報 告 無麻酔 CT 検査の検討 - hiro-vet.or.jp · CT 装置はOptima CT660 128...

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─ 73 ─ 無麻酔 CT 検査の検討 谷浦 督規 1渡邊 香恵 2谷浦 直美 1(受付:平成 26 1 8 日) CT examination of unanesthetized animals TOKUNORI TANIURA 1, KAE WATANABE 2and NAOMI TANIURA 11Taniura Animal Hospital, 1-3-30, Kairouen, Saeki-ku,Hiroshima 731-5135 2GE Healthcare Japan, 67-4, Takakura-cho, Hachiouzi, Tokyo 192-0033 SUMMARY Anesthesia is basically required for CT examinations in veterinary medicine. Some level of risk should be accepted in some examinations to obtain useful data. The 128-slice computed tomography employed in our hospital takes several seconds to scan the whole body of a medium-sized dog. In addition, to immobilize the animal, restraints were created for the limbs and trunk to examine the traction of the limbs. High-quality images could be quickly obtained with or without anesthesia. ── Key words: unanesthetized, CT examination, restraint 要   約 獣医での CT 検査には基本的に麻酔が必要である.有益な情報を得るために時としてリス ク覚悟の検査が実施される.当院の 128 スライス CT は,中型犬の全身撮像でも 1 回の撮像 時間は数秒程度である.その間動物を不動化するため,四肢・体幹部のポジショナーを作成 し四肢の牽引法を検討した.無麻酔下でも麻酔下と同等の高画質な情報を安全に速く収集す ることが出来た. ──キーワード:無麻酔下,CT 検査,ポジショナー 1)谷浦動物病院(〒 731-5135 広島市佐伯区海老園 1-3-30) 2)GE ヘルスケア・ジャパン株式会社(〒 192-0033 東京都八王子市高倉町 67-4)

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無麻酔 CT検査の検討

谷浦 督規 1) 渡邊 香恵 2) 谷浦 直美 1)

(受付:平成 26年 1月 8日)

CT examination of unanesthetized animals

TOKUNORI TANIURA1), KAE WATANABE2) and NAOMI TANIURA1)

1)Taniura Animal Hospital, 1-3-30, Kairouen, Saeki-ku,Hiroshima 731-5135

2)GE Healthcare Japan, 67-4, Takakura-cho, Hachiouzi, Tokyo 192-0033

SUMMARY

Anesthesia is basically required for CT examinations in veterinary medicine. Some

level of risk should be accepted in some examinations to obtain useful data. The 128-slice

computed tomography employed in our hospital takes several seconds to scan the whole

body of a medium-sized dog. In addition, to immobilize the animal, restraints were

created for the limbs and trunk to examine the traction of the limbs. High-quality images

could be quickly obtained with or without anesthesia.

── Key words: unanesthetized, CT examination, restraint

要   約

 獣医での CT検査には基本的に麻酔が必要である.有益な情報を得るために時としてリスク覚悟の検査が実施される.当院の 128スライス CTは,中型犬の全身撮像でも 1回の撮像時間は数秒程度である.その間動物を不動化するため,四肢・体幹部のポジショナーを作成し四肢の牽引法を検討した.無麻酔下でも麻酔下と同等の高画質な情報を安全に速く収集することが出来た.

──キーワード:無麻酔下,CT検査,ポジショナー

1)谷浦動物病院(〒 731-5135 広島市佐伯区海老園 1-3-30)2)GEヘルスケア・ジャパン株式会社(〒 192-0033東京都八王子市高倉町 67-4)

報 告

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広島県獣医学会雑誌 № 29(2014)

は じ め に

 獣医でのCT検査には,基本的に麻酔が必要であった1).他の診断装置を上回る有益な情報を得るために時としてリスク覚悟の検査が実施される.当院の 128スライス CTは,中型犬の全身撮像でも 1回の撮像時間は数秒程度である.撮像時間は短縮したが,動物を不動化し,麻酔下と同等の画像情報の収集するため,導入当初から四肢・体幹部のポジショナーを作成し四肢の牽引法を 3年間試行錯誤してきた.今回当院で実施している無麻酔下でのCT検査法について報告する.

材料および方法

 CT装置は Optima CT660 128スライス(GE),造影剤注入装置は A-300(Nemoto)を使用した.動物の固定には,体幹部はポジショナーには PEライト(A8 1m× 1m× 5mm,10mm,15mm)を使用し 2種類作成した.四肢用は発砲ポリエチレンシートを使用し,円柱状に作成し,エリザベスカラー,タオル,イージーラッピングベルトを用いて四肢を保定し,全身ポジショナーへ設置して,スカウト像で XYZ軸の方向を確認後撮像を開始した.

成   績

 無麻酔では,動物は四肢を屈曲させてしまうが(図1),四肢の関節を保定して(図 2),テープと併用して伸ばすことで胸部・腹部への屈曲が無くなった. Z軸方向の固定は頭頸部と保定具との空間が問題であったが(図 1),体幹部のポジショナーを作成することで補正ができた(図 3).頭部が動くと体全体が動きやすくなるので,頭部ポジショナーを作成し前肢を頭部ポジショナーの下に保定した(図 4,5).頭部のポジショナーは保定だけでなく視野を制限することで移動時の動きを制止することができた. 適応は猫から大型犬まで可能であった.症例では音に敏感であったり,四肢の保定ができない性格,過換気状態等では困難であった. 沈静・麻酔に対してリスクの高い症例,レントゲン撮影でリスクがあるような胸部疾患,緊急を要する交通事故などでも適応した.肘関節や膝関節に疾患がある場合は,引っ張り過ぎると疼痛で動き出す場合があ

図 1 固定なしでボックスに入れた場合の姿勢� �無麻酔では四肢を縮めるので,胸・腹部の臓器が圧迫さ

れる.� Z 軸は保定具と体との空間が問題になる. 図 3� 体幹部ポジショナー

� 側壁は大きさに応じて調整が可能である.

図 2� A:前肢用ポジショナー B:後肢用ポジショナー図 4� 頭部ポジショナー� 前肢を頭部ポジショナーの下に保定可能

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広島県獣医学会雑誌 № 29(2014)

り,胸部疾患では,胸部の圧迫が強いと呼吸速拍になる事があった.呼吸速拍状態はモーションアーチファクトを発生させ横隔膜周囲のブレが発生するために安定した呼吸状態での保定が必要であった.無麻酔でも画像精度が低下することなく麻酔下同様の満足できるCT画像が得られた(図 6).

考   察

 導入当初は,無麻酔での CT検査はほとんど動かない症例が対象であった.手足を伸ばすことができない状態でも無麻酔での検査を行ったが,丸まった手足が腹部が圧迫し,正確な臓器や細部の読影が難しくなった.現在は四肢の保定具と牽引法の改良により検査対象が広がり,無麻酔 CT検査総数 200症例を超え,全 CT検査における割合は 30%を超えている(図 7).CT検査は短時間で終了するが,無麻酔検査では,それに加えて動物を保定する事に時間が必要である.しかし,習熟すれば短時間でのポジショナーの装着が可能である.今後は CT施設でこの方法を実践することで,CT検査も検査対象であれば麻酔等のリスクのない安全かつ有用な画像情報を利用する機会が増え,診断治療に貢献するものと推測される.

参 考 文 献

1) 谷浦督規 :CT診断の有用性② 検査手順と画像処理,PRO VET 112,50,インターズー,東京(1997)

図 6 麻酔下と無麻酔下のスカウト像の比較� A:麻酔下でのポジショニング� B:無麻酔下でのポジショニング� �ポジショナーを装着することによって,麻酔下と同様な

水平な姿勢を維持することができた.

図 7 CT検査における無麻酔検査の年間の割合

図 5 それぞれのポジショナーとタオルを使用して保定を行う

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