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2019/1/5 電気痕と⽕災 http://www7a.biglobe.ne.jp/~fireschool2/d-A1-56-3.html 1/21 電気痕と⽕災 (電気⽕災) <⽕災原因調査 ホーム︓「⽕災調査探偵団⽕災原因調査 Fire Cause ⽕災損害調査 Fire Damage ⽕災調査の基礎 Fire Investigation ⽕災統計と資料 Fire Statistics 外国の⽕災調査 Foreign Inv. ⽕災調査と法律 Fire Laws ⽕災調査の話題 Such a thing of Fire ⽕災調査リンク Fire Inv. Link 電気痕と⽕災 A1-56 12ʼ09/15、13'01/14 1, 電線の短絡 ⽕災現場の調査では、発掘時に焼損して芯線だけの電気コードが 多数⾒られる。特に、マンション⽕災では、顕著に⾒られることであ る。 その都度、「この⽕災の原因は、電気⽕災では・・」と調査員は考え 込んでしまう。 今回は、その中で気になる(喉に刺さった⿂の⾻のような) 「電気の短絡痕」に関することをまとめてみました。 消防活動時の電気⽕花 炎上中の消⽕活動時「電気幹線の短絡」が⽬にとまる。閃光とバチバチと⾔う⾳、電気配線が短絡している様⼦は、⽕災 電気⽕災により発⽣したのでは、と思える情景で、燃えている建物を取り囲んでいる近隣者からも「電気が⽕を噴いている」 との 声が⾶び交う。 写真1は、その⽕災現場の状況だ。奥の窓の下、階段横で⽩く輝いている閃光からは、バチバチと⾳とを⽴てて燃えている

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電気痕と⽕災 < (電気⽕災)  <⽕災原因調査 <ホーム︓「⽕災調査探偵団」

⽕災原因調査 Fire Cause

⽕災損害調査 Fire Damage

⽕災調査の基礎 Fire Investigation

⽕災統計と資料 Fire Statistics

外国の⽕災調査 Foreign Inv.

⽕災調査と法律 Fire Laws

⽕災調査の話題 Such a thing of Fire

⽕災調査リンク Fire Inv. Link

電気痕と⽕災                                A1-56   12ʼ09/15、13'01/14

1, 電線の短絡

  ⽕災現場の調査では、発掘時に焼損して芯線だけの電気コードが 多数⾒られる。特に、マンション⽕災では、顕著に⾒られることであ

る。  その都度、「この⽕災の原因は、電気⽕災では・・」と調査員は考え

込んでしまう。  今回は、その中で気になる(喉に刺さった⿂の⾻のような)

 「電気の短絡痕」に関することをまとめてみました。

    消防活動時の電気⽕花    炎上中の消⽕活動時「電気幹線の短絡」が⽬にとまる。閃光とバチバチと⾔う⾳、電気配線が短絡している様⼦は、⽕災

が  電気⽕災により発⽣したのでは、と思える情景で、燃えている建物を取り囲んでいる近隣者からも「電気が⽕を噴いている」

との  声が⾶び交う。

  写真1は、その⽕災現場の状況だ。奥の窓の下、階段横で⽩く輝いている閃光からは、バチバチと⾳とを⽴てて燃えている

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  引込線で、外壁のトタンを介して激しく反応している。   ⾒ていて、「すごいな」とその閃光に引き寄せられるものがある。もちろん、閃光の下の階段を駆け上がるには、放⽔して

から   でないとムリな話だ。⼀般⽕災では、電柱の電線が、建物⽕災の輻射熱で、燃えている場⾯を良く⾒かけるが、その場合

は、  あまりバチバチと⾔う⾳は聞かない。反⾯、建物の屋側電線路が燃えると、このような地絡を伴って激しい⾳を⽴てて燃え

る。   翌⽇、建物外壁の屋側電線路は、写真2のように、少し焼け細り、トタンは溶融して⽳があき、溶融物が垂れ下がってい

る。  鎮⽕後の⾒分からは、特段の印象深いものもないが、溶融して⽳の開いた外壁を⾒ると、電気の強さと⽕災との関係を改めて

 思い知らされるものがある。 なお、この建物⽕災の出⽕原因は、電気⽕災ではなかったが・・・。

    写真1 ⽕災現場で閃光を発する引込線の地絡現場。

      写真2 引込線とトタン外壁の溶融

2.   短絡⽕災の統計 1) 電気⽕災の⽐重が増加傾向  

  東京消防庁管内の電気機器⽕災、ガス設備⽕災、⽯油設備⽕災が、その年の⽕災件数に対する⽐率を年別にプロット  したものを図1である。

図1は、昭和55年(1980年)から平成21年(2009年)まで

の30年間の統計で、図から、東京都内では、⽯油設備 機器の⽕災⽐率が4%から1%へと下がり、ガス設備は

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 図1 全⽕災に対する種類別⽕災の出⽕⽐率の年別推移

13%前後で横ばい傾向で、電気機器の⽕災⽐率が 12%から19%へと顕著な増加傾向にあることが分かる。

 なお、減少傾向にあるのは⽯油設備機器の⽕災ばか りでなく、タバコなどの微⼩⽕源⽕災や⽕遊びなども⽕

災⽐率が減少している。  (本図は、2011.01.20 平成22年度⽕災学会講演討論

会、東京消防庁笠原孝⼀「電気⽕災の実態と最近の 傾向」図2を借⽤した)。

  東京消防庁の⽕災統計を⾒たが、東京都と全国の相違は、⽕災全体として全国の1割を東京が占め、傾向として同じ傾向  を⽰す。しかし、電気⽕災に着⽬すると、東京都内の電気⽕災件数の発⽣⽐率が⾼く、全国の2割弱を占める。つまり、⼀般

 の⽕災では、東京で10件発⽣している⽕災は、全国では100件程度となるが、電気⽕災では60件前後の発⽣と低くなる。   以下、東京と全国を⽐較する際は、東京の件数の5.5倍〜6倍に換算して⾒てもらうと、全国の傾向が掴めるものと思う。 

 2) 製品別の⽕災発⽣率

  図 2 種類別の⽕災発⽣率(2004年〜2010年       東京消防庁管内

 電気⽕災の中から種別に区分した場合の電気⽕災全体に

 占める割合を図2に⽰す。

  7年間の「年間平均の電気機器等の出⽕件数」は1,019件  ある。 年間約1,000件近い⽕災件数が東京都内の電気⽕

 災となる。  電気⽕災の種類別では、「テレビ、冷蔵庫、蛍光灯などの電

 気機器」が32%、「ストーブなどの電熱器」が26%、「モータな  どの電気装置」が19%、「延⻑コードなどの配線」が16%、「漏  電遮断器などの配線器具類」が6%、「その他」が1%となる。

   ⽐率では、全国でも似たような傾向と思われるが、東京は  全国の数値と⽐べ「電気機器」からの出⽕⽐率が⾼く、「配線  等」の⽐率がやや低くなる。これは、統計上の発⽕源コードの

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 取り⽅が「器具コード」の扱いなどで異なり、このようなことなど  が考えられる。

 3) 電気⽕災の原因別内訳

 東京における電気⽕災の出⽕原因を⾒ると、実にさまざまな原因が出てくる。

 もちろん、⽕災報告取扱要領に定める「経過コード」の項⽬のことである。上

記の2004年から2010年の年間平均の発⽣件数は1,019件あり、その中の年別

の出⽕原因⽐率(経過の内訳)を図3に⽰す。  図から多い順に「⾦属の接触部過熱」「短絡」「可燃物の接触」「トラ

ッキング」 「絶縁劣化」「半断線」となっている。その他には「地絡」「過多の電

流」「過熱」 「放置・忘れる」「スパークする」「⽕花が⾶ぶ」など、さまざまであ

る。  経過(⽕災要因)の意味する⾔葉が⼀般には、分かりにくいが、このホームペ

ージ の「⽕災原因の分類」☆経過分類の解説を参考にしてほしい。消防の⽕災

調 査員は出⽕原因コードを使い慣れているので、「経過」の⾔葉だけでどの

よう な⽕災を⽰しているのかが分かることから、個別の説明は省略する。(発⽕

源と経過の組み合わせによる⽕災の実態は、別のページに記載している。)  この図3から、最も多いのが「接触物過熱」であるが、「短絡⽕災」は2

番⽬に 多い出⽕要因となっており、全体の17%を占めている。年によって、電気

⽕災の最も多い出⽕要因に挙げられることもあり、「短絡⽕災」は、最も⾝近

な⽕災原因となっている。

図3 電気⽕災の経過(出⽕要因)別割合

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 4) 短絡⽕災の出⽕⽐率  電気⽕災で、種別に⾒た「短絡の出⽕要因」の割合を円グラフの図4に、さらに、その種別ごとの「短絡⽕災」の占める割合を

 横棒グラフ図5に⽰す。  短絡⽕災を⽕災件数で⾒ると、配線類39%、電気機器35%の順となり、年平均して167件の短絡⽕災が発⽣している。これ

を  「各電気機器等の種別の⽕災件数」からその中の短絡⽕災が占める⽐率を図5に⽰した。配線等で39%、電気機器で18%、

 電気装置で17%、配線器具類で10%、電熱器で5%が、短絡⽕災が占めている。    短絡⽕災の発⽣としては、この図5が最も分かりやすいと思う。

   配線等では「約4割が短絡によるも」ので、電気機器と電気装置が約2割、配線器具等が1割、電熱器が0.5割

  図4  短絡⽕災の種別別の発⽣割合       図5 種別の⽕災の中で、短絡⽕災の占める割合

3.  ⽕災現場の短絡痕

  1)  ケーブル線の短絡

  写真3や4は、いずもFケーブルの短絡⽕災で、あまり⾒かけない⽕災事例である。

 ステップル等がケーブルの芯線に打ち込まれ、⽊材等を通して徐々に地絡が進⾏し発熱して、絶縁被覆が損傷、両極間で  短絡出⽕するが、ステップル等の打ち込みから10年近く経て出⽕している事例が⾒られる。

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 他に写真5のようなFケーブルでは、ネズミがかじって短絡させて出⽕する例があるが、これも数年の⽉⽇を経たものが多い。   ほとんどは、⽕災調査関係の教本にも写真⼊りで紹介され、⽕災現場においてもほぼそのとおりの現実が発掘される。

 もっとも、出⽕箇所の判定を誤ると、わかりやすい電気⽕災と⾔えども「原因不明」になるが、これは電気⽕災の究明より  も「現場観察要領」の課題である。Fケーブル⽕災の中で、ネズミによる「短絡」は、⼩さな短絡痕で、かつ、出⽕箇所の判

定  が難しい場⾯であるが、齧⻭動物の特徴的な要因が焼損箇所以外の所にでるので、まず、⾒誤ることはないと思う。

 写真3 ステップによる短絡 写真4 壁内配線を室内から

    打ち込んだ短絡  写真5 特徴的なネズミによる短絡

  2)  ビニール平型コードの複数の短絡痕

写真6 発掘した床⾯付近の多数の短絡痕

 この写真6では、複数の電気痕が⾒られる。このような現場は数多くあり、特に、マンション⽕災では、普通に⾒られる。  個々の近接写真を取ると、写真7.8.9となる。⽕災調査員にとって、電源側に遠い⽅にある「電気痕」に注⽬するところで  あるが、やはり数が多いと惑わされる。

   ビニール平型コードは、⽕災熱で短絡しても、短絡時の反応時間が短いので、短絡電気容量が⼩さく、配電⽤20A

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 ブレーカ、⼜は電流制限器(Sブレーカ) を短絡遮断させないことがあり、このため、幾つかの短絡痕を発⽣させる。この  点がFケーブルの短絡⽕災とは⼤きく異なる。このため、電源側(コンセント)から⼀番遠い所の電気痕が「始めの電気痕」  となる。⽕災調査的には、この遠い「痕」が出⽕原因判定の着眼点となる。

 写真7  延⻑コードの電気溶融痕-1  写真8  電気溶融痕-2   写真9  電気溶融痕-3

 3) より線接続による短絡

  ⼿より接続による電気⽕災は、最近は次第に減少している。

 このような⼿間かけることがめんどくさいと感じる⼈、中学校などの理科教育で電気コードを配線して実験するような機会が  なく良くわからい⼈、などが増えているからと思われる。 

 ⽕災は、⼿より接続部の接触抵抗により発熱し、この発熱によって、被覆のビニールテープがズレ、最終的に短絡出⽕する。  ⼿より接続の中でも「Fケーブルの単線とコードのより線を接続」した場合は、⽕災の危険が最も多く、数年を経ずして⽕

 災になる。コード同⼠の⼿よりだと、流れる電流と接続の仕⽅により、出⽕危険は異なる。もっとも、昔の電気⼯事試験では、

 配線同⼠をペンチを使ってケーブルのねじり接続による⼯事作業が実技試験科⽬にあったので、接続そのものが悪いの  ではなく、素⼈により適当に⾏われることが出⽕危険を招くことにある。

  また、⾞両⽕災では、電装品を素⼈が⼿より接続等で取り付ける際、ヒューズボックスの⼀次側配線から分岐して、取り付け

 ると、接続部に熱を持った時に、短絡出⽕から⾞両全焼⽕災への危険が⼤きいものとなる。

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写真10 コードの⼿より接続部の短絡

   4) 電気溶融痕とは異なる熱による溶融塊

 電気⽕災では、電気による溶融痕と異なり、⽕災熱により、配線(またはケーブル)の銅が溶断して、その断⾯部に銅の溶融物

 を「塊状」に作る。  意外とこんな溶融物も、⽕災現場では、「電気痕」と⾒誤ることがある。

 現場で出⽕要因と⾔えそうな物が「何もない」と、藁にもすがる思いで、溶融物を「電気痕」として、⽕災原因にすることもある。

 どこで、⾒分けるかは、ともかく、まずは出⽕箇所の焼けが合うかどうか、もう⼀度確認してほしい。  その箇所から燃えて、⽴ち上がると、建物全体の焼損が説明がつくのかどうか︖

 そして、「短絡痕」と⾔えるような⾼温でショートした「美しさ」を持った痕なのか︖

                   写真11 電気コードの熱による溶融塊  

4.  電気の⼀次痕・⼆次痕

 1) 電気の⼀次痕と⼆次痕

   短絡痕には、「⼀次痕」と「⼆次痕」そして「熱の溶融塊」がある。    溶融塊の熱痕とは、単に⾼温により銅線がその先端部で溶けただけのもので、⼀次・⼆次痕が電気的な短絡痕となる。 

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   ○ ⼀次痕は、塩化ビニルやゴムなどでできた電気配線やコードの被覆が、損傷したりすると次第に絶縁性が悪くなり、導

   通状態の芯線が接触して短絡する。特に、曲げや引っ張りの頻度が多い電気機器類の器具付きコードと延⻑コードは、机

   などで押しつぶされたりすると、細い銅線を縒り合わせてできているため、その素線が切れ、半断線となって抵抗が増し、過

   熱して被覆の絶縁を破壊して短絡する。   

   これらの被覆の損傷等による芯線の短絡時のスパーク(⽕花)で付近

  の可燃物を燃焼させ着⽕して⽕災になる。   この時の電気痕を「⼀次痕」と呼び、⽕災の直接の出⽕原因と

  なったものである。   ⼀次痕ができた後に、電源側⼆次痕ができる場合がある。

   

                                             写真12 プラグの直近で、判断線で短絡出⽕した⼀次痕 

  ○  ⼆次痕とは、すでに何らかの原因によって周囲に⽕災が発⽣し、そのため周囲の可燃物の燃焼と相まって、コードや電線

  ケーブルなどの被覆が損傷して芯線が露出し、これが通電状態の中で短絡したものである。

   この時に発⽣した電気痕を「⼆次痕」と呼び、⽕災の直接の原因  でなく、間接的に⽣じた電気痕のことである。

   出⽕原因とは、何ら関係がない、原因がタバコや放⽕などで、室内で

 ⽕災が発⽣すれば、発⽣する電気痕であり、直接に電気⽕災であると  ⾔うこととは関係しない。

                                    写真13 換気扇の器具コードに発⽣した⼆次痕

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    ⼀次痕と⼆次痕の区別   写真12と13の溶融痕をルーペ等により⽐較したとしても、⾒た⽬には、その区別は「判然としない」ことが結論となる。

  つまり、現場の焼損状況などに左右される要素が多く、痕の⾒分だけで区別することは困難である。    しかし、「⾒た」だけでない何かの違いがあるはずだと、意気込んで「考える」のが、⽕災調査の楽しさでもある。

 2) 電気の溶融痕は、出⽕箇所判定の有⼒な材料

   電気痕の意味

 1) ⼀次痕と⼆次痕の発⽣は、⼀端発⽣すると短絡時の過電流により、ついにはブレーカーが落ちて電源遮断し、その後は⼀般

  的には発⽣しなくなる。このため、短絡痕が⾒分される所は⽕災の発⽣場所に近いところであることが多く、短絡痕を「現場

  で発⾒する」ことは、出⽕箇所判定の⼤きな根拠となる。⽕災現場調査の進め⽅の教科書に記載されているとおりである。    ⽕災現場で「短絡痕」を探すことは、出⽕原因としてよりも「出⽕箇所の近傍であることの裏付け」として強調される。   特に、室内中央部付近から出⽕すると、壁⾯の⽴ち上がりがわかりにくいことが多く、そのの際部屋中央の照明器具のFケ

ーブル   の短絡痕は、有⽤な⽕災原因⽴証の証拠につながる。

 2) また、電気痕は、ある電気製品の通電⽴証 となる。

  電気製品から出⽕した場合、当該製品からの出⽕の仕組みを⽴証することは困難であっても、その製品の器具コードに電気の

 溶融痕が⾒られれば、その製品には電気が通電されていたことになる。このことを「電気痕による通電証明」と呼んでいる。通電が

 証明され、そして、電気痕が出⽕の近傍で発⽣することからも、当該製品からの出⽕の可能性が⾼くなる。   逆に、通電⽴証ができなければ、当該電気製品からの出⽕の可能性が極めて、低くなってしまう。

5.  電気の⼀次痕・⼆次痕に関する研究

 1) その発端と研究過程

 消防の⽕災原因調査の専⾨書を昭和40年頃に全国加除法令出版から出版し、その中に「電気⽕災」があった。短絡の記述  の中に「・・⽕災現場で⾒分される電気痕には⼀次・⼆次痕があり、⼀次痕の表⾯はきれいなものが多い・・」と⾔った表現

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 あった。 果たして、これがどこまで客観的に⽴証しえるのか、と⾔うことが、研究の発端であった。   1990年(平成2年)⽕災学会で、東京消防庁 ⽯橋良男、岸⽥順次⽒による「電線の⼀次、⼆次溶融痕鑑定⽅法に関する

  研究(その1)(その2)」として、研究内容から発表があった。この発表は、電気の短絡溶融痕を外観観察だけでなく、X線撮影、

  痕断⾯の観察、⾦属組織の観察とまったく新しい視点からの発表となった。⽕災学会誌には1992年(Vol.42, No.2, 197)で公表。

   その後、USAでのAESによる研究をベースとして、1996年(平成8年)⽕災学会で、東京消防庁 佐藤和広、杉崎倫男、柿崎

  諭等による 「電線短絡痕に対する、SIMS、AESを使⽤した表⾯分析による鑑定法」が発表され、溶融痕表⾯の酸素   濃化深度による判定法が提案された。( SIMS:⼆次イオン質量分析法、AES:オージェ電⼦分光法)

   その後、1999年関⽒等による「DASによる識別」が⽕災学会に、2000年、2001年の李義平⽒等による様々な取組が⽕災

  学会論⽂集等に発表され、2003年⻑⾕川、今⽥、⽮代⽒による「セルサイズによる識別」が発表され、平⾏して、NITE(製品

  評価技術基盤機構の栃⽊、北関東⽀社)が溶融痕のCu2Oの析出解析と結晶のセルを解析する識別法等が提案されている。

  また、2000年以降、⽇本鑑識科学技術学会等でも様々な⾓度からの検討結果が発表されている。    論⽂は少なく、どちらかと⾔うと学会発表が多くみられる。  

 2) ⼀次、⼆次痕の外観からの判別

     ⽯橋、岸⽥⽒の論⽂から引⽤する。   発端が「表⾯の⾒掛け上の美しさ」であったことから、その⾔葉の確証を得ることから始めたため、半年以上をかけて、⽕

災   現場から、電気短絡痕を丁寧に発掘し、現場の状況から出⽕原因の判定を確認した上で、採取した15個を試料とした。

  内訳として、⼀次痕9個、⼆次痕6個であった。   確認後、外観観察をして、実態顕微鏡で観察、次に、電⼦操作顕微鏡で観察してから、短絡痕の内部観察をする。

    外観観察→ 顕微鏡観察→ ⾛査電⼦顕微鏡(SEM)→ 断⾯ミクロ組織の観察   顕微鏡により、表⾯の「ツルツル、ぴかぴかの様⼦を探る」を⽴証するために

  「1、光沢の確認(銅と⿊墨部の分布)、2 平滑度、3形状」の3項⽬を調べた。 

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図6 短絡痕の外観表⾯観察⼿順    この⼿順により観察した結果が次のようになった。

  図7 溶融痕の表⾯の光沢状態の分布   写真14  顕微鏡の表⾯観察   図7は、縦軸に「⿊ずみ」の⽐率を、横軸に「銅の光沢」⽐率を⽰す。

 短絡痕を⽅眼紙上で分布率を算出し、個別の観察結果を散布図にプロットした。  1) 0°〜30°の「光沢のある領域」に⼀次痕が多く、60°から90°の「⿊ずみ領域」に⼆次痕が多いことが⾔えるが、

   「判別⽅法の確率は15%」程度でとなる。  2) 次いで、表⾯の平滑度についても表⾯が「平滑」である領域に⼀次痕が多く、平滑でない領域に⼆次痕が多いが、

  「判別の確率は6%」程度であった。

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 3) 同様に形状として、半球形と不定形に分けると、半球形に⼀次痕が多く、不定型に⼆次痕が多い、この場合の「判別   は確率とし40%」程度であった。

  このように、従来からの外形観察から得られる情報を整理して、判別する⼿法として実体顕微鏡で観察するかぎりでは、   「光沢・平滑・形状」を判断要素とすると6割程度の確率で、⼀次・⼆次痕が判別される。

  つまり、⽕災調査現場で従来から⾔われてきたルーペによる観察も科学的に⾒ると6割まで判別が可能で、これに調査員の  経験を重ねると7割程度まで判別ができるようになるが、それとて、所詮は「感」の世界に頼ることになる、ことが判る。 

 3)  短絡痕を断⾯切断した観察と⾦属組織

 次に、短絡痕の断⾯観察を実施した。  断⾯観察は、短絡痕の研磨⾯を決め、その部分が研磨できるように全体をエポキシ樹脂で固定し、研磨機で2種〜3種のエミ

リー  ペーパーで研磨し、その後アルミナ液で研磨し、表⾯をアンモニア溶液等の混合液で腐⾷させて固定した。

  断⾯観察から、ブローホールとボイド及び異物巻込みが観察される。   「ブローホール」は、表⾯に⼝を開けた⽳であり、「ボイド」は空気だまりである。

 写真15 短絡痕の外⾒観察   写真16 表⾯観察写真  写真17 短絡痕断⾯写真

  写真18 短絡痕の断⾯写真の解説

  写真17から、「ボイドの気泡」が⾒られ、表⾯にその  気泡が開いているものを「ブローホール」と呼ぶ。

   ★写真を⾒せられて、「ビックリ」だった。

 今まで、⾦属腐⾷などの割れを観察する際に⾦属表⾯写真を⾒た  ことがあったが、電気の「短絡痕」がこんなにも魅⼒的に富んだもの

 だとは・・・、と感⼼した。これを⾒ただけで、電気短絡痕の⼒と神秘性  がわかった気がして、⼀次⼆次痕も解明できるのではと思えた??

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  ブローホールとボイド、異物混⼊の短絡痕の断⾯観察からの結果を識別すると下の図8となった。

          図8 短絡痕の断⾯観察の結果    短絡痕15個の観察結果が図8となる。 

   表のバラツキから、結論として、⼀次痕であるとことと、⼆次痕であることの明確な判別とはなっていない。   ○ ブローホールでは、⼀次痕では発⽣しやすく、⼆次痕では発⽣が低くなる。

    このことは、ブローホール発⽣では、急冷が考えられ、短絡痕形成時のエネルギーが⼤きいことから、⼀次痕に多くでる

    ものと思われる。  ○ ボイドでは、⼀次痕、⼆次痕で発⽣するが、⼆次痕では発⽣しないことがある。

 ○ 異物の巻き込みは、⼆次痕のほうが多い傾向を⽰す。    このことは、徐々に冷えてできる時間が⻑いために異物の巻き込みの⽐率が⾼くなると思われる。

           判定としては、 ①ボイドの有無 → ボイドが無いと⼆次痕の可能性が⾼い。                           ↓        

                     ②異物の巻き込みが多い→ ⼆次痕の可能性が⾼い。                           ↓

                     ③ ブローホールの有無 → 無いと⼆次痕の可能性が⾼い。   この⼿順を踏んでも、判定の決定には⾄らない。

  しかし、外観観察の図7の光沢の分布図において、光沢の有無・球形の条件も前提として判断要素とすると、その後に、   異物巻き込み・ボイド・ブロホールの条件がすべてあてはまると「⼀次痕」である可能性が⾼くなる。

  ★ このことは、「⼀次痕の判定」と⾔うことでなく、現場で採取された⼀次痕の持つ様相が、「⼀致する条件が多い」   と⾔うことである。つまり、「必要⼗分条件を満たした同等(equivalents)である」と⾔うことでなく、⼀次痕と認めるに

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⾜る   条件にふさわしいと⾔うことで、「⼀次痕の判定」とはならないが、⼀次痕の要素を備えた電気痕である。

   このロジックが、電気の⼀次・⼆次痕では、混乱して使⽤されることが多い。   ここで、このボイドの「分散」状態について、さらに検証実験1)をしている。

   それによると、⽯英管の管状炉の中で、電気配線を⽤いて過電流により⼈為的に「短絡痕」を作成する。その際、  1) 管内を“⼤気中の雰囲気”とした場合と、“窒素、⼆酸化炭素だけ”の場合に分けて作成すると、⼤気中の場合の

  ほうが「ボイドが⽣成し」、酸素がないと「ボイドが発⽣しない」ことが裏付けられた。    短絡痕の「ボイド」は、⼤気中の酸素が溶融した銅に吸収され、冷却時にガスとして再び分離する際に発⽣する

   ものと解される。   2) また、酸素の吸収の際に、溶銅の冷却過程において、冷却速度が速いと細かいボイドがたくさんできる傾向にあり、

  緩やかに冷却すると⼤きいボイドになることもわかった。このことも、急冷傾向が「⼀次痕の雰囲気に近い」ことから、   細かいボイドは⼀次痕の傾向を⽰し、数少なく⼤きいボイドは雰囲気温度が⾼い、⼆次痕の傾向を⽰すこととなった。

  この実験結果と、表4の実際の短絡痕の観察から、「ボイドの有無」は判定の⼤きな要件となるものと思われる。   そして、これらが⾦属顕微鏡で観察できることから、現場調査の判別法として有意な意味をなすものとなった。

×88 ×88

 写真19 実験による急冷時溶融痕  ボイドが細かく分散している

  写真20 実験による除冷時の溶融痕    ボイドが⼤きく中央に偏在する

 同様に、実験による溶融痕を作製し、その痕を観察した。  実験は、被覆を焼損させて、短絡させた場合と何もない条件で短絡させた「電気痕」を観察すると、異物混⼊は「雰囲気中に

煤  等がある」時に発⽣している。これも⼆次痕に近い傾向を⽰すとなった。

  4)  短絡痕の断⾯からのミクロ組織の観察

 次に、断⾯を⾦属顕微鏡によりミクロ組織の観察を⾏った。

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     図9 試料のミクロ組織の観察結果   この観察結果では、⼀次・⼆次痕ともにα固有体の組織が多く⾒られる。

  No4は、初晶のCu2Oが晶出してから、共晶のCu-Cu2Oを形成している。 このNo4は、スパークを繰返したため、

  酸化反応で溶融痕の酸素固溶量が多くなり⽣成したものと考えられた。  ◎微細な酸化第⼀銅(Cu2O)(亜酸化銅)の析出の有無が⾒られるが、⼀次痕にはあまり⾒られず、⼆次痕と判定

  されている溶融痕には多く⾒られる。

  これは、酸化第⼀銅の析出が、⾼温状態の出現時間帯に依拠することから、⼀次痕のように雰囲気温度が低い   と短絡時の短い時間帯しかないことから「発⽣しずらく」、⼆次痕のように周囲が⾼温帯となる場に存在しながら

  形成される電気痕では「発⽣しやすく」なる。このように考えると理解しやすくなる。   このことを、検証実験で確認する。

  常温の状態で短絡した「溶融痕」を作成したものが写真21で、全体として「共晶組織」が均⼀に広がっている。   800℃の⾼温状態で短絡させた「溶融痕」を作成したものが写真22で、溶融痕の表⾯やボイド内壁に酸化第⼀銅   (Cu2O)の被膜が発⽣している。

  まとめると、⼀次痕に近いものは「微細な共晶組織」が全体を占めるが、⼆次痕近いと共晶組織に⼤きいものが

 できたり、銅と酸化第⼀銅の初晶の発⽣が⾒られる。

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     微細な共晶組織

 写真21 周囲温度を常温・酸素ありとした溶融痕 写真22 周囲を⾼温、酸素⼩として溶融痕

 酸化第⼀銅が⾒られる。(デンドライト) 

 さらに、⼀度発⽣した電気溶融痕は、⽕災熱(800℃)で再加熱しても組織の変化がないことも確認された。

   5)  ここまでのまとめ

 ここまでの内容をまとめる。  ここまでだけでも、外観観察から断⾯観察、ミクロ観察とさまざまな視点から試料により⼀次、⼆次痕の判定⽅法を提案し

た。   図10 ⼀次・⼆次痕のまとめ   この表のように「識別の判定条件」として⼀覧すると分かりやすくなる。

 ポイント欄は、勝⼿に筆者が⼊れ込んだものだが、便宜的にこのようなポイントを⼊れ「80ポイント以上だと⼀次痕に判定  される要因が⾼い」と⾔うと分かりやすい。

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 このことが、⼀義的に「⼀次痕であると判定する」ものではない。  ここで、議論なったのは、短絡痕を集めて調べてみたら、⼀次痕と⼆次痕では「様相が異なる部分がある」と⾔うこと

 だった。と⾔っても、すべてに共通したものではなく、おおざっぱに⾔えば「異なる部分がある」となる。  そこで、検討したのが「なぜ、そうなるのか」。識別の違いとその後の検証実験から推測して、次のように考えた。

 「⼀次痕は、近傍の空気中酸素が多く、かつ、短絡後に急冷する。⼆次痕は⽕災により酸素が少なく、除冷する。」  と仮定した。

 この考えでまとめると、検証のための追実験は、その線に沿った結果を⽰し、ほぼその考え⽅(仮定)の実験結果と試料と相似  が得られた。

 ☆ ここまでの内容は、下記の論⽂から引いている。思い違いもあるかもしれないので、研究されるなら、⾃分で確認されたい。

  (1) 東京消防庁 ⽯橋良男、岸⽥順次「電線の⼀次、⼆次溶融痕鑑定⽅法に関する研究」その1、その2     平成2年度⽕災学会研究発表会概要集,pp83〜90 (1990).

  (2) 東京消防庁調査課「電線の1次、2次溶融痕鑑定⽅法に関する研究」⽕災,42,No2(197号),(1992)    (3) 伊藤允之「電線の短絡痕と⽕災」'93予防時報175, ⽇本損害保険協会(1993)

      伊藤⽒が書かれているのは、東京消防庁の研究が、分析等において研究委託し、その委託研究を引き受けた       ⽇⽴製作所多賀⼯場の研究員として発表されている。委託先は、⽇⽴電線(株)⽇⾼⼯場、⽇⽴電線(株)⾦属       研究所、茨城⼤学⼯学部、⽇⽴製作所多賀⼯場の4者による共同受託である。

  6)  「銅の結晶組成」を観察するさまざまな⽅法へのコメント

  [この部分は、つぎのSIMSの研究内容に⼊る前に⼊れました。]   ⼀次・⼆次痕の試料から⾒た識別⽅法を提案したところ、⾦属組織の部分に着⽬された研究がその後に続いた。

 図11は、銅の温度と酸素環境における結晶状態図だ。

 写真21,22の実験として、酸素を絶った状態を⼆次痕に近い  状態として、再現させ、そのことによって、⼆次痕の様相を  説明する際に利⽤した。

  端的には、温度範囲が⾼く、酸素が少ない状態で、酸化  第⼀銅(Cu2O)の析出が⾒られることにある。

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 図11 Cu-O状態図

  話の展開は、「⼀次痕は、空気(酸素)が多く、急冷する。⼆次痕は⽕災により空気が少なく、除冷する。」と仮定し、  実験を組み⽴てたことにある。

  「たぶん、そうだろう」とした仲間うちの取り決めによる仮定が、いつの間にか「定義」のようになってしまった。   定義「・⼀次痕は、出⽕時に⽣じる短絡痕であって、近傍の酸素濃度が⾼く、⽣成時の雰囲気温度が低い。

      ・⼆次痕は、出⽕後の⽕炎の中で⽣じる短絡痕であって、酸素が少なく、⽣成時の雰囲気温度は⾼い。」   しかし、こんなこと、電気⽕災の短絡現象の中で、決まっていることとは⾔えないし、誰も証明していない。

 この上に⽴って、コードのより線の数本に、過電流をかけて溶融痕を幾つ作っても、「電気⽕災の⼀次痕」とは⾔えない。  まして、酸素を絶って、デンドライトができたところで、⽕災現場がそうやすやすとその⼿の再現実験に⾒合うわけではな

い。  建物⽕災は、床⾯付近を這うように⽕災全体の「空気」を吸い込んでおり、結構な⾵がある。それは、ろうそくの炎の⼀次空

 気の取り⼊れ⽅法と同じだ。その中で、室内全体が、上⽅からの強い輻射熱で床⾯付近のコード被覆が焼損して溶融し、  短絡すると、⼆次痕でも「空気があって、急冷すること」もあり得る。逆に、⼀次痕ほど、じくじくと被覆が半断線等の⾼い

抵  抗熱が熱せられて、短絡すると近傍の空気層が薄く、除冷となるかも知れない。銅の溶融時温度と雰囲気酸素量の関係が、

 わかったとして、そのここと⼀次・⼆次痕との関係は、前出の定義を、はめ込まない何とも⾔えないことになる。  実験が、銅のより線の数本または1本を過電流で溶融させ、温度と酸素量等を変化させてミクロ組織の変化を観察している

 ケースが多いが、これが、「⽕災の⼀次・⼆次短絡痕」に同等である、とする、もともとの⽴証がどこにもない。  

                      電気の⼀次、⼆次痕の判定⽅法の⽋陥(陥穽)。

  仮説として「定義」の明確な根拠がないまま、実験室レベルの無数の「短絡痕」を作って、無理やりその枠に

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はめ込もうと   している作業に過ぎず、⽕災調査の現場とは違った次元となっている。 

   そもそも、実験の前提があやふやなまま、その実験による溶融痕を「⼀次短絡痕・⼆次短絡痕」と名付けて、分析して

 も⽕災時の短絡痕と同等と呼べには「無理がある。」ことになる。

  電気溶融痕の研究の中では、半断線・断線(スパーク)・束線・捩回接続、外傷とされる実験をして、作った溶融痕を「⼀次痕」

 とし、⼆次痕をクリブ等上で通電したコードを燃やした物を「⼆次痕」として、分析しているケースもあるが、その場合では、この

 作成した溶融痕により、⼀次・⼆次痕としたものは、その結果のまとめで、外観の識別困難・ボイドも識別困難・酸化組織もどち

 らとも⾔えない。となっている。と⾔うことは、このような「実験サンプルによる、⼀次・⼆次痕の識別」の前提が本来「識別⽅法と

 するにはふさわしくない。」とも⾔える結論である。⽕災現場から採取した「実際の現物」を使って組み⽴てた識別判定がまったく

 意味をなさないとするなら、それは「定義の根拠を⽋いた実験により得られた溶融痕にこそ」意味がないとすべきだろう。  たとえば、下記のような⽕災現場はどうだろう。

 実験では「束線による短絡⽕災」の典型例だが、この場合、どの痕を持って「⼀次痕」とするのだろうか

  写真23 ⽕災現場で⼀次痕とされたコード 写真24 左コードを鑑識して、拡⼤したもの

 いくつもの短絡痕が発⽣している。⼀次はどれか?

  ☆⽕災学会 「電源コード溶融痕のDSAによる⼀次・⼆次痕の識別」「セルサイズによる電源コードの⼀次・⼆次痕識別」  「巻き込み炭化残差中の炭素結晶構造分析による1次・2次溶融痕の判別に関する研究」「電気溶融痕に関する基礎的研究」

 ⽇本鑑識科学技術学会等の発表などさまざまで、さらには個別に「事故原因究明のマニュアル」などもあり⾃分で確認してく  ださい。

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  7)  SIMSを⽤いた研究(表⾯分析)

                    

 < ⽕災原因調査 <