CM INDEX 201801 -...

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ニューロマーケティングの成り立ち 広告コミュニケーションには、質・量ともに最適化す ることが求められます。多くの予算が投下される広告の 質的改善にアプローチするのがニールセン・ニューロで す。広告視聴時に起こる反応をミリ秒単位で計測し、広 告クリエイティブ開発の支援を行っています。まずはそ の成り立ちからお話ししたいと思います。 人間の心の仕組みを解き明かそうとする試みは古く は哲学で扱われていた問題でした。心理学において我 々の感覚を数値化する試みがなされ、その始まりは19 世 紀にフェヒナーらが発見したウェーバー・フェヒナーの 法則にあります。例えば、ブラックコーヒーに砂糖を入 れると甘くなったと感じますが、すでに砂糖が入ってい るコーヒーに少しの砂糖を加えても味の変化を感じに くいですよね。このように感覚量と刺激量が単純に比 例するのではなく、対数関数の関係にあることが発見さ れたのです。20世紀初頭にはワトソンらによって内面 的な感情などではなく観察可能な行動を主な研究対象 とした行動主義が広まりました。でも同じ刺激を与えて も対象者の心の状態によって反応は変わってきますよ ね。その後登場した認知主義においては、こうした心の 情報も含めて研究すべきという立場が取られました。 20世紀半ばからコンピューターと脳活動の計測手法が 発展したことで、人間の脳の活動を実際に計測し、詳細 に解析できるようになり、現在の神経科学や脳科学と呼 ばれる分野と近いフレームワークが出来上がりました。 こういった一連の研究は、我々の行動と心の内部の情 報、つまり無意識や意識、脳の活動の関係性を捉えよう とする試みだったといえます。 ニューロマーケティングは脳の活動を計測し、無意識 へもアプローチし、消費者の行動や認知様式を理解し ようとするものです。ニューロマーケティングという用 語自体は2002年にアメリカの産業界や学術論文など で使われはじめたといわれています。2004 年にはコ カ・コーラとペプシコーラを飲んだときの脳の活動を機 能的MRIで計測する実験の論文が発表されました。ラ ベルのない状態で飲むと味の良しあしを判別する部分 の脳が活動したのですが、ラベルがあるものを飲むとコ カ・コーラを飲んだ場合だけ記憶などに関係する部分が 活動したと。味以外の要素、つまりブランドの力といっ た抽象的なイメージが、脳の活動部位の違いとして可視 化できることが分かったわけです。 ニューロマーケティングの現状と無意識の重要性 無意識の部分を捉えようとする調査手法を提供して いる会社は、我々が把握しているものだけでも世界に Ph.D. ニューロサイエンティスト シニアマネージャー ニールセン コンシューマーニューロサイエンス 福島 誠 脳活動計測で広告を最適化する ニールセン カンパニー 合同会社 脳科学の目覚ましい進歩に伴い それをマーケティングに活用する事例が広がりを見せている。 ニールセン カンパニー 合同会社の『ニールセン・ニューロ』は 脳活動計測により広告のさまざまな課題を解決してきた。 ニューロマーケティングの現状とニールセン・ニューロについて 同社の福島誠氏にお話をうかがった。 広告の今を語る 実用化が進むニューロマーケティング 024

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Page 1: CM INDEX 201801 - Nielsenに行う意思決定プロセスを可視化して理解する手法です。2005年にカリフォルニア州バークレーに設立された ニューロフォーカス社がその始まりで、日本では2008年

  ニューロマーケティングの成り立ち

 広告コミュニケーションには、質・量ともに最適化す

ることが求められます。多くの予算が投下される広告の

質的改善にアプローチするのがニールセン・ニューロで

す。広告視聴時に起こる反応をミリ秒単位で計測し、広

告クリエイティブ開発の支援を行っています。まずはそ

の成り立ちからお話ししたいと思います。

 人間の心の仕組みを解き明かそうとする試みは古く

は哲学で扱われていた問題でした。心理学において我

々の感覚を数値化する試みがなされ、その始まりは19世

紀にフェヒナーらが発見したウェーバー・フェヒナーの

法則にあります。例えば、ブラックコーヒーに砂糖を入

れると甘くなったと感じますが、すでに砂糖が入ってい

るコーヒーに少しの砂糖を加えても味の変化を感じに

くいですよね。このように感覚量と刺激量が単純に比

例するのではなく、対数関数の関係にあることが発見さ

れたのです。20世紀初頭にはワトソンらによって内面

的な感情などではなく観察可能な行動を主な研究対象

とした行動主義が広まりました。でも同じ刺激を与えて

も対象者の心の状態によって反応は変わってきますよ

ね。その後登場した認知主義においては、こうした心の

情報も含めて研究すべきという立場が取られました。

20世紀半ばからコンピューターと脳活動の計測手法が

発展したことで、人間の脳の活動を実際に計測し、詳細

に解析できるようになり、現在の神経科学や脳科学と呼

ばれる分野と近いフレームワークが出来上がりました。

こういった一連の研究は、我々の行動と心の内部の情

報、つまり無意識や意識、脳の活動の関係性を捉えよう

とする試みだったといえます。

 ニューロマーケティングは脳の活動を計測し、無意識

へもアプローチし、消費者の行動や認知様式を理解し

ようとするものです。ニューロマーケティングという用

語自体は2002年にアメリカの産業界や学術論文など

で使われはじめたといわれています。2004年にはコ

カ・コーラとペプシコーラを飲んだときの脳の活動を機

能的MRIで計測する実験の論文が発表されました。ラ

ベルのない状態で飲むと味の良しあしを判別する部分

の脳が活動したのですが、ラベルがあるものを飲むとコ

カ・コーラを飲んだ場合だけ記憶などに関係する部分が

活動したと。味以外の要素、つまりブランドの力といっ

た抽象的なイメージが、脳の活動部位の違いとして可視

化できることが分かったわけです。

  ニューロマーケティングの現状と無意識の重要性

 無意識の部分を捉えようとする調査手法を提供して

いる会社は、我々が把握しているものだけでも世界に

Ph.D. ニューロサイエンティストシニアマネージャーニールセン コンシューマーニューロサイエンス

福島 誠 氏

脳活動計測で広告を最適化する

ニールセン カンパニー 合同会社脳科学の目覚ましい進歩に伴い

それをマーケティングに活用する事例が広がりを見せている。

ニールセン カンパニー 合同会社の『ニールセン・ニューロ』は

脳活動計測により広告のさまざまな課題を解決してきた。

ニューロマーケティングの現状とニールセン・ニューロについて

同社の福島誠氏にお話をうかがった。

広告の今を語る

実用化が進むニューロマーケティング

02 4

Page 2: CM INDEX 201801 - Nielsenに行う意思決定プロセスを可視化して理解する手法です。2005年にカリフォルニア州バークレーに設立された ニューロフォーカス社がその始まりで、日本では2008年

2017年10月にリニューアルされた高輪ラボにて。モニターは電極のついたキャップを装着し、脳波測定用シールドルームで動画を視聴。オペレーションルームのモニターには脳波計測と視線計測の結果がリアルタイムで表示される。国内には溜池山王、六本木にもラボがあり、日本常駐のメンバーは10名。

ニールセン・ニューロの調査の様子

100社以上存在します。脳の活動を計測する手法では、

脳波計測が約60社、機能的MRIを用いているのが約10

社です。重複もありますが、脳活動以外では視線計測が

70社、皮膚から出る汗の変化などを電気的に計測する

バイオメトリクスが50社、表情分析が40社あります。物

を提示してから反応するまでの時間を計測する反応時

間計測などを用いる会社は10社ほどあります。

 普段家を出てから会社に着くまで、我々は人混みでは

前から歩いてくる人を避けて進まないといけないし、駅

の改札ではゲートを選んで通過しますよね。こうした行

動を我々は意識することなく、ほぼ自動的に行うことが

できます。ところがこれをロボットで再現するとしたら

計算処理が膨大になってしまうようなとても複雑な行

動なわけです。それだけ人間の意識に上らない脳の活

動が非常に複雑なタスクを実行可能にしていて、また日

常の行動の多くが無意識のうちに行われているという

ことです。止まっているものが動いて見えたりする錯

視は無意識に起こってしまうバイアスにより生じる現

象です。種明かしがされた後であっても意識的にバイ

アスを取り除いて錯視を見えなくすることは難しい。つ

まり自分の中にある無意識の部分をコントロールでき

ないことがあるわけですね。

 意思決定のプロセスでいうと、経済学の古典的なモデ

ルでは、消費者は与えられた物に対して意識的に考えて

合理的な判断をすると考えられていました。その場合の

広告のゴールは「人間は合理的な判断をする」という前

提のもと、消費者を説得し、いい物だと分かってもらい、

買ってもらうことになります。しかしその後の認知科学

の実験などによって、与えられた物に対して消費者は感

情的な判断で行動し、その行動に対して合理的な解釈を

考えるという逆の流れがあることが分かりました。何か

を買ったけれど、翌朝になるとそれを買った理由が自分

でも分からないといった経験が皆さんにもあるかもし

れません。買った理由を聞かれればそれらしい説明が

できるのですが、必ずしもそれが自分の購買行動を決定

した要因ではなく、感情的なレスポンスに合理的な解釈

を与えて自分を納得させているに過ぎないことがあり

ます。また合理的に判断を下しているつもりであって

も、無意識のバイアスによって判断が影響を受けること

もあり得ます。

 こういったことを考慮すると、広告は無意識の部分に

訴える、つまり脳に情報がスムーズに入る作りにするこ

とが重要であるといえます。無意識のときでも脳は活

動をしていますから、広告を見たときの言語化されない

無意識と関わる脳内プロセスを計測し、そこから直接知

見を得るというわけです。それをもとに広告を最適化し

ていけば、購買行動に結びつくような質の高い広告コ

ミュニケーションが達成できると考えられます。

  ニールセン・ニューロについて

 ニールセン・ニューロ(ニールセン コンシューマー

ニューロサイエンス)は神経科学・脳科学に基づいた最

先端のニューロマーケティング調査で、消費者が無意識

無意識に行われる意思決定の脳内プロセスを可視化

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に行う意思決定プロセスを可視化して理解する手法です。

2005年にカリフォルニア州バークレーに設立された

ニューロフォーカス社がその始まりで、日本では2008年

に事業を開始しました。2011年にニールセンがニュー

ロフォーカス社を買収し、2015年にはハーバード大学

とMITメディアラボから派生したインナースコープ・リ

サーチ社も買収して現在の体制になりました。

 ニールセン・ニューロには主に4つの特徴があります。

ひとつは博士号・医師資格を持った約20人の神経科学

者のチームが世界各地で調査・研究を主導していること

です。2つ目が最先端テクノロジーとニールセンのグ

ローバル規模のインフラを活用したシステムになって

いること。世界で4万人以上の社員を抱えるニールセ

ンの知見とインサイトの集積を反映しており、例えば

データ解析はすべてインドのチェンナイで、基本的なリ

サーチ&デベロップメントはサンフランシスコで行わ

れています。3つ目は世界のどこで行われたプロジェク

トも一貫して標準化されたプロセスが採用されている

ことです。調査には科学者が必ず参加し、承認を行う仕

組みになっていますので、安定して質の高い調査を実現

できます。最後にテレビCMやグラフィック広告、パッ

ケージデザインなど世界40カ国、1万件以上のプロジェ

クトを行ってきましたので、これらの事例をベースにし

た信頼性の高いノーム値との比較によって評価の基準

が明示できることです。

 ニールセン・ニューロはテレビCMはもちろんですが、

ブランドイメージのようなやや抽象的なものから、商品

の体験(飲食や触り心地のテスト)、パッケージデザイ

ン、ポスターのようなグラフィック広告の評価にも応用

が可能ですし、それこそ店頭のメニューボードの最適化

や棚での並べ方、ポップの付け方などにも活用できます。

  ニールセン・ニューロによる広告評価の手法

 脳波を測定することで無意識を捉えると同時に、どこに

視覚的な注意が注がれているかを測定し、言語的な報告と

は異なる手法で素材を評価できます。2018年からは表情

分析を加え、より多角的に素材を調査できる予定です。

 評価には素材全体の評価とメッセージ伝達評価の2

つがあります。素材の評価は「感情関与」「記憶」「注目」と

いうスコアを脳波のデータから10点満点で計算し、その

3つの指標から平均的な強さを示す総合効果というスコ

アを算出します。その素材が脳にとってどれだけ効果的

か、情報が脳に入りやすい形になっているかを知ることが

でき、素材そのものの魅力を評価する手法ともいえます。

 メッセージ伝達評価では、その素材によって脳にどの

ような情報が伝わったかを脳の反応を元に判別します。

美しい映像や音楽によって脳波のスコアが高く出るケー

スがあるのですが、メッセージが伝わらなければ広告と

して機能しているとはいえないため、前述のスコアとは

異なるアプローチで評価をするようにしています。

 「感情関与」「記憶」「注目」のスコアは、計測された脳波

データの時空間的な特徴に基づいて計算されたものに

なります。時空間のうち「空間」は脳の活動部分、「時間」

は脳波の周波数を指し、これらは機能と密接に関係して

感情関与

集中して効果的に処理 処理が容易 混乱 楽しい 情報が多い

記憶注目

図 1:「感情関与」「記憶」「注目」の指標から推定できる脳の状態

感情関与・記憶・注目の3指標で素材そのものの魅力を評価

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いることが分かっています。キャップのどのチャンネル

から信号が出ているか、脳波がどんなリズムで変化して

いるのかを捉えることで、どの機能が活性化しているの

かを判別できます。

 「感情関与」は近づきたいか遠ざかりたいかを示すも

ので、例えばおいしそうなケーキを見るとスコアが上が

り、ヘビを見ると下がります。 「記憶」は記憶が形成され

る度合いのことで、すでに覚えていることが想起された

り、新しいものを見て覚えようとしているときにスコア

が上がります。 「注目」は集中すると上がり、退屈してい

ると下がります。これらを平均したものが総合効果と

いうスコアになり、それが高ければ脳に入ってきやすい

作りになっているということになります。

 これら3つの指標の組み合わせのパターンによって脳

の状態を推定できます(図1)。例えば3つとも高い場合

は集中して効果的に処理できている、感情関与と記憶が

高く注目が低い場合は集中しなくても脳に情報が入る処

理が容易な状態、逆に注目が高く感情関与が低い場合は

理解が難しく、やや混乱しているといった、脳のさまざま

な状態を1秒単位で推定できるのです。

   脳波のスコアと購買行動の関係について

 「感情関与」と「記憶」のスコアを合成した「行動意向」と

いう指標があります。感情的にも近づきたくて記憶に

も残っていれば行動を起こす可能性が高いことから、こ

うしたネーミングになっています。

 アメリカのニールセンではテレビCMの視聴データと

購買データの両方を同一のパネルに対して持っている

ケースがあるんですね。それらのデータを照合し、行動意

向のスコアが高いCMが視聴された場合、その商品を購

入した割合が高くなるという傾向が明らかになっています。

 この検証では、60本のCMを行動意向のスコアでラン

ク付けして3つのグループに分け、ad−levelMMM(Marketing

MixModel)というモデルで「CMを見たことによる売上上

昇」を計算してみると、行動意向のスコアが高かったCM

を見た人たちは購買率が上がるという正の相関があり

ました(図2)。相関関係から因果関係を導くのは難しい

ですが、この結果は行動意向のスコアが広告接触後の行

動変容を喚起する強さの指標になり得ることを示唆して

います。

  メッセージ伝達評価の測定法とは

 広告を見せる前に言葉やロゴを提示し、広告を見ても

らった後に同じ言葉やロゴを再提示します。そのとき

の脳の反応の強さを視聴前後で比較することによって、

どのようなメッセージを受け取ったかを調べます。例

えば「おいしい」「さわやか」「元気」というワードを見せ、

CM視聴後にそれらを提示して「さわやか」に対する反

応が上昇すれば、CMに“さわやか”を想起させる情報が

含まれていたことが分かります。

 数年前にアメリカであるスマホのCMを調査したこと

があります。スマホを操作しながら歩く男性が映し出

され、ラストにブランド名とロゴが出るCMだったので

すが、脳波を測定してみると競合他社のイメージが伝

わってしまっているという結果が得られました。意識的

なアンケート調査であれば大半の人がCMで宣伝された

ブランドを正しく回答すると思いますが、無意識では異

なる情報が伝わってしまっている。日本で行われた調

査でも化粧品のCMを見て有名な他社の商品を想起して

しまったり、成功したCMを模倣してCMを作ると成功し

たブランドのイメージだけが伝達されてしまったりする

ケースは少なくありません。

  ニールセン・ニューロでできることについて

 ニールセン・ニューロのアメリカで行われたAdCouncil

(アメリカ広告協議会)のペットシェルターキャンペー

スコアが平均以下の広告

「行動意向」のスコアが高い広告は売上上昇と相関

スコアが平均以上の広告

0

-16%-2%

23%スコアが

平均レベルの広告

図 2:市場売上と脳波計測指標との関係

無意識のレベルで正しく情報が伝わったかを計測

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ンのCM調査を例に説明します。捨てられたり、虐待

されたペットの犬や猫などを一時的にペットシェルター

で保護し、新しい飼い主を探す活動がアメリカでは広

く行われています。ところが、毎年600〜800万匹の

犬と猫がペットシェルターに受け入れられていながら、

そのうちの3割程度しか新しい飼い主が見つからない

現状があります。この現状を改善するため、同プロジェ

クトではシェルターの存在をより広く知ってもらうこ

とを目的としたCMが制作されました。

 そのCMをニールセン・ニューロで調査したところ、

評価は悪くなかったのですが、30秒の中にスコアの高

低が見られたため、低い部分を改善することになりまし

た。CMを見直してみると犬のジュールスが出ている

シーンでは感情関与が高く、出ていないシーンでは低い

ことが分かりました(図3)。これはジュールスが好感を

持って受け入れられていることを示しています。しか

しジュールスとキャンペーンのウェブサイトを告知す

るテロップが同時に提示されると、ジュールスに注意

が向いてしまって、メッセージが伝わりにくくなってい

ました。つまり情報同士の競争が起きてしまっている

状態です。それらの問題を解消するため、ジュールスが

画面に登場している時はテロップではなく音声でメッ

セージを伝えるなど、さまざまなポイントを加味して編

集し直しました。

 競争が起きていたシーンではテロップを独立させた

ことにより記憶のスコアが上がり、またメッセージ伝

達の観点では「Loveable」「Companionship」という愛

情や親しみのイメージもよりよく伝わるようになりま

した(図4)。こうしたことにより、ウェブサイトへの訪

問者が133%増加、つまり倍以上になり登録者数も

28%増加しました。このキャンペーンでの成果により、

優れた広告調査に贈られるARF David Ogilvy Awardsを受

賞しています。

 またニールセン・ニューロでは30秒のうちスコアの

高いシーンだけを自動的に抽出して動画を圧縮するこ

ともできます。この手法を使って80本のCMを30秒

から15 秒に圧縮してそれらのスコアを比較したとこ

ろ、98%以上のCMがオリジナルと同等かそれ以上の

スコアを記録しました(図5)。感情関与と記憶のスコ

アが上がった一方で注目のスコアが下がっており、つま

り脳に負荷をかけずに情報が入ってきやすいコンテン

ツになったといえます。ブランド伝達度も74%以上の

動画で同レベルまたは上昇を示しています。半分の時

間の広告で同等の効果が得られるということで、投資対

効果の側面でも非常に有用だといえるでしょう。

  脳に効果的なCMにするための方法や放送回数、出

稿メディアの最適化といった示唆も得られますか

 顔とメッセージが重なる瞬間や、次々と変わる映像に

ゆったりとしたナレーションが重なる表現、テロップとナ

レーションで別々の内容を伝えている場合などは、効果

が低下する傾向があることが分かっています。このような

ベストプラクティスを導き出すこともできますが、成功し

図 3:CMシーンと「感情関与」のスコア

犬のジュールスの有無が感情関与に大きく関係する

0

5

10

5 6 7 8 10 9 (秒)

感情関与

犬と他の要素が同時に画面に登場する場面から、各々の要素を独立に表示するこ

オリジナル 編集後

記憶:7.4

記憶:6.6

記憶:9.9

記憶:7.3

図 4:再編集による「記憶」のスコア上昇再編集で広告効果が伸長投資対効果の向上にも寄与

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たCMを模倣してもオリジナルのCMを連想してしまう

という問題もあります。また時代の変化もあり、競合企

業のCMなどにも脳は影響されるので、それぞれの素材

を実際に調査し、最適化を図っていくことが重要です。

 CMの調査では、90秒以内の動画であれば3回見せ

て脳波計測を行います。3回の繰り返しの中でどのよ

うにスコアが変化したのかも検証しているので、最初が

高くて2回目以降は下がってくるCMであれば短期間に

幅広く打つ、徐々に上がるCMであれば長期間の放映に

適しているといった示唆を得られることは確かです。

 プラットフォームの違いによる広告効果について内

部調査を行ったことがあります。まずテレビで数本の

CMを見てもらいその脳波を計測し、上位、中位、下位

の3グループに分けます。それからノートパソコン、ス

マートフォンで同じCMを見てもらったところ、効果を

示すスコア値は全体的に下がりはするのですが、CM

の優劣による相対的な位置関係に変化はありませんで

した。つまり小さい画面で見ても面白いCMは面白く、

つまらないものはつまらない。ただ、興味を引きにくい

映像は視線を外されるなど、画面が小さくなることによ

り見られなくなる可能性が上昇すると考えられます。大

画面では離れて見ますし、小さな画面では近づいて見

ますので、目に映るサイズはほぼ変わらない状況もあり

得ますから、画面の大きさだけで効果がそれほど変化

しないとも考えられます。

 アメリカのニールセン・ソーシャルがテレビ番組に

ついてのSNS投稿数のデータを用いて、脳活動との関

係を調査した事例があります。この事例では、リアルタ

イムで放映番組に関するSNS投稿数を計測し、後日ラ

ボで同じ番組について脳波調査を行いました。これに

よってSNSに投稿するというアクティブな行為とニール

セン・ニューロで使用されている脳活動のスコアに相

関があるということが示されました(図6)。また別の

見方をすれば、リアルな環境下で取得したデータと、ラ

ボで取得したデータには相関があることを示している

とも解釈できます。ラボの理想的な環境で動画を見る

場合とリアルな環境で見る場合では結果が異なるので

はないかという疑問への回答にもなっているといえる

のではないでしょうか。

 ポイントは魅力的なコンテンツはどのような環境でも

見てもらえるチャンスが多く、スマホのようなサイズの

小さい画面でも人を引きつける力を持っているという

ことです。

 このニールセン・ニューロは CMの最適化を図ること

ができ、また定量調査とは異なる知見を得ることができ

るシステムです。実際に調査を実施した広告主さまか

らは「有益な示唆を得られた」というレスポンスをいただ

いております。これからもより多くの広告主の皆さまに

活用いただければと思っています。

《 この記事に関するお問い合わせ 》

総合研究所・須能(スノウ)

TEL:03-6435-7760 MAIL:[email protected]

図 6:番組視聴時のSNS投稿数と脳計測指標

3.00

0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00

R=.795

3.50

2.50

2.00

1.50

1.00

0.50

0.00

総合効果

ニューロラボで得られたデータ

SNS投稿数(Zスコア)家庭などのリアル視聴環境からのデータ(複数のスクリーン使用のケースも含む)

番組の各区分

10

5

0行動意向

オリジナル 圧縮

総合効果 感情関与 記憶 注目

図5:オリジナルCMと圧縮したCMのスコア比較

SNS投稿は脳活動に関連ラボでもリアルな環境の調査に対応

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