560 SARS...2020/02/19  · 560 回: 違和感を拭い去れない金融市場...

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山中康司の「わかる」テクニカル分析 2020 年 2 月 12 日 ●560 回: 違和感を拭い去れない金融市場 新型コロナウイルスの感染者拡大が止まりませんが、SARS 同様春になるまでは油断できな い状況です。国内では観光地からめっきりと人が減った映像が映されますが、東京マラソ ンも一般参加者の参加は中止となり大規模なイベントはしばらく自粛が続きそうです。 そうなると、ただでさえ消費増税後の国内消費が落ち込んでいるところに追い打ちをかけ るような消費低迷を招きますので、徐々に実体経済に与える影響が中国、日本、そして世 界へと広がっていく懸念を感じざるを得ない状況と言えるでしょう。 ● 違和感を拭い去れない金融市場 先々週は商品市場、先週はドルインデックスと米債金利差と毎回冒頭に書いたような懸念 が表れている金融市場もあることを書いていますが、そうした中で新型コロナウイルスの 発生元である中国ではいまだ経済活動再開の遅れが続き、昨日はアップルが売り上げ未達 の見通しを出すに至りました。 (1) 上海総合株価指数 中国国内と日本における感染者拡大の状況を見るにつけ、景気減速懸念が広がらないとお かしいのですが、実際は株式市場は思いのほか堅調ですし、一番おかしいのは中国を代表 する上海総合株価指数です。今週は上海総合の日足チャート(紫の四角は 1 か月)から見 ていきましょう。 黄色のラインマーカーで示した 2 日が旧正月前(1 月 23 日)と旧正月後(2 月 3 日)です が、この 2 営業日の間の大きなギャップは新型コロナウイルスを懸念した下げです。これ はわかります。その後、空売り禁止、流動性供給、株式市場下支えといった金融市場への 介入によって完全に官製上げ相場となり、呆れたことに旧正月前の水準へと上昇する動き を見せています。 しかし、旧正月前の時と現在を比べて、変化が無いとか中国経済が改善しているといった 兆候はまったく見られないどころか、感染者も死者も拡大の一途で、中国国内における経

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山中康司の「わかる」テクニカル分析

2020 年 2 月 12 日

●560 回: 違和感を拭い去れない金融市場

新型コロナウイルスの感染者拡大が止まりませんが、SARS 同様春になるまでは油断できな

い状況です。国内では観光地からめっきりと人が減った映像が映されますが、東京マラソ

ンも一般参加者の参加は中止となり大規模なイベントはしばらく自粛が続きそうです。

そうなると、ただでさえ消費増税後の国内消費が落ち込んでいるところに追い打ちをかけ

るような消費低迷を招きますので、徐々に実体経済に与える影響が中国、日本、そして世

界へと広がっていく懸念を感じざるを得ない状況と言えるでしょう。

● 違和感を拭い去れない金融市場

先々週は商品市場、先週はドルインデックスと米債金利差と毎回冒頭に書いたような懸念

が表れている金融市場もあることを書いていますが、そうした中で新型コロナウイルスの

発生元である中国ではいまだ経済活動再開の遅れが続き、昨日はアップルが売り上げ未達

の見通しを出すに至りました。

(1) 上海総合株価指数

中国国内と日本における感染者拡大の状況を見るにつけ、景気減速懸念が広がらないとお

かしいのですが、実際は株式市場は思いのほか堅調ですし、一番おかしいのは中国を代表

する上海総合株価指数です。今週は上海総合の日足チャート(紫の四角は 1 か月)から見

ていきましょう。

黄色のラインマーカーで示した 2 日が旧正月前(1 月 23 日)と旧正月後(2 月 3 日)です

が、この 2 営業日の間の大きなギャップは新型コロナウイルスを懸念した下げです。これ

はわかります。その後、空売り禁止、流動性供給、株式市場下支えといった金融市場への

介入によって完全に官製上げ相場となり、呆れたことに旧正月前の水準へと上昇する動き

を見せています。

しかし、旧正月前の時と現在を比べて、変化が無いとか中国経済が改善しているといった

兆候はまったく見られないどころか、感染者も死者も拡大の一途で、中国国内における経

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済活動は停滞したままのため、今後出てくる経済指標が悪くなることは明確です。こうし

た実体経済の低迷が懸念される中での株高は違和感以外の何物でもありません。

(チャート作成:Fibonacci Trader)

また NY ダウも史上最高値よりは下がっているものの、旧正月前よりは高いですし現時点で

も高値圏にいる状況です。株式市場の参加者は景気悪化懸念が出てくる場合には、金融当

局が緩和に動き、政府は財政支出を増やすし、春先を過ぎれば新型コロナウイルスもピー

クを打って終息に向かうと、私からすればあまり理由の無い楽観に支配されているように

思えます。

本邦経済指標も消費増税の影響が時間差をもって出てきているように、新型コロナウイル

スの影響による景気減速が実際の数字で出てくるのは 3 月発表の数字あたりからです。実

際に日本における街中で商売をしている人の声は正直ですし、アップルに限らず今後売り

上げを下方修正してくる企業は間違いなく増えてくるのではないかと見ています。

(2) ドル建て金

そして、もうひとつ対比的なチャートとして金価格(ドル建て)をご覧ください。

円建ての金価格は昨日ニュースでご覧になった方も多いと思いますが、1980 年の史上最高

値以来の 40 年ぶりの高値となっています。金価格の上昇はリスクオフに対する警戒感も大

きな要因となっていると考えられ、出来高を伴う上昇となっています。

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ドル建ての金は、そこまででは無いものの今月に入り 1600 ドル台に乗せ、2013 年 3 月以

来の高値となっています。こちらは、長期ということで月足チャート(紫の四角は 1 年)

でご覧ください。

(チャート作成:Fibonacci Trader)

2015 年に最近の大底を打ち、昨年 6 月に 2014 年以来のレジスタンスとなっていた 1300 ド

ル台後半を上抜けてからは大きく上昇する動きとなっています。昨年 9 月~12 月は高値圏

での横ばいとなっていましたが、1 月には上昇トレンドへと戻る動きとなっています。明ら

かにリスクオフを懸念した資金が金市場にシフトしてきていることの表れと見てよいでし

ょう。

新型コロナウイルスの感染拡大は早く収まって欲しいですが、年明け以降の影響は今後明

確に出てくるであろうことを考えると、株式市場を中心として現在の金融市場には違和感

を感じざるを得ません。私の違和感が間違っている方が世界経済のためにもいいのですが、

どうも長年の経験からすると何かがおかしいというアラートが鳴り続けているという状態

です。年明け以降のドル建て金の動きが正しいように思えてなりません。