ケニアの現況とこれから - OCAJI › pdf › branch › OCAJI140405.pdf2014 4–5 47...

Post on 26-Jun-2020

3 views 0 download

Transcript of ケニアの現況とこれから - OCAJI › pdf › branch › OCAJI140405.pdf2014 4–5 47...

472014 4–5

ケニアの現況とこれから

山下 高司(株)鴻池組 ケニア事務所所長

1. 注目されるアフリカ 昨今、アフリカという文字、言葉がメディアで発信されることが本当に多くなったと感じます。仕事を通じ長くアフリカに携わっている者としては、隔世の感があります。アフリカは長い間、貧困、飢餓、疫病というイメージのみで語られ「残された最後の未開拓地」でした。そのアフリカが、今「発展する魅惑の大陸」となっているのです。

BRICsという造語で新興国の経済成長率が取り上げられた2002年以降、BRICs以外の新興国もその著しい発展から注目を浴びるようになりました。2010年FIFA

ワールドカップが南アフリカ共和国での開催と決定されたのが2004年、さらにその後、BRICsの小文字のsが、南アフリカのSとしてBRICSとなり、ワールドカップ開催と共にアフリカ大陸の存在感を世界に示しました。南アフリカは白人主導で発展を続けた長い歴史があり、他のサブサハラ諸国と同類には扱えませんが、全世界の2012年の経済成長率を見ると、今や上位20カ国中10

カ国がアフリカの国となっており、資源のみならず人口10億人を抱える巨大消費地としての魅力を兼ね備えるようになってきました。

2. ケニアの現況 アフリカの中でも東アフリカ(以前のケニア、タンザニア、ウガンダにルワンダ、ブルンジが加わり、東アフリカ共同体は現在5

カ国)の経済成長率は目を見張るものがあります。取り立てて資源のないこのグループ内で、ケニアは地域の玄関口としてリーダー的役割を担っています。国連などの国際機関の拠点が多いことや隣接国のみならず、アフリカの西部、南部へ移動する際のハブとしても機能しています。下記に直近10年のケニアの経済成長率の推移を示し

ましたが、暴動のあった2008年を除いては着実な発展を遂げていると言えるでしょう。(1)政情 昨年、2013年3月に大統領選を含む総選挙が無事に終わりました。選挙前の下馬評では、ケニヤッタ候補とオディンガ候補の支持率が拮抗しており、選挙結果によっては2008年の暴動の再発が予想されていました。しかし開票は平和裏に進められ、ケニヤッタ候補の圧勝という結果になりました。オディンガ候補は集計結果に異議申し立てをしましたが、最終的に「結果を受け入れる」旨の紳士的なコメントを発表しました。オディンガ候補を応援していた同じ部族の民衆も騒ぎ立てることはほとんどなく、報道関係者が拍子抜けするほどの平和的な選挙であったと言えます。その背景にあるのは、前回の選挙後の全国的な暴動騒ぎで一番損をしたのは、一般大衆であり、同じことを繰り返しても結局自分たちに跳ね返ってくるだけということが、皆の共通認識としてあったということです。ケニア国民には失礼な言い方かもしれませんが、道徳意識の向上というより、暴動による損得を計算した上での民衆の冷静な判断であったと、私は考えています。(2)治安 選挙が平和裏に終わった半年後、世界を驚かせるテロ事件が首都ナイロビで発生しました。ケニア軍が内戦が続くソマリアへ治安部隊を送り込んだことにより、拠点を失ったアル・シャバーブ(アルカイダ系イスラム原理主義グループ)の一員と見られる武装グループが、土曜日の正午前にショッピングモールに侵入し、自動小銃の乱射により女性、子どもを含む67名の死者を出す大きな事件となりました。金銭目的の強盗などの事件以外では、

支部通信

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 *2013

5.09 5.93 6.33 6.99 1.53 2.74 5.80 4.38 4.56 5.86

*2013年はIMFによる推計。

表|ケニアの実質経済成長率 (単位:%)

48 支部通信

ナイロビ南部バイパスの工事看板

ナイロビ南部バイパス工事現場

また、今後着工予定となっている主なプロジェクトを以下に記します。・ ムエア灌漑開発計画(円借款)・ モンバサ港周辺道路開発(円借款)・ ケニアとタンザニアを結ぶ、ヴォイ-タベタ-アリューシャ間の道路建設(アフリカ開発銀行)

・ ナイロビ市内のウフルハイウェイ-ワイヤキウェイの全線高架化(世界銀行)

・ モンバサ-ナイロビ間の鉄道整備(中国政府借款) 債務額は国内、対外を合わせ2兆ケニアシリングを超え、GDPの57%となり IMFからは警告を受けているものの、インフラ整備への意欲は衰えを知りません。また上記のインフラ関連に加え、ナイロビ市内の至るところでさらなる商業施設、オフィスビル、高級集合住宅が建設中であり、郊外においては中所得層向けの住宅開発がなされ今も進行中です。土地の価格は、私の感覚で、この10年で10倍以上に値上がりし、バブルの様相を呈していましたが、2013年の住宅価格は前年比0.3%の上昇という統計が出ており、やっと落ち着いてきたようです。

アメリカ人を標的にしたアメリカ大使館の爆破事件はありましたが、このように大規模の無差別テロ事件は過去に例がありません。センセーショナルな事件を起こし、ケニアへの投資を鈍らせ、結果的にケニア政府を困難な状況に陥れるという、意図を持った報復攻撃であり、予防する決定的な手立てもありません。現在も小さなテロ事件は続いており、ケニア在住の外国人にとって、またケニアへの進出を考えている企業にとり頭の痛い懸念材料となっています。(3)建設事情 前置きが長くなりましたが、ケニアの建設事情を述べておきます。2006年10月、ケニア政府は2030年に中進国(ひとり当たりGNIが1,926ドル以上)入りを目指すとした「Kenya Vision 2030」を発表しましたが、今はなりふり構わず、それに向かって邁進しているように見えます。進行中の主な大型プロジェクトは下記の通りです。・ ナイロビ南部バイパス(中国政府借款)・ モンバサ港コンテナターミナル拡張(円借款)・ オルカリアの1号地熱発電所(円借款)・ オルカリアの4号地熱発電所(欧州開発銀行およびフランス開発エージェンシー)

・ ラム港のバース建設第1期(ラム港-南部スーダン-エチオピアを結ぶ交通回廊プロジェクトの一部、中国政府借款)

・ ジョモケニヤッタ国際空港のターミナル拡張(中国政府借款)

492014 4–5

ナイロビ-ティカハイウェイ(1年半前に供用開始、アフリカ開銀、中国政府借款)

オフィスビル建築現場

3. 今後のケニア この10年間でケニアは大きな変貌を遂げました。国内発電量は2倍になり(ただし使用電力も倍になり停電は相変わらず頻繁に起きる)、ナイロビ市内を走る車の数は感覚的に数倍に膨らみ、渋滞は社会問題にもなっています。大型ショッピングモールではファッショナブルに着飾った女性が見られ、街を歩くOLはウィッグを毎日のように付け替え髪型の変化を楽しんでいます。ゴルフ練習場では、子ども連れのケニア人家族が一緒にレッスンに励んでいます。このような光景は10年前にはほとんど見られませんでした。中高所得層が確実に厚くなってきている証拠です。世界的金融緩和により、だぶつき気味の投資マネーが、最後の未開拓地であるアフリカ諸国にも集まったとも言

われます。しかし今後はアメリカの景気回復により、FRB

(連邦準備銀行)の量的金融緩和縮小が確実視されています。その時投資マネーは引き上げられ、資源をほとんど持たないケニアは投資熱が一挙に冷めるのでしょうか。経済学者ではない筆者は予測する術を持ちません。ただ、アフリカは今世紀末まで、ほぼ直線的に人口増加が予想される世界で唯一の大陸であり、若い世代が国を担っています。東南アジアの今がそうであるように若い世代がバイタリティを持って労働力の中心にある時に国は発展します。東南アジア各国と比べた場合の低い労働生産性、輸入に頼るがゆえの高い物価、インフラの未整備による低い生産効率などなど、マイナスの要素ばかりで、東南アジア同様のモノづくり拠点としての発展には厳しいハードルがあります。しかし人口増加による一大消費地として、発展のベースは既にアフリカに、そしてケニアにあるのです。いまだに国民の半数近くが1日1.25ドルで暮らしていると言われるケニア、汚職に対して厳しい姿勢を見せている現ケニヤッタ大統領ですが、若い人が誇りを持ち将来に希望を持って働ける国、そして消費地としてだけでなく、新たな投資を呼び込むに足る魅力的な国に導くことができるのか、新しいリーダーとしての手腕が問われています。

(参考文献)ケニア国家統計局ウェブサイトJETRO アフリカニュース

朝のナイロビ市中心へ向かう車の渋滞