のペースから積極化する公算は

小さいように窺える。もっとも、許容乖離幅を考慮すれば購入余地が存在することも事

実であり、外債同様、クロス円相場を支える潜在的なフローとなり得よう。

図表 25: 生保の累積外債購入額の推移

出所: 財務省、野村

図表 26: GPIFポートフォリオの推計国内債券 海外債券 国内株式 海外株式

19年6月末 26.9 18.1 23.5 26.4

19年9月末 26.1 18.4 23.5 25.7

19年12月末 26.0 18.1 25.0 27.6

(a) 信託勘定による買い入れ額の50%がGPIFと仮定したケース推計 最新値 (a) 25.0 20.0 23.7 27.9

(b) 信託勘定による買い入れ額の75%がGPIFと仮定したケース推計 最新値 (b) 24.4 20.4 23.7 28.0

(c) 信託勘定による買い入れ額の100%がGPIFと仮定したケース推計 最新値 (c) 23.9 20.8 23.8 28.2

資産構成割合(%) 25 25 25 25

+/-7% +/-6% +/-8% +/-7%

資産構成割合(%) 35 15 25 25

乖離許容幅 +/-10% +/-4% +/-9% +/-8%

実績

新基本ポートフォリオ 乖離許容幅+/-11% +/-11%

旧基本ポートフォリオ

注: 昨年12月末のGPIFポートフォリオをベースに、主要資産クラスのベンチマークの値動きから6月末までの評価損益を試算。国際収支統計などのフローデータを用い、シナリオごとにGPIFの寄与率を変化させた上で、直近までの資産比率を推計した。また、2019年12月末時点で保有されていた為替ヘッジ債券については国内債に組み入れている。

出所: GPIF、日銀、日本証券業協会、日本取引所、ブルームバーグ、野村

個人投資家の外株需要は引き続き堅調

投資信託は5月に外国株式を3903億円買い越した。新型コロナ危機に伴う大幅な株価

調整が発生し、連動する傾向にある個人消費センチメントも歴史的に低水準にある中

でも、投資信託による買い越しは昨年8月から途絶えていない。各国中銀の金融緩和

に加え、日本政府の積極的な財政政策により、本邦投資家の外国株式投資への意欲

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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が維持された可能性がある。個人消費関連のデータからは、家計が現状の投資ペー

スを加速させる可能性は高くないと思われるものの、こうした個人の投資フロー堅調が

続く中では、ドル円やクロス円相場は支えられやすいだろう。投資信託は外債も小幅

に買い越している(960億円)。

外国人投資家は円債投資を再開も、米債対比で投資妙味は高くないか

外国人投資家は5月に日本株を5094億円売り越した。内外株式が反発する中、5月に

再び売り越しとなった状況からは、海外勢が日本株の需要を強めている様子は窺えな

い。一方、日本の中長期債は5453億円と3カ月ぶりに買い越された。新型コロナ危機

の際に懸念されたドル流動性需要は危機前の状況にまで落ち着いているが、円ベー

シスは再びやや拡大している。こうした環境が海外勢の為替ヘッジ付きでの円債投資

の回復に寄与した可能性がある。ただし、足元の米金利上昇の結果、ドル建て10年

JGB利回りの投資妙味が対米債投資比で相対的に低下したことからは、海外勢の円

債投資が一段と加速する公算は目先は小さいだろう。

ECB大規模緩和はユーロ債購入意欲を減衰させず

1カ月遅れて公表される国際収支統計(4月分)では、本邦投資家がユーロ債を1305億

円買い越していたことが確認されたが、純購入額はコロナ危機前に比べれば小幅であ

る。4月の段階では欧州主要国で新型コロナの感染拡大ペースが峠を越していたもの

の、依然として新規感染者数は多かった。結果的に、ユーロ債投資の回復が限定的と

なったと見られる。

しかし、各国債券の購入内訳をみると、新型コロナの感染拡大が深刻であったイタリア

債が3661億円買い越されていたほか、スペイン債も274億円と小幅ながら買い越しを

記録した(図表27)。この側面からは、市場がECBによるパンデミック緊急購入プログラ

ム(PEPP)を好感していることが窺える。ECBは6月4日の会合でPEPPの購入額を6000

億ユーロ拡大させ、同政策を21年6月末まで延長させるとの決定下している。プログラ

ム開始前に一時270bp程度にまで拡大した独伊スプレッドは6月15日時点で約190bpま

で縮小した。今回の危機の局面では、リーマンショック後のような周縁国債売りは生じ

にくくなっているとみられ、そうした点では5月以降も本邦勢がユーロ債投資を緩やか

に回復させる可能性がありそうだ。現状のペースで新型コロナの感染収束が続き、感

染第二波が回避されれば、本格的な回復も期待できよう。ただし、当面は為替ヘッジ

付きでの投資が大勢を占めそうだ。

図表 27: 本邦投資家のユーロ債購入の推移

出所: 財務省、日銀、野村

図表 28: 主要ヘッジ付き外債利回りと円債利回りの推移

出所: ブルームバーグ、野村

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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米債投資も当面はヘッジ付きが主流か

4月に本邦投資家は米国債を4兆1677億円売り越した。単月の売り越し額としては

2005年以降最大である。ただし、4月の売り越しは3月の大幅買い越しの反動であり、

売り越しの主体がが銀行勢によるものであったことを踏まえると、為替相場への影響

は限定的的であったとみられる。実際、3カ月後方移動平均値で見れば、1兆2537億円

の買い越しと、米債投資への基調に大きな変化は見られない。

FRBが3月に大幅利下げを実施したことで、米債利回りはコロナ危機前に比べて低下

した。しかし、新型コロナ感染が収束に向かっていることや、5月分の米雇用者数が市

場予想に反して大きく増加するなど、実体経済が想定以上に改善している可能性をう

けて、米10年債利回りは一時約0.9%超まで回復した。6月FOMCで公開されたドット・

チャートでも、2022年末まで利上げが想定されない見通しとなっていた。また、市場で

意識されているイールドカーブ・コントロール(YCC)政策についても評価段階との位置

付けを示し、同政策が目先の会合で導入される可能性を否定した。とはいえ、9月

FOMCに向けてYCC導入期待は燻りそうで、米金利が1%を超えて一段と上昇すると

の期待は持ちにくい。米金利が再び0.8-0.9%程度まで回復することがあれば、本邦投

資家の米債投資意欲は再び回復しそうだ。

もっとも、足下のドル円相場は為替リスクを伴う米債投資を促進させる水準になく、為

替ヘッジコストが低い状況にも変わりはない(図表28)。本邦投資家による米債投資魅

力は徐々に回復しているものの、あえてオープン債投資を積極化させる状況とまでは

いかないだろう。

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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2-1.ユーロ:見通し上方修正

予想外に早いタイミングでのユーロ反発

ユーロは5月半ば以降、対ドル、対円ともに反発傾向が明確となっている。これまで

ユーロは年後半に反発傾向に転じると予想、ユーロドルの年末予想を1.12、ユーロ円

予想を123円としてきたが、予想よりも早い段階でユーロ高の動きが明確となり、年末

予想を早めに達成してしまった。ユーロには内外からの追い風が吹いていると判断し

ており、年後半に向けて一段の上昇余地がある。

そこで、年末に向けたユーロ見通しを上方修正する(図表29)。新たな年末ターゲット

はユーロドル:1.14、ユーロ円:125とする。

図表 29: ユーロ、ポンド見通し改訂

6/10

旧 旧 旧 旧 旧ユーロ (EUR/USD) 1.14 1.07 1.13 ↑ 1.09 1.14 ↑ 1.12 1.14 ↑ 1.12 1.14 ↑ 1.15 1.16 ↑

(EUR/JPY) 121.9 113 120 ↑ 118 123 ↑ 123 125 ↑ 123 125 ↑ 127 128 ↑(EUR/GBP) 0.89 0.92 0.92 0.91 0.91 0.90 0.90 0.87 0.87 0.85 0.85

英ポンド (GBP/USD) 1.28 1.16 1.23 ↑ 1.20 1.25 ↑ 1.24 1.27 ↑ 1.29 1.31 ↑ 1.35 1.36 ↑(GBP/JPY) 136.6 123 130 ↑ 130 135 ↑ 136 140 ↑ 142 144 ↑ 149 150 ↑

2020年6月 2020年9月 2020年12月 2021年3月 2021年12月新 新 新 新 新

注: いずれも予想は期末値

出所: ブルームバーグ、野村

世界経済の回復が追い風に

足元のユーロ相場には内外からの追い風が吹いている。まず、主要国での新型コロ

ナ感染第一波収束とそれを受けた経済活動正常化は、G3通貨ではユーロに最もプラ

スに働く見込みだ。主要国の景況感データは4-5月にかけて底を打ったとの感触が強

まっている。もちろん、感染第二波への警戒は怠れず、仮に大規模な第二波が到来す

れば、世界経済回復の腰折れ懸念が高まるが、現時点では夏場にかけて景況感改善

の可能性が高そうだ。

過去のユーロドルとグローバル製造業PMIの関係を振り返ると、世界的な製造業サイ

クルの回復局面でユーロドルは上昇していることが多い(図表30)。リーマンショック後

にも、ユーロドルは一時1.25割れまで低下した後、景況感が底打ちした08年12月以降

は安定し、09年後半の1.5台回復までの反発を見せた。コロナショック時も、ショックの

最中ではユーロは対ドル、対円ともに下落を余儀なくされたが、今後世界的な景況感

回復が続けばユーロ反発の機運が高まりやすいだろう。

当局の危機対応が拡大

国内面では、リーマンショック後に欧州財政・金融危機を招いてしまったことの教訓が

生かされていることが重要だ(進む政策対応と狭まるユーロ安余地参照)。ECBは6月

会合でパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)拡大を決定した。PEPP拡大自体は市

場予想通りの動きだが、拡大幅は6000億ユーロと事前予想の5000億ユーロを小幅に

上回ってきた。市場を失望させたくないとのECBの強い意向が感じられる。また、ECB

は6月会合でPEPP拡大理由をインフレ見通し下方修正と関連付ける姿勢を見せてい

る。名目上は新型コロナ対応の緊急的な政策ツールではあるが、マクロ環境の改善が

なければ再投資継続などの対応を続ける可能性が示唆される。市場下支えの長期化

が期待できそうだ。

ECBに加え、財政政策面からもユーロには追い風が吹いている。今週開催のEU首脳

会合ではEU復興基金が議論される見込みだ。依然としてオランダなどは現在の復興

基金案には反対姿勢を崩していないが、最大の資金拠出国となる独仏が合意し、欧

州委員会なども支持している復興基金案が完全に否定される可能性は低い。ブルー

為替ストラテジー

後藤  祐二朗 - NSC

春井真也 - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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ムバーグ報道では来月9-10日にも復興基金合意に向けて緊急首脳会合が開催され

る可能性がある。今週のの首脳会合での復興基金への合意は時期尚早との見方が

多いが、仮に7月にも追加で首脳会談開催が決定すれば、大きな失望は避けられるだ

ろう。夏場に向けての議論進展と比較的早い段階での合意に向けた期待も維持され

る。

図表 30: ユーロドルとグローバル製造業PMI

  

出所: Markit、ブルームバーグ、野村

図表 31: ユーロ円とイタリア債の対独スプレッド(10年)

  

出所: ブルームバーグ、野村

既述の通り、ユーロは世界的な製造業サイクル回復時に対ドル、対円ともに上昇する

傾向があり、欧州政策当局による景気支援はユーロ相場の追い風となる。加えて、周

縁国債下支えへの期待もユーロ相場にはプラスに働いている。イタリア債の対独スプ

レッドとユーロの関係は常に一定ではないが、足元では「スプレッド縮小=ユーロ高」と

の関係が強まっている(図表31)。また、ドイツやフランスでの財政負担が増加傾向に

あり、ECBがドイツやフランス国債よりも周縁国債購入を増やす形での量的緩和を行っ

ていることは、ドイツ金利の上昇圧力となる。ユーロ円相場と独日金利差の関係は比

較的安定しており、ドイツ金利の下げ止まり、上昇の動きは対円でのユーロ高要因と

なりそうだ。

第二波と復興基金議論のとん挫がユーロ安リスク

欧州中心の新型コロナ感染第二波の拡大やEU復興基金のとん挫などがユーロ安リス

クとなるが、内外要因からは年後半に向けてユーロ回復の可能性が高まっているとい

えるだろう。

英ポンドの対ドル、対円見通しもユーロに合わせて修正

英ポンドについては、対ユーロ見通しを維持、結果的に対ドル、対円ではユーロ同様

に上方修正となる。改定後のポンド円の年末予想を140円とする(旧:136円)。

ポンドはG10通貨のなかでもグローバルのリスクセンチメントに対しての感応度が高

い。世界株の上昇局面が続けば、ポンドは対ドル、対円でアウトパフォームする展開を

続けるだろう。一方、ポンドは対ユーロで見ると英国固有の要因に左右されやすい。英

国とEUとの通商交渉は現時点で進展を見せておらず、2021年に経済的な混乱に直面

するとの懸念が対ユーロでのポンドの重石となるだろう。また英国は欧州主要国に比

べて新型コロナの感染者数の減少ペースが鈍く、当面は経済正常化の遅れも市場で

意識されやすいだろう。当社では近い将来においてBoEがマイナス金利に踏み切ると

は予想していないものの、積極的な量的緩和の実施もポンドの上値を抑制すると見込

まれる。

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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2-2.英国:通商交渉は明確な進展見えず

英ポンドは新型コロナ感染拡大前の水準までは戻り切れていない

グローバルのリスクセンチメント改善に支えられ、ポンドは5月中旬以降に対ドルや対

円で強含んでいる。また欧州復興基金への期待によるユーロ高でポンドが連れ高と

なった側面もあるだろう。ただし、新型コロナの感染が深刻化する前の3月2日からの

値動きで比較すると、6月15日終値時点においてはG10通貨のなかで相対的にポンド

は弱い(図表32)。

英国は移行期間の延長を申請しない方針をEUに通知

相場の上値を抑制している材料としては英国とEUとの通商交渉の不透明感がある。

ブレグジット不確実指数(ブレグジットをビジネスにおいての不確実性の源泉と答えた

企業の比率)は2か月連続での上昇となり、英企業は通商交渉の行方を懸念している

(図表33)。英国政府は7月1日よりも前であれば移行期間の延長を申請することが可

能な取り決めとなっていたが、6月12日にEUにその延長を申請しない方針を正式に通

知した。移行期間が20年末で終了し、新たな貿易協定が締結されなければ、経済的な

混乱が生じる可能性がある。サーベイ調査の結果を踏まえると、特に企業はサプライ

チェーンへの影響や関税の引き上げなどを不安視しているようだ(図表34)。

図表 32: G10通貨の対ドル推移

出所: ブルームバーグ、野村

図表 33: ブレグジット不確実性指数

注: ブレグジット不確実性指数はサーベイ調査においてブレグジットをビジネス上の不確実性要因とした企業の比率。

出所: イングランド銀行、野村

国境管理計画は関税手続きの負担軽減にはつながらず

英国政府は6月12日に移行期間終了後の2021年からの国境管理計画を発表したもの

の、それが企業の不安を大きく後退させるとは考えにくい。新たな計画によれば、EUか

ら英国への財輸入に関しては税関申告書の提出と関税の支払いに6か月間の猶予

(従来の21年1月から7月へ)が与えられる。また税関仲介部門(税関貨物取扱業者、

貨物運送業者など)は5000万ポンドの補助金を支給されることも発表された。もっと

も、英国輸入業者は時間的な猶予を与えられるだけで関税手続きの負担を取り除か

れるわけではない。またEUは関税手続き軽減の意向を示しておらず、英国輸出業者

の懸念は残る。

集中的な協議の行方に注目

今後、英国とEUは6月29日の週から8月17日の週にかけて集中的な協議を実施する

(図表35)。漁業権について英国は妥協の可能性があると報じられており、交渉は前

為替ストラテジー

春井真也 - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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進するかもしれない。もっとも、公平な競争条件についての妥結は困難で、貿易協定

が簡単にまとまるとは考えにくい(図表36)。また英国は新型コロナ感染や経済正常化

に向けての対応、EUは欧州復興基金に向けた協議を重視し、貿易協定の交渉の優先

度が低下するリスクがある。専門家のなかには時間的に期限の差し迫った今年の10

月ないし11月まで通商交渉に大きな進展は見られないのではないか、との見方があ

る。サーベイ調査によれば、2020年ないし2021年に英国が貿易協定を締結せずにEU

を離脱すると見る向きは全体の41%に達しており、貿易交渉を巡る不透明感や経済

的な混乱への懸念はポンド安要因として市場で意識され続けるだろう。

図表 34: サーベイ調査:ブレグジットに関しての不確実性は何か?

注: 調査期間は19年2月ー4月。

出所: イングランド銀行、野村

図表 35: 今後の通商交渉のスケジュール

日程 イベント

2020年6月18・19日 EU首脳会議

2020年6月29日の週 首席交渉官、分科会による部外秘協議

2020年6月30日英政府が移行期間の延長を要請する期限(一回限り、最大2年まで延長することが可能)

2020年7月6日の週 首席交渉官、交渉団、分科会による協議

2020年7月13日の週 首席交渉官、交渉団、分科会による協議

2020年7月20日の週 交渉第5ラウンド

2020年7月27日の週 首席交渉官、交渉団、分科会による協議

2020年8月17日の週 交渉第6ラウンド

2020年10月 EUは10月のEU首脳会議前に簡易版の自由貿易協定の締結を目指す

2020年10月15・16日 EU首脳会議

2020年11月23-26日 EU議会が貿易協定を採決に諮る可能性

2020年12月10・11日 EU首脳会議

2020年12月31日 移行期間の終了?

出所: 英国政府、野村

図表 36: 英国とEUの通商交渉の争点

英国 EU

貿易協定

物品のほぼ全ての関税はゼロとなるがサービスを含まない貿易協定(カナダ型)を目指す。ただし、貿易協定が締結されずに貿易に関税が復活し、税関検査も必要となる可能性を排除しない(WTOルール)

英国との自由貿易協定を締結し、物品貿易に対する関税と数量制限(クオータ)の導入を回避し、税関と規制面での協力を構築

漁業権

ノルウェー、アイスランド等と同様、英国の排他的漁業海域へのアクセスに関する交渉を毎年実施

安定的な割当制度の導入による英国の排他的漁業海域への相互アクセス。ただし、報道によればEUは英国を独立した沿岸国として容認する形での譲歩を示しつつあると伝えられている

EU司法裁判所司法裁判所を含むEUの諸機関が英国内で司法権を持つことを認めない

英国とEUの係争についてEU裁判所が拘束力のある判決を下すことができる

公平な競争条件

英国の法律がEUのものと整合的にする義務はない

英国は環境政策、労働者権利などでEU規則に従い、保護水準の引き下げで競争優位に立つことをないようにする。特に企業の補助金に関してEUの国家救済制度に従うべき

金融サービス業のEU市場へのアクセス

恒久的な同等性評価に基づく金融サービス業のEU市場アクセスを要求

同等性評価を検討し、英金融業のEUへのアクセス是非を判断

出所: 各種報道、野村

経済の正常化は他の欧州主要国に比べて遅れる見込み

一方、新型コロナの感染拡大が完全に抑制されないなかで、英国経済の正常化は他

の欧州各国と比べて遅れている。英国の5月のコンポジットPMIは30.0となり、ユーロ圏

の31.9やスウェーデンの40.5と比べて低かった。さらにGoogle社公表の人の移動デー

タは直近においても英国経済の回復が出遅れていることを示している(図表37)。イン

グランド銀行は6月18日の金融政策委員会において資産買い入れプログラムの拡大

に乗り出す公算が大きい。金融緩和の長期化は中長期的にポンドの本格的な上昇を

抑制すると見込まれる(図表38)。

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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図表 37: 人の移動データ(Google社のモバイルデータ)

注: Google社のモバイルデータについては、職場や公共交通機関などの利用目的別のデータを単純平均した。

出所: Google、野村

図表 38: ポンド相場と英日金利差

出所: ブルームバーグ、野村

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2-3.トルコリラ:観光客受け入れを再開トルコ政府は、新型コロナの感染が拡大した3月から全ての国際線の運航を停止する

など、国境を封鎖する措置を続けてきたが、隣国イランとの陸路を除いて、国境の封

鎖措置を6月12日で解除した。今後は、夏の観光シーズンに向けて外国人観光客が戻

るか否かが焦点となる。

トルコでは他の新興国と比べて、観光客の動向が金融市場の話題にのぼることが多

い。本稿では、トルコ経済や通貨リラにとって、なぜ観光業が重視されるのかを簡単に

説明したい。

トルコは2018年に観光客数世界6位の観光大国

トルコはイスタンブールやカッパドキアなど世界的な観光地を多く抱え、UNWTO(国連

世界観光機関)の統計によると、2018年の観光客数ではフランス、スペイン、米国、中

国、イタリアに次ぐ世界6位の観光大国である。トルコ観光庁のデータでは2019年には

年間でトルコの外国人観光客数は4,500万人に達しており、年率10%以上の高い伸び

となっている(図表39)。2018年のリラ急落によって、欧州や中東の人々にとってトルコ

旅行が割安化したことが背景にあり、リラ安の恩恵を受けやすいセクターと言える(図

表40)。

図表 39: トルコ  年間外国人観光客数

注:  16年はクーデター未遂事件など国内の治安悪化や、軍用機撃墜事件を受けたロシアによる経済制裁の影響で観光客が落ち込んだ。   

出所: トルコ観光庁、ブルームバーグ、野村

図表 40: トルコリラの推移

出所: ブルームバーグ、野村

観光業は外貨獲得の柱の1つ

トルコにとって観光業はとりわけ、国際収支の安定にとって重要である。2019年に旅行

収支は対GDP比約3.5%の黒字を計上している。図表41では、経常収支を構成するそ

の他の項目との比較を行っている。トルコの最大の輸出品目は機械及び輸送機器(自

動車など)だが、組み立てが主体のため関連した輸入額も大きく、差し引きでは国際収

支への貢献は限られる。貿易収支の中で黒字の大きい「その他工業製品」は、トルコ

が伝統的に強みを持つ鉄鋼やアパレルをはじめ様々な品目の集まりである。また、旅

行収支と同じサービス収支に含まれる項目では、輸送収支の黒字が大きいが、これは

空港の使用料など観光に関連した収入が含まれている。こうして見ると、旅行収支な

いし観光業がトルコにとって外貨獲得の柱の1つであることが分かる。

為替ストラテジー

中島  將行 - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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図表 41: トルコ 経常収支構造(2019年)

出所: トルコ中央銀行、ブルームバーグ、野村

外国人観光客数が当面の最重要経済指標、イベントの1つに

国境封鎖を受けて4月の旅行収支はゼロとなり、4月分の経常収支は50億ドルの赤字

と単月では2018年5月以来の赤字水準に膨らんでいる(図表42)。経常収支の改善の

成否は観光業の復調にかかっており、今後、外国人観光客の動向はリラ相場への影

響が大きくなると見られる。6月22日に公表される観光客数はまだ5月分だが、7月29日

に発表される6月分では市場の注目も高まろう。金融政策決定会合(6月25日と7月

23日に予定)や消費者物価指数、外貨準備高に並び、重要な経済指標、イベントにな

ると見られる。

トルコでの感染は一時期より抑制されており、充実した医療・検査体制を内外に示した

点は前向きな材料である。ただし、このところの外出制限の緩和を受けて、トルコ国内

の新規感染者数が再び増加しているほか(図表43)、世界的に感染第2波が懸念され

ていることは、観光業、ひいては通貨リラにとってのリスクとなる。

図表 42: トルコ 経常収支

出所: トルコ中央銀行、ブルームバーグ、野村

図表 43: トルコ 新型コロナ 感染状況

注: 2020年6月14日時点

出所: ジョンズホプキンス大学、ブルームバーグ、野村

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3-1.豪ドル:目標から振れても不動のRBA

コロナ危機がありながらも年初来の高値を更新した豪ドル円

今年の2月から3月にかけて、新型コロナへの懸念から豪ドル相場は大幅下落を記録

した。しかし、3月下旬からは一転して急上昇を続け、対円相場では6月5日に年初来

の最高値となる76.37円にまで達するなど、あたかも危機が無かったかと思わせるほど

の水準まで回復している。(図表44)。

相場上昇を後押しした要因として、主要国の拡張的な財政政策および中央銀行の積

極的な金融政策が挙げられるだろう。特に金融政策面では、日米欧の中銀だけでな

く、G10中銀のすべてが現状の実効下限とされる水準まで政策金利を引き下げるな

ど、世界的に金融相場の様相を呈している。実際、米ナスダック株式指数は既に最高

値を更新した。さらに、各国で徐々にロックダウンの緩和解除が進められるなど、主要

国で感染第一波がひとまず収束しつつあることも投資家心理の支えになったと考えら

れる。

リスクセンチメント主導に変わりはないが、調整が起こりやすい地合いだろう

目先についても、リスクセンチメントの改善がみられる中では豪ドル相場の上昇が継

続するだろう。CFTC(米商品先物取引委員会)における豪ドルの先物ポジション(非商

業部門)が依然としてネット・ショートに傾いていることからも、豪ドル相場上昇の余地

が残されていると判断出来る(図表45)。

他方、4-5月に比べ、豪ドル相場の調整が起こりやすい地合いにもなっていよう。実

際、豪ドル相場は年初来の高値をつけた後に4日連続で前日比下落し、足下では74円

割れまで戻している。米国や中国で感染第二波リスクが垣間見え始めたことや、豪州

と中国における政治的な対立がやや深刻化し始めたことが、過去数日間の投資家心

理への悪影響になっていると考えられる。特に後者は、大麦や食肉加工品を巡る通商

問題だけでなく、中国外務省による豪州への渡航警鐘の呼びかけなど対立は複数の

側面で深刻化している状況だ。野村では、中国が鉄鉱石の輸入に制限をかけるほど

の強硬策を講じる可能性は低いと考えるものの、豪中対立リスクがくすぶる中では、

足元の水準感も相まって豪ドル円相場の調整が起こりやすいだろう(豪州:対中関係 

- 対中貿易への影響を分析参照)。

図表 44: 豪ドル相場の推移

出所: ブルームバーグ、野村

図表 45: 米商品先物取引委員会における通貨先物ポジションの推移

注: Zスコアは2014年以降の系列を用いて算出。

出所: ブルームバーグ、野村

為替ストラテジー

宮入 祐輔 - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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景気後退入りがほぼ確実となった豪州経済だが、想定以上の悪化は回避か

足下の豪ドル相場は上述の通り、外部環境の動向に左右される展開が続くが、今年

の後半から年末にかけての豪ドル相場の動きを占う上では、豪州の実体経済や豪州

準備銀行(RBA)の金融政策の動向など、国内経済ファンダメンタルズも重要となろう。

豪州国内で新型コロナの感染拡大が進行し始めたのは3月上旬からであったが、20年

1-3月期の豪実質GDPは前期比-0.3%と、コロナ危機が本格化する前の段階から経済

が悪化していたことが確認された。感染拡大を防ぐべく、豪政府が3月下旬から厳格な

移動制限措置を講じたことを踏まえると、4-6月期のGDPもマイナス成長の可能性が

極めて高い。リーマン・ショックの際ですら景気後退(2四半期連続の実質GDPマイナス

成長)を経験しなかった豪州であるが、今回のコロナ危機では景気後退入りがほぼ確

実となっている(図表46)。

一方、市場が当初想定していたほどの経済悪化となっていないことも各種統計結果か

ら窺える。6月の豪ウェストパック消費者センチメント指数は前月比+6.3%となり、コロナ

危機前とほぼ同等の水準にまで上昇した。また、豪NAB企業景況感指数(5月分)も前

月から持ち直すなど、豪景気の底打ちを示唆する結果となっていた。野村では経済の

V字回復は想定しておらず、2021年半ばでもGDPは危機前の水準に回帰しないとみて

いるが、国内における感染第二波がみられず、各種制限緩和が順調に進められれ

ば、国内経済の回復は早まる可能性もある。

ただし、労働市場およびインフレ率の改善は鈍く留まるだろう。豪雇用統計(5月分)で

は前月から22.8万人の雇用減、完全失業率が7.1%に上昇した。また、経済活動の回

復が緩やかである以上、4-5月で急上昇した不完全就業率(雇用されていながらも現

状の労働環境に不満を持つ労働者の割合)が危機前の水準にまで回帰するにはしば

らく時間を要するだろう。労働市場の「緩み」が残り続ける以上、賃金上昇率の弱含み

が続き、インフレ率も2%(RBAの物価目標レンジの下限)を下回る水準での推移となろ

う。

図表 46: 豪実質GDP成長率の推移及び見通し

出所: ABS、野村

図表 47: 豪3年債利回りとRBAの長期債オペ購入歴

出所: ブルームバーグ、RBA、野村

ベンチマーク金利が上昇しても不動のRBA

国内経済が想定以上の悪化を回避できたとしても、雇用およびインフレ率が伸び悩む

中では、RBAの金融緩和スタンスは当面継続するだろう。6月会合でも、政策金利(

キャッシュ・レート)および豪3年債利回り(現行政策のベンチマーク金利)をいずれも

0.25%に据え置き、声明文でも金融緩和の出口には程遠いとのスタンスを明確にし

た。

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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一方、コロナ危機を受けて3月の臨時会合から導入した非伝統的な金融政策手段を強

めていないことも事実である。日米欧の中銀はコロナ危機直後の対応以降も、量的緩

和プログラムの規模拡大や対象資産の拡充を行うなど追加的な措置を実施したが、

RBAは5月6日を最後に長期債オペを見送り続けている。特に印象的であったのが、6

月2日から5日にかけて豪3年債利回りが0.276%まで上昇したにも関わらず、債券購入

を再開させなかったことである(図表47)。RBAはベンチマーク金利の許容変動幅をこ

れまで明示しておらず、長期債オペ再開のタイミングについてはヒントが少ないもの

の、数bp程度の変動では懸念とならないようだ。6月16日に公表された議事要旨でも、

許容変動幅に関する具体的な言及は述べられなかった。

自国通貨高に関する言及があるかどうかも議事要旨の注目内容

議事要旨でRBAによる景気判断や金融政策動向以外に注目されたのは、足元の豪ド

ルレートについての見解であった。RBAが5月に経済見通しを公表して以降、豪ドル

レート(貿易加重平均値)は5.0~7.5%程度上昇していたが、3月後半から上昇を続け

ている豪ドル相場への警戒感は議事要旨内で特に示されなかった。

昨年11月の金融政策報告書では、貿易加重豪ドルレートが5%上昇した場合、豪実質

GDP成長率はベースラインケースから0.5%ポイント低下、インフレ率は2%を下回り続

けるとのシナリオ分析をRBAは公表していた。順調な制限緩和によって想定以上の景

気悪化が食い止められたとしても、RBAが緩和姿勢を強めずに豪ドル高を招いてしま

えば、自身の政策で景気回復を遅らせてしまう可能性があるものの、現状の水準は中

銀が自国通貨高を懸念するほどではないようだ。

早期に80円台に突入していく姿は描きづらい

コロナ危機がありながらも年初来の高値を更新した豪ドル円相場は、リスクセンチメン

ト主導の相場展開が目先も続こう。しかし、足下の水準感や豪州と中国の対立深刻化

をうけ、調整が起こりやすい地合いにもなっているだろう。また、国内ファンダメンタル

ズに目を向けると、市場が当初想定していたほどの景気悪化は避けられる可能性こそ

出てきたとはいえ、雇用・インフレの弱含みは継続の公算が大きく、RBAの緩和姿勢は

当面続くだろう。以上を踏まえると、豪ドル円相場は再び76-79円のレンジに戻る可能

性こそあるものの、これまでの上昇ペースを継続させて早期に80円台に突入していく

姿は描きづらい。80円に到達するのは早くとも来年以降だろう。

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3-2.NZドル:次の焦点は海外移動の自由化ニュージーランド(NZ)では新型コロナの感染収束を受け、6月8日に国家警戒レベル

が最低水準となる1に引き下げられ、国内の移動制限規制は撤廃された。英オックス

フォード大が算出する都市封鎖の厳格度指数みても、NZはG10通貨国の中で一時最

高水準を記録したものの、6月16日時点では最も緩和度合いが強い国となっている。

感染の収束や順調な制限緩和はマクロ経済統計にも表れている。6月分のANZ企業

見通しサーベイ(速報)における企業信頼感指数は-33.0と、4月(-66.0)、5月(-41.8)

から緩やかな回復をみせた。交通移動量や電力需要など高頻度データも国家警戒レ

ベルが引き下げとなる度に正常化ペースを速めていたことと整合的な結果であり、4-5

月を底に経済は回復に向かっているようだ。もっとも、コロナ危機前に比べればANZ企

業景況感指数の水準は依然として低く、期待インフレ率(1年先)も過去最低水準となっ

ている通り、経済環境が良好なわけではない。

国内の移動こそ緩和されたものの、海外からの渡航者受け入れは引き続き規制され

た状態だ。4月には海外からの渡航者が前年比99%減となったが、これが長期化すれ

ば恒常的なサービス収支の悪化となり、NZドル安を招く恐れがある(図表48)。ただし

現地紙報道によれば、NZ政府は豪州や太平洋諸島との「トラベル・バブル」形成を前

向きに検討しており、早ければ7月にも実施開始となるようだ。今後の感染状況によっ

ては導入タイミングの遅れが生じる可能性はあるものの、海外からNZへの渡航者のう

ち約半数を占める豪州からのアクセスが自由化すれば、サービス収支悪化の抑制要

因となり得る。

金融政策動向については、5月13日の政策会合から特に変化はみられない。NZ準備

銀行は債券購入ペースを若干の縮小に留めており、5月27日に行われたオアNZ中銀

総裁の議会証言でも従来のハト派スタンスが踏襲された。6月会合で政策変更が行わ

れる公算は小さい。

NZドルは他のG10資源国通貨と同様に、投資家心理に沿う動きが続くとみられるが、

国内経済の改善が想定よりも早く進めば、G10資源国通貨内でアウトパフォームする

可能性があろう。また、NZ準備銀行はマイナス金利に肯定的な発言をしてきたことで、

金利先物市場における利下げ見込み幅もG10通貨内で最大となっていることも、中銀

のスタンス変更の際にショートカバーを進みやすくしよう。もっとも経済が本格回復を見

せていない以上、NZ中銀が緩和スタンスを目先の会合で弱める可能性は低いとみ

る。

図表 48: 海外からNZへの渡航者の月別推移

注: 1. 実線は2020年の実績値、破線は2010年から2019年までの平均値。2. 4月の世界合計の実績値は0.2万人。

出所: Macrobond、野村

為替ストラテジー

宮入 祐輔 - NSC

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3-3.カナダドル:FRBに引けを取らないBOC

今年のカナダドル相場は昨年と打って変わり大きく変動

2019年とは打って変わり、今年のカナダドル相場は大きな変動を見せている。対米ド

ル相場で見ると、昨年は凡そ1.30-1.35のレンジ圏相場が続いていたものの、今年は3

月中旬に1.45まで上昇(カナダドル安)を記録した後に、6月現在は1.34-1.36の水準ま

で戻している。対円相場でも同様の状況であり、年初の水準にこそ達していないもの

の、カナダドルはコロナ危機前から幾分回復を見せている(図表49)。

BOCの緩和姿勢はFRBに引けを取らず

カナダドルの回復要因の1つは、市場のリスクセンチメントが改善したことだろう。新型

コロナの世界的な感染拡大を受けて金融市場では大きな混乱が生じたが、中銀によ

る積極的な金融緩和によってリーマンショック期よりも早く混乱を鎮めることが出来た。

カナダの中央銀行(BOC)も政策金利を0.25%に引き下げ、かつ量的緩和策を開始して

おり、FRBに引けを取らないほどバランスシートを拡大をさせている(図表50)。

BOCは金融緩和を継続する姿勢を改めて示している。6月4日に開かれた定例理事会

では「経済回復がしっかりと実現するまでは債券購入を続ける」の文言が声明文に含

まれ、経済環境の不透明性が高い中ではBOCが緩和の手綱を緩める可能性は小さそ

うだ。また、同会合より新総裁に就任したマックレム氏も、6月16日に行われた議会証

言の場で「(拡大した)バランスシートの規模に懸念は無い」と発言するなど、これまで

の政策スタンスを大きく変える様子も窺えない。

マックレム新総裁は任命記者会見の際、マイナス金利を将来的に導入する可能性を

指摘していたものの、それ以降はマイナス金利に絡んだ発言をしていない。前任のポ

ロズ氏のように、明確にマイナス金利を否定しているわけでもないが、BOC政策金利

の実効下限はひとまず0.25%ということで良さそうだ。実際、金利先物市場の利下げ織

り込みも0bpと、BOCのマイナス金利導入の可能性はほぼ見込まれていない。

図表 49: カナダドルの対米ドルおよび対円相場

出所: ブルームバーグ、野村

図表 50: FRBとBOCのバランスシート拡大ペース

出所: FRB、BOC、野村

デフレリスクが高まれば緩和強化もあるが、当面は現状維持だろう

BOCが実際に金融緩和を継続させるかどうかは、新型コロナがもたらす経済への悪影

響の持続性に依存するするだろう。ただし、5月分の国内経済統計結果を見る限り、4-

5月を底にカナダ経済の緩やかな持ち直しが窺える。BOCが緩和スタンスを強める可

能性は低下していると判断できる。

6月4日に公表された5月の雇用統計は、米国同様に市場予想に反する結果となった(

市場予想の前月差199万人減に対し、実績値が同29万人増)。統計結果を幅広に見る

為替ストラテジー

宮入 祐輔 - NSC

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と、完全失業率が危機前に比べて高止まりしていることや、雇用契約下にあっても実

際の労働時間がゼロであったと回答する労働者がいることから、5月分の結果は必ず

しも手放しで喜べる結果とはいえないものの、経済活動正常化と共に、実体経済の回

復が想定よりも早いことが示唆される。また、カナダ製造業PMIや住宅着工件数なども

5月には前月から改善をみせるなど、緩やかな経済回復が期待できる内容であった。

ただし、カナダ中銀が政策運営上で重要視するCPIに関しては、5月に前年比-0.4%と、

前月に続いて中銀目標レンジ(1-3%)から大幅に乖離した。またコアインフレ率指標も

4月から鈍化し、2%(レンジ中央値)から遠のいている(図表51)。今後は原油価格の前

年比効果の剥落、また国内経済の緩やかな回復と共にCPIはデフレ圏から抜け出すと

みられる。しかし、仮にデフレの持続が示唆されるようであれば、BOCは量的緩和の

ペース拡大を含め、緩和姿勢を強める可能性はあるだろう。

供給側要因による原油価格下落リスクは低下、焦点は新興国経済の回復

カナダドル相場回復の第二の要素は原油価格が4月中旬を機に上昇を続けていること

だろう。6月時点でWTI原油価格は40ドル/バレル手前で推移しており、一時マイナスに

転落した状況からは需給の引き締まりが窺える。

足下の需給タイト化は供給側の要因が大きく影響していよう。OPEC+は3月会合で協

調減産の決裂に終わったものの、以降は徐々に融和的な姿勢を見せ、6月8日に開か

れた会合では7月末まで日量960万バレルの減産継続で合意した。今後の減産計画に

ついては、世界の原油需給動向をJMMC(OPECプラス閣僚監視委員会)が毎月開催

予定の会合で確認したうえで判断されるとみられるが、現時点では規模を調整しなが

ら減産自体は継続の方向だろう。

供給側要因による原油下落リスクが低下する中、今後も原油価格が上昇を続けるか

は世界経済の需要回復ペース次第とみられる。先進国ではロックダウンが徐々に緩

和されつつあるものの、ブラジル、インド、ロシアなどの新興国では感染収束に向かっ

ているとは言い切れない状況が続く。また、中国でも感染第二波のリスクが意識され

始めている。北京市では緊急対応レベルが引き上げられ、市外への移動も制限される

などの事態となっている。IEA(国際エネルギー機関)の月報では20,  21年の世界需

要見通しが引き上げられたが、OPEC月報では20年の需要上方修正は行われず、供

給過多リスクが年内はくすぶるとの指摘があった(月報はいずれも6月)。新興国での

感染状況次第では、今後も需要減リスクに注意が必要だろう。カナダドル相場が一段

と上昇を続けるには、新興国での新型コロナウイルス収束や第二波のリスク低下が重

要な鍵となりそうだ。

図表 51: カナダCPIの推移

出所: ブルームバーグ、野村

図表 52: 主要先進国の厳格度指数の推移

注: 英オックスフォード大による算出。

出所: ブルームバーグ、野村

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3-4.ブラジルレアル:追加利下げに含みブラジルレアルは5月中旬から6月上旬にかけて、対ドル6.0近辺から5.0を割り込むま

で急激に反発し、年初からの下落率の約半分程度を取り戻す展開となった。その後、

6月10日の米FOMC以降は世界的にリスク資産が調整していることもあり、レアルも再

び対ドル5台へと減価しているが、なお、5月につけた史上最安値水準からは反発した

状況が続いている。対円相場で見ても、ドル高/円安が同時期に進んだこともあり、

18円台前半から22円台までいったん持ち直した。

資源価格次第という展開が続いている

レアルの急反発は、資源価格の持ち直しとほぼ歩調を合わせるように起こっている

(図表53)。国際金融為替マンスリー6月号で示したように、ブラジル国内での感染拡

大や政治情勢の混乱など、国内でネガティブな要因は多いものの、現状、通貨レアル

の動きは資源価格の動向でほとんどが説明可能である。ブラジルでは総輸出の約6割

を大豆や鉄鉱石、原油といった一時産品が占めており、長期的な相関関係で見て、資

源価格と通貨レアルとの連動性は高い。この点、経済活動の再開の動きがグローバ

ルに広がっていることはポジティブと捉えられる一方で、感染の第2波が懸念されてい

る点が資源価格、ひいてはレアルにとってリスク要因となる。これまでの相場展開を見

る限りは、目先のレアルの動きは、中国や米国など経済規模が大きく資源需要の大き

い国々での新型コロナの感染状況次第、と見られる。

ブラジル国内での新型コロナ感染は潜在的なリスク要因

ただし、ブラジル国内での新型コロナの感染拡大が、通貨レアルにとって潜在的なリス

ク要因である点は意識する必要があろう(図表54)。これまでのところ、新型コロナの感

染拡大がレアル相場に影響を及ぼしていないように見えるのは、農産物や鉱産物の

輸出が阻害されていないことが理由と見られる。むしろレアル安が価格競争力につな

がっており、輸出は堅調に推移している。特に、2020年5月には最大の輸出品目であ

る大豆の輸出量が過去最高を記録した。貿易収支の改善に加えて、需要抑制に伴う

サービス収支の赤字縮小も追い風となり、3月以降、経常収支は黒字へと転換してい

る(図表55)。これは、5月のレアル反発の原動力の一つともなっていよう。

しかし、鉄鉱石の鉱山や、鶏肉などの食肉工場でも感染拡大が報告されており、部分

的な操業停止に追い込まれる事態が散見される点は意識する必要があろう。今後、仮

に感染拡大に伴い鉄鉱石や食料品の輸出に制約がかかるようであれば、貿易収支・

経常収支の悪化につながる恐れがある。

図表 53: ブラジルレアルと商品価格指数の推移

出所: ブルームバーグ、野村

図表 54: ブラジル 新型コロナ 感染状況

注: 2020年6月17日時点。6月6日には2日分が同時に計上される形となっているため、2日に等分している。

出所: ジョンズホプキンス大学、ブルームバーグ、野村

為替ストラテジー

中島  將行 - NSC

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ブラジル中央銀行は前例の無い規模での金融緩和を実施

また、新型コロナの感染拡大がブラジル中央銀行の金融政策に及ぼす影響も見逃せ

ない。外出制限を受けて需要が抑制されていることを背景に、5月分のインフレ率が前

年同月比+1.9%と抑制されており、ブラジル中央銀行(BCB)にとっては追加緩和の余

地が広がっている(図表56)。BCBは6月17日の金融政策決定会合では0.75%ポイント

の追加利下げを実施、政策金利を2.25%に引き下げた。声明文では、現時点での金

融緩和の規模が、新型コロナによる経済的な悪影響に対処するために、十分なものと

なっているという見解を示す一方、先行き、わずかな(residual)追加緩和の可能性を示

唆する文言もあり、次回8月5日の会合での追加利下げの可能性に含みを持たせた格

好となっている。2%台前半まで金利が引き下げられたことを考慮すれば、金利面から

のレアルのサポートは見込みがたい状況であろう。

2020年末は対ドル5.0前後で落ち着く見通し

レアル安が輸出の促進につながっている点は、一次産品を中心に多種多様な輸出品

を抱えるブラジル経済の強みと捉えることが可能である。一方、新型コロナの感染拡

大による鉱山や食肉工場の停止は、こうした強みを阻害する恐れがある。また、ブラジ

ル中央銀行による利下げ継続に伴い金利面から見たレアルのサポートは期待しにくい

環境である。こうした状況を勘案すれば、5月中旬から6月上旬にかけてレアルは急反

発したものの、一本調子での反発の継続は見込みにくい。世界的な経済活動再開の

動きをにらみつつ、2020年末は対ドル5.0前後で落ち着くとの予想を維持する(レアル

を含めた新興国通貨の見通しについては、2020年5月7日付国際金融為替フラッシュ「

新興国通貨見通し改定」をご覧ください)。

図表 55: ブラジル 貿易収支と経常収支

出所: ブラジル中央銀行、ブルームバーグ、野村

図表 56: ブラジル 政策金利とインフレ率

出所: ブラジル中央銀行、ブルームバーグ、野村

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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3-5.メキシコペソ:労働者送金が焦点に新型コロナの感染拡大と、感染を抑止するための外出制限が、メキシコ経済に悪影響

を及ぼしていることが、経済データでも鮮明となりつつある。個人消費関連統計の中で

最も速報性が高いANTAD既存店売上高(5月分)は前年同月比-19%と大幅な落ち込

みとなった(図表57)。小売売上高や個人消費支出など、今後発表される主要統計で

も同様に落ち込みが予想される。

2月時点の正規雇用者の約5%が職を失った形に

外出制限に伴う消費の落ち込みは世界共通の現象であり、コロナ禍の特殊性を考慮

すれば、一時的と見ることは可能であろう。しかし、個人消費の先行きを見極めるうえ

で重要な雇用関連の指標の悪化も鮮明であり、経済への悪影響が長期化する懸念が

ある。2020年5月の正規雇用者数は1,958万人と、前月差34万人の減少となった(図表

58)。雇用減少は3か月連続であり、2020年2月時点の正規雇用者数の約5%にあたる

約100万人が職を失った形である。正規雇用にカウントされないインフォーマル部門で

働く人々の存在を考慮すれば、雇用の実態はより悪化している可能性がある。

家計が所得を絶たれた状態が続けば、消費の落ち込みや税収の減少、治安の悪化な

ど、多方面で経済に悪影響を及ぼしかねない。雇用維持・創出に向けた対応が求めら

れる局面であろう。メキシコでは5月以降、ロックダウン(封鎖)を徐々に解除し、自動車

や鉱業、建設セクターの事業再開を容認している。メキシコ国内での感染拡大は続い

ていることなど予断を許さない状況だが、まずは行動制限の解除が再雇用の動きにつ

ながるかを見極める必要があるだろう。

図表 57: メキシコ  個人消費関連指標

出所: メキシコ国立地理情報統計院(INEGI)、ブルームバーグ、野村

図表 58: メキシコ 正規雇用 雇用者数の推移

出所: メキシコ社会保険公社(IMSS)、ブルームバーグ、野村

金融市場のストレスは3月~4月と比較して緩和している

経済指標ではまだ明るい兆しが見えない一方、米FRBの緩和姿勢などを背景とする世

界的なリスクセンチメントの改善を背景に、通貨ペソをはじめ、メキシコ金融市場への

ストレスは和らいでいる。米商品先物取引委員会(CFTC)が公表しているメキシコペソ

の大口投機玉のポジションを見る限り、2月下旬から3月にかけてのペソ安を主導した

と見られるロング(買い持ち)ポジションの巻き戻しは終わった可能性が高いことが分

かる(図表59)。また、メキシコ国債からの投資資金の流出も収まりつつある(図表60)

為替ストラテジー

中島  將行 - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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図表 59: メキシコペソと大口投機ポジション

注: 非商業ポジション(Non-Commercial)を集計。

出所: 米商品先物取引委員会(CFTC)、ブルームバーグ、野村

図表 60: メキシコ国債 非居住者のフロー 年初来累計値

注: デイリーで公表されている非居住者の保有額(ストック)のデータからフローを計算している。2020年6月5日時点。

出所: メキシコ銀行、ブルームバーグ、野村

労働者送金が焦点に

ここまで、メキシコ金融市場を取り巻く環境が、国内の経済状況の悪化(マイナス面)

と、米FRBの緩和姿勢などを背景とするリスクセンチメントの改善(プラス面)の間で、

せめぎあっている様子を見てきた。当面は、通貨ペソは米株の動向次第、の側面が大

きいと考えられるが、中長期の投資の観点では、国際収支やインフレ環境、財政など、

メキシコペソのファンダメンタルズが急激に悪化しないか否かを見極めることが重要で

あろう。この点、メキシコの国際収支を考えるうえで重要な要素の一つに、海外からの

労働者送金が挙げられる。そのほとんどが米国在住のメキシコ人によるものであり、メ

キシコの総人口(1億2000万人)の約10%に相当するメキシコ人労働者が米国で働い

ているとされる。労働者送金はメキシコにとって国際収支や国内消費の安定化要因と

なっている。

メキシコの労働者送金は実に巨額である。国外労働者によるメキシコ本国への送金(

ドル建て)は右肩上がりで推移しており、2019年は360億ドル(日本円換算で約4兆円)

と過去最高を更新した(図表61)。これは、海外からメキシコへの対内直接投資の金額

(2019年は337億ドル)を上回る(図表62)。

図表 61: メキシコ  国外労働者によるメキシコ本国への送金

出所: メキシコ銀行、ブルームバーグ、野村

図表 62: メキシコ  対内直接投資

出所: メキシコ銀行、ブルームバーグ、野村

図表63ではメキシコの国際収支の構造を示している。メキシコは工業製品をはじめと

する輸出や、観光収入、直接・証券投資など黒字の項目が複数あるが、その中でも労

働者送金が際立って大きいことが分かる。メキシコの国際収支の屋台骨の一つと位置

付けることができよう。巨額の労働者送金の存在は、メキシコ経済・金融市場の米国と

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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の結びつきの強さにもつながっている。

図表 63: メキシコ 国際収支 構造(2019年)

注: 金融収支は、海外からメキシコへの資金流入から、メキシコから海外への資金流出を差し引いたネットのベース。

出所: メキシコ銀行、ブルームバーグ、野村

リーマンショック時には労働者送金が落ち込んだ

今局面で、メキシコの労働者送金が焦点となっている理由として、新型コロナの感染

拡大による米国内の雇用環境の悪化によって、米国で働くメキシコ人からの送金額が

減るリスクが意識されている点が挙げられる。実際に、図表61を改めて見ると、リーマ

ンショック時(2008年~2009年)に労働者送金額が落ち込んだことが分かる。

しかし、これまでのところは米国で新型コロナの感染拡大が深刻化して以降も、労働

者送金の金額が落ち込んでいる様子は見られない。図表64で示したように、2020年

3月には、通貨ペソがドルに対して大幅に下落したこともあり、送金額がむしろ増加して

いる。労働者送金はメキシコ国内でペソに両替してから使われるため、メキシコ人に

とってドル高/ペソ安の時に送金したほうが、本国に住む家族のペソ建てで見た受取

額が大きくなるためと考えられる。ただし、こうしたメカニズムは2008年9月のリーマン

ショックの直後にも働いていたために、現時点ではまだ労働者送金が減少するリスク

が低下した、と判断するのは時期尚早であろう。

まとめ

メキシコペソは5月以降、主にグローバルなリスクセンチメントの改善を受けて反発し

た。メキシコの金利水準の高さや、米FRBの緩和姿勢の強さを背景に世界的に低金利

環境が継続する公算が強まっている点を考慮すれば、通貨ペソには一段の持ち直し

余地があると見られる(図表65)。ただし、それにはメキシコの経済ファンダメンタルズ

の急激な悪化が避けられることが条件となる。この点、焦点の1つとなっている国外か

らの労働者送金が今のところ堅調に推移していることは前向きな材料と言えよう。

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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図表 64: メキシコ  国外労働者によるメキシコ本国への送金(月次)

出所: メキシコ銀行、ブルームバーグ、野村

図表 65: 新興国の実質政策金利の比較

注: 実質政策金利は、名目の政策金利から直近発表されたCPIの前年比伸び率を差し引いたもの。2020年6月17日時点。

出所: 各国統計、ブルームバーグ、野村

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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3-6.南アランド:リスクセンチメント改善が追い風に

南アランドはグローバルのリスクセンチメント改善に支えられる展開

高金利通貨の南アランドはグローバルのリスクセンチメント改善に支えられる展開と

なっている。ランドは20年1月以降に一本調子での減価基調を辿ってきたものの、5月

中旬以降は大きく買い戻されている。ランド円相場は6月9日終値で6.49円と3月13日以

来の高値をつけ、足元では米国の新型コロナ第二波への警戒感などでやや売られつ

つも、本格的な減価基調には転じていない。海外投資家の資金流出入データもランド

の好調さを示しており、5月中旬以降は株式資金の流出が減少するとともに、大規模な

債券資金の流入が生じている(図表66)。

南ア中銀の利下げ打ち止め感がいったん強まる

南ア固有の要因としては、南ア準備銀行(SARB)の利下げ打ち止め感の高まりがラン

ド安圧力の緩和につながったと見られる(図表67)。5月21日の金融政策委員会におい

て政策金利は市場予想通り4.25%から3.75%に引き下げられたものの、5人中2人の

政策委員は25ベーシスポイントの利下げを主張し、中銀のハト派色は弱かった。先行

きの景気見通しを見ると、20年の成長率見通しは前回の‐6.1%から‐7.0%に引き下げ

られたものの、21年と22年はそれぞれ+3.8%、+2.9%と前回の+2.2%、+2.7%から

引き上げられた。欧米の主要国や南アでの制限措置の段階的な解除が景気の持ち直

しにつながると見込まれている。さらに声明文では先行きの政策決定はデータや見通

しに依存すると述べられており、中銀は様子見姿勢を示した。中銀が追加的な金融緩

和への意欲を示さなかったことで、市場ではランド安への機運が後退した。

図表 66: 海外投資家の株式・債券流出入額

出所: ブルームバーグ、野村

図表 67: 南ア準備銀行の利上げ/利下げ期待

出所: ブルームバーグ、野村

新型コロナ感染拡大は抑制されていない

しかし、南アでは新型コロナの感染拡大は抑制されていない。欧州疾病予防管理セン

ターによれば、新型コロナの新規感染者数は6月15日に4302人と過去最高を更新し、

増加傾向が続いている(6月18日時点)(図表68)。南ア政府は6月1日から警戒レベル

を4から3に引き下げ、鉱業や製造業のフル稼働操業やアルコール販売などが容認さ

れるようになったものの、専門家からは制限措置を再導入すべきとの意見が出てきて

いる。Google社による「人の移動データ」は南ア経済の底打ちを示唆しているが(図表

69)、新型コロナの感染リスクへの警戒感で経済の本格的な正常化には時間を要する

為替ストラテジー

春井真也 - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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と見込まれる。

長期的な観点ではランドが本格的な増価基調に転じたとは考えにくい

先行きの南アランドについてはグローバルのリスクセンチメント改善の動きに支えられ

ると見込まれる。新型コロナの第二波はリスク材料として注意する必要があるものの、

FRB、ECBなどの主要中銀は金融緩和姿勢の継続を示唆しており、世界的に株価急

落リスクは限定的とみられる。もっとも、南アでは新型コロナ感染に歯止めがかかって

おらず、景気回復の遅れが中銀の追加利下げ期待を再び高める可能性がある。また

巨額の財政赤字は信用リスクの高まりにつながりやすいため、長期的な観点から見れ

ばランドが本格的な増価基調に転じたとは考えにくい。

図表 68: 新型コロナの新規感染者数(日次データ)

注: 6月15日時点。

出所: 欧州疾病管理予防センター、野村

図表 69: 人の移動データ

注: 公共交通機関、職場、娯楽施設などの場所別データを全て単純平均した値。

出所: Google社、野村

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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4-1.人民元:人民銀行はBSの拡張に慎重

人民銀行はかなり節度のある「資産買い取り」を発表

中国人民銀行は6月1日、小規模・零細企業への貸出強化を図る資産買い取り措置を

発表した。具体的には、地方商業銀行の小規模・零細企業向け貸出資産を人民銀行

が設立する特別目的機関(SPV)経由で買い取ることで、銀行に新規貸出の余裕を作

り出す。ただし、通常の資産買い取りと比較して、その条件は厳しい。(1)流動性の供

給上限総枠を4,000億元とする。(2)商業銀行は1年間に全額SPVから買い戻す必要が

ある、(3)買い取り資産の金利収入及び不良債権の処理責任は対象商業銀行側が負

う、(4)同資産は事実上商業銀行からオフバランスできない、等が挙げられる。

商業銀行のメリットは、人民銀行貸出の金利が従来の2.5%からゼロになり、資金調達

コストが低いことである。また当局から明確な説明がまだないが、おそらく買い取られ

る資産の分、自己資本の消耗も減るだろう。当局のメリットはより効果的に信用拡張を

促せることである。買い取り資産の対象は20年3月~12月に行った期限が6カ月以上

の普恵型(融資の対象・金利に一定の優遇策が受けられる)小規模・零細企業融資で

ある。人民銀行が供給する資金額は買い取り資産総額の40%で計算されるため、当

局は総額1兆元の新規貸出の増加を想定している(図表70)。

信用拡張サイクル入りは確実、拡張度合いと持続性に大きくは期待できない

社会融資総量残高は3月から顕著な増加が見られており、当局の与信拡大政策はそ

の傾向を更に後押しするだろう。ただし、大幅な信用拡張に至るにはまだいくつか制約

が残っている。

(1)外貨占款(人民銀行の外貨買いに伴って放出される人民元)の増加は中国ベース

マネー増加の主役であったが、外貨占款が萎縮し始める15年以降でも人民銀行は外

貨占款以外の手段によるベースマネーの増加に積極的ではなかった。16-17年に行っ

た大規模な人民元買い介入の局面に、人民銀行は中期貸出ファシリティMLFなどで流

動性供給を実施したが、ベースマネーの伸びを5-7%台程度に留めた(図表71)。

(2)今回の資産買い取りにおける厳しい条件の設定、人民銀行の金融政策委員であ

る馬駿氏によるMMTの否定(5月17日付けの金融時報における寄稿)、特別国債発行

スキームにおける人民銀行直接買取形式の見送り等から、人民銀行はBSの拡張に

依然かなり慎重である。

(3)商業銀行、特に中小商業銀行の不良債権の処理は先送りにされている。中国商

業銀行全体の不良債権比率は14年時点の1.2%程度から16年には1.8%程度に上昇

してから高止まりしている状況にある。18~19年には中小商業銀行の不良債権比率

が高まり、一部機関のデフォルトも発生した等、問題が表面化しつつある。

(4)特に今回の資産買い取りについては、1年後に商業銀行が買い戻す必要がある。

このため、リスク資産はオフバランスできておらず、人民銀行・公的機関に転嫁するこ

ともできない。商業銀行は1年後に買い戻す必要があるため、不良債権比率、自己資

本の充実、流動性管理等の制約は依然残る。行政指導以外に、商業銀行はバランス

拡張の意欲が劇的に高まるインセンティブの改善は限定的である。

為替ストラテジー

郭 穎 - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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図表 70:  地方中小銀行資産購入政策(2020年6月)

人民銀行

特別目的機関

SPV

設立

地方商業銀行

零細企業向け

貸出

資産買い取り条件

・買い取り資産残高の40%の資金を支給、

総枠は4,000億元

・20年3~12月に実施された、期限が6カ月間以上

の貸出が買い取り対象

・金利収入と貸出資産関連の損失は商業銀行が負う

1年後に買い戻す

出所: 中国財政部、CEICデータベース、野村

図表 71: 中国のベースマネー

注: 外貨占款は中央銀行の外貨買いに伴って放出される人民元

出所: 人民銀行、CEICデータベース、野村

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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4-2.香港ドル:国安法導入と香港為替市場※本稿 は2020 年6月15日付発行 の レポート 国際金融為替 フラッシュ- 国家安全法

導入 と 香港為替市場 の 要約版 です。

国安法:「一国」と「二制度」の線引きの再定義

香港における国家安全法(国安法)の導入は、5月28日の全人代採決を通過した。環

球時報GTの5月21日付の報道によると、早ければ、立法活動は半年以内に完了する

との見方が出ている。具体的な法案内容は不明だが、上記全人代の議案からすると、

香港で国家安全を保障する機関と実施制度を作り、中央政府の国家安全機関は香港

行政区政府に関連(駐在)機関を設けることが求められる。例えば、香港で国家安全

専門の裁判所・検察院を新設し、(中央政府が承認した)裁判官・検査官を登用して、

公訴・裁判を行う提案が政治協商会議委員からあった。

香港は中国の窓口として、アジア最大の情報センターの一つであり、先進国は香港に

多くの公的機関・民間企業の職員を駐在させている。中国政府が香港における国家安

全管理強化を図る中で、先進国のアジアにおける情報網の再配置、常駐団体の在り

方について、相応の調整を迫られよう。

関税制裁:香港企業への影響は大きくない

自治状態にある香港が米国から受ける主な優遇は関税、通商(軍事民生両用製品の

輸出規制がない)、ドルと香港ドルの自由な両替である。米国は今回の国安法の導入

について、香港の自治状態への侵害を理由に制裁を発動する方向に動いている。通

商・貿易面の対香港制裁については、香港企業への影響が現状では限定的になるだ

ろう。香港経済における製造業の比重は極めて低く、19年の約5,100億ドルの輸出額

において中継貿易による再輸出が99%を占める。一部中国から香港経由の関税節税

等を考慮しても、関税面の優遇の撤廃による増税効果は最大で香港輸出の0.3%程度

にとどまろう。

金融制裁:現状可能性が低いが、為替・金利への一時的な影響があり得る

ムニューシン米財務長官は国安法絡みで、香港に対する資本規制の可能性に言及す

るなどして、対中けん制をしている(南華早報SCMPが6月12日付で報道)。香港への

資本流入や為替両替を規制する場合、米国企業への影響もそれなりに大きくなろう。

香港では、米国企業が約1,300社進出、米国人も8.5万人働いており、香港での米国直

接投資の産業構造を見ると、約半数は東アジアビジネスを統括する地域統括会社で

ある。仮に、金融制裁まで発動される場合、影響を受けるのは香港持株会社経由の、

中国本土、韓国、日本、台湾等における事業の決済及び節税・利益留保の仕組みで

あろう。

米国が対香港の制裁を金融面に拡大させる場合、香港からの資本流出圧力が深刻

化しやすい。ただ、その場合、中国政府は香港ドルの対ドルペッグ制の維持に協力す

ると見られる。

ドルペッグ制:潤沢な外貨準備と財政余剰は大きな制度保障

中国大陸の支援の他に、香港自身の潤沢な外貨準備が、過去37年間のペッグ制度を

維持する上での保障となっている。香港の外貨準備は政府の外為基金で運用されて

おり、その残高は約4,400億ドル、ベースマネーの2倍にものぼる(図表72)。マネーサ

プライM2の20%及び現地消費分の輸入の3カ月(合わせて4,206億ドル)を上回り、か

なりの資本流出に耐えられる水準と言える。

また、香港金融機関は1.23兆ドルの対外債務を持つことで、債務支払い能力が疑問視

為替ストラテジー

郭 穎 - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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される議論もこれまであったが、一方で、香港はアジアの金融センターとして、金融機

関が1.58兆ドルの対外債権を持っている事実も無視できない。(1)香港金融機関が持

つ対外債権の構成地域は、主に中国と日本、米国、シンガポール等の先進国地域で

あること、(2)少なくとも香港の預金銀行に関しては、流動資産が流動負債の1.8倍で

あること、外貨の純債務は自己資本の0.2%程度に止まること、等を考慮すると、短期

債権の回収や短期債務への支払いができないことは、よほどグローバルな流動性緊

縮が起きなければ想定しにくいと思われる(図表73)。

香港の国際金融センターの地位は代替されにくい

国安法が導入され、米国による通商面の対香港制裁が発動された際に、香港の中核

的な地域役割である、国際金融センター機能が代替されるかについて、筆者は可能性

が低いと考えている。香港が国際金融センターとして成り立っている本質的な競争優

位性として、①ドルとの自由な両替、②欧米市場と共通点が多く且つ高度に制度化さ

れた資本市場の管理体制、③米英と共通した通商面の法体制、④金融関連サービス

分野における厚い人材層、が挙げられる。

この意味で、中国による香港での国安法の導入は、上記③の香港現行の通商・経済

面の法制度を極力維持する形にする可能性が高い。米国も香港への強い金融制裁

は、米国資本自身の中国投資の阻害要因にもなる。米国側の制裁内容は、国安法の

落としどころ次第で、今後の米中間の交渉の行方が注目される。

本邦投資家にとっての香港ドルヘッジコスト‐当面、米ドルヘッジコストの方が低位安定へ

直近では、米ドル建て債券投資の為替ヘッジ手段として香港ドルヘッジを活用する意

義は殆どない。香港ドルの為替ヘッジコスト(3ヵ月物)は0.9%~1.0%程度と米ドルの

為替ヘッジコスト(同)である0.6%程度を上回っているからだ。今後も、米ドルの為替

ヘッジコストが香港ドルの為替ヘッジコストを下回る公算が大きい。理由は、1)今後も

Fedは量的緩和政策を継続、米ドル金利が香港ドル金利を下回る可能性がある、2)為

替ヘッジコストはほぼ短期金利差と考えることもできるが、香港ドルと日本との短期金

利差よりも米ドルと日本との短期金利差との方が小さいと見込まれる、である。

図表 72: 香港のベースマネー及び外為基金(外貨準備)

出所: 香港金融管理局(HKMA)、CEICデータ、野村

図表 73: 香港銀行業の経営健全性指標

出所: 国際通貨基金IMF、香港金融管理局(HKMA)、CEICデータ、野村

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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4-3.韓国ウォン:地政学リスクが浮上

新型コロナ第二波の懸念でリスクオフ地合い

6月10日以降、米国の新型コロナの新規感染拡大懸念が再燃したことを背景に、いっ

たん1,190ウォン/ドル台まで増価したウォン高は定着できなかった。米国の感染者数

は累積200万人を超えて、一部地域ではこれまでで最大の週間、日当たりの新規感染

者数が報じられたことから、経済活動正常化の期待が若干後退したためである。

中国でも感染第二波のリスクに直面している。北京市では6月11-16日にかけて累積

で137名の新規感染者が見つかり、現状部分的なロックダウン、外部の交通遮断が発

動され、全国的には農産品市場、レストラン等の消毒強化が取り組まれている(図表

74)。5月の中国主要経済指標は市場予想を下回っており、首都北京での感染再燃は

全国的に緊張感を強めており、景気回復のペースを更に鈍化させるだろう。

南北緊張が再燃、米中交渉は今後の展開に影響する可能性

韓国と北朝鮮の地政学リスクが再浮上した。北朝鮮は韓国にある脱北団体による反

体制ビラの配布を理由に、6月16日に開城にある南北共同連絡事務所を爆破し、軍事

境界線付近に軍を展開させた。韓国政府は11日にビラ散布の取り締まりを表明したも

のの、北朝鮮は強硬姿勢を変えなかった。

他方、公式の確認がされていないものの、米中両国の国務閣僚級の交渉がハワイで

行われている模様で(Politicoが6月17日付で報道)、内容は外交関係、通商、香港問

題と見られる。交渉の方向性はまだ不透明であるが、中国側は対米交渉材料の一つ

として調停に入る可能性がある。

一時的なリスクオフに注意しよう

仮に北朝鮮の狙いが、コロナウィルスが原因で悪化した国内の食料事情を背景とした

支援要求であれば、短期解決が難しく、国境付近での小競り合いが続く可能性がある

(参考レポート:2020年6月17日付発行:政治レポート-北朝鮮の韓国に対する強硬姿

勢)。3月以降続いた韓国債への資本流入に影響が出る可能性がある。

当面、軟調な輸出環境が見込まれる中、韓国は緩和的な財政・金融政策を維持する

と見られる。韓国銀行は5月28日、25bpの利下げを発表すると同時に、2020年の成長

率及びCPI見通しをそれぞれ従来の2.1%から-0.2%に、1.0%から0.3%に引き下げた

(図表75)。野村香港は年内の政策金利据え置きを予想しているが、非伝統的金融政

策の導入確率が高まったと考えている。

図表 74: 中国本土発生の新型コロナ新規感染者数

出所: 中国国家衛生保健委員会、Windシステム、野村

図表 75: 韓国の物価動向

出所: 韓国統計庁、韓国銀行、CEICデータ、野村

為替ストラテジー

郭 穎 - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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4-4.インドルピー:外貨準備が過去最高を更新インド政府は、3月25日に開始した全土ロックダウン(封鎖)を段階的に緩和し、経済活

動の再開に動きつつある。5月30日、政府は感染が拡大中の封鎖ゾーンを除き、ロック

ダウン措置を段階的に解除することを発表するとともに、ホテル、レストラン、ショッピン

グモールは6月8日から営業再開を認めた。また、州間、州内における人や物資の移

動も制限を撤廃している。他方、政府が公表したガイドラインでは、中央政府が認可し

ている活動についても、州政府独自の措置として、特定の活動の禁止や制限ができる

ようになっている。

2か月以上続いた全土ロックダウンにより、失業や企業倒産の拡大が危惧されていた

ことを踏まえれば、経済活動の再開は景気にとって前向きな動きと言えよう。しかし、

経済活動再開に伴い、インドにおける新型コロナの新規感染者数は加速度的に増加

しつつあり、予断を許さない(図表76)。各州では独自のロックダウンも行われており、

経済の正常化にはまだ時間を要しよう。

図表 76: インド  新型コロナ  感染状況

注: 2020年6月17日時点

出所: ジョンズホプキンス大学、ブルームバーグ、野村

図表 77: インド株式市場へのフローとSENSEX指数

注: 2020年6月は1日から15日までの累計値。

出所: インド証券取引委員会、ブルームバーグ、野村

経済は多方面で打撃を受けている

新型コロナの感染拡大と、それを抑制するための封鎖措置により、インドでは(1)景気

の急激な悪化、(2)金融システムの不安定化、(3)国債の信用格付けの低下、に見舞わ

れている。

(1)発表頻度の高い経済指標からは、封鎖措置の影響により、需要と供給の両方が大

きく落ち込んでいることがうかがえる(2020年5月27日付「インド:野村景気・金融政策

指数 - 2020年5月時点:成長のエアポケットに落ち込む」参照)。特に、消費の動向を

示す指標として参照されることの多い自動車・二輪車の販売台数は4月にはほぼゼロ

に落ち込んでいる。

(2)こうした経済活動の急激な落ち込みは、ある程度は想定の範囲内と言えよう。しか

し、企業倒産の拡大が新型コロナの感染拡大より以前から弱体化していたインドの金

融システムに与える悪影響の大きさは計り知れない。インド準備銀行は企業倒産の拡

大を防ぎ、流動性を拡大させるために不良債権の認識を一時的に緩める措置を金融

機関に対してとっているが、これは、封鎖措置が解除されたのちに、金融不安が顕在

化するリスクをはらむ。

(3)新型コロナの感染拡大と、景気や財政、金融システムの安定にリスクが高まったこ

とを受け、6月1日には大手格付会社がインドの外貨建ておよび自国通貨建て長期債

為替ストラテジー

中島  將行 - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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務格付けを従来の「※Baa2」から「※Baa3」に1段階引き下げた(2020年6月2日付「イン

ド:政府債格付け-ムーディーズが「※Baa3」に引き下げ」参照)。格付け見通しは「※ネ

ガティブ」に据え置かれている(※無登録格付)。S&PやFitchは既に投資適格の最低

水準にインド国債を格付けしている。もう一段階の格下げとなれば、投機的水準とな

る。インド政府は財政支出の拡大に対し慎重にならざるを得ないと見られる一方で、十

分な財政支援が無ければ失業や企業倒産が増大しかねないというジレンマを抱える。

財政政策が制約を受けるなか、金融緩和に重点が置かれた政策運営が続こう。5月

22日にインド準備銀行は緊急会合を開き、0.40%ポイントの追加利下げ(政策金利を

4.00%に)を行っている(2020年5月25日付「インド:緊急利下げを発表-0.4%ポイントの

追加利下げを実施も、利下げ効果は薄れつつある」参照)。

雇用改善、資金流入拡大は明るい兆候

インド経済は重大な岐路に立っているようにも感じられるが、いくつかの明るい兆しは

ある。まずは、他国と同様に、封鎖措置の緩和に伴い、雇用環境が改善し始めている

点が挙げられる(2020年6月10日付「インド:雇用市場-緩やかに改善し始めている」参

照)。

また、海外投資家の資金が戻りつつある点も、前向きな材料であろう。インドの株式市

場からは、3月に過去最大の84億ドルもの資金流出が発生したが、5月以降は資金流

入の再開が鮮明となっている(図表77)。一般的に、株式市場への資金流入の再開

は、投資家が経済の先行きに対し前向きな姿勢をとっていることを示している。

さらには、対内直接投資が活発化していることも、インド経済の先行きに対するグロー

バル企業の期待を反映していよう。2019-20年度(19年4月~20年3月)の対内直接投

資は前年度を大きく上回り、過去最高を更新した(図表78)。業種別に見ると、金融を

含むサービスセクターやIT、通信、への資金流入が目立っている。20年4月以降も米国

のIT大手による巨額の投資案件が発表されている。もちろん、こうした案件は以前から

準備が進められていた可能性が高いが、新型コロナの感染拡大に関わらず、潜在的

な成長力は高いという評価が投資決定の背景にあるだろう。一般的に、直接投資のフ

ローは、リスクセンチメントに左右されやすい株式・債券市場のフローよりも安定してお

り、グローバル企業の経済成長に対する評価を正確に反映しているものと位置付けら

れる。米中の対立が先鋭化していることが、米国企業にとって「次の経済大国」候補と

してのインドへの関心を高めている面もあるだろう。

図表 78: インド 対内直接投資(承認・認可ベース)の長期推移

注: 年度表示。インドの年度は4月から翌年3月まで。

出所: インド商工省、野村

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インド準備銀行はドル買い/ルピー売りを行っている可能性が高い

最後に、通貨ルピーの動向についてふれたい。資金流入が再拡大するなかで、インド

の外貨準備が過去最高を更新、はじめて5,000億ドルを上回ったことが市場で注目を

集めている(図表79)。インド準備銀行はこれまでも、証券投資や直接投資の資金流

入(流出)に伴う通貨の上昇(下落)圧力を介入によって吸収してきたため、今回もそう

した原理に沿ってドル買い/ルピー売りを行ったものと見られる(図表80)。資金流出に

対する通貨ルピーの耐性がいっそう高まった、と評価される一方で、ルピーが対ドルで

年初から6%程度安い位置につけている状況でのルピー売り介入は「通貨安容認」と

いう市場の思惑を高めるリスクがある。

これは、同じアジアの高金利通貨でも、インドネシア中銀がインドネシアルピアに対し、

「割安」というメッセージを送り続けていることと対照的である。当面、リスクセンチメント

が改善し、利回り追求の姿勢が戻ってきた時にはインドネシアルピアがインドルピーと

比較して買われやすい、という状況は変わりがないだろう。

ルピーは底堅い展開が想定されるも、上値は限定的

インドでは経済活動の再開に伴い、新型コロナの感染拡大が加速している。また、規

模感がまだ不明なことから本稿では取り上げなかったものの、アフリカで発生したバッ

タの大群がインドにも到達し、穀物を食べていると報じられている点も、インフレ加速に

つながるリスクがあり、気がかりである。カシミール地方での中国との武力衝突でも、

インド株、国債、ルピーが売られる動きが一時見られた(2020年6月17日「政治レポート

-カシミール地方での中印衝突と金融市場」参照)。一方、証券投資や直接投資の資

金フローは、グローバル企業・投資家による長期的なインドの成長ポテンシャルに対

する信頼が揺らいでいないことを示している。この点はインドの株式市場・通貨全般に

ポジティブである。ただし、インド準備銀行は資金流入の再開にあわせてドル買い/ル

ピー売りを再開した公算が大きい。ルピーの上値は抑制されよう。

図表 79: インド  外貨準備高

出所: インド準備銀行、ブルームバーグ、野村

図表 80: インド準備銀行  為替介入状況

注: インド準備銀行はルピー相場の変動を抑えるため、売り買い両方向に介入する、いわゆる「スムージング」と呼ばれる手法をとっている。2020年4月以降の介入額は未公表。

出所: インド準備銀行、ブルームバーグ、野村

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4-5.新型コロナと新興国債務問題新型コロナの感染拡大に伴い、一部の低・中所得国における対外債務のデフォルトの

連鎖が懸念されている。2020年3月から5月にかけて、レバノンやエクアドル、アルゼン

チンがデフォルトした。IMFは2020年4月に、加盟189か国のうち100か国が、新型コロ

ナの封じ込めと経済対策のための緊急支援を要請したと明かしている。

新興国の債務はここ10年で急増

もともと、新型コロナの感染が中国で最初に報告される以前から、新興国の債務問題

に対しては、国際機関が警鐘を鳴らしていた。世界銀行は2019年12月に「Global 

Waves of Debt」を公表、1980年からおおよそ10年ごとに繰り返されてきた信用の拡大

と崩壊が、今局面でも繰り返されるリスクを分析している(図表81)。新型コロナの世界

的な感染拡大後には、IMFが2020年4月に公表した「国際金融安定性報告書」(Global 

Financial Stability Report)において、新興国の債務問題を、米国を中心に広がる

CLO(資産担保証券)やレバレッジドローンなど高リスク・クレジット市場の拡大や、低

金利と低収益が続く銀行部門の状況、と並び、金融市場の安定を揺るがしうる要因と

して位置づけている。2020年6月の国際金融協会(BIS)の四半期報告でも、新興国の

債務問題がメインのテーマとして取り上げられている。

図表 81: 新興国の債務拡大の「波」と主要な危機

注: 政府・民間の債務を合算した値。国内信用および対外債務を含む。世界銀行  「Global Waves of Debt: Causes and Consequences」2019年12月のデータを使用した。

出所: 世界銀行、野村

新興国の債務問題は、(ⅰ)金額が巨額であること、(ⅱ)2010年以降、新興国の現地

通貨建て債券市場への資金流入の拡大に伴い、先進国側の貸し手が銀行から資産

運用会社や生命保険会社、年金基金などのノンバンクへと拡大し、リスクの所在が見

えにくくなっていること、さらには、(ⅲ)新型コロナの感染拡大に伴う新興国の通貨安

や、原油価格の急落に伴い、ドル建ての借り入れを行っている政府・企業の返済負担

が重くなっていると考えられること、が焦点となる。

もっとも、現時点で苦境に陥っているのは、経済規模が小さく、資源輸出や観光への

依存度の大きい小国がほとんどである。対外債務の規模も小さく、世界の金融システ

ムに与える営業は限定的であろう。世界銀行の対外債務のデータを見ると、世界銀行

が定義する低・中所得国122か国の対外債務のうち、約4分の1を中国が占めることが

分かる。ブラジルやメキシコ、ロシアを含めた上位10か国では全体の7割に達する(図

表82)。

為替ストラテジー

中島  將行 - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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図表 82: 低・中所得国122か国のうち、対外債務が大きい国々  (2018年)

低・中所得国の対外債務順位 国名 G20 全体に占めるシェア

(10億ドル) (%)1 中国 〇 1,962 25.1

2 ブラジル 〇 558 7.1

3 インド 〇 521 6.7

4 ロシア 〇 454 5.8

5 メキシコ 〇 453 5.8

6 トルコ 〇 445 5.7

7 インドネシア 〇 380 4.9

8 アルゼンチン 〇 281 3.6

9 南アフリカ 〇 179 2.3

10 タイ 169 2.2

11 カザフスタン 157 2.0

12 ベネズエラ 155 2.0

13 コロンビア 135 1.7

14 ウクライナ 115 1.5

15 ルーマニア 112 1.4

16 ベトナム 108 1.4

17 エジプト 99 1.3

18 パキスタン 91 1.2

19 レバノン 79 1.0

20 フィリピン 79 1.0

その他 1,287 16.5

総計 7819 100

対外債務残高

出所: 世界銀行国際債務統計、野村

新興国は外貨準備を大きく積み増している

こうした規模の大きい新興国も、1980年代から90年代にかけては危機に見舞われてき

た(図表83)。しかし、今回、それが繰り返されるリスクは限定的であろう。多くの新興

国は過去の危機の教訓から、外貨準備を積み増すなど通貨の耐性を高めている(図

表84、85)。ただし、この点に関してはトルコや南アフリカには脆弱性が見られる点には

注意が必要となる。一方で、各国政府・中銀が、経済が危機的な状況に陥るなかで、

財政規律や中央銀行の独立性を重視した政策対応を行っていることも重要であろう。

図表 83: 主要新興国  過去の危機

国名 金融危機 通貨危機 ソブリン債務危機ブラジル 1990, 1994 1976, 1982, 1987, 1992, 1999, 2015 1983

メキシコ 1981, 1994 1977, 1982, 1995 1982

アルゼンチン 1980, 1989, 1995, 2001 1975, 1981, 1987, 2002, 2013 1982, 2001, 2014, 2020

中国 1998

韓国 1997 1998

インド 1993

インドネシア 1997 1979, 1998 1999

トルコ 1982, 2000 1978, 1984, 1991, 1996, 2001, 2018 1978

ロシア 1998, 2008 1998, 2014 1998

南アフリカ 1984, 2015 1985

ハンガリー 1991, 2008

ポーランド 1992

注: 世界銀行「Global Waves of Debt:Causes and Consequences」2019年12月より抜粋。2020年のデフォルトは個別に追記した。

出所: 出所:世界銀行、野村

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図表 84: 外貨準備(金を除く)の推移

注: 2020年5月時点で更新可能な最新のデータを用いている。

出所: IMF、ブルームバーグ、野村

図表 85: IMFの分析手法(Assessing Reserve Adequacy Metric)から導きだされる適正外貨準備額に対し、各国が実際に保有している外貨準備の水準

注: IMFは(1)貿易・サービス輸出、(2)広義マネーサプライ、(3)短期対外債務、(4)証券投資・その他投資負債をもとに、適切な外貨準備の金額を推計している。1996年は、一部、世界銀行のWorld Development IndicatorやIMFのワーキングペーパーから数値を集めたうえで計算している。2020年は6月17日時点で取得可能な最新のデータを用いて計算した。

出所: IMF、ブルームバーグ、野村

国際的なセーフティネットの拡充も安心材料

さらに、国際的なセーフティネットの拡充も安心材料として挙げられる。米FRBは3月に

米ドルと、各国の通貨を交換するドル・スワップラインの対象を一部の新興国中銀にも

拡大した(図表86)。また、IMFも予防策を拡大している。新型コロナの感染拡大が懸念

されている中南米諸国に対し、IMFは5月末にフレキシブル・クレジット・ライン(FCL)を

従来から締結していたメキシコ(610億ドル)とコロンビア(108億ドル)に加えて、ペ

ルー、チリにもそれぞれ110億ドル、239億ドル供与することを決定した。FCLとは、IMF

の定義で「きわめて強固なファンダメンタルズと政策、そして政策実施の実績を兼ね備

えた国」を対象とする制度であり、「信用枠は柔軟に活用でき、承認と同時に引き出し

もしくは予防目的での活用も可能」である。FCLの設定は、実質的に外貨準備を積み

増したことと同様の効果を持っていると考えられる。特に、これまでチリの外貨準備の

少なさを脆弱性と見る向きもあったが、FCLを考慮すれば、IMFの分析手法(Assessing 

 Reserve Adequacy Metric)に基づく適正外貨準備の水準に達する格好となる(図表

87)。アジア新興国では、チャンマイ・イニシアティブや、日本との二国間通貨スワップ

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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が主なセーフティ・ネットとして挙げられる。

とはいえ、対外債務の問題は、個別の事情も勘案したうえで分析していくことが重要で

ある。2020年6月5日に発行した国際金融為替フラッシュ「中南米での新型コロナ拡大

と債務問題」では、新型コロナの感染者数が急増している中南米諸国での債務問題に

ついて分析を行っている。

図表 86: 米FRBのドルスワップライン

常設 2020年3月19日に一時的措置として設置欧州中央銀行 スウェーデン・リクスバンク

日本銀行 オーストラリア準備銀行

カナダ銀行 ブラジル中央銀行

スイス国立銀行 メキシコ銀行

イングランド銀行 韓国銀行

シンガポール金融管理局

デンマーク国立銀行

ノルウェー中央銀行 300億ドル

ニュージーランド準備銀行

600億ドル

出所: 米国連邦準備制度理事会(FRB)、野村

図表 87: 中南米主要国  IMFの分析手法(Assessing Reserve Adequacy Metric)から導き出される適正外貨準備額に対し、各国が実際に保有している外貨準備の水準

注: 2020年5月時点で取得可能な最新のデータを使用。IMFは(1)貿易・サービス輸出の5%、(2)広義マネーサプライの5%、(3)短期対外債務の30%、(4)証券投資・その他投資負債残高の15%を足し合わせた金額を、適切な外貨準備の金額としている(変動相場制を採用している国の場合)。また、IMFはこうして求めた「適切な外貨準備」の100~150%を保有するよう、各国に推奨している。

出所: IMF、ブルームバーグ、野村

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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5.日本経済:経済再開と新型コロナ第2波

経済活動が段階的に再開

新型コロナウイルスによる感染症(以下、コロナ)の感染拡大に伴い、多くの国・地域で

ロックダウン(都市封鎖)が行われてきた。日本でも、外出規制という点では強制力を

伴わないために厳密な意味ではロックダウンとは呼ばれないものの、類似する政策と

して政府により緊急事態宣言が4月7日に発令され(当初は7都府県、4月16日に全国

に拡大)、様々な経済活動の自粛が要請されてきた。

当初1か月間とされていた緊急事態宣言は一度延長された後、5月14日に39県におい

て解除された。続いて、5月21日には近畿3府県において、5月25日には残る1都3県と

北海道において解除され、全面的な解除となった。

東京都は独自に「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」を5月

22日に策定し、再開が認められる業種や飲食店の深夜営業の解禁など、経済活動再

開の3つのステップを提示してきた。そのステップも本稿執筆時点(6月18日)で既に最

終段階であるステップ3となっており、6月18日をもって接待を伴う飲食店及びライブハ

ウスの休業要請を終了すると東京都のホームページにも記載されている。6月19日か

ら、経済活動は全面解禁が予定されている。

5月の景気ウォッチャー調査(調査期間は5月25日から31日)の結果を見ると、景気の

現状判断DI(季節調整値)は15.5と、4月の7.9を底に上昇に転じており、下げ止まった

形だ(図表88)。5月の景気の先行き判断DI(季節調整値)は36.5と、4月の16.6から大

きく反発した。景気に関連の深い動きを観察できる立場にある人々を対象とした同調

査の5月結果を見る限り、日本経済は自粛要請の段階的解除とともに、5月にひとまず

底打ちをしたと捉えて良さそうである。

図表 88: 景気ウォッチャー調査の現状判断DI・先行き判断DI(季節調整値)

  

出所: 内閣府資料より野村作成

消費回復の試金石は「旅行」、「外食」、「イベント」

供給側への自粛要請が解除されたからといって、すぐに需要が戻ってくるとは限らな

いだろう。まず気になるのは夏場の景気動向、特にGDP(国内総生産)のおよそ6割を

占める消費の動向である。政府は消費活動回復の呼び水として、旅行、外食、イベン

日本経済

髙島 雄貴  エコノミスト - NSC

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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トに対する支出に補助金をつける「Go Toキャンペーン」を準備しており(野村Global 

Research 6月12日付 日本経済ウィークリー Go To キャンペーンの経済効果)、同キャ

ンペーンの成功度合いが夏場消費回復の一つの鍵となろう。

Go Toキャンペーンに似た例としては、リーマンショック後の景気悪化に対応するため

に行われた、環境性能の高い自動車、家電、住宅への補助金があろう。補助金の対

象期間中、これらの商品の販売は大きく増加した(図表89~91)。もちろん、あくまで需

要の先食いであるため、期間が過ぎると販売は大きく減少することになるが、少なくと

もキャンペーン期間中の消費や企業業績の下支えにはなったと言えよう。

図表 89: 乗用車販売台数の推移

  

注: 季節調整は野村による。

出所: 日本自動車工業会より野村作成

図表 90: 家電販売額の推移

  

出所: 経済産業省より野村作成

図表 91: 住宅着工戸数の推移

  

出所: 国土交通省より野村作成

上述した過去の類似キャンペーンは耐久消費財を対象としていたのに対し、Go To

キャンペーンはサービス支出を対象としている点で大きく異なる。一般論として、サー

ビス消費は財消費と比べて、異時点間の代替を行いにくく、需要の大きな前倒し効果

が生まれるとは限らない点には注意が必要であろう。

しかしこの点は、今局面においては大きな論点ではないのかもしれない。感染防止の

ための外出自粛により、旅行や外食、イベントへの支出は大きく減少している。家計調

査で20年4月の世帯当たり消費支出を見ると、旅行(「宿泊料+国内パック旅行費」)は

19年の1ヵ月平均の5.3%、「一般外食」は同35.8%、コンサート代などが含まれる「映

画・演劇等入場料」は同7.6%の水準にまで減少している(図表92)。これら3項目を合

わせると、19年平均の2割以下に縮小したと計算されるが、逆に言えば潜在的な需要

拡大余地は大きいとの見方ができる。

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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図表 92: 旅行、外食、イベントへの家計消費支出

  

注: 二人以上世帯の世帯当たり消費支出。「旅行」=宿泊料+国内パック旅行費。季節調整は野村による。

出所: 総務省より野村作成

東京都では第2波懸念が燻る

もちろん、経済活動は再開されつつあるが、コロナの新規感染者数がゼロになったわ

けではない。むしろ、東京都では6月14・15日に2日連続で40人を上回る数字となるな

ど再び増加しており(図表93)、第2波の懸念が燻る。今後の感染者数の増え方によっ

ては、再び緊急事態宣言が発令される可能性も排除はできない。

図表 93: 東京都におけるコロナの感染者数推移

  

出所: 東京都資料より野村作成

一方で、直近の消費関連指標を確認すると、「withコロナ」と称されるように、消費者が

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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既にある程度のコロナ感染リスクが残存する中で経済活動を行っていくことを想定して

いることを示唆する統計データが確認される。週次でデータを取得できるMETI POS小

売販売額指標では、5月から直近6月1~7日の週まで家電大型専門店の販売額が前

年比増加基調を続けており、特に6月1~7日の週は前年同週比寄与度+4.9%ポイント

と、在宅勤務などの影響で好調が続くスーパーマーケットの販売額による寄与を上回

った。(図表94)。消費者はコロナ第2波が発生することを既に想定し、在宅勤務や余暇

時間の多くを自宅で過ごす環境の整備に励んでいる可能性が考えられる。人々の生

活様式が「withコロナ」モードへと移行していくことは、緊急事態宣言再発令の可能性

を小さくすることに寄与すると言えよう。

図表 94: METI POS小売業販売額(週次)

  

出所: 経済産業省資料より野村作成

夏の消費持ち直しペースは緩やかとなろう

その代わり、在宅勤務や休日も外出を控えるなどの生活様式の浸透が、消費総額の

回復を難しくするのは致し方ないだろう。だからこそ、GoToキャンペーンが準備されて

いるわけだが、同キャンペーンは消費の下支えとしては十分に機能すると見込まれる

ものの、消費をコロナ流行前の水準やそれ以上に反発させることを想定しているような

政策ではないと見られる。

野村では、7-9月期のGDPベース実質消費支出は前期比+3.4%程度と、4-6月期の減

少(同-6.0%)の半分程度を持ち直す、緩やかなペースとなると見込んでいる(野村

Global Research 6月8日付 日本:2020~21年度の経済見通し改定)。

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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6.米国経済:2020年6月FOMC※本稿は、野村の関連会社が2020年6月11日に発行したレポートを野村證券で翻訳、編集したものです。

新たに発表された内容は少ないものの、今後の大幅な変更への地均しに

資産購入と今後の政策変更について全体的に見て、6月9~10日の連邦公開市場委員会(FOMC)会合は、目先の金融政策

に対する野村の予想を変えるものではなかった。我々が予想していたように、 FOMC 

は今回、米国債および政府支援機関(エージェンシー)MBS(住宅ローン担保証券)の購

入を「今後数ヶ月にわたって」「少なくとも」現在の水準に維持すると発表した。連邦準

備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、これら資産購入をFRBのマクロ経済目標に明

示的に結び付けることはなかったが、資産購入が(1)市場の円滑な機能及び(2)緩和的

な金融環境の維持に役立つことを強調した。(2)については、資産購入が市場効率とい

う狭い概念だけでなく、 FOMCのより広範な経済的目標を推進するためのものである

ことを間接的に認めたものと言える。

FRBの資産購入の推移がこのように明確にシフトしているのは、景気回復に伴う長期

金利の上昇圧力に対抗するためであろう。最近の長期国債の利回り上昇傾向は、こう

した圧力の一例と考えられる。今回のFOMCの声明は、長期金利を低水準に維持する

ために、FRBが資産購入のペースを上げたり、購入額の満期別配分を調整したりする

可能性があることを示唆している。今回の FOMCの決定を受けて、市場参加者は長期

金利の直近高値を暗黙のうちに「今後数ヶ月の」FRBの許容範囲の上限と見なすよう

になるかもしれない。

FOMCはまた、より正式なイールドカーブのコントロール(YCC、長短金利調節)の採用

についても議論した。具体的な金利水準や年限の目標を明示的に設定する可能性が

ある。パウエル議長によると、FOMCはフォワードガイダンス(政策指針)とYCCについて

「ある程度深く」検討しており、今後の会合でも議論を続ける予定である。

FOMCの参加者によるこれまでの公の場での発言からは、FRBがYCCを正式に採用す

る場合、政策金利のフォワードガイダンスを強化するために用いられる可能性が高く、

短期~中期の金利をコントロールすることが焦点になることがうかがえる。パウエル議

長は、今後数ヶ月の間に景気回復の道筋やどのようなツールを導入すべきかについ

て政策当局者の理解が深まるだろうと述べたが、クラリダ副議長の最近の発言から

は、9月のFOMC会合で、より正式なYCCを導入する可能性が最も高いことが示唆され

る。

その場合、正式なYCC政策が信頼を得ると仮定すると、資産購入は政策金利が実効

下限水準(ELB)に維持されると予想される期間を超えた年限に集中する可能性があ

り、FRBが金融環境を緩和的に保つために必要な購入ペースを見直す機会をもたらそ

う。長期金利を低水準に維持するとのFRBの暗黙のコミットメントを市場が信頼してい

ると判断できれば、9月のFOMC会合で資産購入ペースが下方修正されると予想され

る。

FOMC参加者の経済見通しFRBが発表した最新の経済見通しに、サプライズはほとんどなかった。フェデラル・ファ

ンド(FF)金利誘導目標の中央値は、22年末まで実効下限で横ばい推移する予想と

なっており(図表95)、同年中の金利上昇を予想している参加者は2名のみであった。

FF金利の長期予想は2.5%で据え置かれたが、参加者予想の分布は幾分低下した。

北米経済Lewis Alexander - NSI

雨宮 愛知  エコノミスト - NSIRobert Dent - NSI

Kenny Lee - NSI

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

53

クラリダ副議長が指摘したように、FOMCは、FF金利の長期予想に何らかの大幅な変

更を加える前に、新型コロナウイルス(COVID-19)が労働市場と生産性に与える潜在

的な影響について追加情報を収集する必要があるだろう。

図表 95: FOMC参加者の経済見通し(2020年6月と19年12月の比較)

赤字は下方修正(失業率は悪化)、緑字は上方修正を示す。

(前年比%) 2020 2021 2022

長期均衡水準

実質GDP成長率 20年6月 -6.5 5.0 3.5 1.8

19年12月 2.0 1.9 1.8 1.9

失業率(%) 20年6月 9.3 6.5 5.5 4.1

19年12月 3.5 3.6 3.7 4.1

個人消費支出(PCE)デフレータ 20年6月 0.8 1.6 1.7 2.0

19年12月 1.9 2.0 2.0 2.0

コアPCEデフレータ 20年6月 1.0 1.5 1.7

19年12月 1.9 2.0 2.0

FOMC参加者の政策金利見通し(中央値、%)

20年6月 0.125 0.125 0.125 2.500

19年12月 1.625 1.875 2.125 2.500

出所: 連邦準備制度理事会(FRB)、野村

パウエル議長はまた、自身の長期見通しを変更しなかった理由の1つは、FOMCが現

在、緩和的な政策を提供するとともに、家計、企業及び地方政府への円滑な信用の流

れを支援するための様々なプログラムを継続することにより、経済に対する恒久的な

ダメージを回避しようとしていることがあると強調した。FOMC参加者予想のその他の

変更はおおむね予想通りであったが、実質GDP成長率の長期予想の中央値は年+

1.8%へ0.1%ポイント下方修正された。最後に、パウエル議長は、望ましくないインフレ

を引き起こさない失業率の下限が以前考えられていたよりもはるかに低い水準になる

可能性があることなど、FRBの戦略見直しから得られた知見を引き続き強調した。

パウエル議長は記者会見の終わりに、資産バブルを懸念しているかどうかという明確

な質問を受けた。パウエル議長は、COVID-19の感染拡大が金融システムに多大なス

トレスをもたらしたが、FRBの積極的な対応がそのストレスを緩和したと強調した。しか

し、FRBの主な目標は物価の安定と持続可能な雇用の最大化であり、その目標達成

には程遠い。また、金融システムの状況は底堅い。その意味で、資産バブル懸念は金

融政策の制約とはならないだろう。

FRBの戦略見直しFOMC声明でも、パウエル議長の記者会見でも、今回、明確には出てこなかった話題

の1つが、FOMCが現在行っている長期戦略の見直しである。我々は、FOMCが今後の

複数の会合で見直しを完了し、平均インフレターゲティング(AIT)を採用すると考えてい

る。COVID-19以前からそうした議論が続いていたが、2020~22年のFOMC参加者の

インフレ見通しが+1.4%となっているため、FOMCが何らかのAITを採用すれば、23年

以降の数年間は+2%以上のインフレを目標とすることになる。

今回の記者会見で、パウエル議長は、過去数年間にわたり失業率が非常に低水準で

推移したが、インフレに対する強い上昇圧力やその他の悪影響は生じなかったと強調

した。さらに、労働市場が極めて堅調に推移したことは、低賃金労働者に重要な恩恵

をもたらした。このことは、持続可能な最大雇用を促進するというFRBの責務に照らし

て、FRBが従来の基準に比べてより「ホットな(強い)」労働市場を目指すべきであること

を示唆している。なお、FOMC参加者の改定後の見通しでは、22年末の失業率を5.5%

と予想しているが、これは長期予想の4.1%を依然として大きく上回る。これらはいずれ

も、FRBの長期戦略見直しの結果、短期金利を非常に長期にわたり極めて低い水準

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

54

に維持するという市場の期待が強まる可能性が高いことを示唆している。

戦略見直しのもう1つのパートは、FRBの各種政策手段の評価である。政策手段に関

する見直しの一部は、既にCOVID-19に対するFRBの政策対応を形成する上で生かさ

れたと我々はみている。上述のように、我々は、9月のFOMC会合でフォワードガイダン

スが導入されると予想しているが、それまでに、状態依存のガイダンスになるか、時間

(期限)ベースのガイダンスになるかが、より集中的に議論されるだろう。戦略見通しの

最後のパートは、長期金利の上昇圧力抑制を目的として資産購入を用いるYCC等の

オプションの評価となるだろう。上述のように、FRBの最終的な判断は9月に明らかに

なるだろう。しかし、この問題についても、 FOMC が現在行っている資産購入の意思

決定は、すでにFRBの判断を反映していると考えられる。よって戦略見通しの終了後

にアプローチが劇的に変化することは予想されない。

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

55

7.欧州経済:財政・金融政策で景気をテコ入れ※本稿は、野村の関連会社が2020年6月9日に発行したレポートを野村證券で翻訳、編集したものです。

欧州中央銀行( ECB) は7 月 の 政策理事会 で 金融政策 を 据 え 置 くと 見込 む。 欧

州委員会( EC) が 提案 した7,500 億 ユーロ の 復興基金構想 についての 交渉 が 注

目 される。

景気動向:ユーロ圏の経済活動は2020年4-6月期には底入れすると見込む。ユーロ

圏各国のほとんどが3月下旬に封鎖措置を打ち出したため、経済活動は4月に最も落

ち込み、一部で封鎖措置が解除され始めた5月に緩やかな回復に向かったとみられ

る。ユーロ圏の4月の失業率は我々が予想していたほどには上昇しなかった。これは

失業者の一部が職探しに難航して求職をやめたことも一因だと考えられるが、各国政

府が従業員を解雇せず一時帰休とする企業に対する支援スキームを打ち出したた

め、雇用市場が我々の当初予想よりも良好だった可能性もある。そのため野村では、

20年の失業率の予想を下方修正した。

物価動向:ECBは6月の政策理事会で、パンデミックとなって以来初めてのインフレ予

想を発表した。ECBのスタッフは、世界の多くの中央銀行や政府がかなりの規模の金

融・財政刺激策を打ち出しているにもかかわらず、新型コロナウイルスの感染拡大と

それに伴う前例のない経済活動の落ち込みはデフレ方向に作用するとみている。我々

も同じ見解で、20年、21年のインフレ率は低調に推移すると予想する。野村では、20年

の消費者物価(HICP)上昇率が前年比+0.5%に低下すると予想する。主にHICPのエ

ネルギー価格の下落によるもので、コアHICP上昇率は同+0.9%と予想する。

金融政策:ECBは6月の政策理事会で、新型コロナウイルスパンデミック緊急購入プロ

グラム(PEPP)を6,000億ユーロ増額した。我々は実際の買い入れのペースに注目して

おり、今のところ1日約50億ユーロのペースとなっている。我々はECBが次回7月の会

合で政策金利を据え置くとみている。今後我々が注目するのは、1) 量的緩和における

資産購入の対象に投機的水準に格下げされた債券を加えるかどうか、2) 加盟国の経

済規模や出資比率に応じた買い入れ割り当て(キャピタルキー)の遵守に関する議論、

になるとみる。1) について、ECBは米連邦準備制度理事会(FRB)と動きを合わせ、

PEPPについてのみ投機的水準の資産の購入を認めると考えられる。2) については、

ECBが近い将来にキャピタルキーを廃止する公算は小さいと考える。欧州連合司法裁

判所(ECJ)が18年に下した判決によれば、ECBの資産購入にキャピタルキーを適用す

ることが、資産購入プログラム自体の適法性を支える。またキャピタルキーは購入額

自体ではなく、購入した資産の残高に適用されることにも留意したい。PEPPは少なくと

も21年6月まで実施され、再投資は少なくとも22年いっぱい続くため、ECBはキャピタル

キーの要件を満たすために資産の残高を調整する時間がある。

財政政策:ECが5月に7,500億ユーロの復興基金構想を発表したことを受けて、市場に

は楽観姿勢が広がった。しかし現時点では加盟国間の同意にはまだ達しておらず、基

金が創設されるのは21年となる可能性が高いことに留意したい。6月第2週には交渉

が始まり、財政政策のハト派とタカ派の間で妥協点が探られるだろう。最終的な基金

の規模が減額されたり、補助金と融資の割合が変更されたりする可能性もある。交渉

における最も重要な点は、基金の規模自体ではなく、債務相互化についての議論であ

ろう。

欧州経済George Buckley - NIplc

Chiara Zangarelli - NIplc

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

56

図表 96: ユーロ圏経済見通し要約表

19Q1 19Q2 19Q3 19Q4 20Q1 20Q2 20Q3 20Q4 21Q1 21Q2 21Q3 21Q4 2019年 2020年 2021年

実質GDP 0.5 0.1 0.3 0.1 -3.8 -13.3 10.9 1.7 2.0 1.0 0.5 0.5 1.2 -8.2 6.0

個人消費 0.4 0.2 0.5 0.1 -4.5 -15.0 14.0 1.6 2.5 1.3 0.6 0.6 1.3 -8.8 8.1

総固定資本形成 0.9 5.0 -3.8 4.4 -3.0 -17.0 11.0 2.0 3.0 1.0 0.5 0.5 5.5 -8.1 6.6

政府消費 0.5 0.4 0.6 0.4 0.4 1.0 0.3 0.4 0.3 0.2 0.3 0.3 1.7 2.1 1.4

輸出(財・サービス) 0.9 0.0 0.6 0.3 -2.0 -13.0 7.2 1.5 0.8 0.5 0.8 0.8 2.5 -7.6 3.1

輸入(財・サービス) 0.3 2.7 -1.4 2.2 -0.6 -10.0 5.5 1.0 0.9 0.5 0.9 0.9 3.8 -3.8 2.8

GDPへの寄与度

国内最終需要 0.5 1.2 -0.5 1.1 -3.0 -11.5 9.7 1.4 2.0 1.0 0.5 0.5 2.1 -6.1 6.0

在庫投資 -0.4 0.1 -0.2 -0.1 0.0 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.5 -0.1 0.1

純輸出 0.3 -1.2 0.9 -0.8 -0.7 -1.8 1.0 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.4 -2.0 0.5

実質GDP 1.9 0.6 1.2 0.4 -14.4 -43.6 51.3 6.9 8.4 3.9 2.1 2.0 1.2 -8.2 6.0

失業率(%) 7.8 7.6 7.5 7.4 7.2 8.6 11.5 10.5 10.0 9.5 9.0 8.0 7.6 9.5 9.1

雇用者報酬(一人当たり) 2.3 2.1 2.1 1.7 1.6 1.4 1.1 1.4 1.5 1.6 1.7 1.7 2.0 1.4 1.6

労働生産性 0.0 0.0 0.2 -0.1 -3.6 -12.1 -6.5 -5.4 -0.8 9.5 3.1 2.4 0.0 -6.9 3.6

単位労働コスト 2.3 2.1 1.9 1.8 5.2 13.5 7.6 6.8 2.2 -7.9 -7.9 -7.9 2.0 8.3 -2.0

消費者物価(HICP) 1.4 1.4 1.0 1.0 1.1 0.2 0.3 0.4 0.6 1.2 1.3 1.3 1.2 0.5 1.1

コアHICP上昇率 1.0 1.1 0.9 1.2 1.1 0.8 0.8 0.8 0.9 1.1 1.2 1.2 1.0 0.9 1.1

ECB主要リファイナンス金利 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00

中銀預金金利 -0.40 -0.40 -0.50 -0.50 -0.50 -0.50 -0.50 -0.50 -0.50 -0.50 -0.50 -0.50 -0.50 -0.50 -0.50

3ヶ月物EURIBOR金利 -0.31 -0.35 -0.42 -0.38 -0.36 -0.30 -0.30 -0.30 -0.30 -0.30 -0.30 -0.30 -0.38 -0.30 -0.30

10年物ドイツ国債利回り -0.07 -0.33 -0.57 -0.19 -0.47 -0.65 -0.65 -0.65 -0.60 -0.60 -0.55 -0.50 -0.19 -0.65 -0.50

ユーロ/ドル為替レート(ドル) 1.12 1.14 1.08 1.12 1.10 1.07 1.09 1.12 1.12 1.13 1.14 1.15 1.12 1.12 1.15

(季節調整済み前期比%)

(季節調整済み前期比%ポイント)

(前年同期比% )

(前年比%)

(季節調整済み前期比年率%)

(前年同期比% )

注: 1. 失業率は労働力人口に対する比率で、四半期平均。2. 金利・為替は期末値。3. 太字は実績値、その他は野村予測。4. 在庫投資は統計誤差を含む。5. 2020年6月8日現在。    

出所: 欧州連合(EU)統計局、欧州中央銀行(ECB)、欧州連合統計局、ブルームバーグ、ヘイバー・アナリティクス、野村

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

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8.英国経済:BOEは6月に資産購入枠拡大を発表か※本稿は、野村の関連会社が2020年6月9日に発行したレポートを野村證券で翻訳、編集したものです。

現行 の 資産購入枠 は7 月初 めに 枯渇 する 見通 しであり、 野村 では イングランド

銀行( BOE: 中央銀行) が6 月 の 金融政策委員会 で 資産購入枠 の1,500 億 ポンド

拡大 を 決定 すると 予想 する。

景気動向:本レポートは統計局による2020年4月GDP統計発表(訳注:6月12日)の前

に発行を予定している。4月の実質GDP成長率は3月の前月比-5.8%から更に落ち込

み、同-20%近くになると予想されている(訳注:実績同-20.4%)。しかし、20年前半の

経済活動減少の絶対規模よりも重要なのは、その後の景気回復の速度と度合いであ

ろう。野村では引き続き、回復は「V字」型よりも弱く、「レ」型に近いものになるとみてい

る。各種規制は徐々に解除されても、新型コロナウイルス封じ込めのための措置で生

産性が損なわれており、また家計はソーシャルディスタンスが要求される場所(パブ、

飲食店、公共交通機関等)の利用再開を慎重に進めると考えられるためである。

市場は英国の経済活動が21年末には感染拡大前比-0.5%前後まで戻ると予想して

いる。イタリアとスペインに関する予想は主要7ヶ国(G7)の中で最も低く、市場予想は21

年末時点で感染拡大前を5%近く下回る水準にある。野村では英国経済について市場

ほど楽観しておらず、21年末の実質GDPの水準を19年末比-3.5%と予想している。

仮にこの予想が正しく、22年以降の成長率がより平常時に近い水準に戻る場合、英国

経済がコロナ前の水準に戻るのは23年後半になるとみられる。

物価動向:新型コロナウイルスによる物価への影響がこれまでのところマイナスである

ことに異論はないだろう。消費者物価(CPI)上昇率は19年平均と比べて1%ポイント低

下しており、コアCPI上昇率も同0.3%ポイント低下している。非コアインフレ率の低下を

引き起こしたのはエネルギー価格の下落であり、家庭用光熱費とガソリン価格の両方

が下落した(それぞれがCPI上昇率を19年比で0.4%ポイント近く下押し)。コアCPI項目

の中では、衣料品・履物と家具・家庭用品の下落が特に著しいが、足元の景気後退の

性質上、このことに不思議はない。とはいえ、一部項目については店舗の休業等で

データ収集ができず、英国国家統計局が価格を推計して補完しているものもあり、物

価をどれほど正確に把握できているかは不明である。中長期には、新型コロナウイル

スの影響は物価を(マネー供給や財政支援により)押し上げる方向ではなく、(経済の弛

みの拡大により)押し下げる方向に働くとみている。

金融政策:野村ではBOEが次回6月18日の金融政策委員会において、資産購入枠の

拡大を発表すると予想している。現在は英国債を週に135億ポンド、社債を週に5億ポ

ンドのペースで購入しているが、このペースでいけば2,000億ポンドの資産購入枠は7

月1日には使い切る計算になる。BOEが我々の予想通り資産購入プログラムの拡大を

発表する場合、定例会合としては6月18日が最後のチャンスになる。また、現在のペー

スで資産購入を続ければ、仮に購入枠を1,000億ポンド拡大しても8月20日までに使い

切ってしまうことから、野村では購入枠の拡大は従来予想していた1,000億ポンドよりも

大規模になるとみて、次回金融政策委員会で1,500億ポンドの資産購入枠追加を発表

するとの予想に変更する。この場合、現在のペースで資産購入を続けると9月半ば(金

融政策委員会の直前)に使い切ることになる。財政政策については、財務省が次の大

型景気対策は秋以降になると明言しており、7月に補正予算を編成する計画はなくなっ

た。

欧州経済George Buckley - NIplc

Chiara Zangarelli - NIplc

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

58

図表 97: 英国経済見通し要約表

19Q1 19Q2 19Q3 19Q4 20Q1 20Q2 20Q3 20Q4 21Q1 21Q2 21Q3 21Q4 2018年 2019年 2020年 2021年

実質GDP 0.7 -0.2 0.5 0.0 -2.0 -19.0 13.5 1.8 2.0 1.8 0.7 0.5 1.3 1.4 -10.0 6.1

民間消費 0.1 0.5 0.3 -0.1 -1.7 -23.0 17.5 1.8 2.2 1.7 0.8 0.4 1.6 1.1 -11.4 6.6

総固定資本形成 1.0 -0.5 0.5 -1.2 -1.0 -17.4 8.4 2.3 1.8 2.1 0.7 0.5 -0.2 0.6 -10.8 4.7

政府消費 1.1 1.1 0.0 1.5 -2.6 2.0 1.8 1.3 0.8 0.7 0.6 0.6 0.4 3.5 1.4 4.2

輸出(財・サービス) 1.8 -3.5 7.0 5.0 -10.8 -25.0 15.0 5.0 2.0 1.0 0.5 0.5 1.2 4.8 -16.6 6.2

輸入(財・サービス) 9.3 -10.7 2.3 0.4 -5.3 -25.0 15.0 5.0 2.0 1.0 0.5 0.5 2.0 4.6 -17.9 6.2

GDPへの寄与度

在庫投資 1.0 -1.2 -0.9 0.3 -0.3 0.2 0.8 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.2 -0.3 0.4

純輸出 -2.4 2.6 1.3 1.4 -1.9 0.1 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.2 0.0 0.6 0.0

実質GDP 2.7 -0.6 2.1 0.1 -7.7 -57.0 66.0 7.4 8.4 7.4 3.0 1.9 1.3 1.4 -10.0 6.1

失業率(%) 3.8 3.9 3.8 3.8 3.9 8.0 8.5 8.0 7.4 7.0 6.7 6.5 4.1 3.8 7.1 6.9

週平均賃金 3.1 3.9 3.7 2.9 2.5 0.0 -1.8 -1.9 -0.7 1.4 3.2 3.5 3.0 3.4 -0.3 1.9

消費者物価(HICP)上昇率 1.9 2.0 1.8 1.4 1.7 0.7 0.5 0.8 0.8 1.6 1.7 1.9 2.5 1.8 0.9 1.5

コアCPI上昇率 1.9 1.8 1.7 1.6 1.6 1.4 1.2 1.3 1.2 1.6 1.7 2.0 2.1 1.7 1.4 1.6

政策金利(バンクレート、期末値) 0.75 0.75 0.75 0.75 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.75 0.75 0.10 0.10

資産購入プログラム(十億ポンド) 445 445 445 445 459 641 795 795 795 795 795 795 445 445 795 795

3ヶ月物銀行間金利(%) 0.85 0.77 0.76 0.79 0.60 0.20 0.20 0.20 0.20 0.20 0.25 0.30 0.91 0.79 0.20 0.30

10年物国債利回り 1.00 0.83 0.49 0.82 0.36 0.30 0.25 0.30 0.35 0.40 0.50 0.60 1.28 0.82 0.30 0.60

ポンド/ユーロ為替レート(ポンド) 0.86 0.89 0.89 0.85 0.89 0.92 0.91 0.90 0.87 0.86 0.86 0.85 0.90 0.85 0.90 0.85

ポンド対ドル相場(ドル) 1.30 1.27 1.23 1.33 1.24 1.16 1.20 1.24 1.29 1.31 1.33 1.35 1.28 1.33 1.24 1.35

ポンド(貿易加重平均) 78.9 76.4 76.4 80.1 77.5 74.1 75.4 76.7 79.5 80.5 80.9 81.9 76.5 80.1 76.7 81.9

(季節調整済み前期比%)

(季節調整済み前期比%ポイント)

(前年同期比% )

(前年比%)

(季節調整済み前期比年率%)

(前年比%ポイント)

(前年比%)

注: 1. 失業率は労働力人口に対する比率。2. 金利・為替は期末値。3. 在庫投資は統計誤差を含む。4. 太字は実績値、その他は野村予想。5. 2020年6月8日現在。

出所: 英国統計局、イングランド銀行(BOE)、ブルームバーグ、ヘイバー・アナリティクス、野村

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

59

主要国の主な日程図表 98: 2020年7月のイベント・カレンダー

オセアニア アジア 英国/欧州 北米日銀短観 ユーロ圏製造業業PMI 米ADP雇用統計香港休場 英製造業業PMI 米ISM製造業指数

FOMC議事要旨カナダ休場

豪貿易収支 米貿易収支米雇用統計

7月3日 金 豪小売統計 米国休場7月4日 土7月5日 日7月6日 月 独製造業受注 米ISM非製造業指数7月7日 火 RBA金融政策 独鉱工業生産7月8日 水 日本経常収支7月9日 木 中国CPI7月10日 金 カナダ雇用統計7月11日 土7月12日 日7月13日 月

中国貿易収支 英鉱工業生産 米CPI英製造業受注英雇用統計

7月15日 水 日銀金融政策 英CPI BOC金融政策豪雇用統計 中国GDP ECB金融政策 米小売統計

NZ CPI 中国小売統計7月17日 金 米住宅着工件数7月18日 土7月19日 日7月20日 月 日銀議事要旨7月21日 火 RBA議事録 日本CPI

米中古住宅販売件数カナダCPI

7月23日 木 日本休場7月24日 金 NZ貿易収支 日本休場 英小売統計 米新築住宅販売件数7月25日 土7月26日 日7月27日 月7月28日 火7月29日 水 豪CPI FOMC

7月30日 木 独CPI 米GDP中国製造業PMI ユーロ圏GDP 米個人消費支出シンガポール休場 ユーロ圏HICP カナダGDP

7月16日 木

7月22日 水

7月31日 金

7月1日 水

7月2日 木

7月14日 火

出所: ブルームバーグ、野村

国際金融為替マンスリー2020年8月号の発行は、7月21日(火)を予定。

Nomura | 国際金融為替マンスリー 2020年6月18日

60

Appendix A-1

アナリスト証明

名前を記載されているアナリストは、レポートに記述されている各自の全ての見方がここで議論した全ての証券や発行企業に対する各

自の見方を正確に反映していることを保証いたします。 さらに、名前を記載されているアナリストは、各自の報酬が、直接的あるいは間

接的にこのレポートで議論した推奨や見方によって、現在、過去、未来にわたって一切影響を受けないこと、ならびに、米国のNSI、英国

のNIPあるいはその他の野村のグループ企業が行ったいかなる投資銀行案件とも関係ないことを保証いたします。

重要なディスクロージャー

リサーチのオンライン提供と利益相反に関するディスクロージャー 野村グループのリサーチは、www.nomuranow.com/research 、ブルームバーグ、キャピタルIQ、ファクトセット、ロイター、トムソン・ワンでご覧いただけます。重要なディスクロージャーにつきましては、http://go.nomuranow.com/research/globalresearchportal/pages/disclosures/disclosures.aspx にてご参照いただくか、ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル・インクまたはインスティネットLLC(1-877-865-5752)までお申し出ください。ウェブサイトへのアクセスでお困りの場合には[email protected] にお問い合わせください。

本レポートを作成したアナリストは、その一部は投資銀行業務によって得ている会社の総収入など、様々な要素に基づく報酬を得ています。特に断りがない限り、本レポートの表紙に記載されている米国外のアナリストは、金融取引業規制機構(FINRA)/ニューヨーク証券取引所(NYSE)の規定に基づくリサーチ・アナリストとしての登録・資格を得ておらず、NSIまたはILLCの関係者ではない場合があり、また、調査対象企業とのコミュニケーション、公の場での発言、あるいはリサーチ・アナリスト個人が保有する証券の売買に関して、FINRAの規則2241やNYSEの規則472を適用されない場合があります。

ノムラ・グローバル・フィナンシャル・プロダクツ・インク(「NGFP」)、ノムラ・デリバティブ・プロダクツ・インク(「NDPI」)およびノムラ・インターナショナルplc(「NIplc」)は、商品先物取引委員会および米国先物取引委員会にスワップ・ディーラーとして登録されています。NGFP、NDPIおよびNIplcは、通常業務として、先物およびデリバティブ商品のトレーディングに従事しており、いずれの商品も本レポートの対象となることがあります。

米国で必要なその他のディスクロージャー NSIならびにその関連会社は、通常、このリサーチレポートで言及されている債券あるいはそのデリバティブの取引を行っています。アナリストは、NSIの従業員と情報を交換しています。NSIならびにその関連会社の債券アナリストは、それぞれがカバーする債券の流動性や価格情報を得るため、トレーディング・デスクの従業員とも情報を交換しています。

評価方法:債券等 野村の債券アナリストならびにストラテジストは、個々の取引推奨を通じ債券や金融商品の価格について見通しを提供しています。これらの推奨は相対価値、相場の方向性及び資産配分に係る取引推奨、ないし、これら三つの組み合わせとなります。個々の取引推奨が内包している証券分析には通常以下の分析が含まれています。・ 各証券価格とその背景にあるマクロあるいはミクロ経済との乖離に関するファンダメンタル分析・ 価格の差異に関する計量分析・ 法令諸規則の変更、市場におけるリスク選好の変化、予想外の格付けアクション、発行市場の動向や需給状況などに関するテクニカル要因の分析債券や金融商品に対する推奨期間は個々の推奨で異なります。テクニカル要因に基づく取引推奨はより短期で、通常3ヶ月未満の期間を対象としています。戦略的な取引推奨はより長期で、通常3ヶ月を超える期間を対象としています。

EUの市場濫用規制が求める野村の金融市場関連リサーチのグローバルでの評価の分布は以下のとおりです。 61%がBuy(ないしそれと同等の)レーティングであり、このBuyの発行者のうち67%に対して野村グループは重要な証券サービスを提供しています。0%がNeutral(ないしそれと同等の)レーティングです。39%がSell(ないしそれと同等の)レーティングであり、このSellの発行者のうち67%に対して野村グループは重要な証券サービスを提供しています。2020年4月3日現在重要な証券サービスはEUの市場濫用規制で定義されています。野村グループの説明は、ディスクレイマーの冒頭をご参照ください。

ディスクレイマー本資料は表紙に記載されている野村グループの関連会社により作成されたもので、表紙などに従業員やその協力者が記載されている1社あるいは複数の野村グループの関連会社によって単独あるいは共同で作成された資料が含まれます。ここで使用する「野村グループ」は、野村ホールディングス、およびその関連会社と子会社を指し、(a)日本の野村證券(「NSC」)、(b)ドイツのノムラ・ファイナンシャル・プロダクツ・ヨーロッパGmbH(「NFPE」)、(c)英国のノムラ・インターナショナルplc (「NIplc」)、(d)米国のノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル・インク (「NSI」)、(e)インスティネットLLC (「ILLC」)、(f)香港の野村国際(香港) (「NIHK」)、(g)韓国のノムラ・フィナンシャル・インベストメント(韓国) (「NFIK」) (韓国金融投資協会(「KOFIA」)に登録しているアナリストの情報はKOFIAのイントラネットhttp://dis.kofia.or.kr でご覧いただけます)、(h)シンガポールのノムラ・シンガポール・リミテッド (「NSL」) (登録番号 197201440E、 シンガポール金融監督局の監督下にあります)、(i)オーストラリアのノムラ・オーストラリア・リミテッド (「NAL」) (ABN 48 003 032 513) (オーストラリアのライセンス番号246412、オーストラリア証券投資委員会(「ASIC」)の監督下にあります)、(j)マレーシアのノムラ・セキュリティーズ・マレーシアSdn. Bhd. (「NSM」)、(k)台湾のNIHK 台北支店 (「NITB」)、(l)インドのノムラ・フィナンシャル・アドバイザリー・アンド・セキュリティーズ (インディア) プライベート・リミテッド (「NFASL」)、 (登録住所: Ceejay House, Level 11, Plot F, Shivsagar Estate, Dr. Annie Besant Road, Worli, Mumbai- 400 018, India;電話: +91 22 4037 4037、ファックス: +91 22 4037 4111; CIN番号:U74140MH2007PTC169116、SEBI登録番号(株式ブローカレッジ): INZ000255633、SEBI登録番号(マーチャントバンキング):INM000011419、SEBI登録番号(リサーチ):INH000001014)が含まれます。リサーチ・レポートの表紙のアナリスト名の横に記載された「CNSタイランド」の記載は、タイのキャピタル・ノムラ・セキュリティーズ・パブリック・カンパニー・リミテッド (「CNS」)に雇用された当該アナリストが、CNS及びNSL間のアグリーメントに基づき、NSLにリサーチ・アシスタントのサービスを行っていることを示しています。リサーチ・レポートの表紙の従業員氏名の横に記載された「NSFSPL」は、ノムラ・ストラクチャード・ファイナンス・サービシーズ・プライベート・リミテッドに雇用された当該従業員が、インタ-カンパニー・アグリーメントに基づき、特定の野村の関連会社のサポ―トを行っていることを示しています。リサーチ・レポートの表紙のアナリスト名の横に記載された「

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BDO-NS」(「BDOノムラ・セキュリティーズ・インク」を表します)の記載は、BDOユニバンク・インク(「BDOユニバンク」)に雇用されBDO-NSに配属された当該アナリストが、BDOユニバンク、NSL及び BDO-NS間のアグリーメントに基づき、NSLにリサーチ・アシスタントのサービスを行っていることを示しています。BDO-NSはBDOユニバンクと野村グループのジョイント・ベンチャーで、フィリピンの証券ディーラーです。リサーチ・レポートの表紙の個人名の横に記載された「ベルダーナ」は、「PT ベルダーナ セキュリタス インドネシア(「ベルダーナ」)に雇用された従業員が、リサーチパートナーシップアグリーメントに基づき、NIHKに対してリサーチ・アシスタントのサービスを提供することを示しています。ベルダーナと当該個人はいずれもインドネシア国外でのライセンスを有していません。

本資料は、(i)お客様自身のための情報であり、投資勧誘を目的としたものではなく、(ii)証券の売却の申込みあるいは証券購入の勧誘が認められていない地域における当該行為を意図しておらず、かつ(iii)野村グループに関するディスクロージャー以外は、信頼できると判断されるが野村グループによる独自の確認は行っていない情報源に基づいております。野村グループに関するディスクロージャー以外は、野村グループは、本資料の公正性、正確性、完全性、適格性、信頼性、適切性、または部分的な目的に適合する、あるいは商業的に実行可能であることを明示的あるいは暗黙の、保証または提示もしくは約束するものではありません。また、法令・諸規則により許容可能な最大限の範囲において、本資料および関連データの利用の結果として行われた行為(あるいは行わないという判断)に対する責任(過失による、そうでなければ、全体または一部において)を負いません。これにより、野村グループによる全ての保証とその他の確証は法令・諸規則により許容可能な最大限の範囲まで免除されます。野村グループは本資料もしくは本資料に含まれる情報、ないしはそれに関連して生じるものの利用、誤用あるいは配布から生じるいかなる損失に対して一切の責任(過失による、そうでなければ、全体または一部において)を負いません。本資料中の意見または推定値は本資料に記載されている発行日におけるものであり、本資料中の意見および推定値を含め、情報は予告なく変わることがあります。野村グループは、いかなる義務も明示的に否定するものではなく、本資料を更新もしくは改定する義務を負うものではありません。本資料中の論評または見解は執筆者のものであり、野村グループ内の他の関係者の見解と一致しない場合があります。お客様は本資料中の助言または推奨が各自の個別の状況に適しているかどうかを検討する必要があります。また、必要に応じて、税務を含め、専門家の助言を仰ぐことをお勧めいたします。野村グループは税務に関する助言を提供しておりません。野村グループ、その執行役、取締役、従業員および関連会社は、関連法令、規則で認められている範囲内で、本資料中で言及している発行体の証券、商品、金融商品、またはそれらから派生したオプションやその他のデリバティブ商品、および証券について、自己勘定、委託、その他の形態による取引、買持ち、売持ち、あるいは売買を行う場合があります。また、野村グループ会社は発行体の金融商品の(英国の適用される規則の意味する範囲での)マーケットメーカーあるいはリクイディティ・プロバイダーを務める場合があります。マーケットメーカー活動が米国あるいはその他の地域における諸法令および諸規則に明記された定義に従って行われる場合、発行体の開示資料においてその旨が別途開示されます。本資料には、第三者から入手した情報が記載されている場合がありますが、スタンダード&プアーズ (S&P) などの格付け機関による格付けだけではありません。野村グループは、本資料もしくはそれに関連して生じる第三者から取得した情報に関して、同一性、公正性、正確性、完全性、適格性、商品適格性、または部分的な目的への適合性に係るすべての表明、保証、または約束を明示的に一切負わないものとし、また、本資料に含まれている、またはそれに関連して生じる、直接的、間接的、偶発的、懲罰的、補償的、罰則的、特別あるいは派生的な損害、費用、経費、弁護料、損失コスト、損失 (逸失利益や機会費用を含む) に関する責任(過失による、そうでなければ、全体または一部において)を負うものではありません。当該第三者の書面による事前の許可がない限り、第三者が関わる内容の複製および配布は形態の如何に関わらず禁止されております。第三者である情報提供者は格付けを含め、いずれの情報の公正性、正確性、完全性、適格性、適時性あるいは利用可能性を、明示的あるいは暗黙の保証をしておらず、原因が何であれ、(不注意あるいは他の理由による)誤りあるいは削除、または当該内容の利用もしくは誤用に起因する結果に対する一切の責任を負いません。第三者である情報提供者は、商品適格性、または部分的な目的への適合性の保証を含め(ただしこれに限定されない)、明示的あるいは暗黙の保証を行っていません。第三者である情報提供者は格付けを含め、提供した情報の利用に関連する直接的、間接的、偶発的、懲罰的、補償的、罰則的、特別あるいは派生的な損害、費用、経費、弁護料、損失コスト、費用(損失収入または利益、機会コストを含む)に対する責任(過失による、そうでなければ、全体または一部において)を負いません。信用格付けは意見の表明であり、事実または証券の購入、保有、売却の推奨を表明するものではありません。格付けは証券の適合性あるいは投資目的に対する証券の適合性を扱うものではなく、投資に関する助言として利用することはお控えください。本資料中に含まれるMSCIから得た情報はMSCI Inc.(「MSCI」)の独占的財産です。MSCIによる事前の書面での許可がない限り、当該情報および他のMSCIの知的財産の重複、複製、再配信、再配布あるいは使用は、金融商品と指数の作成においては、いかなる目的であっても、その全部または一部を含んでの利用は認められません。当該情報は現状の形で提供されています。利用者は当該情報の利用に関わるすべてのリスクを負います。これにより、MSCI、その関連会社または当該情報の計算あるいは編集に関与あるいは関係する第三者は当該資料もしくは本資料に含まれる情報、ないしはそれに関連して生じるもののすべての部分について、独創性、公正性、正確性、完全性、適格性、商品適格性、特定の目的に対する適性に関する表明、保証または約束を明確に放棄いたします。前述の内容に限定することなく、MSCI、その関連会社、または当該情報の計算あるいは編集に関与あるいは関係する第三者はいかなる種類の損失に対する責任(過失による、そうでなければ、全体または一部において)をいかなる場合にも一切負いません。MSCIおよびMSCI指数はMSCIおよびその関連会社のサービス商標です。Russell/Nomura 日本株インデックスの知的財産権およびその他一切の権利は野村證券株式会社およびFrank Russell Company に帰属します。なお、野村證券株式会社およびFrank Russell Company は、当インデックスの公正性、正確性、完全性、適格性、信頼性、有用性、市場性、商品性および適合性を保証するものではなく、インデックスの利用者およびその関連会社が当インデックスを用いて行う事業活動・サービスに関し一切責任を負いません。

本資料は投資家のお客様にとって投資判断を下す際の諸要素のうちの一つにすぎないとお考え下さい。また、本資料は、直接・間接を問わず、投資判断に伴う全てのリスクについて検証あるいは提示しているのではないことをご了解ください。野村グループは、ファンダメンタル分析、定量分析等、異なるタイプの数々のリサーチ商品を提供しております。また、時間軸の捉え方や分析方法の違い等の理由により、リサーチのタイプによって推奨が異なる場合があります。野村グループは野村グループのポータル・サイト上へのリサーチ商品の掲載および/あるいはお客様への直接的な配布を含め、様々な方法によってリサーチ商品を発表しております。リサーチ部門が個々のお客様の要望に応じて提供する商品およびサービスはお客様の属性によって異なる場合があります。当レポートに記載されている数値は過去のパフォーマンスあるいは過去のパフォーマンスに基づくシミュレーションに言及したものである場合があり、将来のまたは見込まれるパフォーマンスを示唆するものとして信頼できるものではありません。情報に将来のパフォーマンスおよび事業の見通しに関する期待、予想、示唆が含まれている場合、係る予想は将来のまたは見込まれるパフォーマンスを示唆するものとして必ずしも信頼できるものではありません。また、シミュレーションはモデルと想定の簡略化に基づいて行われており、想定が過度に簡略化され、将来のリターン分布を反映していない場合があります。本資料で説明のために作成・発行された数値、投資ストラテジー、インデックスは、EU金融ベンチマーク規制が定義する"ベンチマーク"としての"使用"を意図したものではありません。

特定の証券は、その価値または価格、あるいはそこから得られる収益に悪影響を及ぼし得る為替相場変動の影響を受ける場合があります。金融市場関連のリサーチについて:アナリストによるトレード推奨については、以下の2通りに分類されます;戦術的(tactical)トレード推奨は、向こう3ヶ月程度の見通しに基づいています;戦略的(strategic)トレード推奨は、向こう6ヶ月から12ヶ月の見通しに基づいています。これら推奨トレードについては、経済・市場環境の変化に応じて、適宜見直しの対象となります。また、ストップ・ロスが明記されたトレードについては、その水準を超えた時点で推奨の対象から自動的に外れます。トレード推奨に明記される金利水準や証券のプライスについては、リサーチ・レポートの発行に際してアナリストから提出された時点の、ブルームバーグ、ロイター、野村のいずれかによる気配値であり、その時点で、実際に取引が可能な水準であるとは限りません。本資料に記載された証券は米国の1933年証券法に基づく登録が行われていない場合があります。係る場合、1933年証券法に基づく登録が行われる、あるいは当該登録義務が免除されていない限り、米国内で、または米国人を対象とする購入申込みあるいは売却はできません。準拠法が他の方法を認めていない限り、いかなる取引もお客様の地域にある野村の関連会社を通じて行う必要があります。

本資料は、NIplcにより英国において投資リサーチとして配布することを認められたものです。NIplcは、英国のプルーデンス規制機構によって認可され、英国の金融行為監督機構とプルーデンス規制機構の規制を受けています。NIplcはロンドン証券取引所会員です。本資料は、英国の適用される規則の意味

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する範囲での個人的な推奨を成すものではなく、あるいは個々の投資家の特定の投資目的、財務状況、ニーズを勘案したものではありません。本資料は、英国の適用される規則の目的のために「適格カウンターパーティ」あるいは「専門的顧客」である投資家のみを対象にしたもので、したがって、当該目的のために「個人顧客」である者への再配布は認められておりません。本資料は、ノムラ・ファイナンシャル・プロダクツ・ヨーロッパGmbH (「NFPE」)により欧州経済領域内において投資リサーチとして配布することを認められたものです。NFPEは、フランクフルト/マイン裁判所の商業登記簿に登録された商業登記番号HRB110223であるドイツ法下の有限責任会社として組織された会社であり、ドイツ連邦金融監督庁(BaFin)の監督下にあります。

本資料は、香港証券先物委員会の監督下にあるNIHKによって、香港での配布が認められたものです。本資料は、香港で適用される規制における「プロの投資家」 に該当する投資家のみを対象としており、そのような目的で 「プロの投資家」 でない人には再配布できません。本資料は、オーストラリアでASICの監督下にあるNALによってオーストラリアでの配布が認められたものです。また、本資料はNSMによってマレーシアでの配布が認められています。シンガポールにおいては、本資料は、証券先物法(第110条)及びその他で定義される免除フィナンシャルアドバイザーであるNSLにより配布されており、シンガポール通貨庁により規制されております。NSLは、金融アドバイザー規制の規則32Cに基づく取り決めに従って海外の関係会社により発行された本資料を配布することができます。本資料の受領者が、証券先物法(第289条)で定義されている認定、専門的もしくは機関投資家でない場合、NSLはそのような受領者に対しては本資料の内容について、法律によって要求される範囲においてのみ法的責任を負うものとします。シンガポールにて本資料の配布を受けたお客様は本資料から発生した、もしくは関連する事柄につきましてはNSLにお問い合わせください。本資料は、一般的な流通のために作成されたものであり、特定の投資目的、金融の状況又は特定の者の特定の必要性を考慮したものではありません。受領者は、別途の契約に基づいて、投資の適切性についてフィナンシャルアドバイザーからの助言を、妥当なものであるとして受けることを含め、証券購入の決定をする前に、自身の特定の投資目的、金融の状況又は特定の必要性を考慮する必要があります。本資料は米国においては1933年証券法のレギュレーションSの条項で禁止されていない限り、米国登録ブローカー・ディーラーであるNSIにより配布されます。NSIは1934年証券取引所法規則15a-6に従い、その内容に対する責任を負っております。本資料を作成した会社は、野村グループ内の関連会社が、顧客が入手可能な複製を作成することを許可しています。

野村サウジアラビア、NIplc、あるいは他の野村グループ関連会社はサウジアラビア王国(「サウジアラビア」)での(資本市場庁が定めるところの、)「オーソライズド・パーソンズ」、「エグゼンプト・パーソンズ」、または「インスティテューションズ」以外の者への本資料の配布、アラブ首長国連邦(「UAE」)においては、(ドバイ金融サービス機構が定めるところの、)「マーケット・カウンターパーティー」または「専門的顧客」以外の者への配布、また、カタール国の(カタール金融センター規制機構が定めるところの、)「マーケット・カウンターパーティー」、または「ビジネス・カスタマーズ」以外の者への配布を認めておりません。サウジアラビアおいては、「オーソライズド・パーソンズ」、「エグゼンプト・パーソンズ」、または「インスティテューションズ」以外の者、UAEの「マーケット・カウンターパーティー」または「専門的顧客」以外の者、あるいはカタールの「マーケット・カウンターパーティー」、または「ビジネス・カスタマーズ」以外の者を対象に本資料ならびにそのいかなる複製の作成、配信、配布を行うことは直接・間接を問わず、係る権限を持つ者以外が行うことはできません。この規定に従わないと、サウジアラビア、UAE、あるいはカタールの法律に違反する行為となる場合があります。

カナダ投資家向け:当レポートは、Investment Industry Regulatory Organization of Canada (「IIROC」) およびCanadian Investor Protection Fundの会員であるInstinet Canada Limited (「ICL」)により、カナダの投資家向けに配布することを承認されています。ICLの関連会社が作成したリサーチ・レポート(「関連会社リサーチ・レポート」)は、当該関連会社の地域におけるリサーチ配布に適用される規則上の要件を満たすよう作成されており、利益相反に係る開示を含んでいます。ICLは、IIROCが必要とするカナダにおける開示が行われていることを確認するために当関連会社リサーチ・レポートをレビューしました。ICLは、関連会社リサーチ・レポートの配布に関連して、対価を受取っていません。ICLのリサーチ配信に関するポリシー及び手順に従い、ICLは関連会社リサーチ・レポートを、電子的にまたは印刷された形で、ICLの現顧客および将来の顧客のみにしか提供しません。ICLは、全ての受領者が同時に関連会社リサーチ・レポートを利用可能となる及びまたは配布されるよう努めます。当関連会社リサーチ・レポートは、推奨ではなく、また、いかなる特定の口座の投資対象、金融状況や特定のニーズを考慮しているものでもありません。インドネシア共和国の法律に基づいて公募増資を行う場合、本資料はインドネシア国内での配布、インドネシア共和国域内での流通やインドネシア国民(居住地または所在地にかかわらず)への流通、もしくはインドネシアの法人や居住者への提供はできません。本資料に言及されている証券のインドネシア国内における募集もしくは販売、インドネシア国民(居住地または所在地にかかわらず)への募集もしくは販売、あるいはインドネシア共和国の法律に基づいて公募増資を行う場合におけるインドネシアの法人、居住者への販売もしくは売却は行われない場合があります。台湾上場企業に関するレポートおよび台湾所属アナリスト作成のレポートについて:本資料は参考情報の提供だけを目的としています。お客様ご自身で投資リスクを独自に評価し、投資判断に単独で責任を負っていただく必要があります。本資料のいかなる部分についても、野村グループから事前に書面で承認を得ることなく、報道機関あるいはその他の誰であっても複製あるいは引用することを禁じます。「Operational Regulations Governing Securities Firms Recommending Trades in Securities to Customer」及びまたはその他の台湾の法令・規則に基づき、お客様が本資料を関係者、関係会社およびその他の第三者を含む他者へ提供すること、あるいは本資料を用いて利益相反があるかもしれない活動に従事することを禁じます。NIHK台湾支店が執行できない証券または商品に関する情報は、情報の提供だけを目的としたものであり、投資の推奨または勧誘を意図したものではありません。

本資料は、中華人民共和国(「中国」(この資料では、香港、マカオ、台湾を除く))の域外に設立された野村グループ若しくはその子会社・関連会社(以下総称して「オフショア会社」)により作成されており、中国国内での配布を承認されていない、もしくは配布を意図されていません。オフショア会社は、証券投資コンサルティングサービスを含む金融サービスを中国国内で実行する免許を保有していないか、中国当局の管理・監督下にありません。利用者は、投資判断を行うに当たり、本資料を利用してはならず、また本レポートに含まれる如何なる情報にも依拠してはいけません。また、オフショア会社はこれに関して責任を負いません。

本資料のいかなる部分についても、野村グループ会社から事前に書面で同意を得ることなく、(i)その形態あるいは方法の如何にかかわらず複製、撮影、再生成、または重複することあるいは(ii)再配信、再発行、再配布することを禁じます。本資料が、電子メール等によって電子的に配布された場合には、情報の傍受、変造、紛失、破壊、あるいは遅延もしくは不完全な状態での受信、またはウィルスへの感染の可能性があることから、安全あるいは誤りがない旨の保証は致しかねます。従いまして、送信者は電子的に送信したために発生する可能性のある本資料の内容の誤りあるいは欠落に対する責任(過失による、そうでなければ、全体または一部において)を負いません。確認を必要とされる場合には、印刷された文書をご請求下さい。

 日本で求められるディスクレイマー 

無登録格付に関する説明書  格付会社に対し、市場の公正性・透明性の確保の観点から、金融商品取引法に基づく信用格付業者の登録制が導入されております。これに伴い、金融商品取引業者等は、無登録の格付業者が付与した格付を利用して勧誘を行う場合、金融商品取引法により、無登録の格付業者が付与した格付(以下「無登録格付」といいます)である旨及び登録の意義等を顧客に告げなければならないこととされております。

○登録の意義について登録を受けた信用格付業者は、①誠実義務、②利益相反防止・格付プロセスの公正性確保等の業務管理体制の整備義務、③格付対象の証券を保有している場合の格付付与の禁止、④格付方針等の作成及び公表・説明書類の公衆縦覧等の情報開示義務等の規制を受けるとともに、報告徴求・立入検査、業務改善命令等の金融庁の監督を受けることとなりますが、無登録の格付業者は、これらの規制・監督を受けておりません。

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○格付業者についてスタンダード&プアーズ・格付業者グループの呼称等について格付業者グループの呼称:S&Pグローバル・レーティング(以下「S&P」といいます。)グループ内の信用格付業者の名称及び登録番号:S&Pグローバル・レーティング・ジャパン株式会社(金融庁長官(格付)第5号)・信用格付を付与するために用いる方針及び方法の概要に関する情報の入手方法についてS&Pグローバル・レーティング・ジャパン株式会社のホームページ(http://www.standardandpoors.co.jp)の「ライブラリ・規制関連」の「無登録格付け情報」(http://www.standardandpoors.co.jp/unregistered)に掲載されております。・信用格付の前提、意義及び限界についてS&Pの信用格付は、発行体または特定の債務の将来の信用力に関する現時点における意見であり、発行体または特定の債務が債務不履行に陥る確率を示した指標ではなく、信用力を保証するものでもありません。また、信用格付は、証券の購入、売却または保有を推奨するものでなく、債務の市場流動性や流通市場での価格を示すものでもありません。信用格付は、業績や外部環境の変化、裏付け資産のパフォーマンスやカウンターパーティの信用力変化など、さまざまな要因により変動する可能性があります。S&Pは、信頼しうると判断した情報源から提供された情報を利用して格付分析を行っており、格付意見に達することができるだけの十分な品質および量の情報が備わっていると考えられる場合にのみ信用格付を付与します。しかしながら、S&Pは、発行体やその他の第三者から提供された情報について、監査、デュー・デリジェンスまたは独自の検証を行っておらず、また、格付付与に利用した情報や、かかる情報の利用により得られた結果の正確性、完全性、適時性を保証するものではありません。さらに、信用格付によっては、利用可能なヒストリカルデータが限定的であることに起因する潜在的なリスクが存在する場合もあることに留意する必要があります。この情報は、2018年6月1日現在、当社が信頼できると考える情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性を当社が保証するものではありません。詳しくは上記S&Pグローバル・レーティング・ジャパン株式会社のホームページをご覧ください。

ムーディーズ・格付業者グループの呼称等について格付業者グループの呼称:ムーディーズ・インベスターズ・サービス(以下「ムーディーズ」といいます。)グループ内の信用格付業者の名称及び登録番号:ムーディーズ・ジャパン株式会社(金融庁長官(格付)第2号)・信用格付を付与するために用いる方針及び方法の概要に関する情報の入手方法についてムーディーズ・ジャパン株式会社のホームページ(ムーディーズ日本語ホームページ(https://www.moodys.com/pages/default_ja.aspx)の「信用格付事業」タブ)にある「無登録業者の格付の利用」欄の「無登録格付説明関連」に掲載されております。・信用格付の前提、意義及び限界についてムーディーズの信用格付は、事業体、与信契約、債務又は債務類似証券の将来の相対的信用リスクについての、現時点の意見です。ムーディーズは、信用リスクを、事業体が契約上・財務上の義務を期日に履行できないリスク及びデフォルト事由が発生した場合に見込まれるあらゆる種類の財産的損失と定義しています。信用格付は、流動性リスク、市場リスク、価格変動性及びその他のリスクについて言及するものではありません。また、信用格付は、投資又は財務に関する助言を構成するものではなく、特定の証券の購入、売却、又は保有を推奨するものではありません。ムーディーズは、いかなる形式又は方法によっても、これらの格付若しくはその他の意見又は情報の正確性、適時性、完全性、商品性及び特定の目的への適合性について、明示的、黙示的を問わず、いかなる保証も行っていません。ムーディーズは、信用格付に関する信用評価を、発行体から取得した情報、公表情報を基礎として行っております。ムーディーズは、これらの情報が十分な品質を有し、またその情報源がムーディーズにとって信頼できると考えられるものであることを確保するため、全ての必要な措置を講じています。しかし、ムーディーズは監査を行う者ではなく、格付の過程で受領した情報の正確性及び有効性について常に独自の検証を行うことはできません。この情報は、2018年6月1日現在、当社が信頼できると考える情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性を当社が保証するものではありません。詳しくは上記ムーディーズ・ジャパン株式会社のホームページをご覧ください。

フィッチ・格付業者グループの呼称等について格付業者グループの呼称:フィッチ・レーティングス(以下「フィッチ」といいます。)グループ内の信用格付業者の名称及び登録番号:フィッチ・レーティングス・ジャパン株式会社(金融庁長官(格付)第7号)・信用格付を付与するために用いる方針及び方法の概要に関する情報の入手方法についてフィッチ・レーティングス・ジャパン株式会社のホームページ(https://www.fitchratings.com/site/japan)の「フィッチの格付業務について」内の「規制関連」セクションにある「格付方針等の概要」に掲載されております。・信用格付の前提、意義及び限界についてフィッチの格付は、所定の格付基準・手法に基づく意見です。格付はそれ自体が事実を表すものではなく、正確又は不正確であると表現し得ません。信用格付は、信用リスク以外のリスクを直接の対象とはせず、格付対象証券の市場価格の妥当性又は市場流動性について意見を述べるものではありません。格付はリスクの相対的評価であるため、同一カテゴリーの格付が付与されたとしても、リスクの微妙な差異は必ずしも十分に反映されない場合もあります。信用格付はデフォルトする蓋然性の相対的序列に関する意見であり、特定のデフォルト確率を予測する指標ではありません。フィッチは、格付の付与・維持において、発行体等信頼に足ると判断する情報源から入手する事実情報に依拠しており、所定の格付方法に則り、かかる情報に関する調査及び当該証券について又は当該法域において利用できる場合は独立した情報源による検証を、合理的な範囲で行いますが、格付に関して依拠する全情報又はその使用結果に対する正確性、完全性、適時性が保証されるものではありません。ある情報が虚偽又は不当表示を含むことが判明した場合、当該情報に関連した格付は適切でない場合があります。また、格付は、現時点の事実の検証にもかかわらず、格付付与又は据置時に予想されない将来の事象や状況に影響されることがあります。信用格付の前提、意義及び限界の詳細にわたる説明については、フィッチの日本語ウェブサイト上の「格付及びその他の形態の意見に関する定義」をご参照ください。この情報は、2018年6月1日現在、当社が信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性を当社が保証するものではありません。詳しくは上記フィッチのホームページをご覧ください。 日本で求められるディスクレイマー レポート本文中の格付記号の前に※印のある格付けは、金融商品取引法に基づく信用格付業者以外の格付業者が付与した格付け(無登録格付け)です。無登録格付けについては「無登録格付に関する説明書」https://www.nomura.co.jp/retail/bond/noregistered.html  をご参照ください。当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリス

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クは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。国内REITは運用する不動産の価格や収益力の変動により損失が生じるおそれがあります。国内ETF・ETNは連動する指数等の変動により損失が生じるおそれがあります。国内インフラファンドは運用するインフラ資産等の価格や収益力の変動により損失が生じるおそれがあります。外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。信用取引には、売買手数料(約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は2,860円(税込み)))、管理費および権利処理手数料をいただきます。加えて、買付の場合、買付代金に対する金利を、売付けの場合、売付け株券等に対する貸株料および品貸料をいただきます。委託保証金は、売買代金の30%以上(オンライン信用取引の場合、売買代金の33%以上)で、かつ30万円以上の額が必要です。信用取引では、委託保証金の約3.3倍まで(オンライン信用取引の場合、委託保証金の約3倍まで)のお取引を行うことができるため、株価の変動により委託保証金の額を上回る損失が生じるおそれがあります。詳しくは、上場有価証券等書面、契約締結前交付書面、等をよくお読みください。

CBの売買取引には、約定代金に対し最大1.10%(税込み)(4,400円に満たない場合は4,400円(税込み))の売買手数料をいただきます。CBを相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。CBは転換もしくは新株予約権の行使対象株式の価格下落や金利変動等によるCB価格の下落により損失が生じるおそれがあります。加えて、外貨建てCBは、為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。

債券を募集・売出し等その他、当社との相対取引によってご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。債券の価格は市場の金利水準の変化に対応して変動しますので、損失が生じるおそれがあります。また、発行者の経営・財務状況の変化及びそれらに関する外部評価の変化等により、投資元本を割り込むことがあります。加えて、外貨建て債券は、為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。個人向け国債を募集によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。個人向け国債は発行から1年間、原則として中途換金はできません。個人向け国債を中途換金する際、原則として次の算式によって算出される中途換金調整額が、売却される額面金額に経過利子を加えた金額より差し引かれます。(変動10年:直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685、固定5年、固定3年: 2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685)物価連動国債を募集・売出し等その他、当社との相対取引によってご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。物価変動国債の価格は、市場の金利水準の変化や全国消費者物価指数の変化に対応して変動しますので、損失が生じるおそれがあります。想定元金額は、全国消費者物価指数の発行時からの変化率に応じて増減します。利金額は、各利払時の想定元金額に表面利率を乗じて算出します。償還額は、償還時点での想定元金額となりますが、2023年以降に償還するもの(第17回債以降)については、額面金額を下回りません。投資信託のお申込み(一部の投資信託はご換金)にあたっては、お申込み金額に対して最大5.5%(税込み)の購入時手数料(換金時手数料)をいただきます。また、換金時に直接ご負担いただく費用として、換金時の基準価額に対して最大2.0%の信託財産留保額をご負担いただく場合があります。投資信託の保有期間中に間接的にご負担いただく費用として、国内投資信託の場合には、信託財産の純資産総額に対する運用管理費用(信託報酬)(最大5.5%(税込み・年率))のほか、運用成績に応じた成功報酬をご負担いただく場合があります。また、その他の費用を間接的にご負担いただく場合があります。外国投資信託の場合も同様に、運用会社報酬等の名目で、保有期間中に間接的にご負担いただく費用があります。投資信託は、主に国内外の株式や公社債等の値動きのある証券を投資対象とするため、当該資産の市場における取引価格の変動や為替の変動等により基準価額が変動します。従って損失が生じるおそれがあります。投資信託は、個別の投資信託ごとに、ご負担いただく手数料等の費用やリスクの内容や性質が異なります。また、上記記載の手数料等の費用の最大値は今後変更される場合がありますので、ご投資にあたっては目論見書や契約締結前交付書面をよくお読みください。

金利スワップ取引、及びドル円ベーシス・スワップ取引(以下、金利スワップ取引等)にあたっては、所定の支払日における所定の「支払金額」のみお受払いいただきます。金利スワップ取引等には担保を差入れていただく場合があり、取引額は担保の額を超える場合があります。担保の額は、個別取引により異なりますので、担保の額及び取引の額の担保に対する比率を事前に示すことはできません。金利スワップ取引等は金利、通貨等の金融市場における相場その他の指標にかかる変動により、損失が生じるおそれがあります。また、上記の金融市場における相場変動により生じる損失が差入れていただいた担保の額を上回る場合があります。また追加で担保を差入れていただく必要が生じる場合があります。お客様と当社で締結する金利スワップ取引等と「支払金利」(又は「受取金利」)以外の条件を同一とする反対取引を行った場合、当該金利スワップ取引等の「支払金利」(又は「受取金利」)と、当該反対取引の「受取金利」(又は「支払金利」)とには差があります。商品毎にリスクは異なりますので、契約締結前交付書面やお客様向け資料をよくお読みください。クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)取引を当社と相対でお取引いただく場合は手数料をいただきません。CDS取引を行なうにあたっては、弊社との間で合意した保証金等を担保として差し入れ又は預託していただく場合があり、取引額は保証金等の額を超える場合があります。保証金等の額は信用度に応じて相対で決定されるため、当該保証金等の額、及び、取引額の当該保証金等の額に対する比率をあらかじめ表示することはできません。CDS取引は参照組織の一部又は全部の信用状況の変化や、あるいは市場金利の変化によって市場価値が変動し、当該保証金等の額を超えて損失が生じるおそれがあります。信用事由が発生した場合にスワップの買い手が受取る金額は、信用事由が発生するまでに支払う金額の総額を下回る場合があります。また、スワップの売り手が信用事由が発生した際に支払う金額は、信用事由が発生するまでに受取った金額の総額を上回る可能性があります。他の条件が同じ場合に、スワップの売りの場合に受取る金額と買いの場合に支払う金額には差があります。 CDS取引は、原則として、金融商品取引業者や、あるいは適格機関投資家等の専門的な知識を有するお客様に限定してお取り扱いしています。証券保管振替機構を通じて他の証券会社へ株式等を移管する場合には、数量に応じて、移管する銘柄ごとに11,000円(税込み)を上限額として移管手数料をいただきます。有価証券や金銭のお預かりについては料金をいただきません。

 野村證券株式会社  金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会 野村グループは法令順守に関する方針および手続き(利益相反、チャイニーズ・ウォール、守秘義務に関する方針を含むがそれに限定されない)やチャイニーズ・ウォールの維持・管理、社員教育を通じてリサーチ資料の作成に関わる相反を管理しています。本資料で推奨されたトレードについて、その構築に用いられた手法や数理・解析モデルに関する追加情報が必要な場合は、表紙に記載された野村のアナリストにお問い合わせください。ディスクロージャー情報については下記のサイトをご参照ください。http://go.nomuranow.com/research/globalresearchportal/pages/disclosures/disclosures.aspx Copyright © 2020 Nomura Securities Co., Ltd. All rights reserved.

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