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- 61 - 小学校 図画工作科 部会 部会長 大任小学校 校長 金子 祥二 実践者 池尻小学校 教諭 中野 浩子 研究主題 「確かな学力向上をめざす図画工作科学習指導のあり方」 ~感性を働かせ、つくりだす喜びを味わう活動を通して~ 主題設定の理由 (1)現代社会の要請から 現代社会は、新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる 領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会」の時代 であると言われている。このような知識基盤社会化やグローバル化は、アイディアな ど知識そのものや人材をめぐる国際競争を加速させる一方で、異なる文化や文明との 共存や国際協力の必要性を増大させている。このような状況において、確かな学力、 豊かな心、健やかな体の調和を重視する「生きる力」をはぐくむことがますます重要 になってくる。 この激しい社会を担う子どもたちには、基礎・基本を確実に身につけ、いかに社会 が変化しようと、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、 よりよく問題を解決する資質や能力、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を 思いやる心や感動する心などの豊かな人間性が必要になってくる。そのため豊かな感 性を働かせながら、自分の思いや願いを様々な形で表現したり、周りの人たちの表現 の違いに気づいたり、それを認めたりする能力を育てることが大切である。 以上のようなことから、図画工作の実践は、児童の「生きる力」を育むうえで重要 な働きをしていると考えられる。 (2)図画工作科の目標から 図画工作科のねらいは、「表現及び鑑賞の活動を通して、感性を働かせながら、つ くりだす喜びを味わうようにするともに、造形的な創造活動の基礎的な能力を培い、 豊かな情操を養う」ことである。 図画工作科の学習は、自らの感性を働かせながら、造形的な創造活動の基礎的な能 力を発揮して表現や鑑賞の活動を行い、つくりだす喜びを味わうものである。このよ うな過程は、その本来の性質に従い、おのずとよさや美しさを目指すことになる。そ れは、生活や社会に主体的に関わる態度を育てるとともに、伝統を継承し、文化や芸 術を創造しようとする豊かな心を育てることにつながる。 児童自身に本来備わっている資質や能力を一層伸ばし、児童が自らつくりだす喜び を味わうようにするとともに、造形的な創造活動の基礎的な能力を培い、豊かな情操 を養う活動を取り組むことは意義深い。

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小学校 図画工作科 部会

部会長 大任小学校 校長 金子 祥二

実践者 池尻小学校 教諭 中野 浩子

1 研究主題 「確かな学力向上をめざす図画工作科学習指導のあり方」

~感性を働かせ、つくりだす喜びを味わう活動を通して~

2 主題設定の理由

(1)現代社会の要請から

現代社会は、新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる

領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会」の時代

であると言われている。このような知識基盤社会化やグローバル化は、アイディアな

ど知識そのものや人材をめぐる国際競争を加速させる一方で、異なる文化や文明との

共存や国際協力の必要性を増大させている。このような状況において、確かな学力、

豊かな心、健やかな体の調和を重視する「生きる力」をはぐくむことがますます重要

になってくる。

この激しい社会を担う子どもたちには、基礎・基本を確実に身につけ、いかに社会

が変化しようと、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、

よりよく問題を解決する資質や能力、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を

思いやる心や感動する心などの豊かな人間性が必要になってくる。そのため豊かな感

性を働かせながら、自分の思いや願いを様々な形で表現したり、周りの人たちの表現

の違いに気づいたり、それを認めたりする能力を育てることが大切である。

以上のようなことから、図画工作の実践は、児童の「生きる力」を育むうえで重要

な働きをしていると考えられる。

(2)図画工作科の目標から

図画工作科のねらいは、「表現及び鑑賞の活動を通して、感性を働かせながら、つ

くりだす喜びを味わうようにするともに、造形的な創造活動の基礎的な能力を培い、

豊かな情操を養う」ことである。

図画工作科の学習は、自らの感性を働かせながら、造形的な創造活動の基礎的な能

力を発揮して表現や鑑賞の活動を行い、つくりだす喜びを味わうものである。このよ

うな過程は、その本来の性質に従い、おのずとよさや美しさを目指すことになる。そ

れは、生活や社会に主体的に関わる態度を育てるとともに、伝統を継承し、文化や芸

術を創造しようとする豊かな心を育てることにつながる。

児童自身に本来備わっている資質や能力を一層伸ばし、児童が自らつくりだす喜び

を味わうようにするとともに、造形的な創造活動の基礎的な能力を培い、豊かな情操

を養う活動を取り組むことは意義深い。

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(3)児童の実態から

本学級の児童はどちらかと言えば、にぎやかで元気が良い児童が多い。図画工作科

に対しては、創造的な活動が苦手な児童が多く、初めて取り組むことには尻込みして

しまう児童がいる。丁寧な作業ができる児童もいるが、おおかたはは、大雑把であら

ましく最後まで作品をきれいに仕上げることが苦手な児童も多い。

児童の資質や能力が十分働くように、そして「やればできる」という成功体験をす

ることで苦手分野が少しでも軽減する学習を仕組むことが大切であると考える。また、

全ての児童が自分の作品に自信を持って取り組むような活動のあり方を工夫していく

必要がある。

3 主題の意味

図画工作科における「確かな学力」とは、基礎・基本としての資質や能力を支え、

その基盤となる知識や能力、見方・感じ方と考えられる。ただ作り方や描き方を機械

的にたどっていけば身につくものではない。児童が自分で具体的なものに目を向け、

そこから自分の思いを材料に託して表現する中で、児童自らが気づき身につけていく

ものである。つまり、児童の表現や鑑賞の活動と常に一体となって働く力であると考

える。

そのためには、ある題材の中で育てたい資質や能力を可能な限り具体的な児童の姿

で設定することが大切であると考える。さらにその資質や能力を支える知識や技能・

感じ方を発達段階や実態をもとに考え、児童自身が気づき身につけていくことができ

るように、学習過程や支援のあり方を工夫していくことが大切である。

このような学習過程を行っていくことで、図画工作科における「確かな学力」が向

上していくと考える。

4 研究の目標

図画工作科における確かな学力の向上をめざすために、感性を働かせながら、つく

りだす喜びを味わう学習活動のあり方を究明する。

5 研究仮説

図画工作科の学習指導において、次のような手立てをとれば、児童は感性を働かせ

ながら意欲的に活動し、確かな学力向上へとつなげることができるであろう。

(1)児童の表現意欲を喚起することができるように、題材との出会わせ方を工夫する。

(2)児童の表現意欲を持続させるために、材料や用具の工夫と時間の確保をする。

(3)友だちの表現のよさに気づくことのできる鑑賞活動を設定する。

6 研究の計画(授業計画)

(1)題材 「花火 ~夏の思い出を絵と俳句で~ 」

綿棒を使って、点で表そう

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(2)題材の目標および指導計画

題 材 「花火 ~夏の思い出を絵と俳句で~ 」 総時数5時間 9月

○見たこと、感じたこと、創造したことから、表したいことを見つけ

て、表そうとする。 (関心・意欲・態度)

単元目標 ○綿棒を有効に使って、花火の色や形のイメージをふくらませて表現

する。 (発想・構想の能力)

○手を十分働かせ、用具の特徴を生かした表現をする。

(創造的な技能)

○感じたことや思ったことを話したり、友人と話し合ったりして、い

ろいろな表し方や感じの違いに気づく。

(鑑賞の能力)

授業計画 学習活動・内容 指導上の留意点

第1時 1.夏休みの出来事を思い起こす。 ・楽しかった夏休みを思い出し、

2.花火大会について話す。 その時の気持ちをよみがえらせ

る。

・手持ちの花火でなくて大きく空

に上がる花火をイメージさせる。

・イメージできない児童のために

写真を準備する。

3.点描画について知り、綿棒を ・綿棒で着色することや点だけで

使って花火の絵を描くこと知る。 絵ができることを知らせる。

・参考作品を見せて、どんなもの

を作るのか完成形のイメージを

つかませる。

4.制作の手順を知る。 ・簡潔に手順を板書し説明する。

・制作様子を見る ・中心から同心円状に同じ色を使

綿棒で点描していかせる。

・円が重なっても良いことや画面

準備物 からはみ出すように描いても良

○ 色画用紙(黒 A4) いことを知らせる。

○ 綿棒(1人10~15本) ・点と点が離れないように円を点

○ 花火大会の写真 描させる。

○ チョーク(白や黄) ・白を少し混ぜると映えることや

児童 他の色が混ざっても気にせず、

水彩絵の具 かえって良いことを知らせる。

・模範制作をする。

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第2・3時 5.自分の思いに従って花火の絵 ・画面の構成を考えながら、3つ

を制作をする。 以上花火を描かくためのもやを

チョークを使って構成させる。

・水は使わないで、点描をさせる。

・児童の発想で上がっていく様子

を綿棒で表しても良いこととす

る。

・重なり合ったり、はみ出して迫

力のある花火になっている児童

の作品をほめる。

・自分のなりの色を作り出してい

る児童や丁寧な作業をしている

児童をほめる。

・黒板に貼っていかせ、参考にさ

せる。

・乾きにくいので重ねないように

する。

第4時 6.自分の表現した作品を見なが ・国語学習を関連させ、夏の俳句

ら、俳句を考え、書き込む。 を想起させ、花火にまつわる五

七五を書か込ませる。

・余白の部分に挿絵を付け加えて

も良いようにする。

第5時 7.作品の発表会をする。 ・できあがった作品の発表会をし、

お互いの作品のよさや美しさ、

題材に対する想いなどを感じ取

らせる。

7 指導の実際

【第1時・・・導入】

本単元の指導にあたっては、2学期はじめに夏休みの思い出を話し合い、楽しい思

い出を共有することから始めた。季節がら花火をしたという児童も多く、たくさんの

思い出が出された。その中でも花火大会は、田川地区でも行われており、今年でなく

てもみんな見たことがあるものだった。拡大写真を準備していたので、いろいろな場

所での花火大会の思い出を交流した。

その打ち上げ花火を綿棒を使って点描していくことを知らせ、参考作品を提示した。

綿棒を使うことや点だけで絵を描くことに驚きがあったようだが、いつもとちがう新

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しいことに意欲的であった。

手順

1. 花火を描きたいところ(3カ所くらい)に、白チ

ョークや黄チョークで白くもやを作る。円になる

ように指で丸くこする。

2.パレットに白・黄色・赤・青・黄緑などを出しておく。

3.チョークのもやの中心に、1つ綿棒で点をつけ、

そこから同心円状に綿棒の点描で花火を広げていく。

4.円が重なり合うくらい、点描を広げていく。用紙

からはみ出る位大きく描く。

【第2.3校時・・・制作】

手順の振り返りをしてさっそく、作業に入った。はじめは綿棒に絵の具をつける要

領がつかめなかったが、回数をこなしていくうちに、色の混ぜ方・つける量など、会

得していった。少しずつ円を増やしていくと、花火の形が現れてきて、色や形の工夫

をするようになった。はじめは点と点が離れないようにしていたが、一番縁の部分は

間隔を開けて描き、消えていく花火の様子を表す児童も出てきた。

【黒色が用紙に白チョークでもやを描き、点描を始めようとしている様子)

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【表現を工夫している児童】

【集中して真剣です】

【画面の大胆な構成】

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【できあがった作品を黒板

に掲示し乾かしている様子】

【友だちの作品を見て、話

し合っている様子】

点描の終末、花火が昇る様子を描き足したいと願う児童が出てきたので、綿棒でや

ってみるように指示をして、表現を工夫させた。まっすぐな線、斜めの線とそれぞれ

の工夫ができた。花火も大小さまざまあり、児童は達成感を味わっていた。何よりも

簡単で美しく一人一人ちがっていた。

できあがった作品は絵の具を油絵のようにぽってりと着彩しているため、重ねるこ

とはできなかった。できた児童から黒板に貼って友だちに見えるようにしていると、

自然と作品の前で鑑賞会が始まっていた。作品を指さし、説明したり感想を言い合っ

たりしている様子が見られた。作業の粗雑な児童もこの作業が楽しかったようで集中

して、じっくり取り組むことができた。

【第4時】

できた作品を奉書紙に貼らせた。仕上げは、花火の俳句を作り、できた五七五を余

白にマジックで書き込む作業をさせた。4年生は季節の俳句を国語で履修しているの

で関連を持たせ、図工科学習における言語活動と位置づけた。児童はできた作品と自

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分の思い出を重ね合わせ、俳句を作ることができた。別の余白にも挿絵を描きたいと

言い出す児童もいて、時間が許す限り思い思いの作品になるように支援した。

【完成した児童の作品】

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【第5時】

完成した作品の鑑賞会を行った。今まで思い思いに自由に感想を言い合っていたが、

付箋を使って文章で表すことにした。はじめに児童は何を書いて良いのかわからない

ので、観点を示し、一斉指導を行った。全体の雰囲気・色・形・絵の構成・それぞれ

の工夫・きらりと目についたことなど、良いところ好きなところを書くようにさせた。

児童は目を見張り、いいところ見つけをするように関心を持って鑑賞することができ

た。

【作品に感想を書いた付箋を貼っているところ】

8 成果と今後の課題

(成果)

○ 綿棒を使って、点描することで点描という技能を習得した。

○ 集中して作品作りをして、達成感を持たせることができた。

○ 題材が児童の経験と一致したため、意欲的に取組むことができた。

○ どの作品も美しく個性的な作品になった。

○ 国語科学習との関連づけができ言語活動が充実していた。

(課題)

● 綿棒から筆への移行をしなくてはいけない。

● 花火以外の題材を見つけていない。

◎参考文献

小学校学習指導要領解説 図画工作編 文部科学省

学習指導要領の解説と展開 図画工作編 安彦忠彦・三澤一実 編著

教育出版

図画工作 学習指導書 指導案編 開隆堂

1・2時間でできるまるごと図画工作3・4年 服部 宏 藤田えり子

堀越じゅん 辰巳三郎

内海公子 喜楽研