金属技研ニュース 1983...

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単結晶でガスタービンの効率を飛躍的に向上一ニッケル基耐熱合金の高温強さの限界に挑む一

 実用的なジェット機が始めて飛行してからわず

か40年あまりの今日,機体重量約160t,積載物

重量約200tという巨大なジャンボジェット機が,

世界の空をところ狭しと飛び回っている。ジェ

ット機の歴史はジェットエンジンの心臓部である

ガスタービンの性能向上の歴史であり,それは耐

熱合金開発の歴史でもある。また,発電用ガスタ

ービン用材料も,ジェットエンジンに追随して発

展してきた。

 ガスタービンの部品の中でも最も過酷な条件に

さらされるのは,タービン動翼であつ,例えばジ

ャンボジェット機の離陸時には約1300℃の高温ガ

スが毎秒113㎏吹き込まれ,毎分最大7800回転し

ている。ガスタービンの効率は夕一ビンに吹き込

む燃焼ガスの温度が高いほど良くなるので,1950

年当時800℃であったものが現在では1300℃をこ

え,更に高くするための努力が続けられているが,

このネックになっているのがタービン翼材料の高

温強度である。

 タービン翼材料として現在主流となっているNi

基耐熱合金は,Niに約10種類の合金元素を添加し

た析出硬化合金である。また,高温では結晶粒界

で破壊するため,粒界を強化するための元素も添

加されている。1950年代以来,Ni基耐熱合金は

これらの成分の最適な組・合せを求めて改良され

てきたが,合金成分の調整だけで更に性能を向上

させるのは既に困難になってきた。そこで注目さ

れているのが,鋳造方法を改めて結晶の成長を精

密に制御し,弱い結晶粒界をなくしてしまう技術

である。

 この方法には,結晶を一方向だけに成長させて

柱状晶にする方法と,結晶粒界を全く含まない単

結晶にする方法があり、柱状晶のタービン動翼は

既に実用的に使用されている。柱状晶よりも更に

強い単結晶夕一ビン翼は今後の大きな発展が期待

されており,当研究所のこれまでの研究において

も,既にいくつかの好成果が得られている。

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図 当研究所で合金設計法によリ開発したNi基耐熱合金 の1OOO℃、12㎏f/㎜…でのクリープ破断寿命の比較

1

世界最強の耐熱合金を目指して合金設計による単結晶夕一ビン翼材の開発

 Ni基耐熱合金製の高圧夕一ビン動翼は,精密鋳

造法により製作されている。普通は溶融した合金

を流し込んだ鋳型を放置して自然に冷却させるの

で,鋳型全体が一様に冷却し,でき上るタービン

翼は無数の結晶粒から成る多結晶体である。

 ところが結晶粒界は最後に凝固する部分である

ため,成分の偏析及び粗大な析出物が晶出しや

すく,高温ではその部分が弱い。したがって,結

晶粒界をなく’してしまうと,高温での強度が飛躍

的に向上する。結晶粒界をなくすと,強度向上に

とってもう」つ有利なことがある。

 Ni基耐熱合金は,NiにW,Mo,Nbなどを固溶さ

せて硬化させたγ相中に,高温強度の優れた金属

問化合物Ni茗(Ti,Al〕のプ・相を微細に析出させて

高温強度を高くしたものである。γ’一相が微細で均

一に分布しているほど強度は高く,そのγ相の高温

での安定性は成分元素が均一に分布しているほど

良いので,鋳造後に高温に加熱して成分の均一化

(溶体化処理)を行う。粒界強化元素を含む合金

ではこれらの化合物の融点が低いために,溶体化

処理を充分に行えないが,粒界強化元素を含まな

い場合にはこの処理を充分に行うことができる。

 一方,夕一ビン動翼は大きな遠心力を受けるので,

遠心力の方向を横切る結晶粒界をなくし,結晶の最

も強い方位が遠心力方向と同じになるようにそろ

えた柱状晶にしただけで,強度は大巾に向上する。

 柱状晶翼は,図1のような構造の一方向凝固装

置を用いて製造されている。鋳型に溶融金属を流

し込むと水冷銅板に接した部分が凝固するので,

 グ         鋳 フ          型   凝 7       加  固

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休汁㎏1毛栴               チル板             図2 単結晶成長の模式図   図1 一・方向凝圃装置   柱状晶の中の一つの結晶の             みを選択成長させる。

鋳型を加熱炉から一定速度で引き出すと凝固面が

前進し,その方向に長く伸びた結晶粒ができ,柱

状晶が得られる。単結晶翼も同様の一方向凝固技

術を用いて作製するが,図2のように鋳型の途中

を細くして柱状晶の中の一つの結晶だけが成長す

るように工夫されている。

 単結晶には優れた強度を示す特定の方位がある

ため,結晶を成長させる際にこの方位からのずれ

をできるだけ小さくする必要がある。このため,

凝固の際の熱流の制御及び鋳型の結晶制御部の

形状などが,良い結晶作製のポイントになる。

 当研究所では,通商産業省工業技術院のムーン

ライト計画の一部である高効率ガスタービンの研

究開発に参加し,高圧タービン動静翼用Ni基耐熱

合金の開発に独自の含金設計法を用いて大きな成

果をあげている。その一環として一方向凝固用耐

熱合金の開発を行い,1000℃,12kgf/㎜2の条件の

大気中クリープ試験で破断寿命が3500時問に達し,

従来合金より大巾に優れた合金TMD-5を得た。

 また,昭和56年度から始まった工業技術院の「次

世代産業基盤技術研究開発制度」の「高二1生能結晶

制御合金の研究開発」にも参加し,同じ合金設計

法を粒界強化元素を含まない合金系に応用し,単

結晶用合金の開発に取組んでいる。多結晶合金,

柱状晶合金の開発で培われた経験と実績を基に,

現時点で世界で最も強い合金であるNAS畑凡100

(米国)に匹適あるいは凌駕する合金を開発しつ

つあり,更に高いプロジェクトの計画目標達成

を目指した合金設計を行っている。

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写真1 凝固したままの単結晶の(oo1)面上のデンドライト組織(X40)

写兵2 単結晶の(OO1〕面上で観察されるプ杣(黒い部分)の測則的な配列(XlOOOO〕

スポットニーユース

マルエージ鋼,引張強さ

400㎏f/mm2達成

 此強度(璽鐙幾りの強さ)の商

い材料の開発が要望される分野に

おいては,超強力鋼,チタン含金

と複合材料が競含関係にあるが,

現在は,材質上の均質性に優れ,

製法面などで利点を有する金属材

料が依然として優位をI=!iめている。

これらの金属材料の中でも最商の

比強度が稽1らオしるのは,マルエー

ジ鋼で一ある。

 当研究所では,ユ0Ni一ヱ8Co一ヱ2Mo

1Tiマルエージ鋼に対し,溶休

化処理後の冷却一過程で熱閉加工を

行う特殊な力日X、熱処理により,350

kgf/mm2を趨える引張強さが得ら

れることを脇に明らかにしている。

 この強度を更に高めるために,

CoやT1,あるいはMoなどを蛸加させた組成のものを特殊加工熱

処理をした後に,更に80%の冷間

加工を付加してから時効処理をす

ることによリ,397kmf/m㎜2の引張

強さを得ることに成功し,比強度の

記録を璽新した。(強カ材料研究部)

   水噴霧法による

   金属微粉の製造

 搬近の高密度焼結部I鍬製造法で

は材料特性を胸上するために,平

均粒度数ミクロンの微粉を活翔す

るイ頃肉が強まっている。その粉末

には成分偏析を起しやすい混含■粉

よリも含金粉が望ましいが,良質

で安個な微粉を安定して供給でき

る製造技術がまだ確立されていない。

 当研究所では蝦高水圧50MPaの1職霧装蟹を用いてSn,Cu,Ni,Fe

などの単一金属や50附50Fe,80Ni

-20Crなどの含金の微粒化条件を

検討し,水唆霧法による数ミクロ

ンの微粒の製造に成功した。

 その畷携は閂錐水ジェット方式

によるが,円錐頂角を4ポー9{ガと

従来法より工、5~3倍大きくし,ジ

ェットの粉化エネルギーを効果自勺

に頂、虹近傍に集咋Iできるのを特色

とする。生成粉申にはサブミクロ

ン粉も観察され,液依畷霧法が微

粉製造に充分なポテンシャルを持つ

ことを確認した。(金属加J二研究部)

迅速かつ禽感度な燃焼一赤外線吸収法による

鉱石及びフェロアQイ

中の硫黄の定量

 鉱石及びフェロアロイ呼Iの碗黄

の定鐙方法としては,J玉S法に槻

定された碗酸バリウム璽競法や燃

焼申刷滴定法などが用いられてい

る。これらの方法は煩雛な操作で

長時閲を要し,分析者の熟練を必

要とする。また燃焼弓]和滴定法で

は,酸化反応を円滑に巡めるために佼用する助燃斉11の一規定が充分に

なされていない。

 そこで,これらの欠一1匁を解決す

るために燃焼一赤外線吸級法の適

用を試み,その緒果,簡便,巡速

かつ商感度な定鐙法を確立した。

 鉱石には遜常数パーセントの化

合水が含まれておリ,この彩辮を

除去するための棚単な予備加熱法

や,鍛遼な幼燃斎■」の棚燃,級含せ,

録などを検討し,喬櫛鉄鉱石,マ

ンガン鉱石,クロム鉱石及びフェ

ロマンガン,フェロクロムなどに

湖足のいく緒果を得た。繍度の良

いEヨ常作業分析法として採綱し、

作薬能率の陶、.ヒに資している。

       (金属化学研究部)

長時間腐食疲れ寿命

評価のためのマルテ

型試験機を開発

 機械や構造物の破壊1秀咽として

材料の疲れが大きな要顕であるこ

とは従来から指摘されている。鍛1

近は特に腐食環境の膨響下におけ

る構造材料の疲れ強さに触する1裟j

心が商まってお1),実罵_1二璽要な

長時閥データの整備,それに塾づく長1榊≡涛命予湖■1法の研究などが

慈、がれている。

 この場含,言式験踏閑の有効禾1」用

を図り,かつ研究1粥発の効率を商

めるためには,なるぺく椛々の条

件において多数の試験を平行して

行うことが望ましい。この見地か

ら、設概繭械が1O m!稚度で’、消費

電力も従来型の%稚度のマルチ獺

回転脳1げ試験機を1凋発した。

 この試験機は,上下三段璽、ねで,

各段とも30,3,O.3,0.03Hzの

4速度で4棚づつの試験片を取付けられる鱗遭であり,腐食環境を

各段ごとに独立に舳錆1することが

できる。試験片はつかみ郁胸1径15

mm,試激部激径8m㎜のJ互Sの標雌三製 (I互一8努)て’,同時に48本に

ついての試験ができる。

 現在までに,この試験機2亡11を

用いて蓄式験方法の検討などを行い,

S垂5C,SCM435調質鋼などについて約1フテ時1≡姜竈までの系統自勺試験

を進めている。  (疲れ試験部)

クリープ,疲れデータ

シートの刊行

 部肝究所では昨年後半に以下のような,糸勺6’カ’時1邊]まで’の萄皮断テ’’

一夕を禽めたクリープデータシー

ト改訂版と,疲れテ“一タシートと

を刊行した。

○クリープテ’一タシート

       (57年一9月30日イ寸)

Nσ22A  ガスタービンディスク脳

 鉄姥耐熱含金A286(Fe-15Cr- 26N{一1.3Mo-2.1Ti-O.5V〕

Nα23A  ガ又タービンブレード用

 鉄拙耐’熱含金N155〔Fe-20Cr-

 20Ni-20Co一垂W一舳o-4(Nb+丁齪〕〕

N(}24A ガスタービンブレード用

 ニッケル嫉耐熱含金InCone1 700(Ni一工5Cr-28Co=4Mo-2.5Ti-

 3Al)

○疲.れデータシート

        (57年一12}司25Eヨイ寸)

Nσ29 機械繊造網ステンレス鋼棒

 SUS垂30(ユ7Cr)の疲れ特惚

No.30機械繊造用ステンレス鍋棒

 SUS403/工3Cr)の疲れ特惟

N(〕.3王 溶接機造用800N/mm2級商

 張力鋼の突含せ溶接継乎の疲れ き髪碁イ云{ま窄穿悩三

Nσ32 耐食耐熱趨含金棒NCF800 B(Fe-21Cr-32M-丁量一A1)商溜.高

 サイクル疲れ特一1ヨ1

(クリープ奮式験音11,疲れ試験部)

1982年外国人来訪者一覧㊥筑波支所 來.訪老’伽1古95名

名 入数 』」

〕 1.、 名 向i・  j寓 機 牒j

ア メ ≡j カ 23名 4. 2? Dr.D.G.Dor柵 ほか2名 H苗nford En閨ineering D哩ve]opment L丑』血r日tory5、 1呂 Pro{,K-丁一’lortw1呂 U・iwr呈it}o{Wi昌oo・昌in5、 18 DI・.W.K.M與odo皿日1d W日h Ch註而宮ALBANY Co一5. 19 Pro{.J.E.C.Willia㎜冨 M舶s目ch咀帥肚畠I而;t1tuto〇三丁“h而ology5. I9 Dr.M. S阯僅n品g囲 BrookhoΨon N帥ヨo11^,La出or固tory5. 正9 Dr.S.Fo冊1・ Fmnoi昌Bi肚帥N刮io固a,M畠gn{t Labo,・固tory M.I.T.5. 20 Dr,D.S.B旺丑1・d D直partm㎝t o{E冊・一酬5、 20 Dr.D.N.Cor咀i昌h L固wrence Liw艘rmore N固tion且]L亜bor趾ory5、 21 Dr.D.U.Gub;追r N洲£l Re昌2aro布I.。丑bor且tor/5. 24 Dr.A,K,C1πk N昔iio血a1B皿rc品u ofSt丑nd丑rds5. 26 Prof.j,D,Corb哩tt Am艘彗Lobor田torl D O l…:王owa St趾e Uniw一’昌肚y6、 24 Mr.D.E.Yuh拙s はか1名 Sono茗o舳L且hor汕ory7、 14 Pr〇三.Y.B.K1m Uniw{r昌iけof Sou沽C珪1ifom帖8、 26 Dr.M.J.L但岬old はか王名 Frand5Bヨtt哩r N纈tionol M田萬net L品』ol・餉orl M.LT。9、 2ユ Dr.H.M. Le舳e肚把r N曲tion丑1Bur虐高皿of Standords9. 2{ D1・一A.LB閉雷1・呂監y West1冊gho皿彗哩R&D Con舳r10. 27 Dr.M、 K丑mi帖k} Ar呂on而哩N品tion品1L固出omtory12、 3 Pro{.R.F.1…u冊冒h丑h Un≡Ψ僅r昔ity o{C丑Iifornヨ晶,Lo菖Angelo;三2、 6 Dr.L.M.Sohetk}・ 1ntern齪tion日I Copp哩r Res巴丑rc止A昌50oi舳ion incorロー

’フ ラ  ー  ス 2け, 3. 25 Mr一目。D叩o・t舶 α{日{y5. 17 Pro{.P.Sey{肥rt ほか16名 C但而tr直d’Etude昌Nuo1{品ir把雪5、 19 Mr.A.M咀一・叩桃 Eleotrioit僅d僅Frano旦9. 9 M一・.P.F.Gobin Minヨ彗t{r把d阯1o R帥h町oh日“do訂nd帖trie Mi舶io日

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咄願公開発明の紹介】

達統溶解精鋏鋳造法       特公榊芸ヨ57-92王24

                      日召不…]57勾三6月8日

 本発明は,鋼暦,’遺元鉄等を原料とした商品質垂岡才オ

の連続自勺製造方法に関するものである。従来の電弧炉

製鋼法は電力公害,環境対策,低■歩留り等の間題.1当1の

ほか,高価な電力をエネルキ’一漉とするなど将来に多

くの不安材料を抱えている。本発明は,工稚の各機能

を溶角年加炭]二税,締錬工程,鋳遭]二縦のごとく有効に

分萬惟し,こ1れを連続化したプロセスにおいて,溶解加

炭二[1私1には電弧炉の代りにキュポラを用い、各工程I閥

に溜炉二1」二秘を設け,各工秘の溶湯平均声亨持留時間を規定

することにより」二記欠一1㌢を解消し,併せて無電力製鋼

法を提供せんとするものである。本発明によれば,製占葦1コストも大11’1にイ氏減される兇込で一ある。

禽短 信命

⑱人事異動 固召千…’157勾三二12月31Eヨ{寸

退 職  九鳥 元治 穏;理三菩1三寺支利サ書築圭這)

 昭和58隼呈月1嚢iイ寸

併 任  管理郁技術課長

       一色 長敏(管理部一長)

概這集一ヨ髭発イ号ノ㌧

印    刷

   適巻第290号

      越 川 隆 光

稼式会社三 興 印 刷

東京都新宿墜僑濃田]’12電言舌東京(03)359-38川代表)

発 行 所 科学技術庁金属材料技術研究所

東京都冨黒区枠園黒2丁昌3番12号

電話東京(03)71ト2271(代表)

垂1董  {要…  番  号    153