deg N(s) =m, deg D(s n...2017/04/08  · m s p s p b s z s z G s − − − − = L L D(s)...

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人間システム制御工学,制御工学1講義資料 担当 松尾孝美@大分大学工学部福祉環境工学科 1 1.システムの応答 1.1 伝達関数の一般形 1入力1出力伝達関数の一般形は次式のようになる. n n n m m m a s a s b s b s b s G + + + + + + = L L 1 1 1 1 0 ) ( 通常の装置の場合には, m n である.伝達関数は s に関する有理関数であり,分子多項式 ) ( s N と分母多項式 ) ( s D の比で表されることになる.ただし, n n n m m m a s a s s D b s b s b s N + + + = + + + = L L 1 1 1 1 0 ) ( ) ( とする.多項式の次数とは s の最高次数のことであり,記号 deg であらわす.つまり, n s D m s N = = ) ( deg , ) ( deg m n の場合,プロパな伝達関数(proper transfer function)といい, m n > の場合,厳密に プロパな伝達関数という.分母多項式と分子多項式の根を各々,零点という.極と零 点を,各々, n p p , , 1 L m z z , , 1 L とおくと,伝達関数は次式のように因数分解できる. ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( 1 1 0 n m p s p s z s z s b s G = L L 0 ) ( = s D を伝達関数の特性方程式という.特に,次のような伝達関数をもつシステムを次遅れ系という. a s s G + = 1 ) ( ただし,1次遅れ系の標準形は,次式のように書かれる. 1 ) ( + = Ts K s G ここで, T を時定数, K をゲインという. また,つぎのようなシステムを2次遅れ系という. 2 1 2 1 ) ( a s a s s G + + = ただし,1次遅れ系の標準形は,次式のように書かかれる. 2 2 2 2 ) ( n n n s s s G ω ςω ω + + = ここで, 0 > n ω を固有各周波数, ς を減衰係数という. 1.2 過渡応答特性 入力を加えたり,初期条件がゼロでない場合には,システムは,過渡状態を経て,定常 状態に至る.定常状態に至るまでの出力を過渡応答といい,定常状態の出力を定常応答と

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1.システムの応答 1.1 伝達関数の一般形 1入力1出力伝達関数の一般形は次式のようになる.

nnn

mmm

asasbsbsb

sG++++++

= −

L

L1

1

110)(

通常の装置の場合には, mn ≥ である.伝達関数は s に関する有理関数であり,分子多項式

)(sN と分母多項式 )(sD の比で表されることになる.ただし,

nnn

mmm

asassD

bsbsbsN

+++=

+++=−

L

L1

1

110

)(

)(

とする.多項式の次数とは s の最高次数のことであり,記号degであらわす.つまり, nsDmsN == )(deg,)(deg

mn ≥ の場合,プロパな伝達関数(proper transfer function)といい, mn > の場合,厳密に

プロパな伝達関数という.分母多項式と分子多項式の根を各々,極と零点という.極と零

点を,各々, npp ,,1 L と mzz ,,1 L とおくと,伝達関数は次式のように因数分解できる.

)()()()(

)(1

10

n

m

pspszszsb

sG−−−−

=L

L

0)( =sD を伝達関数の特性方程式という.特に,次のような伝達関数をもつシステムを1

次遅れ系という.

assG

+=

1)(

ただし,1次遅れ系の標準形は,次式のように書かれる.

1)(

+=

TsKsG

ここで,T を時定数, K をゲインという. また,つぎのようなシステムを2次遅れ系という.

212

1)(asas

sG++

=

ただし,1次遅れ系の標準形は,次式のように書かかれる.

22

2

2)(

nn

n

sssG

ωςωω

++=

ここで, 0>nω を固有各周波数,ς を減衰係数という.

1.2 過渡応答特性

入力を加えたり,初期条件がゼロでない場合には,システムは,過渡状態を経て,定常

状態に至る.定常状態に至るまでの出力を過渡応答といい,定常状態の出力を定常応答と

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いう. ステップ応答:初期値ゼロで,入力が単位ステップ関数のときの出力応答のこと.

⎭⎬⎫

⎩⎨⎧= −

ssGLty 1)()( 1

インパルス応答:初期値ゼロで,入力が単位インパルス関数のときの出力応答のこと. { })()( 1 sGLty −=

左図は1次遅れ系のステップ応答,右図は2次遅れ系のステップ応答である.

*詳しい波形はテキスト p.85 から p.91 までを読むこと.

1.2 周波数伝達関数(テキスト pp95~107.) 正弦波や余弦波を入力したときの,時間が充分に経過した時の出力応答を周波数応答とい

う.入力 tUtu m ωsin)( = に対する出力 )(ty を計算する.ただし, )()()( sUsGsY = とし,

伝達関数の分母多項式を因数分解で次式のように表すとする.

)()()()(

1 npspssNsG

−−=

L

入力のラプラス変換は次式のようになる.

))(()( 22 ωω

ωωω

jsjsU

sU

sU mm

−+=

+=

出力のラプラス変換は次式のようになる.

))()(()()(

)()()(1 ωω

ωjsjspsps

UsNsUsGsY

n

m

−+−−==

L

簡単のため,極はすべて異なるとすると(重複してもわずかな修正でよい),次式のように

部分分数展開できる.

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ωω jsK

jsK

psK

psK

sY nn

n

n

−+

++

−++

−= ++ 21

1

1)( L

逆ラプラス変換すると,出力は次式のようになる.

tjn

tjn

tpn

tp eKeKeKeKty n ωω211

1)( +−

+ ++++= L

ここで,極のすべての実部が負のとき,次式が成立する.

0)(lim 11 =++

∞→

tpn

tp

tneKeK L

このような項を過渡応答という.ここで,極を

iii jp βα += と実部と虚部の直交座標で表すと,次式が成り立つことに注意しよう.

)sin(cos tjteeeee iittjttjttp iiiiii ββαβαβα +=== +

tjn

tjn eKeK ωω

21 +−

+ + は tt ωω cos,sin よりなることから,時間的に減少してゼロになったり,

あるいは増大して無限大になったりすることはなく,定常的に振動する項を表している.

この部分を周波数応答という.具体的に,次式を用いて 21 , ++ nn KK を求めてみよう.

n

n

nnm

psK

psK

A

jsK

jsK

Ajsjs

UsG

−++

−=

−+

++=

−+++

L1

1

21

))(()(

ωωωωω

上側の式に ωjs + をかけて, ωjs −= を代入すると,次式のようになる.

121)( +=

−− nm K

jjGU ω

また, ωjs − をかけて, ωjs = を代入すると,次式のようになる.

221)( += nm Kj

jGU ω

したがって,周波数応答は次式のようになる.

⎭⎬⎫

⎩⎨⎧

+−

−=+ −+

−+

tjtjm

tjn

tjn e

jjGe

jjGUeKeK ωωωω ωω

21)(

21)(21

ここで, )( ωjG は複素数であることから,複素平面上のベクトルとして表すことができ,

次式のように極座標表現が可能である.

)()()( ωωω jGjejGjG ∠=

ここで, )( ωjG は大きさ, )( ωjG∠ は偏角を表す.

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)( ωjG − は )( ωjG の虚数部の符号を変えたものになるので上図のように両者は実軸に対

して対称になる.したがって,次式が成り立つ.

)()()( ωωω jGjejGjG ∠−=−

これを用いると,周波数応答はつぎのように計算できる.

))(sin()(21 ωωωωω jGtUjGeKeK mtj

ntj

n ∠+=+ +−

+

課題:上式を導出せよ. したがって, )(sG の極の実部が全て負の場合には,正弦波入力

tUtu m ωsin)( = を加えたときの,時間が充分経過した時の出力(定常出力)は次式のようになる.

))(sin()()( ωωω jGtUjGty m ∠+=

そこで,入力と出力の振幅と位相を比較すると,つぎのようになる. 振幅 位相 入力 mU 0 出力

mUjG )( ω )( ωjG∠

伝達関数 )(sG のシステムの定常出力は入力の振幅を )( ωjG 倍し,位相を )( ωjG∠ 進める

ことがわかる.通常のシステムでは, )( ωjG∠ は負であり,位相は遅れることになる.こ

こで, )( ωjG を伝達関数のゲイン(gain), )( ωjG∠ を伝達関数の位相(phase)という.ま

た,入力の角周波数ωにより,ゲインと位相は変化する.

Re

Im

G(jω) |G(jω)|

∠G(jω)

G(-jω)

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(例題) 0,0,1

)( >>+

= KTTs

KsG の周波数伝達関数を計算し,ゲインと位相を求めよ.

1)( += TjjH ωω とおき,極座標表現を求めると,つぎのようになる.

)(tan)(

1)(

)()(

1

22

)(

TjH

TjH

ejHjH jHj

ωω

ωω

ωω ω

=∠

+=

=

これから,次式のようになる.

)(tan)(,1

)(

)()()(

)(

1

22

)()(

TjGT

KjG

ejGejH

KjH

KjG jGjjHj

ωωω

ω

ωωω

ω ωω

∠∠−

−=∠+

=

===

)( ωjG を角周波数 ∞→= 0ω まで複素平面上にプロットしたものがベクトル軌跡(ナイキ

スト線図ともいう,テキスト p.98~100)である.また, )(,)( ωω jGjG ∠ を角周波数

∞→= 0ω までをプロットしたものがボード線図である(テキスト pp.100~107 を参照す

ること).ただし,ボード線図では,ゲインは次式のデシベル値を用いる.

)(log20)( 10 ωω jGjGdB=

デシベル値では,ゲインが1の場合(入力と出力の振幅が同じ),0[dB]になることに注意

しよう. 1,1 == KT の場合のボード線図はつぎのようになる.

1

ωT

Re

Im H(jω)

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またベクトル軌跡は次図のようになる.円の実軸下側半円が +∞⇒= 0ω のときの軌跡で,

上側半円が −∞⇒= 0ω のときの軌跡である.対称であるので,通常は下半円のみを描い

てある.

課題:1次遅れ系のベクトル軌跡が円になることを証明せよ. 課題:1次遅れ系のベクトル軌跡やボード線図から,入力の角周波数(あるいは周波数)

が増加したとき,システムの出力はどのようになるか説明せよ. 1次遅れ系 )1/(1 +s の入力 t5sin に対する出力は次図のようになる.黄色(振幅 1 の方)が

入力,紫(振幅の小さい方,2 秒付近くらいまでが過渡応答)が出力である.

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2.安定性 2.1 安定性の定義と安定条件

制御工学では,各種制御問題を微分方程式や伝達関数の安定性の問題に帰着することに

より,その解を求めることから,安定性は制御工学の最大のテーマであるといえる.安定

性を言葉で述べると,つぎのようになる. ・ 入出力安定(input/output stable)(テキストでは,外部安定,BIBO 安定と呼んでいる):

システムにすべての時刻で大きさが有限の任意の入力(有界な入力という)を加えたと

き,その応答が発散しない(出力も有界)とき,システムは入出力安定であるという. ・ 漸近安定(asymptotic stable) (テキストでは,内部安定と呼んでいる):入力がゼロで

あるとき,任意の初期条件のもとで,応答が時間とともにゼロに収束するとき,システ

ムは漸近安定であるという. もともとのシステムの物理モデルから導出された伝達関数の分母多項式と分子多項式に共

通因子がない(極零相殺がない)とき,上の2つの安定性は等価になるとみなしてよい.

それで,これ以降は区別せずに,安定と呼ぶことにする.つぎのような例がある.

(例1)安定:1

1)(+

=s

sG

これは微分方程式に直すと,次式のようになる.

)()()( tutydt

tdy+−=

この微分方程式の解は次式で与えられる.

∫ −−− +=t ltt dllueyety0

)( )()0()(

まず,漸近安定性を調べるために,入力はゼロとすると,次式のようになる. )0()( yety t−=

これはいかなる初期値に対しても出力はゼロに収束するので,漸近安定であることがわか

る.ここで,つぎに,初期値をゼロとすると,次式が成り立つ.

∫ −−=t lt dlluety0

)( )()(

ここで,入力を次式のようなインパルス関数 )()0()( tytu δ=

ととると,出力は次式のようになり,初期値応答と一致する.

)0()()0()(0

)( yedllyety tt lt −−−∫ == δ

このことから,インパルス応答をみることによっても,漸近安定性を調べることができる

ことがわかる.つぎに,入出力安定性を調べてみよう.入力は有界であることから,次式

を満足する正の実数M が存在する.

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0,)( ≥≤ tMtu すべての

出力の絶対値はつぎのように不等式でおさえることができる.

MeMdleMdlluedlluety tt t ltltt lt ≤−=≤≤= −−−−−−− ∫ ∫∫ )1()()()(0 0

)()(

0

)(

したがって,出力も有界であることから,入出力安定であることがわかる. 課題:上式は安定性証明のもっとも基本的な不等式である.どうして成り立つか説明せよ.

(例2)不安定:s1

インパルス応答を計算すると,1 になることから漸近安定でないことがわかる.また,初期

値をゼロとして,入力を単位ステップ関数にとると,出力は, tty =)( となることから,時

間ともに増大をつづけることから,出力は有界でなくなる.1つでも出力が有界でない入

力があると入出力安定でない.

(例 3)不安定:1

12 +s

課題:出力が有界でなくなる入力を見つけよ.

(例4)不安定:)1)(1(

1−+ ss

課題:インパルス応答を計算することにより,不安定であることを確かめよ. これらのことから,次のことが成り立つ. [定理] 伝達関数の極のすべての実部が厳密に負( < 0 )である(極がすべて複素平面の開

左半平面にある)ならば,システムは安定である.ただし,システムに極零相殺はない(伝

達関数の分母分子で共通因子がない)とする.

2.2 安定判別法 伝達関数の分母多項式の根を求めずに,安定かどうかを判定する.分母多項式=0 を特性

方程式という.

特性方程式 0)( 011

1 =++++= −− ααα ssssD n

nn L

2.2.1 ラウスの安定判別法

係数から作られる定数を次式のようにおく.ここで,1はns の係数を意味する.ただし,

存在しない係数は 0とおく.

L

K

L

,,

,1,1,1

1

31512

1

21311

1

7613

1

5412

1

3211

bbbc

bbbc

bbb

nnnn

n

nnn

n

nnn

n

nnn

−−−−

−−−

−−−

−−−

−=

−=

⋅−=

⋅−=

⋅−=

ααααα

αααα

αααα

ααα

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9

この定数を用いて,つぎのラウス表と呼ばれる表を作る.

10

214

3213

3212

975311

86421

es

ddscccsbbbs

ss

n

n

nnnnnn

nnnnn

n

MM

L

L

L

L

L

−−−−−−

−−−−−

ααααααααα

[ラウスの安定定理] システムが安定である必要十分条件は,つぎの 2 つが共に成立することである. (1)特性多項式の全ての係数 0121 ,,,, αααα L−− nn が全て正である. (2)ラウス表の第 1 列 11111 ,,,,,,1 edcbn L−α が全て正である.

例題 1: 0)( 012 =++= αα sssD

00

11

02

01

αα

α

sss

安定条件は, 0,0 10 >> αα ただし,2 次の場合には,簡単に根を計算できて,この根から,係数がすべて正の

とき安定になることはすぐにわかる.

例題 2: 0)( 012

23 =+++= ααα ssssD

00

2

01

1

022

13

0

1

ααα

α

ααα

s

s

ss

安定条件は, 021210 ,0,0,0 αααααα >>>>

2.2.2 フルビッツの安定判別法(テキスト p.114~116)

特性方程式 1;0)( 011

1 ==++++= −− n

nn

nn ssssD ααααα L

次式で定義されるフルビッツ行列式を構成する.

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10

⎥⎥⎥⎥⎥⎥⎥⎥⎥

⎢⎢⎢⎢⎢⎢⎢⎢⎢

=

+−−

+−−−

+−−−

+−−−−

in

innn

innn

innnn

innnn

iH

α

αααααααααααααα

LL

MLM

MLM

L

L

L

L

0

00

det 422

3231

2242

12531

[フルビッツの安定定理]

システムが安定である必要十分条件は,つぎの 2 つが共に成立することである.

(1)特性方程式の係数はすべて正.

(2) 0,,0,0 121 >>> −nHHH L

2.3 ナイキストの安定判別法(テキスト p.116~125)

ナイキストの安定判別法は,つぎの閉ループ系の安定判別を行う方法である.

:コントローラ,:制御対象の伝達関数 )()( sKsG

:特性方程式

閉ループ伝達関数

一巡伝達関数):開ループ伝達関数(

0)(1

:)(1

)()()()(

0

0

0

0

=+

+

=

sGsG

sGsKsPsG

[ナイキストの安定定理]

)(0 sG のナイキスト線図にて、s = –1 の点を、反時計周りに何回まわるか = N )(0 sG の不安定な(右半平面にある)極の数 = P )(sG の不安定な(右半平面にある)極の数 = Z

このとき,次式が成立する. N = P – Z

したがって,閉ループ系が安定になる条件は,N = P である.

K(s) P(s) +-

G0(s)

存在しない係数は 0 とおく Hi は i × i 行列の行列式

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ナイキスト線図の描き方:

の軌跡)()(1)( sKsPsF +=

ZPNsGCZsGCP

−=の極の数の中にある:軌跡

の極の数の中にある軌跡

)()(: 0

例:P=0 の場合

C: s の軌跡O a b c O ナイキストパスという.

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(証明) ( )( ) ( )

( )( ) ( )( )( ) ( )

( )( ) ( ) 閉ループ伝達関数の極

開ループ伝達関数の極

:,,;)(1)(

:,,;)(

121

210

121

2100

nn

n

nn

n

rrpspspszszszsK

sGsF

pppspspsqsqsqsK

sG

LL

L

LL

L

−−−−−−

=+=

−−−−−−

=

( ) ( )∑∑∏

∏==

=

=

−∠−∠

−∠−−∠=∠−

−=

−=−−=−

n

ii

n

jjn

ii

n

jj

zsjii

zsjjj

pszssFps

zsKsF

epspsezszs ij

11

1

1

)()(

)(,)(

,

s がナイキストパスを 1回転するとき, jz がC の内部にあるとき, ( )jzs −∠ は時計回りに

1回転(-360°),C の内部にあるとき,ゼロ回転(0°).

そこで,C 内にある閉ループ伝達関数の極の数 Z,開ループ伝達関数の極の数 P を用いて,

次式が成り立つ.

)(sF∠ =(-360°)×Z - (-360°)×P

反時計回りに原点を1回まわるののには,360°要するので,反時計回りに原点を回る回数

Nは次式で与えられる. N = P – Z

1)()(0 −= sFsG であるので, )(sF の原点 )0,( − は, )(0 sG の )0,1(− に相当する.

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2.4 ゲイン余裕と位相余裕(テキスト p.124~127)

差を表す.:制御対象の変動や誤)(sΔ

ゲ イ ン 余 裕 (GM)(gain margin) : )(sP が 安 定 の と き コ ン ト ロ ー ラ と し て ,

一定ゲイン)()( Kj =Δ ω としたとき,閉ループ系が安定である最大のゲイン値をゲイン余

裕という.

位相余裕(PM)(phase margin): )(sP が安定のときコントローラとして,φω jej −=Δ )( とした

とき,閉ループ系が安定である最大の位相φを位相余裕という.

Δ(s) P(s) +-

)( ωjP のベクトル軌跡

ゲイン交差周波数:P(s)のゲインが 1となる周波数 位相交差周波数:P(s)の位相が-180°になる周波数

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人間システム制御工学,制御工学1講義資料 担当 松尾孝美@大分大学工学部福祉環境工学科

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ボード線図でのゲイン余裕と位相余裕の見方

ゲイン交差周波数:P(s)のゲインが 1となる周波数 位相交差周波数:P(s)の位相が-180°になる周波数

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3.フィードバック制御系(テキスト pp.148~158,pp.194~195) 不安定なシステムを入力を調整することにより安定にしたり,希望の目標値に制御量を

追従させる機能をもつのがフィードバック制御である.代表的なフィードバック制御系の

ブロック線図はつぎのようなものである. 記号の定義はつぎのとおりである.

プラス変換邪魔をする信号)のラ外乱(外界から加わる 

ス変換力の希望値)のラプラ目標値(制御対象の出 

ラプラス変換コントローラの出力の 

差)のラプラス変換偏差(目標値と出力の 

量)ラプラス変換制御対象の出力(制御 

量)のラプラス変換制御対象の入力(操作 

信号

)の伝達関数コントローラ(制御器 

制御対象の伝達関数 

システム

:)(:)(:)(:)(:)(:)(

:)(:)(

sDsRsVsEsYsU

sCsG

)(sR から )(sY までの伝達関数を閉ループ伝達関数(closed-loop transfer function)という.

これを記号 )(sGc でかくと,次式のようになる.

)()(1)()()(sCsG

sCsGsGc +=

課題:上式を導出せよ. 閉ループ系が安定であるかどうかは,次式の根がすべて実部が負であるかどうかをしら

べればよいことになる.したがって,無制御状態の対象の伝達関数 )(sG が安定でなくても,

フィードバックを施すことにより,システムが安定にできる可能性があることがわかる.

閉ループ伝達関数を安定にすることを安定化といい,そのようなコントローラを安定化コ

ントローラ(安定化補償器)という. フィードバック制御の目的は,以下のとおりである.

1)制御対象の安定化:装置の暴走を防ぐことを意味する.安定化を行うと,初期値応答

は時間と共に減衰するので,無視できることになる.

)(sG )(sC+ +

+ -

)(sR)(sE

)(sD

)(sU )(sV)(sY

制御対象 コントローラ

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2)目標値追従:制御量を目標値に時間と共に追従させる.

0)(lim =∞→

tet

ただし,偏差 )(sE を逆ラプラス変換して時間関数で書いたものを )(te としている. 3)外乱抑制:外乱 )(sD の制御量を小さくする. 4)ロバスト安定性:制御対象の伝達関数に誤差や変動があってもフィードバック系が暴

走しない. 5)ロバスト性能:制御対象の伝達関数に誤差や変動があっても目標値追従特性があまり

悪化しない. (注意)4),5)を取り扱うのがロバスト制御であるが,ここでは述べない.

(例題) KsCss

sG =+

= )(,)1(

1)( のときに,フィードバック系が安定となる定数ゲイン K

の範囲を求めよ. 閉ループ伝達関数は次式のようになる.

KssK

KssK

ssK

ssK

sGc ++=

++=

++

+= 2)1(

)1(1

)1()(

閉ループ伝達関数の特性方程式は次式のようになる.

02 =++ Kss この根が 2 つとも実部が負になるには, 0>K でなければならない. 課題:外乱をゼロとし,目標値を単位ステップ関数としたときの出力を計算し,フィード

バック制御系の目標値追従特性を調べよ. 課題:目標値をゼロとし,外乱がゼロでない場合の,外乱から出力までの伝達関数を計算

せよ. 課題:外乱を単位ステップ関数としたとき,出力への影響は時間と共にゼロに減衰するこ

とを出力の逆ラプラス変換を計算することにより確認せよ. コントローラによっては,フィードバック制御系の制御量は目標値に追従せずに,偏差

が残ってしまうことがある.これを定常偏差(オフセット)という.定常偏差は,次式で

与えられる.

))()((lim)(lim tytrtett

−==∞→∞→

ε

ただし, )(),( tytr は時間関数で表した目標値と制御量である.システムが安定な場合には,

つぎの最終値の定理を用いると,簡単に定常偏差を計算できる.

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[最終値の定理] 時間関数 )(tf のラプラス変換を )(sF とおく.ただし,簡単のため )(sF は

有理関数であるとする. )(ssF の極のすべての実部が負であるならば,次式が成り立つ.

)(lim)(lim0

ssFtfst →∞→

=

定常偏差の計算では, )(tf を偏差 )(te で読みかえればよい.

(例題) KsCs

sG =+

= )(,1

1)( のとき,目標値を単位ステップ関数としたときのフィード

バック制御系の定常偏差を最終値の定理から求めよ. 偏差は次式のように書ける.

sKsssR

KsKsYsRsE 1

11)(

11)()()(

+++

=⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

++−=−=

これより,定常偏差は次式のようになる.

KKss

s +=

+++

=→ 1

11

1lim0

ε

課題:上の制御対象で定常偏差をなくすためにはコントローラを変える必要がある.どの

ような形のコントローラがあるか. (ヒント)次式のようなコントローラを PID コントローラという.これにより定常偏差を

なくすことができる.どうしてか考えよ.

sKs

KKsC 3211)( ++=

コントローラの式の右辺第 1 項を比例(Proportional)制御,第 2 項を積分(Integral)制御,

第 3 項を微分(Derivative)制御という.また, 321 ,, KKK をそれぞれ,比例ゲイン,積分

ゲイン,微分ゲインといい,まとめて PID ゲインという. 課題:上の制御対象で PID コントローラにより,閉ループ系の安定になるための PID ゲイ

ンの条件を求めよ. (例題)つぎのようなフィードバック系の応答を MATLAB/Simulink で計算してみる.

ssRe

ssD

ssC

sssG s 1)(,2)(,12)(,1)( 2 ==+=

+= −

この場合の Simulink 図はつぎのようになる.これは DC サーボモータの位置制御を PI コントローラで行っている場合に相当する.外乱は,1 秒後に大きさ2のステップ関数がはい

ることを意味しているが,この影響は定常偏差はゼロになることがわかる.

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目標値,外乱,出力の応答波形は下左図のようになる.また,外乱をパルスにした場合の

応答波形を下右図にあげる.

さらに,外乱を正弦波でつぎの 2 つを入れた場合の応答をあげる.

(1) t100sin5.0 (2) t10sin5.0

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さらに,外乱をゼロにし,目標値をつぎの 2 つにした場合の応答をあげる.

(1) tsin (2) t1.0sin

課題:目標値を正弦波にして,周波数を大きくすると,定常偏差が残る理由を,閉ループ

伝達関数の周波数伝達関数のゲインの立場から考察せよ. 5.あとがき 制御工学とメカトロニクスの違いは以下のとおりです. ● メカトロニクス:機械的な装置にセンサ・アクチュエータをつけてコンピュータにより

フィードバック制御をおこなうこと.制御理論のそのなかのコンピュータソフトウェア

として組みこまれる. ● 制御工学:時間的に変化する一般の諸現象を伝達関数や状態方程式で表し,それを制御

するためのコントローラの設計法を数学的に構築する. 参考文献

1)髙木:メカトロニクスのための制御工学,コロナ社(1993) 2)中野,高田,早川:自動制御,森北出版(2007)