ほほえみ 第105号 発行日 年 月 日 - dpf.or.th

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1 スラムの子らの“学ぶ喜び、生きる喜び”を求め続けて半世紀 財団は2018年8月、設立40周年記念日を迎えます 1978年にラモン・マグサイサイ賞を受賞した記念に設立したドゥアン・プラティープ財 団は今年8月31日に40周年の記念日を迎えます。16歳の時に姉のミンポン・ウンソンタ ムと二人で学校に行けないクロントイスラムの子どもたちに文字の読み書きを教える塾を開 いた年から数えると、ちょうど半世紀にわたります。 振り返ると、スラムに対する社会的な偏見と差別に対する長い、長い闘いの道のりでした。 富める者と貧しい人々との格差が広がり続ける中で、「一日一バーツ学校」と呼ばれた塾は公 立小中学校に発展し、財団の創設と同時に始めたスラムの子どもたちへの奨学金の支給者は3 万5千人に達し、高校と職業専門学校に進んだのは550人、大学まで進学した者は254人 にのぼり、大学の准教授やバイオリニストになったり、まもなくクロントイから初の医師も誕 生します。 まだまだあります。お母さんたちが安心して働けるようにと保育所・幼稚園を開設したり、 無国籍の子らの国籍取得活動、貧困がもたらす家庭崩壊や虐待で苦しむ子どもたちを立ち直ら せる『生き直しの学校』等々、数え切れない成果は、教育里親をお引き受けいただいた方々を はじめとする多くの皆さま方の長期にわたるご支援があってこそ実現して来ました。 けれども立ち向かわねばならない問題は山積しています。タイ政府はクロントイスラム全域 の立ち退きを要求し、大規模商業地域の開発を推進しようとしており、今後財団にとって最大 の試練になることと存じます。今号で詳しく計画の内容を記しています。 平等な人としての教育と暮らしを目ざして、私どもはこれからも精一杯努力して参ります。 心より感謝申し上げると共に、今後ともくれぐれもよろしくご支援下さい。 ドゥアン・プラティープ財団創設者 プラティープ・ウンソンタム・秦 ほほえみ 105 発行日 2018 7 1 ドゥアン・プラティープ財団 財団設立40周年記念号

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スラムの子らの“学ぶ喜び、生きる喜び”を求め続けて半世紀

財団は2018年8月、設立40周年記念日を迎えます

1978年にラモン・マグサイサイ賞を受賞した記念に設立したドゥアン・プラティープ財

団は今年8月31日に40周年の記念日を迎えます。16歳の時に姉のミンポン・ウンソンタ

ムと二人で学校に行けないクロントイスラムの子どもたちに文字の読み書きを教える塾を開

いた年から数えると、ちょうど半世紀にわたります。

振り返ると、スラムに対する社会的な偏見と差別に対する長い、長い闘いの道のりでした。

富める者と貧しい人々との格差が広がり続ける中で、「一日一バーツ学校」と呼ばれた塾は公

立小中学校に発展し、財団の創設と同時に始めたスラムの子どもたちへの奨学金の支給者は3

万5千人に達し、高校と職業専門学校に進んだのは550人、大学まで進学した者は254人

にのぼり、大学の准教授やバイオリニストになったり、まもなくクロントイから初の医師も誕

生します。

まだまだあります。お母さんたちが安心して働けるようにと保育所・幼稚園を開設したり、

無国籍の子らの国籍取得活動、貧困がもたらす家庭崩壊や虐待で苦しむ子どもたちを立ち直ら

せる『生き直しの学校』等々、数え切れない成果は、教育里親をお引き受けいただいた方々を

はじめとする多くの皆さま方の長期にわたるご支援があってこそ実現して来ました。

けれども立ち向かわねばならない問題は山積しています。タイ政府はクロントイスラム全域

の立ち退きを要求し、大規模商業地域の開発を推進しようとしており、今後財団にとって最大

の試練になることと存じます。今号で詳しく計画の内容を記しています。

平等な人としての教育と暮らしを目ざして、私どもはこれからも精一杯努力して参ります。

心より感謝申し上げると共に、今後ともくれぐれもよろしくご支援下さい。

ドゥアン・プラティープ財団創設者

プラティープ・ウンソンタム・秦

ほほえみ 第 105 号

発行日 2018 年 7 月 1 日

ドゥアン・プラティープ財団

財団設立40周年記念号

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ドゥアン・プラティープ財団では財団設立40周年を迎える記念事業として、今なお厳しい

貧困のただ中で勉学を続けるのが困難な子どもたちに奨学金を支援する教育里親を新たに

500人求めるキャンペーンを進めておりますが、5月までに53人の方々と二つの団体から

協力の申し出があり、計約170人の園児、小・中学生、高校生が奨学金を得て学べることに

なりました。

教育里親をお引き受けいただいた方々の国別内訳は日本38人、欧米系12人、タイ3人。

団体は日本の2グループです。お一人で複数の子どもたちに支援していただく方もおられます

ので、全部で69人が奨学金を得て学び始めることが出来ます。各学校別の受給生は一覧表の

通りです。また天台宗一隅を照らす運動総本部からは100万円(園児・小学生約100人分

に相当)のご支援をいただきましたので、今後子どもたちの生活環境の推移、家族の突然の病

気や事故等を見極めて緊急支援や奨学金の支給に役立てて参ります。

「教育里親」はいつでも、どなたでもなっていただけます。キャンペーンは引き続き取り組

んで参りますので、どうぞよろしくご支援、ご紹介下さい。

新規教育里親500人募集キャンペーン

中間報告

「おかげさまで、新しく約170人の子どもたちが学べます」

プラティープ幼稚園

の卒園式

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ドゥアン・プラティープ財団では5月11日、新年度の奨学金授与式を開催しました。財団

では1978年にプラティープさんがラモン・マグサイサイ賞を受賞した記念にスラムの子ど

もたちに奨学金を贈る活動をスタートさせ、今年で40年目を迎えています。日本をはじめ多

くの国々の皆さんに「教育里親」になっていただいたおかげで、今年は幼稚園児から小・中学、

高校、大学生まで計1226人に支給することが出来ました。クロントイだけでなく、地方の

貧しい村々で学ぶ51人にも贈ります。

財団創設者のプラティープ・ウンソンタム・秦さん(65)は、40年間に延べ

205、637人の少年少女、青年男女に奨学金を支給することが出来たと成果を報告。さら

に奨学生の一人で現在、マヒドン大学医学部でインターン中のサパンユー君を紹介し、「医学

部での成績は4点満点中3.83です。2年後にはクロントイスラムから初の医師が誕生する

のを誇りに思います。大勢の青年男女が大学や専門高等学校で努力している喜びを教育里親の

皆さま方とご一緒に分かち合えるのを心より感謝しています」とお礼を述べました。

この後、財団の奨学金で大学まで卒業し、現在、大学の准教授をつとめるクリアンクライ氏

が後輩たちを励ます言葉を贈りました、次のページに紹介しています。

5月11日、40年目の奨学金授与式を開催

幼稚園児から大学生まで1226人に

【教育里親の申し込みと問い合わせ先】

◆1年間の奨学金の支援額は次の通りです。ご希望の課程をご支援いただけます。

幼稚園(3年制)……………12,000円 職業専門学校生(3年制)35,000円

小学生(6年制)……………12,000円 高等専門学校生(2年制)35,000円

中学生(3年制)……………25,000円 大学生(4~5年制) 35,000円

高校生(3年制)……………30,000円

◆問い合わせ先 ドゥアン・プラティープ財団教育里親事業部

E-mail:[email protected](日本語可) ☎+66(0)2―249―3553(内線 113)

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奨学生:先輩から後輩へ励ましの言葉

「今、私にとっては自慢のスラムです」

テクノロジー・ラーチャモンゴン・クルンテープ大学准教授

クリアンクライ・パラソンティ

私は、「劣悪な環境」と呼ばれるクロントイスラムで生まれ育った一人です。母は、皿にご飯を

盛って売る“ひと皿メシ”で生計を立てて育ててくれました。小・中学校はプラティープ財団の隣

にあるパタナ―共同体学校で学びました。ここ

は「スラムにある、どうしようもない学校」と

いうイメージで世間では有名で、軽蔑の目で見

られていると感じながら過ごしました。

その後、スラム外の高校に通い始めてからは、

自分がクロントイスラムの出身だから誰も仲間

に入れてくれないのではと不安にかられ、ずっ

と言いそびれていました。確かに悪いことをし

ている人もいるだろう。でも自分たちは何も間

違ったことをしていないのではないか、といつ

も自分に問いかけていました。スラムの子ども

だからどうなんだ? 立派には成功できないの

か? いまにやってみせる!と自分に言い聞か

せていました。そして今、私にとってはクロン

トイは自慢のスラムです。私が中学校3年の卒業の日に書き綴ったノートに、こう記しています。

「自分は博士課程まで勉強するんだ。そして将来は教師になるんだ!」

これがスラムに住む一人の子どもの夢でした。まさか自分の夢が実現できるなどとは思っていま

せんでした。人ならば誰しもが描くただの夢にすぎないと。

私は現在、テクノロジー・ラーチャモンゴン・クルンテープ大学の准教授の職に就き、テクノロ

ジー・プラジョムグラ・プラナコーンヌア大学院博士課程で学んでいます。

何が私をそうさせるのか? 私は答えは「チャンス」だと確信しています。小学校1年生の時に

プラティープ財団から奨学金をもらえたこと。そしてずっと支給してもらいながら学び続けられた

こと。教育奨学金を受け続けることが出来たというチャンスがあったからこそ、私は学び続けて今

があると思っています。

人には平等に一つの頭、二本の手足があり、誰にも一日24時間あるはずです。でも、「チャン

ス」と「努力」は違います。チャンスがあれば、自分を信じて努力し、前に向かって進んでくださ

い。スラム出身でも、可能性は十分にあること、いやそれ以上かもしれません。みんなでチャンス

を生かし、努力し合って社会の一角でピカッと光るダイヤモンドになりましょう。

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「なぜ私は、中学校に行けないの?」

タイ最大のクロントイスラムで育った私は、両親が教育の大切さを知っていたおかげで小学校に

通わせてくれましたが、学費を出せるお金がなかったため卒業するとすぐ働かねばなりませんでし

た。なぜだろう?私はこんなにも勉強したいのにと不満でなりませんでした。

でも嫌々ながら仕事に出かけた港で目

撃した出来事が、私の考えを一変させてく

れました。「スラムの人間は、怠け者だか

ら貧しい」―世間の人々はそう言って私た

ちを見下していましたが、港では外国から

発着する貨物船の重い荷物の積み下ろし

を大人たちが炎天下で汗まみれになりな

がら働いていました。そしてそれ以上に驚

いたのは、私と同じように10歳から15

歳くらいの子どもたちまで貨物船の甲板

掃除や船倉のさび落としに懸命でした。

ある日、船倉の高い所で作業をしていた

少女が誤って転落し、重傷を負って半身不随になりました。まるで虫けらのように扱われている。

スラムの人たちは怠け者ではない。だのになぜ、世間の人は間違ったことを言うのだろう?子ども

心にそう疑問を持ったのが貧困を生み出す原因やどうすれば解決できるかに取り組むきっかけに

なりました。

16歳になった1968年、小学校にも行けない子どもたちに文字の読み書きを教えようと7歳

上の姉のミンポンと自宅で塾を始めました。その際、教材用に毎日1バーツ(約10円相当)を持

たせてほしいと親に頼んだので、「一日一バーツ学校」と呼ばれるようになりました。勉強に来る

子どもたちの数は見る見るうちに増え続け、200人を越えると政府から「無認可のもぐりの学校

だ。閉鎖せよ!」との命令が下りました。さぁ、どうしようと戸惑っていると、母親たちが中心に

なって「つぶしてなるものか!」と学校づくりの運動が高まり、1976年ついに「パタナ―共同

体小・中学校」として正式に認可された学校となりました。開校2年後の1978年には、「アジ

アのノーベル賞」と呼ばれるラモン・マグサイサイ賞を受賞することが出来、その副賞としていた

だいた2万㌦を基金にして創設したのがドゥアン・プラティープ財団です。

私たちのモットーは「今日のために精一杯灯す。平等な人としての教育を目ざして」です。

日本の皆さま、どうぞ一度、クロントイまでお越し下さい。子どもたちと一緒にお待ちしています。

(この記事は以前掲載した記事を改訂して再録しました)

私の原点は、クロントイ港での辛くて、悲しい児童労働です

プラティープ・ウンソンタム・秦

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タイ政府、クロントイスラムの“全面立ち退き”を要求

【はじめに】

タイ政府は首都バンコクにある同国最大の「クロントイスラム」を全面撤去し、その跡地に

商業ビルや高層マンション、ホテル等を誘致して大規模な商業地域に再開発する総合計画を立

案している。プラユット首相が率いる現政権はその実現に向けての動きを加速させつつあり、

住民への説明会を開いて移転先等を提案してはいるものの、どこまで住民の合意を得て進めら

れるか予断を許さない。

2018年8月に設立 40 周年記念日を迎えるドゥアン・プラティープ財団にとっても今後

最大の課題であり、厳しい試練となろう。

これは 2018 年6月現在、同財団が掌握している計画内容とそれへの対応である。

<タイ政府のクロントイ総合開発計画の概要>

「1」 立案からの歩み

タイ政府は14年前の2004年、通称「クロントイスラム」と呼ばれる港湾局所有の国有

地の再開発計画を策定。着手しないまま経過したが6年前の2012年、港湾局が住民代表を

招集して計画の概要を初めて説明した。2014年にプラユット軍事政権誕生後、これまでに

約10回、住民代表を招いて説明会を開き、立ち退き後の移転先等の条件を内示している。

「Ⅱ」クロントイ総合開発計画の内容

1. 現在のクロントイスラムの全住民に立ち退きを求め、跡地を「スマートシティ」と名付

けて 5 年後をメドに再開発する。

2. 立ち退き地域は東西約2キロ、南北500㍍わたり、西端にはクロントイ市場も含まれ

る。現在、「クロントイスラム」と呼ばれる域内26地区(約530ライ:1ライは1.

6㌶)にある約12,000世帯(約60,000人:港湾局調査)の住居はすべて撤

去し、住民には移転先等を用意する。

3. かつてタイ国最大の貿易港であったチャオプラヤ川のクロントイ港の機能は大幅に縮

小する。跡地には各種事業所、大型ショッピングセンター、コンドミニアム、ホテル、

国際会議場等を誘致し、川沿いには水に親しむ大規模なリバーサイドパークを造る。

4. 地下鉄やモノレールを延伸する。

跡地に、大規模な商業施設や高層マンションを開発

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【Ⅲ】立ち退き・移転にあたって内示されている条件

1. 自宅を建てたい人には、クロントイから約40㌔離れたバンコク都ノンジョーク区の公有

地に無償で土地を提供する。ただし、建設費は自己負担。

2. 政府は立ち退き地域の東端に30階建ての高層アパートを建設して提供するので、そこに

移転する。ただし、居住者は管理費とバイク等の駐車代を自己負担。

3. 約10㌔離れたディンデン区にある住宅公団所有のアパートを建て直して高層化し提供

する。ただし、家賃と管理費は自己負担。

4. 上記いずれも望まない者には、移転補償費を払う。

【Ⅳ】立ち退き問題に臨むドゥアン・プラティープ財団の基本姿勢

1. 次の三つを基本姿勢に据える。

(1) 住民が、少なくとも今より良い条件の所に住み、暮らせること。

(2) 安定した職業に就き、長年厳しい貧困の中で住民たちが築いて来たコミュニティー

が持続されて、幸せに生活出来ること。

(3) 子どもたちが今より良い環境で教育を受けられること。

2. 政府の立ち退き計画に全面的に賛成はしないが、政府と正面衝突はしない。すでに始めて

いる地区ごとの住民への説明と話し合いをこれからも積み重ねて、財団だけでなく多くの

NGO や地域社会の開発・改善問題に取り組む人々のチエと力を結集しながら進める。

3. 将来、高層アパートに移転するとしても、“スラムの高層化”の事態が生じないよう政府

側と交渉し、学校、保健所等の公共施設が完備された「コミュニティーシティ」の実現を

めざす。

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2018年8月31日に財団設立40周年記念日を迎えるドゥアン・プラティープ財団で

は、下記の記念行事を予定しています。

<一>財団設立40周年記念式典 2018年8月27日(月曜日)午後5時

ドゥアン・プラティープ財団本部に国内外のご支援者をお招きして、記念式典を行い

ます。長年にわたって財団の活動を支援していただいている団体、個人の皆さま方に、

感謝状を差し上げる予定です。

<二>記念本の出版

『ドゥアン・プラティープ財団の40年~「スラムの

天使」の歩みと闘い』(仮題)を出版します。

タイ語、英語、日本語版の3種類を予定しています。

<三>教育里親新規500人募集キャンペーン

今号の「ほほえみ」で報告しましたように、40周年

の記念事業として厳しい貧困のただ中にある子ども

たちに奨学金を支援する教育里親の皆さまを募集し

ています。

ドゥアン・プラティープ財団設立 40 周年

記念式典のご案内と記念本の出版

ドゥアン・プラティープ財団

The Duang Prateep Foundation Lock6, Art-Narong Road,

Klong Toey, Bangkok 10110 Thailand

Fax : 001-66-(0)-2249-5254

Tel : 001-66-(0)-2249-3553,(0)-2249-4880

E-mail: [email protected]

ホームページ:http://jp.dpf.or.th

銀行口座:三井住友銀行バンコク支店

口座名:The Duang Prateep Foundation

口座番号:2041159421

送金の際はご住所、お名前、ご送金の目的等 を当財団国際

部までご連絡下さいますようお 願い申し上げます。