A1- 認知症のTotal Care · HDS-R検査不能、FAST7(c)→(f)...

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発症 軽度 中等度 重度 末期 0 5 10 15 20 70歳台 80歳台 加齢 MCI 認知症 0 2 4 6 8 10 本人 家族 近所 医療者 CM・社会福祉士 加齢 MCI 認知症 AD 72% 混合型 4% 加齢 4% MCI 8% DLB 8% FTD 4% 0 5 10 15 20 25 30 FAST6(認知症) FAST5(認知症) FAST4(認知症) FAST3(MCI) FAST2(加齢) ①早期診断と早期介入 ②適切なフォローアップ ③ホスピスケア 認知症のTotal Care 地域に密着して外来から訪問診療まで行うことにより、連続した診療形態によって認知症の診断から看取りまで、患者と家族を継続的・包括的に支援するという経験をした。 その実例として、『高齢者ケア外来』の分析と在宅でのBPSD対応・看取りを報告することで認知症のtotal careの能力を示す。 1.年齢層別受診者数 2.受診経路別受診者数 3.診断内訳 4.HDS-R得点分布(30点満点) 1は、高齢者ケア外来受診者26名の受診年齢を年齢層別 に示したものである。70歳代と80歳代で全受診者を満たし ている。認知症と診断される頻度は加齢に伴って増加して いき、70歳台では80%が、80歳台では94%が認知症と診断さ れている。 アルツハイマー型認知症は病識に乏しいことが特徴である。故 に、患者が自発的に医療機関を受診することは稀である。一般 的な受診様式として、同居している家族や定期的に診察をして いる医療者が認知症を疑い外来受診に繋がることが多いが、地 域ケアと連携している外来の性質上、CM・社会福祉士からの紹 介も多い。患者自らが受診してきた3名で認知症と診断された 患者はいなかった。 Cut off値を20/21とし、それを上回った場合は RBMT AD/MCIcut off5/6MCI/NCcut off16/17を実施した。 213/24AD) 2214/24(MCI) 24⇒検査不能 247/24(AD) 2616/24(MCI) 268/24(AD) 2817/24加齢80歳女性 AD(施設入所中) HDS-R8/30点、FAST4 BPSD午後になると、同居者を家族と誤認し離さな かったり、焦燥・身体的攻撃性(スタッフにか みつく、殴る、家具を倒す等)がひどくなり、 入所継続が難しい状態であった。 【対応】 抑肝散から開始し、クエチアピン(25→37.5mg) を追加したところ、攻撃性は半分程に改善した が、徘徊、服毒妄想を認めたため、リスペリド (1mg)に変更。 以後、攻撃性は消失し入所継続出来ている。 80歳女性 脳血管性 HDS-R検査不能、要介護3 BPSD尿失禁、徘徊、焦燥が見られた。 【対応】 時間を決めたトイレ誘導、夜間のトイレ照明等の生活上の工夫 や、デイサービスの利用、抑肝散内服にて安定化。 再出血にて病状増悪、要介護5 BPSDADL低下だけでなく、睡眠障害(昼夜逆転)や身体的攻撃性 (かみつく、引っ掻く、殴る等)を認めるようになり主介護者 である次女は不眠・疲労が蓄積、在宅生活継続が難しい状態と なった。 【対応】 ベッド・ポータブルトイレ導入やヘルパー利用等の環境整備を 行い、ショートステイを利用してRespite care、リスペリドン (0.5mg)による薬物的介入実施。過鎮静認めたため、クエチア ピン(12.5mg)へ変更。 以後、夜間睡眠を確保出来るようになり、攻撃性も減少したた め在宅生活を継続することが出来た。 問題行動 BPSD 介護疲労の蓄積 負の感情 不適切な 接し方 BPSDの増悪 悪循環 在宅生活の限界・入所 環境整備・Respite care 接し方 薬剤 86歳女性 AD HDS-R検査不能、FAST7(c)→(f) 感染性腸炎に罹患したことを機に、嚥下機能低下。 口の中に入れても飲み込まなかったり、水分でむせる ようになった。S-SPT変法実施したところ2mlで嚥下 反射が潜時2秒だが、1mlでは嚥下反射(-)であったため、 精査として嚥下造影に進んだが、嚥下困難であった。 FASTスケール・全米緩和ケア協会の基準から末期の 状態と診断。 主介護者であり最も身近な肉親である息子とその妻に予後告知。その上で、経 管栄養を行うか話し合い、皮下輸液を行う方針となった。 Pain Assessment in Advanced Dementia (PAINAD) Scaleからは苦痛はあまりな い状態と想定され、皮下輸液を継続した状態で徐々に意識レベルが低下し、自 宅でお看取りとなった。 【参考文献】物忘れ外来ハンドブック 川畑信也著、認知症ハンドブック 河野和彦著、緩和ケアVol.19 No.5:439-441, Sep. 2009 アルツハイマー病研究会第九・十回口頭発表Warden, Hurley, Volicer, JAMDA2003;4(1):9-15 【考察】 ・『高齢者ケア外来』の再診は、介護者が日常生活上困っている点について話し 合うことが中心となるので、今後、薬物療法以外に介護の工夫について学習し、 診療の幅を広げていきたいと思う。 ・末期認知症の場合、患者自らが延命治療について意思決定することが出来ない ため、最も身近な肉親が推定意思に基づき、医療者と話し合いながら決定してい くこと(values based medicine)が多いが、「過去がなくなると同時に未来の概 念もない状態」という末期ADの精神世界を学習し、それを踏まえた説明を行うこ とでより充実した意思決定支援が出来るようになると考えられる。 A1-①認知症

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Page 1: A1- 認知症のTotal Care · HDS-R検査不能、FAST7(c)→(f) 感染性腸炎に罹患したことを機に、嚥下機能低下。 口の中に入れても飲み込まなかったり、水分でむせる

発症 軽度 中等度 重度 末期 死

0

5

10

15

20

70歳台 80歳台

加齢

MCI

認知症

0 2 4 6 8 10

本人

家族

近所

医療者

CM・社会福祉士

加齢

MCI

認知症

AD72%

混合型4%

加齢4%MCI

8%

DLB8%

FTD4%

0

5

10

15

20

25

30FAST6(認知症)

FAST5(認知症)

FAST4(認知症)

FAST3(MCI)

FAST2(加齢)

①早期診断と早期介入 ②適切なフォローアップ ③ホスピスケア

認知症のTotal Care 地域に密着して外来から訪問診療まで行うことにより、連続した診療形態によって認知症の診断から看取りまで、患者と家族を継続的・包括的に支援するという経験をした。その実例として、『高齢者ケア外来』の分析と在宅でのBPSD対応・看取りを報告することで認知症のtotal careの能力を示す。

図1.年齢層別受診者数 図2.受診経路別受診者数 図3.診断内訳 図4.HDS-R得点分布(30点満点)

図1は、高齢者ケア外来受診者26名の受診年齢を年齢層別に示したものである。70歳代と80歳代で全受診者を満たしている。認知症と診断される頻度は加齢に伴って増加していき、70歳台では80%が、80歳台では94%が認知症と診断されている。

アルツハイマー型認知症は病識に乏しいことが特徴である。故に、患者が自発的に医療機関を受診することは稀である。一般的な受診様式として、同居している家族や定期的に診察をしている医療者が認知症を疑い外来受診に繋がることが多いが、地域ケアと連携している外来の性質上、CM・社会福祉士からの紹介も多い。患者自らが受診してきた3名で認知症と診断された患者はいなかった。

Cut off値を20/21とし、それを上回った場合はRBMT(AD/MCIのcut off値5/6、MCI/NCのcut off値は16/17)を実施した。

21⇒3/24(AD) 22⇒14/24(MCI)

24⇒検査不能 24⇒7/24(AD)

26⇒16/24(MCI) 26⇒8/24(AD)

28⇒17/24(加齢)

●80歳女性 AD(施設入所中)

HDS-R8/30点、FAST4

【BPSD】

午後になると、同居者を家族と誤認し離さなかったり、焦燥・身体的攻撃性(スタッフにかみつく、殴る、家具を倒す等)がひどくなり、入所継続が難しい状態であった。

【対応】抑肝散から開始し、クエチアピン(25→37.5mg)を追加したところ、攻撃性は半分程に改善したが、徘徊、服毒妄想を認めたため、リスペリドン(1mg)に変更。以後、攻撃性は消失し入所継続出来ている。

●80歳女性 脳血管性

HDS-R検査不能、要介護3

【BPSD】

尿失禁、徘徊、焦燥が見られた。【対応】時間を決めたトイレ誘導、夜間のトイレ照明等の生活上の工夫や、デイサービスの利用、抑肝散内服にて安定化。

再出血にて病状増悪、要介護5

【BPSD】ADL低下だけでなく、睡眠障害(昼夜逆転)や身体的攻撃性

(かみつく、引っ掻く、殴る等)を認めるようになり主介護者である次女は不眠・疲労が蓄積、在宅生活継続が難しい状態となった。

【対応】

ベッド・ポータブルトイレ導入やヘルパー利用等の環境整備を行い、ショートステイを利用してRespite care、リスペリドン(0.5mg)による薬物的介入実施。過鎮静認めたため、クエチアピン(12.5mg)へ変更。

以後、夜間睡眠を確保出来るようになり、攻撃性も減少したため在宅生活を継続することが出来た。

問題行動

BPSD介護疲労の蓄積 負の感情

不適切な接し方

BPSDの増悪

悪循環

在宅生活の限界・入所

環境整備・Respite care

接し方薬剤

●86歳女性 AD

HDS-R検査不能、FAST7(c)→(f)

感染性腸炎に罹患したことを機に、嚥下機能低下。口の中に入れても飲み込まなかったり、水分でむせるようになった。S-SPT変法実施したところ2mlで嚥下反射が潜時2秒だが、1mlでは嚥下反射(-)であったため、

精査として嚥下造影に進んだが、嚥下困難であった。FASTスケール・全米緩和ケア協会の基準から末期の状態と診断。

主介護者であり最も身近な肉親である息子とその妻に予後告知。その上で、経管栄養を行うか話し合い、皮下輸液を行う方針となった。

Pain Assessment in Advanced Dementia (PAINAD) Scaleからは苦痛はあまりな

い状態と想定され、皮下輸液を継続した状態で徐々に意識レベルが低下し、自宅でお看取りとなった。

【参考文献】物忘れ外来ハンドブック 川畑信也著、認知症ハンドブック 河野和彦著、緩和ケアVol.19 No.5:439-441, Sep. 2009 、アルツハイマー病研究会第九・十回口頭発表、Warden, Hurley, Volicer, JAMDA2003;4(1):9-15

【考察】・『高齢者ケア外来』の再診は、介護者が日常生活上困っている点について話し

合うことが中心となるので、今後、薬物療法以外に介護の工夫について学習し、診療の幅を広げていきたいと思う。・末期認知症の場合、患者自らが延命治療について意思決定することが出来ないため、最も身近な肉親が推定意思に基づき、医療者と話し合いながら決定していくこと(values based medicine)が多いが、「過去がなくなると同時に未来の概念もない状態」という末期ADの精神世界を学習し、それを踏まえた説明を行うことでより充実した意思決定支援が出来るようになると考えられる。

A1-①認知症