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電弱相互作用
織田 勧
大学院講義 素粒子実験2018年 12月 21日 (金)2019年 1月 11日 (金)
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弱い相互作用のフェルミ理論
フェルミ理論は弱い相互作用を現象論的に 4つのフェルミオンの相互作用として記述する.そのラグランジアンは
L4−fermion = −GF√2J†µJ
µ
であり, GF はフェルミ結合定数と呼ばれ, 過程によらず,
GF = 1.166378(6)× 10−5 GeV−2
= 1.03× 10−5m−2proton (1)
である.
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フェルミ理論でのダイアグラム
+µJ µ
J
2FG
−
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荷電カレント
Jµは荷電カレントと呼ばれ, レプトンによるものと, クォークによるものに分けられる.
Jµ = J leptonµ + Jquark
µ
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荷電カレント, カイラリティ演算子
ディラック場 ψe, ψνeを e, νeなどと書くことにすると, 弱い相互作用は V − A型なので,レプトンの荷電カレントは
J leptonµ = eγµ(1− γ5)νe + µγµ(1− γ5)νµ + τγµ(1− γ5)ντ
と表せる.ここで γ5はカイラリティ演算子と呼ばれ,
γ5 ≡ −iγ0γ1γ2γ3
で定義される.
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射影演算子
スピノルの左手型の部分を抽出する射影演算子 PLを
ψL ≡ PLψ =1− γ5
2ψ
で定義する.同様に, スピノルの右手型の部分を抽出する射影演算子 PR
を
ψR ≡ PRψ =1 + γ5
2ψ
で定義する.
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左手型の2重項
電子と電子ニュートリノの左手型の 2重項 Leを
Le ≡(νeLeL
)= PL
(νee
)で定義する.
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電子と電子ニュートリノの荷電カレント
荷電カレントのうち, 電子と電子ニュートリノの部分のみに注目する. Leを用いて,
Jelectronµ = eγµ(1− γ5)νe
= 2eγµPLνe
= 2eLγµνeL
= 2(νeL eL
)( 0 01 0
)γµ
(νeLeL
)= 2Le
(0 01 0
)γµLe
と表せる.
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パウリ行列パウリ行列が
σ1 =
(0 11 0
)σ2 =
(0 −ii 0
)σ3 =
(1 00 −1
)であることを思い出すと,(
0 01 0
)=
σ1 − iσ2
2
がわかる.
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荷電カレントのSU(2)構造
jaµ =∑
k=e,µ,τ
Lkγνσa
2Lk (a = 1, 2, 3) (2)
を導入すると,
J leptonµ = 2
(j1µ − ij2µ
)≡ 2j1−i2
µ
J leptonµ
†= 2
(j1µ
†+ ij2µ
†)= 2
(j1µ + ij2µ
)≡ 2j1+i2
µ
と書ける.これはレプトンの荷電カレントが SU(2)カレントの 1∓ i2成分になっていることを意味する.Jquarkµ も同様で, Jµも SU(2)の代数を満たす.
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弱アイソスピン
この SU(2)を弱アイソスピンと呼び, 生成子をT a(a = 1, 2, 3), 大きさを T と書く.この弱アイソスピン SU(2)をSU(2)L(添え字 Lは左手型 (left handed)を表す) もしくはSU(2)W (添え字W は弱アイソスピン (weak isospin)を表す)と呼ぶ.
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電荷と弱アイソスピン
電荷Q 弱アイソスピン T 3
Le =
(νeLeL
)0−1
+12
−12
Leは SU(2)Lの 2重項であるが, Qと T 3が独立でないので,電磁相互作用の U(1)EMと SU(2)Lは直交していない.弱い相互作用と電磁相互作用は同時に考え, 統一せざるを得ない.
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弱超電荷
SU(2)Lに直交した U(1)Y 群を導入し, その生成子 (電荷)を弱超電荷 (weak hyper charge) Y と呼ぶ.2重項 Le, Lµ, Lτ が Y = −1を持つとすると
Q = T 3 +Y
2(3)
を満たす.
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これから述べるワインバーグ・サラム理論(電弱統一理論)の構造
自発的対称性の破れ
ゲージ群 SU(2)L × U(1)Y −→ U(1)EM生成子 T a Y Q = T 3 + Y
2
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ゲージ場SU(2)Lのゲージ場を
W⃗µ = (W 1µ ,W
2µ ,W
3µ) =
∑a=1,2,3
W aµ
とし, 結合定数を gとする.U(1)Y のゲージ場をBµ, 結合定数を g′とする.ラグランジアンのゲージ場の運動項は
Lgauge = −1
4
(∂µW⃗µ − ∂νW⃗µ − gW⃗µ × W⃗ν
)2−1
4(∂µBν − ∂νBµ)
2 (4)
となる. ここで,
W⃗µ × W⃗ν =∑a,b,c
εabcWbµW
cν
であり, SU(2)が非可換群のため生じる.
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ヒッグス場
ヒッグス 2重項を
Φ =
(ϕ1
ϕ2
)とする. ここで, ϕ1と ϕ2は複素スカラー場で, 全部で 4自由度ある.対称性が破れた後の真空期待値を
⟨0|Φ|0⟩ =1√2
(0v
)とする.
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ヒッグス場の電荷
vは 0でない実スカラーなので, 電荷Q = 0であるように,ヒッグス 2重項は Y = +1を持つとする.すると, ϕ1は
Q = T 3 + Y/2 = +1/2 + 1/2 = +1
ϕ2はQ = T 3 + Y/2 = −1/2 + 1/2 = 0
を持つ.
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共変微分
ヒッグス場Φに対する共変微分を
DµΦ =
(∂µI + ig′
1
2IBµ + ig
1
2W⃗µ · σ⃗
)Φ
で定義する. ここで, Iは単位行列, σiはパウリ行列であり,
W⃗µ · σ⃗ = W 1µσ
1 +W 2µσ
2 +W 3µσ
3
である.
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U(1)Y 変換
Φ(x) → Φ′(x) = eiθ(x)Φ(x)
の U(1)Y 変換の際
Bµ(x) → B′µ(x) = Bµ(x)−
2
g′∂µθ(x)
と変換される.
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SU(2)L変換
Φ(x) → Φ′′(x) = U(x)Φ(x) = exp(iσ⃗ · θ⃗(x)
)Φ(x)
の SU(2)L変換の際
W⃗µ(x) · σ⃗ → W⃗ ′′µ (x) · σ⃗
= U(x)W⃗µ(x) · σ⃗U †(x)− 2i
gU(x)∂µU
†(x)
と変換される.
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ヒッグス場の運動項とポテンシャル
ラグランジアンのヒッグス場の運動項とポテンシャルは
LHiggs = (DµΦ)†DµΦ + µ2Φ†Φ− λ
(Φ†Φ
)2(5)
である.
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対称性が破れた後のヒッグス場
対称性が破れた後は, v2 = µ2/λとして
Φ(x) = exp
(iχ⃗(x)
v· σ⃗)
1√2
(0
v + ϕ(x)
)と表せる.
U−1 = exp(i χ⃗(x)
v· σ⃗)とすれば,
Φ′ = UΦ =1√2
(0
v + ϕ(x)
)として, Φを定義し直せば χ⃗の自由度は消すことができる.
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対称性が破れた後のヒッグス場の運動項とポテンシャル
式 (5)は
LHiggs
=1
2
∣∣∣∣{∂µI + i
2
(gW 3
µ + g′Bµ g(W 1
µ − iW 2µ
)g(W 1
µ + iW 2µ
)−gW 3
µ + g′Bµ
)}·(
0v + ϕ(x)
)∣∣∣∣2 + µ2
2(v + ϕ)2 − λ
4(v + ϕ)2
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対称性が破れた後のヒッグス場の運動項とポテンシャル
LHiggs
=1
2
∣∣∣∣( 0∂µϕ(x)
)+i
2
(g(W 1
µ − iW 2µ
)−gW 3
µ + g′Bµ
)(v + ϕ(x))
∣∣∣∣2+µ2
2(v + ϕ)2 − λ
4(v + ϕ)2
=1
2(∂µϕ)
2 +1
8g2[(W 1
µ
)2+(W 2
µ
)2](v + ϕ)2
+1
8
(gW 3
µ − g′Bµ
)2(v + ϕ)2 +
µ2
2(v + ϕ)2 − λ
4(v + ϕ)4
(6)
となる.24 / 65
W±粒子, Z0粒子, 光子, ヒッグス粒子ここで,
Wµ ≡ 1√2
(W 1
µ − iW 2µ
)W †
µ =1√2
(W 1
µ + iW 2µ
)(Zµ
Aµ
)≡ 1√
g2 + g′2
(g −g′g′ g
)(W 3
µ
Bµ
)=
(cos θW − sin θWsin θW cos θW
)(W 3
µ
Bµ
)を導入する.θW は弱混合角またはワインバーグ角と呼ばれる.WµはW+粒子, W †
µはW−粒子, ZµはZ0粒子, Aµは光子(質量ゼロ), ϕはヒッグス粒子を表す.
25 / 65
W±粒子, Z0粒子とヒッグス粒子の質量ここで,
cos θW =g√
g2 + g′2
sin θW =g′√
g2 + g′2
MW =1
2gv
MZ =1
2
√g2 + g′2v =
MW
cos θW
MH =√2µ2 =
√2λv
を導入する.結合定数 g, g′, ポテンシャルのパラメーター λと真空期待値v/√2がW 粒子の質量MW , Z粒子の質量MZ , ヒッグス粒
子の質量MH を決めている.26 / 65
対称性が破れた後のヒッグス場の運動項とポテンシャル
すると, 式 (6)は
LHiggs =1
2(∂µϕ)
2
+M2WW
†µW
µ
(1 +
ϕ
v
)2
+1
2M2
ZZµZµ
(1 +
ϕ
v
)2
+µ2
2(v + ϕ)2 − λ
4(v + ϕ)4
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対称性が破れた後のヒッグス場の運動項とポテンシャル
LHiggs = M2WW
†µW
µ +1
2M2
ZZµZµ
+
(gMWϕ+
g2
4ϕ2
)(W †
µWµ +
1
2 cos2 θWZµZ
µ
)+1
2
((∂µϕ)
2 −M2Hϕ
2)− 1√
2MH
√λϕ3 − λ
4ϕ4
+const.
と表せる.
28 / 65
ゲージ場のラグランジアン
ゲージ場のラグランジアン式 (4)はWµ, Zµ, Aµを用いて,
Lgauge = −1
4FAµνF
Aµν − 1
4FZµνF
Zµν
−1
2(DµWν −DνWµ)
† (DµW ν −DνW µ)
+i(eFA
µν + g cos θWFZµν
)W µ†W ν
+g2
2
(|WµW
µ|2 −(Wµ
†W µ)2)
と表せる.
29 / 65
ゲージ場のラグランジアン
ここで,
FXµν ≡ ∂µXν − ∂νXµ
e = g sin θW =gg′√g2 + g′2
gA3µ = g sin θWAµ + g cos θWZµ
= eAµ + g cos θWZµ
DµWν =(∂µ + igA3
µ
)Wν
= (∂µ + ieAµ + ig cos θWZµ)Wν (7)
である. 式 (7)はWµの電荷がQ = +1であることを表している.
30 / 65
レプトン2重項と1重項
左手型のレプトンが SU(2)Lの 2重項を組み (T = 1/2),Y = −1を持ち,右手型のレプトンが SU(2)Lの 1重項を組み (T = 0),Y = −2を持つとする.
弱アイソスピン 弱超電荷 第 1 世代 第 2 世代 第 3 世代
T = 12
Y = −1 Le ≡(
νee
)L
Lµ ≡(
νµµ
)L
Lτ ≡(
νττ
)L
T = 0 Y = −2 Re ≡ eR Rµ ≡ µR Rτ ≡ τR
31 / 65
レプトン2重項と1重項
式 (3) Q = T 3 + Y/2を使って, 電荷Qを確認してみると,
νeL Q = +1
2+
1
2(−1) = 0
eL Q = −1
2+
1
2(−1) = −1
eR Q = 0 +1
2(−2) = −1
であることがわかる.右手型のニュートリノ νeR, νµR, ντRは実験的に観測されておらず, 標準模型には含めない.存在しているとしても, 電荷Q = 0であることから, SU(2)Lの 1重項 (T = 0)ならば, Y = 0となり, 電磁相互作用も弱い相互作用もせず, 実験事実とは矛盾しない.
32 / 65
レプトンのラグランジアン
レプトンのラグランジアンを相互作用項と質量項に分ける.
Llepton = Lint.lepton + Lmass
lepton
33 / 65
レプトンの相互作用項
レプトンの相互作用項は
Lint.lepton =
∑j=e,µ,τ
Ljiγµ
(∂µ −
i
2g′Bµ + ig
σ⃗
2· W⃗µ
)Lj
+∑
j=e,µ,τ
Rjiγµ (∂µ − ig′Bµ)Rj
=g
2√2
(W †
µJµ +W µJ†
µ
)+ eAµJ
µem +
g
cos θWZµJ
µZ
となる.
34 / 65
レプトンの相互作用項
ここで, 電磁カレント Jµem, 荷電カレント Jµ, 中性カレント
JµZ はそれぞれ
Jµem = −
∑k=e,µ,τ
kγµk
Jµ =∑
k=e,µ,τ
kγµ(1− γ5)νk
JµZ = jµ3 − sin2 θWJ
µem
である.jµa は式 (2)で定義されている.弱い相互作用と電磁相互作用を統一することで, 未知の中性カレント Jµ
Z が現れた.
35 / 65
標準模型での荷電カレントのダイアグラム
+µJ µ
J22
g
22
g2W-M2p
νµg
36 / 65
荷電カレントW 粒子のプロパゲーターは
gµνp2 −M2
W
である. 運動量 pがW 粒子の質量MW に比べて十分小さければ
−g2
8
1
M2W
≃ −GF√2
と近似できる.
GF√2
=g2
8M2W
=g2
8 ·(12gv)2 =
1
2v2
である.37 / 65
荷電カレント
式 (1)を用いると,
v ≃ 246 GeV
MW =
(g2
8
√2
GF
) 12
=
( √2
8GF
e2
sin2 θW
) 12
=37.3
sin θWGeV
MZ =MW
cos θW=
37.3
cos θW sin θWGeV =
74.6
sin 2θWGeV
が得られる.
38 / 65
標準模型での中性カレントのダイアグラム.
µν , eν µν , eν
, u, d-e , u, d-e
0Z
Z粒子が関与する中性カレント過程を観測すれば θW がわかる.
39 / 65
中性カレント
1972年から 1973年にかけて, 断面積の測定からsin2 θW ≃ 0.23がわかった.これから, MW ≃ 78 GeV, MZ ≃ 87 GeVと求まる.1983年にW 粒子とZ粒子が発見された.2018年現在,
MW = 80.379± 0.012 GeV
MZ = 91.1876± 0.0021 GeV
と実験的に決定されており, 高次の効果を含めれば, 理論と実験の一致は非常に良い.
40 / 65
レプトンの質量項
次に, レプトンの質量項Lmassleptonを見てみる.
ディラック質量項は−mψψという形をしている.
PR =1 + γ5
2
PL =1− γ5
2
P †R = PR
P 2R = PR
ψ = ψ†γ0
γ5γ0 = −γ0γ5
などを使うと,
41 / 65
レプトンの質量項
ψψ = ψ (PR + PL)ψ
= ψ (PRPR + PLPL)ψ
=(ψPR
)(PRψ) +
(ψPL
)(PLψ)
= (PLψ) (PRψ) + (PRψ) (PLψ)
= ψLψR + ψRψL
が得られる.SU(2)Lでは, 左手型は 2重項, 右手型は 1重項なので, ψψは2重項になり, SU(2)L変換で不変でない.
42 / 65
レプトンの質量項
電子ニュートリノ νeと電子 eに注目する. ヒッグス 2重項Φを用いて,
−fe(LeΦ
)Re + h.c. (8)
とすると,
Le =(νeL eL
)Φ =
(ϕ1
ϕ2
)=
(ϕ+
ϕ0
)Re = eR
であるので, LeΦは 1重項となり, 全体でも 1重項になるので, SU(2)L変換で不変になる.
43 / 65
レプトンの質量項
ここで, feは湯川結合 (スピン 1/2のフェルミオンとスピン0のボソンの結合)定数, h.c.はエルミート共役を表す.弱超電荷 Y は, LeはLeのディラック共役を取っているのでマイナスが付いて−(−1), Φは+1, Reは−2なので
−(−1) + (+1) + (−2) = 0
となり, U(1)Y 変換でも不変になる.
44 / 65
レプトンの質量項
式 (8)は対称性が破れると,
−fe(νeL eL
)( 0v√2
)eR + h.c.
= −fev√2eLeR + h.c.
= −fev√2(eLeR + eReL)
= −meee
となる.
45 / 65
レプトンの質量項
ここで,
me =fev√2
であり, 湯川結合定数 feと真空期待値 v/√2が電子の質量
meを決めている.電弱対称性が破れることで電子の質量が生じる.
fe =
√2me
v=
me√2MW
g
である.
46 / 65
レプトンの湯川結合のダイアグラム
R-τ ,
R-µ , R
-e L-τ ,
L-µ , L
-e
ef
2v
47 / 65
3世代のレプトンの質量項とニュートリノの質量
3世代のレプトンの質量項Lmassleptonは
Lmasslepton = −
∑j=e,µ,τ
fj[(LjΦ
)Rj +Rj
(Φ†Lj
)](9)
となる.ニュートリノの質量項はないので, 標準模型ではニュートリノの質量は 0である.
48 / 65
湯川結合定数
式 (9)で fjは実数である. これを複素数のGijを用いて一般化すると,
Lmass,gen.lepton = −
∑i,j=e,µ,τ
[Gij
(LiΦ
)Rj +G∗
ijRj
(Φ†Lj
)]となる. 任意の複素行列は, 2つのユニタリー行列 ULと UR
で実対角行列に変換できることを利用する.
G = U †LFUR
ここで F は実対角行列で, その成分 Fijは i ̸= jのとき,Fij = 0である.
49 / 65
湯川結合定数
R′i =
∑j
URijRj
L′i =
∑j
ULijLj
とし, さらにR′i → Ri, L
′i → Liと置き換えて, Fjj = fjとす
れば, 元のLmassleptonに戻せる.
このように, レプトンの場合には一般化で差は生じない.しかし, 後述するように, クォークの場合には差が生じ, カビボ・小林・益川 (CKM)行列の起源となる.
50 / 65
クォークの3世代
レプトンと同様に, クォークも 3世代存在する.
電荷 Q 第 1世代 第 2世代 第 3世代アップ型 uA + 2
3 u c t(A = 1, 2, 3) アップ チャーム トップ
ダウン型 dA − 13 d s b
ダウン ストレンジ ボトム
51 / 65
クォークの2重項と1重項
左手型のクォークが SU(2)Lの 2重項, 右手型のクォークがSU(2)Lの 1重項とすると以下のように分類できる.
弱アイソスピン 弱超電荷 第 1 世代 第 2 世代 第 3 世代
T = 12
Y = + 13
qL1 =
(ud
)L
qL2 =
(cs
)L
qL3 =
(tb
)L
T = 0 Y = + 43
uR cR tRY = − 2
3dR sR bR
52 / 65
クォークの電荷
Q = T 3 + Y/2を満たすことは
uL Q = +1
2+
1
2
(+1
3
)= +
2
3
dL Q = −1
2+
1
2
(+1
3
)= −1
3
uR Q = 0 +1
2
(+4
3
)= +
2
3
dR Q = 0 +1
2
(−2
3
)= −1
3
で確かめられる.
53 / 65
クォークのラグランジアンクォークのラグランジアンLquark
Lquark = Lint.quark + Lmass
quark
のうち, クォークの相互作用項Lint.quarkは
Lint.quark =
∑A=1,2,3
{q(W )RA iγ
µ
(∂µ + ig′
1
6Bµ + ig
σ⃗
2· W⃗µ
)q(W )LA
+u(W )LA iγµ
(∂µ + ig′
2
3Bµ
)u(W )RA
+d(W )
LA iγµ(∂µ − ig′
1
3Bµ
)d(W )RA
}である. ここで (W )は弱い相互作用の固有状態を表す.
ψ(W )RA = ψ
(W )
LA , ψ(W )LA = ψ
(W )
RA である.
54 / 65
クォークの質量項質量項Lmass
quarkは
Lmassquark = −
∑A,B
(f(d)ABq
(W )RA Φd
(W )RB + f
(u)ABq
(W )RA Φ̃u
(W )RB + h.c.
)と書ける. ここで,
Φ̃ ≡ iσ2Φ∗
σ2 =
(0 −ii 0
)⟨0|Φ̃|0⟩ =
(0 1−1 0
)(0v√2
)=
( v√2
0
)であり, アップ型クォーク uAに質量を与えるためである.f(X)AB は湯川結合定数であり, 複素数である.
55 / 65
クォークの質量項
電弱対称性が破れると,
Lmassquark
= −∑A,B
(1√2f(d)ABvd
(W )
RA d(W )RB +
1√2f(u)ABvu
(W )RA u
(W )RB + h.c.
)
となる.
56 / 65
クォークの質量項
湯川結合定数 f(X)AB は 2種類のユニタリー行列 SX と TX
(X = d, u)を使って, 実対角行列に変換され, その固有値m
(X)A はクォークの質量と解釈される.∑
C,D
(S†X
)AC
(1√2f(X)CD v
)(TX)DB = m
(X)A δAB
これは, 行列の積
S†XFTX = M
を表している.
57 / 65
弱い相互作用の固有状態と質量の固有状態
弱い相互作用の固有状態 ψ(W )と質量の固有状態 ψ(M)は SX
と TX により関係づけられる.
d(W )LA =
∑B
(Sd)AB d(M)LB
u(W )LA =
∑B
(Su)AB u(M)LB
d(W )RA =
∑B
(Td)AB d(M)RB
u(W )RA =
∑B
(Tu)AB u(M)RB
58 / 65
クォークの電磁カレント
ゲージ場との相互作用項はレプトンの場合と同様に与えられる. 電磁カレント Jµ
emは
Jµem = +
2
3
∑A
u(W )A γµu
(W )A − 1
3
∑A
d(W )
A γµd(W )A
= +2
3
∑A
u(M)A γµu
(M)A − 1
3
∑A
d(M)
A γµd(M)A
である. アップ型とダウン型を混合しないので, 相互作用の固有状態 (W )でも, 質量の固有状態 (M)でも式の形は不変である.
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クォークの中性カレント
中性カレント JµZ も同様で,
JµZ = jµ3 − sin2 θWJ
µem
jµ3 =∑A
q(W )RA γ
µσ3
2q(W )LA
=1
4
∑A
{u(W )A γµ(1− γ5)u
(W )A − d
(W )
A γµ(1− γ5)d(W )A
}=
1
4
∑A
{u(M)A γµ(1− γ5)u
(M)A − d
(M)
A γµ(1− γ5)d(M)A
}である.
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クォークの荷電カレント荷電カレント Jµは
Jµ =∑A
u(W )A γµ(1− γ5)d
(W )A
= 2∑A
u(W )RA γµd
(W )LA
= 2∑A,B
u(M)RA γµ
(S†uSd
)AB
d(M)LB
となる. ここで,
VCKM ≡ S†uSd
をカビボ・小林・益川 (CKM)行列という. 相互作用と質量の固有状態が異なることにより生じ, 湯川結合に起因する.
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CKM行列
CKM行列の成分を書くと
VCKM =
Vud Vus VubVcd Vcs VcbVtd Vts Vtb
となる. 3個の回転角と, 1つの複素位相の物理的自由度を持つ.
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CKM行列
CKM行列はユニタリー行列の積なので, ユニタリー行列であり,
V †CKMVCKM = VCKMV
†CKM = I
を満たす. 成分で書けば,∑i=u,c,t
V ∗imVin = δmn (m,n = d, s, b)∑
m=d,s,b
VimV∗jm = δij (i, j = u, c, t) (10)
となる.
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ユニタリティー3角形
例えば, 式 (10)でm = b, n = dとすると,
V ∗ubVud + V ∗
cbVcd + V ∗tbVtd = 0
となり, 複素平面上で V ∗ubVud, V
∗cbVcd, V
∗tbVtdが 3角形をなす
ことを意味する. この 3角形をユニタリティー 3角形と呼ぶ.
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ユニタリティー3角形
cdV*cbV
udV*ubV tdV*
tbV
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