DNA RNA Development of novel artificial nucleobases in alkynyl
Transcript of DNA RNA Development of novel artificial nucleobases in alkynyl
くろさき ふみひろ
氏 名 黒崎 史大
学 位 の 種 類 博士(薬学)
学 位 記 番 号 富医薬博甲第 336号
学位授与年月日 令和 2年 3月 24日
学位授与の要件 富山大学学位規則第 3条第 3項該当
教 育 部 名 富山大学大学院医学薬学教育部 博士課程
薬学専攻
学位論文題目
論文審査委員
(主査) 教 授 松谷 裕二 (副査) 教 授 矢倉 隆之 (副査) 准教授 千葉 順哉 (指導教員)
アルキニル DNA を主体とする新規人工核酸塩基部位の開発と
対応する RNA への展開 (Development of novel artificial nucleobases in alkynyl
DNAs and the corresponding alkynyl RNAs.)
様式3
論 文 要 旨
アルキニル DNA を主体とする新規人工核酸塩基部位の開発と
対応する RNA への展開
博士課程 薬学専攻
黒崎 史大
核酸やタンパク質などの生体高分子は、非常に類似した化学構造をもつ繰り
返し単位 (モノマーユニット ) が連なった構造となっている。生体高分子の高次
構造や機能は、このモノマーユニットの僅かな化学構造の違いにより緻密に制
御されている。例えば、核酸では核酸塩基や糖骨格の違いが、タンパク質ではア
ミノ酸残基の側鎖の違いがそれにあたる。したがって天然分子を模倣して類似
の人工分子を創成する際、分子レベルでの化学構造の微妙な違いが、その高次
構造や機能に大きな影響を及ぼしうる。
申請者の所属する研究室では、天然 DNA に類似した物理・化学的特徴をもつ
DNA 類似体 (人工 DNA) として、「アルキニル DNA」を以前から開発してきた。
上段での「分子レベルでの化学構造の微妙な違いが、その高次構造や機能に大
きな影響を及ぼしうる」ことを踏まえ、核酸塩基部位や糖骨格の化学的改変を
通じて、アルキニル DNA に新たな高次構造形成能や機能を付与できるのでは
ないかと考えた。この発想のもと本学位論文では、アルキニル DNA を主体とす
る新規人工核酸塩基部位の開発、ならびに対応する人工 RNA の構築を検討し
た。第一章では、互変異性化により自己相補的となる核酸塩基として、アミノピ
リミジノン骨格を有する Xp* を開発した。これにより、三文字や五文字といっ
た奇数の遺伝文字での DNA 類似体を創成することが可能となる。第二章では、
水素結合パターンを天然の A/T 対と同じにする目的で、新たなアデニンアナロ
グとしてアミノピリジン骨格を有する P yA* を開発した。P yA* のホモオリゴマー
は、チミンアナログである T* のホモオリゴマーと二重鎖のみを形成した。第三
章では、人工 DNA 中の糖骨格をアルキニルデオキシリボースからアルキニル
リボースへと改変した。アルキニルリボース型の P yA* および T* から構成され
るアルキニル RNA は、相補的な塩基配列を持つ天然 DNA・RNA、さらにはアル
キニル DNA・RNA とも二重鎖を形成した。アルキニル RNA は、特に天然 DNA
と極めて強く相互作用した。以下、これらの結果を詳述する。
第一章 2-Amino-3H-pyrimidin-4-one 骨格を用いた自己相補的な人工核酸塩基の開
発 1 )
天然 DNA では、異なる2種類の核酸塩基が相補的な水素結合により塩基対を
形成している。これまでに報告されている人工 DNA においても、そのほとんど
が異なる2種類の人工核酸塩基が塩基対を形成する。2分子の同一な人工塩基
が塩基対を形成する人工 DNA としては、金属イオンとの錯形成を駆動力とした
例のみであり、水素結合でこれを達成した例はこれまでにない。申請者が所属
する研究室では、 2-amino-3H-pyrimidin-4-one が互変異性を介して自己相補的に
二量体を形成することを既に報告している。そこで、本骨格を新たな人工核酸
塩基 Xp* として採用し、自己相補的なヌクレオシドを設計した (図 1)。既知化
合物であるアルキニルデオキシリボース誘導体 1 と塩基部位のヨウ化物 2 を薗
頭カップリングにより連結し、続くホスホロアミダイト化により、Xp* のホスホ
ロアミダイト体 4 を合成した (図 2)。固相合成法により Xp* を一塩基導入した
回文配列 d(A 8Xp*T 8) を合成し、その融解温度 (Tm 値 ) を測定した (表 1)。なお
括弧の前の "d"は DNA 型であることを意味し、核酸塩基記号の後ろの下付き数
字は連続したヌクレオチドの残基数を示す。d(A 8Xp*T 8) は同鎖長の天然 DNA 二
重鎖 5ʹ-d(A9T8) / 3ʹ-d(T9A8) よりやや低い Tm 値を示したものの、天然の一塩基ミス
マッチ回文配列 5ʹ-d(A8GT8) より高い Tm 値を示した。以上の結果から、Xp* は天
然二重鎖中において自己相補的な塩基対形成が可能であることが示唆された。
第二章 2-Aminopyridine を核酸塩基として用いた新規アデニンアナログの開発 2 )
アデニンアナログとして以前に報告した A* (2-aminopyrimidine) のホモオリ
ゴマーは、相補的なチミンアナログである T* のホモオリゴマーと、二重鎖を経
ず一挙に三重鎖を形成した (図 3a)。天然の DNA では、特殊な条件下でしか見ら
れないこの高次構造の形成を抑制すべく、既に D* (2,4-diaminopyrimidine) を新
たなアデニンアナログとして開発している。A* 塩基の水素結合様式に対する対
称性を崩せば、二重鎖と三重鎖を段階的に形成すると考えたためである (図
3b)。実際、D* ホモオリゴマーは T* ホモオリゴマーと2段階で多重鎖を形成し
たが、三重鎖が天然 DNA の三重鎖と比較して熱的に安定であることがわかっ
た。さらに、Watson-Crick 面での塩基対が三点の水素結合により形成されるた
め、二重鎖での熱安定性も天然 DNA と比較して高くなった。そこで本研究では、
天然 A-T 塩基対と水素結合パターンが等しく、かつ二重鎖のみを特異的に形成
する新たなアデニンアナログとして、2-aminopyridine (P yA*) を選択した (図 3c)。
アルキニルデオキシリボース 1 と、P yA* のハロゲン化体 6 を薗頭カップリン
グに付し、続くホスホロアミダイト化により DNA 固相合成に供しうる 8 を得た
(図 4)。まず、天然塩基配列中に一か所のみ P yA* を導入したキメラ型配列 9 を
作成した (表 2)。 9 の天然鎖部位と相補的かつ 9 の P yA* に対して T* が対合す
るキメラ型配列 10 との Tm 値は 51.0 °C であった (entry 4)。同鎖長の天然 DNA 二
重鎖 11•12 と比してやや低い値を示したものの (Tm = 55.5 °C、 entry 5)、同鎖長の
一塩基ミスマッチ二重鎖 12•13 より 4 °C 高かった (Tm = 47.0 °C、 entry 6)。さら
に、9 の P yA* に対して、天然 T、A、G、C が対合する天然配列 12 および 14-16
との Tm 値を比較した (表 3、 entry 7-10)。 P yA* に対してプリン塩基が対合する
配列が比較的高い Tm 値を示し、天然核酸塩基が P yA* 塩基と対合する場合は疎
水性相互作用が対形成の駆動力として優位になることが示唆された。一方で、P yA*に対する位置に、人工核酸塩基である T*、 P yA*、A*、G*、C* を挿入した
配列 10 および 17-20 と 9 との Tm 値の比較においては、水素結合様式が合う entry
4 の 9•10 が最も高い Tm 値を示した (entry 4 および 11–14)。
次に、 P yA* ホモオリゴマーの d(P yA*) n (n = 16、 20、 24) と、対応する鎖長の
T* ホモオリゴマーとの二重鎖 21•22、23•24、25•26 の Tm 値を調査した。表 3 の
entry 15-17 に示すように Tm 値はいずれも単一であり、鎖長が長くなるほど Tm
値は高くなる傾向が見られた (図 5a と 5c)。さらに、これらの人工 DNA 二重鎖
について円二色性 (CD) スペクトルの温度依存性を追跡したところ、溶液温度を
下げるにつれてコットン効果が増強した (図 5b)。この変化は可逆的であり、昇
温した場合には CD のコットン効果は元の値まで弱まった。さらに d(P yA*) 2 0 に
対する d(T*) 2 0 の滴定実験より、 d(P yA*) 2 0 に対して d(T*) 2 0 を等量加えたところ
で CD の変化は飽和し、P yA* と T* は 1:1 で会合することが判明した (図 6)。ま
た二重鎖を形成した時の CD のコットン効果は、長波長側から正負の順番であ
り、これは天然の DNA 二重鎖の場合と一致する。以上の結果から P yA* ホモオ
リゴマーと T* ホモオリゴマーは、DNA と類似する二重鎖構造を形成している
ことが示唆された。
第三章 アルキニル RNA の開発と物性評価
第二章で開発したアルキニルヌクレオチドが構築する高次構造体は、天然
DNA と非常によく似た特性を示した。この結果を受け、申請者はアルキニルヌ
クレオチドに遺伝情報担体としての機能を付与しようと考えたが、アルキニル
ヌクレオチドが遺伝情報担体として機能するには RNA 型のアルキニルヌクレ
オチドの開発が不可欠である。そこで、 第二章で述べた P yA* や T* の糖骨格を
アルキニルリボースへと改変したアルキニル RNA の開発を行った。アルキニル
リボース誘導体と人工核酸塩基のハロゲン化体を薗頭カップリングにより連結
した後、常法に従いホスホロアミダイト化を行うことで、RNA 型のアデニンア
ナログ rP yA* とチミンアナログ rT* のホスホロアミダイト体を調製した。これ
らのホスホロアミダイト体を固相合成法に適用し、目的とするアルキニル RNA
のホモオリゴマー r(T*)1 6 と r( P yA*)1 6 を得た。なお、括弧の前の "r"は RNA 型で
あることを示す。
得られたアルキニル RNA について、天然 DNA および天然 RNA との会合能を
調査した結果、アルキニル RNA は、天然 DNA と極めて強固に会合することが
わかった。アルキニル RNA と天然 DNA との高い親和性は、詳細については調
査中であるが、糖骨格のコンフォメーション (パッカリング ) に起因していると
予想している。さらに、 r(T*)1 6 と相補的なアルキニル DNA d(P yA*)1 6 およびア
ルキニル RNA r( P yA*)1 6 との相互作用を評価したところ、いずれの場合において
も二重鎖を形成することが示唆された。
本研究では、核酸塩基および糖骨格を化学的に改変し、新規な人工 DNA と人
工 RNA を開発した。第一章では、これまでに報告の無かった、水素結合による
自己相補的な DNA 類似体の開発に成功した。第二章では、二重鎖のみを選択的
に構築するアデニンアナログの開発に成功した。第三章では、糖骨格をアルキ
ニルデオキシリボースからアルキニルリボースに変更することでアルキニル
RNA を創出した。このアルキニル RNA は、天然 DNA と強固に結合する特徴を
活かすことで、アンチジーン医薬品や核酸検出技術への応用が期待される。
1) Kurosaki, F.; Chiba, J.; Inouye, M. Heterocycles , 2018 , 97 , 1149–1156.
2) Kurosaki, F.; Chiba, J.; Oda, Y.; Hino, A.; Inouye, M. J. Org. Chem., 2020, 85, 2666−2671.
図 2. Xp* ホスホロアミダイト 4 の合成 (a) PdCl2(PPh3)2, CuI, 2, DMF, i-Pr2NH, 68%; (b) i-Pr2NP(Cl)O(CH2)2CN, DIPEA, CH2Cl2, 76%.
図 4. PyA* ホスホロアミダイト 8 の合成 (a) Phenoxyacetyl chloride, Et3N, CH2Cl2, 89%;
(b) 6, Pd(PPh3)4, CuI, Et3N, CH3CN, quant.; (c) i-Pr2NP(Cl)O(CH2)2CN, DIPEA, CH2Cl2,
86%.
entry Sequences Tm a (ºC)
1 5ʹ-d(A8Xp*T8) 50.5
2 5ʹ-d(A9T8) / 3ʹ-d(T9A8) 51.5
3 5ʹ-d(A8GT8)b 48.0
表 1. 各種配列の Tm 値測定
図 3. (a,b) これまでに開発したアデニンアナログ (A*、D*)の特徴
(c) 新たに設計したアデニンアナログ (PyA*) の特徴
(d) 天然 A-T 塩基対
図 1. Xp* を核酸塩基として有する新規
ヌクレオシドの自己相補的会合
一挙に三重鎖を形成
Inouye, M. et al.
J. Am. Chem. Soc. 2008
天然と異なる水素結合
パターン Inouye, M. et al. Chem. Commun. 2015
天然と同じ水素結合パターン、
二重鎖のみ
a Tm 値は融解温度曲線を一次微分して得られた曲
線の極大値を基に得た
表 3. 各二重鎖の Tm 値一覧 .
entry duplexes Tm (°C)b
4 9•10 51.0
5 11•12 55.5
6 12•13 47.0
7 9•12 49.0
8 9•14 49.0
9 9•15 50.5
10 9•16 47.5
11 9•17 46.5
12 9•18 46.5
13 9•19 48.0
14 9•20 46.5
15 21•22 24.5
16 23•24 32.0
17 25•26 38.5
18 21•27 n.d.a
19 21•28 n.d.a
20 21•29 n.d.a a 融解曲線がシグモイダル曲線を示さなかった b Tm 値は融解温度曲線を一次微分して得られた曲線の極大値を
基に得た
図 6. d(PyA*)20 と d(T*)20 の CD
スペクトルによる滴定実験
([23] = 2.0 μM, [24] = 0-4.0
μM, 273 nm, 10 °C)
表 2. 使用した配列
No. Sequences
9 5ʹ-ACGTTATPyA*TAGCGC 10 3ʹ-TGCAATAT*ATCGCG 11 5ʹ-ACGTTATATAGCGC 12 3ʹ-TGCAATATATCGCG 13 5ʹ-ACGTTATTTAGCGC 14 3ʹ-TGCAATAAATCGCG 15 3ʹ-TGCAATAGATCGCG 16 3ʹ-TGCAATACATCGCG 17 3ʹ-TGCAATAPyA*ATCGCG 18 3ʹ-TGCAATAA*ATCGCG 19 3ʹ-TGCAATAG*ATCGCG 20 3ʹ-TGCAATAC*ATCGCG 21 5ʹ-d(PyA*)16 22 5ʹ-d(T*)16 23 5ʹ-d(PyA*)20 24 5ʹ-d(T*)20 25 5ʹ-d(PyA*)24 26 5ʹ-d(T*)24 27 5ʹ-d(A)16 28 5ʹ-d(C)16 29 5ʹ-d(T)16
図 5. d(PyA*)20 と d(T*)20 の 1:1 混合溶液の CD および UV-vis スペクトル
(a) UV-vis スペクトル 10 °C (黒) と 80 °C (赤)
(b) CD スペクトル 10 °C (黒) と 80 °C (赤)
(c) 272 nm における温度依存的な吸光度の変化 (黒) と融解温度曲線の一次微分 (赤)
(測定条件 : 2 μM duplex, 10 mM HEPES (pH 7.0), 100 mM NaCl, 10 mM MgCl 2)